会員離反への日弁連執行部の感性

     日弁連いう組織の在り方にかかわる、日弁連の二つの動きが、今、会内で話題になっています。一つは、ここでも既に取り上げた、弁護士が高齢者など依頼者の金銭を着服した事案について、日弁連が被害者に一定額を支払うという、日弁連が導入を検討している「依頼者保護給付金制度」(「『依頼者保護給付金制度』をめぐる不透明感」  「弁護士横領事案、『連帯責任』の受けとめ方」)。 もう一つは、日弁連が10月の人権擁護大会で採択を目指している、初めて死刑廃止を明確に打ち出す宣言案です。

     全く内容的には異なる日弁連の対外的な、この二つのアクションが、今なぜ、その組織の在り方にかかわる問題として受けとめられているのか――。それを一言でいえば、会員のコンセンサスの問題ということになります。片や既に書いたように不祥事抑止の効果が見えないまま、一部弁護士の故意犯の被害にまで、会費から見舞金を拠出するという会員連帯責任制ととれるものの妥当性、片や存廃に多様な意見がある死刑制度について、日弁連全会員が「反対」を表明したかのようにとられかねない宣言採択の妥当性についてです。むろん、これらの妥当性が共通して照らし合わせようとしているものは、強制加入団体としての在り方です。

     前者のアクションには、弁護士自治への責任や、その批判への脅威。つまり、日弁連の監督責任がとわれ、自主懲戒権を持つ団体の適正が問われるという恐れが背景にあります。ただ、ある意味、問題は多くの会員も、あるいは執行部も、これを本音で取りきれる責任と思っていないととれるところです。常に、弁護士自治がはく奪される脅威から、何かをやらなければならせないということに背中を押されるように、引き受けられないことを引き受けていないか、という疑問です。一個人の犯罪的行為とみれば、引き受けるべきでなく、むしろ弁護士自治の必要性とは切り離すべきで、むしろヤブヘビなことをやっているという見方もできるからです。そもそも不祥事が弁護士自治の基盤を掘り崩すという「常識」自体に、論理の飛躍があるという意見もあります(花水木法律事務所ブログ「弁護士による不祥事と『弁護士自治』との関係について」)。

     日弁連は2001年に、弁護士自治の基盤を「市民の理解と支持」に求める決議を採択していますが、それ以降、むしろその「市民の理解と支持」に目を奪われ、弁護士自治の本来的な存在意義を主張する姿勢を弱めてきたようにもとれます(「『国民的基盤』に立つ弁護士会の行方」)。「市民の理解と支持」が必要であっても、もはや弁護士自治批判を恐れるあまり、結局は理解にも支持にもつながらないことに、日弁連は手を出そうとしているように見えるということなのです。

     一方、死刑廃止宣言は、これまでも度々日弁連が直面して来た会員の思想信条と強制加入制度の問題にかかわります。単純な対立構造として描くこともできます。つまり、死刑問題を人権問題であるとした時点で、これを取り上げるのは弁護士共通使命であるといえ、日弁連・弁護士会は組織としての意見表明ができるという見方と、強制加入団体である以上、その内容において個々の会員に対立的な意見がある場合、それを考慮して日弁連は対外的な意見表明を控えるべきだ、という見方です。

     しかし、これについては、同様の案件で裁判上の決着がついています。1992年の国家秘密法反対決議無効訴訟での東京地高裁の判決に基づけば、弁護士法1条の目的の実現という範囲においては、会の意思表明・活動には正当性があり、およそその範囲内では、特定意見を会員に強制している事実はなく、会員の思想・良心の自由の問題を完全に切り離して、会の行為の正当性が認められるという判断です(「弁護士会意思表明がはらむ『危機』」)。

     おそらく日弁連執行部は、基本的にこの考え方に従うと考えられます。つまり、たとえ死刑廃止を組織として掲げても、個々の会員にその意見を強制していないのだと。逆に言うと、日弁連の対外的表明は、弁護士が全員加入している組織でありながら、必ずしも総意ではない、ということを大前提にしているということなります。

     会内対立案件については、あくまで日弁連ではなく、有志であることが分かる形で発表すべき、という声が、反対・慎重派には以前から聞かれます。日弁連という組織が、その名前で一丸となることの意義を強調する意見は会内に根強くありますが、実質総意ではないということを前提とするならば、「有志」としないことの不誠実さを問われる余地は出できます。

     もちろん、人権大会で会員の議決を経ているということをもってして、会員多数の支持という線引きをしているということも主張されるとは思います。ただ、総意を擬制しているというような形の決着がふさわしいかは、案件によって会員の捉え方が違う現実は存在しています。

     しかし、今回の二つのアクションに対して共通する批判的な目線が向けられているのは、別の言い方をすれば、日弁連執行部の感性の問題ともいえるようにとれます。日弁連執行部は、なぜ今、会内を分裂させる案件を平気で進めようとするのか、と。それは、いうまでなく、この二つのテーマが強制加入団体としての妥当性というテーマでつながり、そこからの会員の精神的離反の引き金になる要素をもっているからです。いわば、弁護士自治の外部批判に脅威しながら、内部崩壊には極めて楽観的にとれる姿勢が、今の日弁連執行部にあるということなのです。

     会内批判があれば、常に対外的に日弁連が沈黙するということが、望ましい形とは思えず、前記司法判断の割り切り方も、一定の意味はあると思っています。ただ、日弁連は会員の離反という、もう一つの深刻な現実を、今こそ直視しなければなりません。そして、もし、日弁連執行部とその支持者のなかに、かつて通用していたことが現実に通用しなくなってきた、という認識が芽生えないのであれば、一体、何が会員意識を変え、そして何を取り戻さなければならないのかという、根本的で最も重要な認識にもたどりつけないまま、弁護士自治は崩れていくことになるはずです。


    「依頼者保護給付金制度」についてご意見をお寄せ下さい。司法ウオッチ「司法ご意見板」http://shihouwatch.com/archives/7275

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    「依頼者保護給付金制度」をめぐる不透明感 

     弁護士会内から異論も出ている、弁護士による高齢者や依頼者の金銭を着服する形の横領事案について、被害者に一定額を支払うという日弁連の救済制度が、「依頼者保護給付金制度」という名称で、既に創設決定というニュアンスで報じられています。これを1面トップで報じた8月23日付け朝日新聞朝刊は、こう書いています。

     「経営に苦しむ弁護士の増加が背景にあるとみており、『市民の信頼低下を防ぐことが急務』との考えだ」

     この一文は、前記弁護士会内の異論につながる、この制度をめぐる日弁連主導層の不透明な姿勢を記者の意図はともかく、いみじくも表現したといえます。前段の背景とした「経営に苦しむ弁護士の増加」が続く以上、故意犯として発生し続ける可能性があるこの種の事案に対して、こうした後追いの救済策で、「急務」と括られる、弁護士の信頼は回復できるのかどうか――。

     この制度自体は抑止につながらないとみれば、どう考えても「急務」なのは、前段の「背景」をなんとかすること以外ありません。しかも、ゆっくりとこれから、「まだまだある」「掘り起こせる」はずという弁護士のニーズに期待しているヒマもないはずです。

     こうした制度を弁護士自治を根拠にして、つまり不祥事は当然、自治団体の自浄作用の問題となるから、その被害についても責任を負うという建て前のうえに、弁護士全体のイメージダウンにつながる共通の不利益への連帯責任を、会費からの拠出と言う形で会員に負わせる――という発想。そこに会員の当然ともいえる疑問がくすぶっています。しかも、そこまでしなければ維持できない成年後見や自治ならば返上してもかまわない、という意識にまでつながることを、日弁連主導層は前記「背景」からは読み取っていないようにとれるのです(「弁護士横領事案、『連帯責任』の受けとめ方」)。

     日弁連は、今、この制度によって何に対して責任を負おうとしているのでしょうか。自治、強制加入制度がある団体として、こうした弁護士を生み出した、あるいは放置した責任でしょうか。個々の会員の故意犯まで責任を負うということの裏返しとして、こうした弁護士を存在させないことへ責任をどう負いきれるという話なのでしょうか。不祥事に対して、弁護士会は何かをしなければならないというのは理解できても、どうも日弁連・弁護士会の不祥事対策には「自治の建て前上何かしなければならないからやった」という、その先に妙案があるわけでもないととれてしまうような、不透明なものを感じてしまいます(「弁護士不祥事をめぐる自浄能力と自覚」)。

     前記「背景」を生み出し、そしてこうした弁護士をつくり出してしまったことは、まさに「改革」の失敗を意味するととれば、その「改革」の旗を振った人間としての結果責任を負わなければならないはずです。そうだとすれば、現実にこうした弁護士を少しでも生み出さないために、その「背景」にメスをいれることこそが、これから被害にあうことが予想される依頼者の安全を考えれば、根本的かつ「急務」な対策といえないのでしょうか。

     それとも、日弁連はこれからも起こる一部弁護士が故意に引き起こした不祥事に対して、多くのまっとうに業務に向っている弁護士までが連帯して責任を負っている、というところに社会の称賛を期待しているということでしょうか。こうした案件そのものへの対策としても、有効ととれる対策を提案している弁護士もいます(弁護士法人岩田法律事務所コラム)。

     マスコミへのリークも含めて、日弁連主導層には、この制度導入に対して、強い意欲があるということも伝えられています。しかし、まるで会員の状況や声、さらには逆に自治の内なる危機までが、目や耳に入っていないかのように押し進められようとしている、この制度をめぐる不透明感には、彼らが前提として目をつぶっている「改革」路線の不都合な真実があるように思えてなりません。


    弁護士自治・弁護士会の強制加入制度の必要性についてご意見をお寄せ下さい。司法ウオッチ「司法ご意見板」http://shihouwatch.com/archives/4794

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    会員にとっての弁護士会のメリットと阻外感

     弁護士にとっての弁護士会登録のメリットは何だと思うか、という問いに対して、時々、「『自由と正義』(機関誌)が無料で送られてくること」という答えを真っ先に返してくる弁護士がいます。これは多くの場合、皮肉と読むとるべきことは明らかです。その機関誌の内容についても、実はさまざまな意見は聞こえてきますが(「田舎弁護士の訟廷日誌(四国・愛媛)」)、もちろん毎号楽しみにしている会員がいないとはいえません。そうではなく、ここで皮肉というのは、それくらいしかメリットを感じられないという彼らの実感がそこに込められているととれることです。

     もちろん、弁護士登録のメリットといえば、弁護士として活動できることが真っ先に挙げられていい、という人もいると思います。ただ、それは強制加入を当然のものとする前提であり、前記質問の趣旨が制度的メリットを尋ねたものととるか、それとも実感できるメリットを問われたとみるかの違いといえます。強制加入の必要性という前提がぐらつけば、およそ登録によって弁護士業務ができること自体はメリットではなく、逆に高額会費の徴収が伴う、規制による負担の方が、多くの会員には大きな意味を持つのが現実なのです。

     そのほか弁護士会の研修、人的なつながり、会務そのものに、意義や存在価値を見出す意見もあるでしょうが、残念ながら前記負担というテーマに会員全体の意識が傾き出したととれる、今の弁護士会にあっては、それらを共通のメリットにはできません。むしろ、前記機関誌にしても、この送付を希望者制にして、その分年間1万数千円を日弁連会費から減額できるとすれば、おそらくそれの方が、多くの会員に共通のメリットを実感させることになるように思います。

     弁護士会からの会員意識の離反の背景には、弁護士会主導層との距離感、あるいは阻外感があるようにもとれます。端的に言えば、会員の負担感を含めた実感を弁護士会主導層は、わがこととしてはとらえず、まるで気付いていないかのように、旧来からの弁護士会のスタイルを未来永劫通用するものとして繰り出しているようにとれることに対する感覚です。

     しかも、この実感に直接導いたのは、彼らが旗を振り、いまだに失敗を正面から認めたわけではない「改革」です。まるでやれている人間もいる、といわんばかりに、この点で会員の実感に向き合おうとしない彼らの姿勢に、会員がよそよそしいものを感じるのは当然であり、「改革」路線が会員の犠牲を今現在にいたるまでどのようにとらえているか疑い出すのもまた、当然です。弁護士会が行う「公益」活動の本来的な意義以前に、「それは余裕のある方がどうぞおやりください」とか、「一部ご執心の方々だけが取り組んでいる活動」といった冷めた声が最近多く聞かれるのも、メリットを感じられない自分たちをそっちのけで、延々と事が進められているというような阻外感があるように思えます(「弁護士の『公益性』をめぐる評価とスタンス」)。

     さらに、日弁連会長選の投票率の低下にも、こうした会員の意識傾向は反映しているととれます(「日弁連会長選挙結果から見える現実」)。

     6月30日付け朝日新聞朝刊オピニオン面「論壇時評」で、歴史社会学者の小熊英二氏が、20世紀の政治的枠組みの、21世紀の社会への不適合に関して、次のように指摘しています。

     「20世紀の政党や組織は、グローバル化や格差の拡大で、どこでも力を失っている。だか、政治の制度は20世紀のままだ。結果として、20世紀型の政党や組織が実力以上に有利となり、疎外された人々は無力感と無関心に陥る。そうして投票率が下がると、政治は一部の層に独占され、さらなる無力感と無関心、そして疎外された不満の爆発を生む。いま世界中で、この悪循環が起きている」

     この指摘は、どこか今、弁護士会のなかで起こっていることを連想させます。21世紀の司法の在り方や「市民のため」が強調された弁護士会の「改革」路線のはずが、実は肝心の弁護士会主導層そのものが旧態依然のスタイルのまま、反省することなく、その路線の旗を振り続け、そして、内部に独占と、会員の格差、会そのものへの無力感・無関心を生み出しているような。

     通用しないのであれば、「改革」路線にしても、弁護士会の姿勢にしても過去に縛られず通用する方向に舵を切る――。個々の会員に広がる阻外感に向き合うには、そういう仕切り直しを、弁護士会はどこかで選択しなければならないはずです。


    成立した取り調べの録音・録画を一部義務付ける刑事司法改革関連法についてご意見をお寄せ下さい。司法ウオッチ「司法ご意見板」http://shihouwatch.com/archives/7138

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    日弁連「会内民主主義」の劣化という認識

     法曹人口と法曹養成に関する決議をめぐり、賛否の激しい応酬の末に、執行部案が可決された3月11日の日弁連臨時総会(「3・11臨時総会からみた『改革』と日弁連」)の質疑で、ある会員が執行部に以下のような趣旨の質問をしました。司法修習69期の弁護士登録時点での在留邦人を含めた日本の人口と弁護士数、そして1500人増員政策が続けられた場合、日本の弁護士はどこで均衡し、その時の弁護士一人当たりの人口は何人になるのか、その数値を示されたい――。

     執行部側の回答は、「数字はない」。要はそうしたデータは、今、示せないというものでした。報道席で聞いていた私は、一瞬、耳を疑いました。なぜならば、その回答になるだろう数値が、そのまま昨年12月に一般発売された日弁連発行の最新版「弁護士白書2015年版」に掲載されている、と思ったからです(「弁護士未来シミュレーションの本当の『前提』」)。

     それによると、69期が終了の予定の今年2016年の弁護士数は3万7345人(現実には3月1日現在3万7760人)で、日本の人口は1億2619万3000人。2017年から新規法曹1500人を維持したとすると、弁護士人口は2048年の6万3331人をピークに減少に転じ、2060年5万7070人で均衡、安定する。そして、その時の弁護士1人当たりの国民数は1541人になる。

     何か質問の趣旨を取り違えたか、あるいは今の私には理解できないものの、言い方は悪いですが、何か弁護士的な質問の厳密解釈で、ここでこのデータを示さなかった理由が用意されるのかもしれません。ただ、百歩譲っても、この質問者が聞きたかったことを良心的に理解すれば、少なくともこのデータは相当程度質問者の疑問に答えるものになったはずです。

     執行部の回答予定者は、法曹養成・法曹人口が議論される臨時総会に当たり、こうした質問を想定し、弁護士白書のデータを押さえておくことはしなかったのでしょうか。国会答弁のように、事務局が後ろから、このデータの存在について耳打ちする場面もありません。もっとも、会場から「データはあるぞ」という声も、私の耳には聞こえてこなかったのですが。

     1500人案でも続く弁護士の激増の程度をはっきりさせるという意味で、当日執行部案可決を目指す側にとって、このデータ開示は都合が悪かった、というのは、穿った見方だとしても、この議論に臨む執行部の姿勢には強い違和感を覚えました。いうまでもなく、日弁連の総会は、会員に直接賛否を問い、その議決によって日弁連の方針を決定する、最高意思決定機関といえるものです。それに対して、果たして執行部は、公平でかつ真摯な姿勢で議事の場を会員に提供しているのか、という疑問に当然つながっているように思えたのです。

     今回の臨時総会では、冒頭からそうした執行部の姿勢そのものが、会員から問われました。執行部が会員に送付した1月22日と同26日のFAXニュース(NICHIBENREN News No15、No16)で、執行部案支持が一方的に呼びかけられたという問題。26日付けには、村越進会長名ではっきりと会員の支持を求める一文が、大きく掲載されていました(弁護士法人岩田法律事務所のフログ福岡の家電弁護士のブログ)。当日の執行部の説明は、理事会の議を経ているとか、執行部の方針を会員に伝えるという趣旨を説明するのみで、議案の扱いの公平性に関する見解ははっきりと示されませんでした。

     臨時総会では取り上げられず、未確認情報ですが、総会招集請求者側に執行部から提案理由、質疑、討論の人数、時間の制限や副議長の就任などを条件化するような申し入れがなされたといった話も伝えられています(弁護士坂野真一の公式ブログ)。

     さらに、よりによって弁護士としてもさまざまな活動参加が想定された東日本大震災5年目の3月11日に臨総の日程が組まれた点(武本夕香子弁護士のブログ)。総会冒頭、村越会長から、この日と、今年度最終日の同月31日しか講堂が空いていなかった、という弁明がなされましたが、当日の黙とうの時間の地震発生時間からの前倒しを含めて、執行部の「感性」に対する疑問の声が聞かれました。執行部側の都合ばかりが、ここでも露骨に反映された結果ではないか、という見方にもつながったといえます。

     これは、実は会内で指摘されて久しい、日弁連・弁護士会という組織の「会内民主主義」の在り方という、根本的な問題を浮き彫りにしている、とみることができます。会員の直接参加による意思決定の場に、なぜ、執行部は提案案件を公平に諮り、その会員の意思を忠実に汲み上げることに徹しないのか。執行部提案にハナから誘導するのでなく、あくまで一案として会員に提示し、忠実に会員の意思決定に委ね、さらにいえば、できるだけ多くの会員の立場を包摂する決定を模索する。こうしたまさに強制加入団体の会内民主主義にふさわしい執行部の、真摯で謙虚な姿勢を、今、これら一連の対応の、どこに会員は読みとれるのか、という話です。

     こういえば、会員間に異論がある安保法制をはじめとする「政治的」と評されるテーマについて、日弁連執行部がその判断で対外的に執行する現実と結び付ける人もいるかもしれない。ただ、日弁連が弁護士法に由来する弁護士の使命に基づき、専門家集団として筋を通す活動を、今回のような執行部姿勢と重ね合わせるのは違うと思います。このことについても、もちろんいろいろな意見があるとは思いますが、問われている内容と目的の違いもさることながら(「弁護士会が『政治的』であるということ」)、これは意思決定プロセスの公正さという問題の比重が大きいからです。前記のような案件が仮に総会にかけられるとするならば、もちろんその時にも、公平で真摯な議事運営は、問われてしかるべきなのです。

     冒頭に書いた質疑のあと、質問に立った会員は、「もし、総会招集請求者側決議案が可決された場合、執行部は総会で決まったことを業務執行機関として誠実に執行していくのか」と執行部に質しました。執行部からは、「総会決議は尊重する」という、ある意味、当たり前の回答しかありませんでしたが、この会員の不安が、まさに今回の臨時総会招集をめぐる執行部姿勢に対して会内に焦げ付いた会員感情を象徴しているように思えます。

     今回の臨時総会の結果について書いた当ブログの前回エントリーに対して、「執行部案を可決する」ための舞台と化したことを問題視し、もし、本気でこの臨時総会が会員の声を拾うつもりだったならば、議論は180度変わっていた、として、依然総会という決定機関に期待するという意見が述べられていました。ただ、私が書いた悲観的な感想は、まさにその前提とできない仮定にかかわっています。逆にいえば、この前提が変わらなければ、これからも同様のプロセスで導かれたことが「決着」とされるのです。

     弁護士の質をめぐり、「劣化」という言葉がこの臨時総会でも取り沙汰されましたたが、会内民主主義をめぐる「劣化」という認識に、今こそ多くの弁護士会員が立ち、この現実を深刻に受けとめることができるのか。そのこともまた、日弁連と弁護士の未来に大きくかかわるものになるはずです。


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     3・11臨時総会からみた「改革」と日弁連

     法曹人口と法曹養成に関する決議をめぐり、5時間以上にわたる3月11日の日弁連臨時総会の議論を報道席から聞いて、率直に感じたのは、いくら議論しても、今の日弁連という組織には、本当の意味でこの議論を決着させることはできない、ということでした。もちろん、結果は執行部案賛成10379票、反対2948票、総会招集請求者案賛成2872票、反対9694票で、前者を可決し後者を否決、その他動議が通った執行部案の修正案(第3案)が否決、動議が成立しなかった修正案(第4案)が議事に諮られずに終わった、ということをもってして、これが日弁連の「決着」という人もいるとは思います。

     ただ、あえていえば、それはこの臨時総会を閉幕するための「決着」ではあっても、それが、今、日弁連とその構成員である全弁護士が抱えている問題の「決着」につながると考える人が、この会場にどれほどいるのだろうか、と思ってしまったのです。決定的に分かれている会員間の現状認識。これらを包摂してどこかに落とし所を探るような議論はもちろんない。というよりも、日弁連も弁護士も、はやそれを可能にするような状況にはない、ということが、この臨総ではっきりしてしまったように思えたのです。

     司法試験年間合格者を直ちに1500人、可及的速やかに1000人以下にすること、予備試験の制限への反対表明と給費制復活をうたうよう求めた招集請求者案。これに対し早期に1500人とすること、法科大学院改革への期待感と予備試験の本来の趣旨論をにじませ、「給付型の経済支援」といいなから、「給費制復活」とはいない執行部案。界外の目線からすれば、いかにも微妙な違いの争いと受けとめられそうであり、マスコミの反応を含め、現実にそう受けとめられている向きもあるようですが、実際はそうではない。粛々と可決なり、否決なりすればいい、招集請求者案に乗じて、なぜ、執行部がこれを繰り出してきたのか、それをみれば、この違いにこそ、当然ながら日弁連執行部の本音があります。

     これらの点に対する、日弁連執行部側の説明は、表向きこれまでもこの「改革」路線のうえで繰り出されてきたような「情勢論」といっていいものにとれました。つまりは、取りあえず1500人実現をうたうこと、失敗した「給費制復活」を掲げないことの方が得策であり、法曹養成の中核たる法科大学院制度が維持されている以上、その「改革」に期待し、予備試験の在り方を考えることは、妥当なのだ、と。「推進会議の決定」ということが、執行部側説明者の口から度々出され、これまでの「改革」論議での「司法審」あるいは「司法審最終意見書」の引用同様、見方によっては弁護士らしからぬ、まるで権威に忠誠を誓うことを「現実論」とするような姿勢をみることにもなりました。

     しかし、こうした「情勢論」「現実論」が説得力を持たない、少なくともこの「改革」当初の議論と決定的に違うといわなければいけないのは、要は「改革」が既に結論を出してしまっている、というところにあるといえます。招集請求者案の基本的な前提は、この増員政策が根本的に改められなければ、志望者回復は望めないという現状認識にあります。弁護士の数が過剰な状況に対して、需要が生まれず、既に3000人合格の旗は降ろされても、新法曹養成制度の経済的負担のなかでは、弁護士という仕事を志す動機そのものが失われつつある現実。この政策が続く限り、どこに改善の糸口が見つけられるのか、という問題意識です。

     取りあえず1500人の先、更なる減員を含めて、その後、どうするのかについての追求に、あくまで今は答えない、その時に検証するということも、志望者敬遠を加速することはあっても回復にはつながらないとしかとれない予備試験制限の可能性を残すことも、現状に強い危機感を持っている前記招集請求者側の認識からすれば、およそ「現実論」「情勢論」としての説得力を持つことはハナからあり得ません。

     さらに、重要なのは、そのしわ寄せという点にあります。招集請求者側の一人は質疑のなかで、「過剰な弁護士は法の支配に反することをやる。罪のない人に鉄砲を撃つ」と言いました。食うや食わずに陥った弁護士が、食うために「相手」を作る。これまで書いてきたように、事件を創出してでも生き残りにかけるという、現実です。こうした現状の懸念を前にすれば、執行部が繰り出す「現実論」や「情勢論」には、「市民のため」と銘打って旗を振ったはずの、彼らの「改革」路線の、優先順位を問い質したくなるものをはらんでいます。

     1500人という数の意味に対して、「納得のいく説明がない。法科大学院制度死守に必要な数字ではないか」「法科大学院のための法曹養成か、法曹養成のための法科大学院か」という声が、会場から出ました。1500人から先を語らない執行部の姿勢には、誰のための「現実論」かを疑わせるものがあったといわなければなりません。

     ただ、その一方で、経済的な問題に言及している招集請求者側の姿勢に対して、まさに「食えない論」を自己保身論として批判する意見や、「改革」が弁護士の質を劣化させているとすることに反発する意見が、執行部案や、同案をさらに推進会議決定に沿わせるべきとする第3案の支持者から聞かれました。若手の法科大学院出身者からは、自らの成功体験をもとにした制度擁護論も出ました。

     しかし、「食えない論」「劣化論」の評価は、それこそ招集請求者側のいう脅威や危機感、さらにはその影響に対する優先順位をどこまで共有できるかにかかっています。法科大学院の評価にしても、ある会員からは「法科大学院にいけない人はここで発言できない。行けずに諦めた人たちの声を私たちが汲まなければならない」という意見も出されました。「生存バイアス」ととれるものに対する感性もまた、「改革」に対する弁護士のスタンスを大きく分けているようにも感じました。

     結局、今回の議案の可否決をもってしても、「改革」と弁護士・会が抱えている現実が変わるわけでも、将来を見通せるようになるわけでもありません。状況は変わらないことが選択された、といってもいいと思います。総会後、ある会員は私に「もはや日弁連分裂としか書きようがないでしょ」と言ってきました。そこに「改革」の本当の狙いがあったのだ、ということを、今回の臨総を踏まえて改めて指摘する声も聞かれます。

     日弁連会員は約3万7千人ですから、三分の二の会員は、この選択を暗黙で受け入れたか、受け入れたとされてもいい、という立場をとったということになります。日弁連のこれまでの意思決定の現実からすれば、サイレントマジョリティの存在自体は何も変わったわけではありませんが、その意味は果たして同じなのかどうか。先般も書いたような日弁連会長選の投票率の低下(「日弁連会長選挙結果から見える現実」)をみても、この中に状況を変えられない日弁連と「改革」への深い失望と諦めを、どのくらい読みとるべきなのか、そのことを改めて考えてしまいます。
     

    地方に弁護士の経済的ニーズについてご意見をお寄せ下さい。司法ウオッチ「司法ご意見板」http://shihouwatch.com/archives/4798

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    プロフィール

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

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