自己責任と精神論が飛び交う「改革」

     「7、8割合格」という法科大学院構想のうたい文句に、「裏切られた」という大学院生の声を大新聞が報じ始めたのは、既に今から5年くらい前のことになります。

     「7割合格と聞いたから思い切って会社を辞めたのに。国に裏切られた」

     今にいたるまで、時々大新聞が取り上げる「新法曹養成残酷物語」に登場する、人生を狂わされたとする法曹志望者たちのコメントです。

     実は法科大学院修了者の7、8割が合格するという、司法制度改革審議会最終意見書がうたった目標ラインについては、その根拠の希薄さや実現可能性、影響などを危惧する声は少なからず法曹界にありました。結果は案の定、志望者たちの落胆と混乱を生むものになったわけです。

     ところが、当時、政府の司法制度改革推進本部顧問会議のあるメンバーが、大新聞に、こうしたコメントを寄せているのを目にしました。

     「合格率が低下するのは学生も予想できたはず」

     すかさずの自己責任論という印象でした。

     2010年に合格者を3000人にする計画で、その時点で「7,8割」達成には1学年4000人の計算が、初年度から約5700人が入学してしまった。法科大学院自体も20~30校の見積もりが大きく外れて、68校も誕生してしまった――既に、国側の「誤算」に関するこうした公式見解は発表されていました。

     国が「想定外」を強調して、どうも責任は大学側にあるようなニュアンスの発言をするなかで、前記学生に向かっては、「想定内だっただろ」といっている前記顧問会議メンバーの発言の都合のよさは、何なんだと思わざるを得ませんでした。

     前記意見書の表現では、合格できるようにする人数を修了者の「相当程度」とまで表現し、その例示として7、8割という具体的な数値を、あえて示しているのですから、少なくともそれを下回る「相当程度」は予想しにくいと言われても当然です。前記発言は、「看板に偽り有り」でも、まるで「信じたものの自己責任」をいうようなものに見えます。

     しかし、考えてみれば、これと同じような現象が、あるいは大量増員時代の弁護士たちにも、起きているのかもしれないと思えます。

     弁護士には沢山の活躍の場も、ニーズもあるといわれ、この世界にくれば就職難に、まさかの「ワーキングプア」の称号まで。それでも、ニーズはまだまだあるという旗を掲げつつ、「誤算」は急激な増員政策のせい、という、推進した責任をいうわけでもない他人事のような、言い方もまかりとおっています。

     自分で選んで取得した資格、入った世界なんだから、努力して生きろ、いやなら出ていけという自己責任論も、前記「想定できただろう」という自己責任論も、この場合、そんなに距離があるような気はしませんし、少なくともこの現状下、これからこの世界に来る人には、全く同じといっていい「想定内」をいう自己責任論がかぶせられることにはなるでしょう。実に都合がいい話です。

     そして、もう一つの傾向を挙げるとするならば、この都合がいい自己責任論は、精神論ととても相性がいいようです。自己責任の烙印を押した状況に対して、「なせばなる」的な精神論がダメ押しするような形があります。

     若手の弁護士、あるいはそれに限らず、増員の影響を受けている弁護士たちには、「なんとかしろ」「なんとかできる」の大合唱。弁護士を安く、使い勝手よくしたいために増員で弁護士の業務モデル自体を変えたい経済界の方々から、増員の旗を振ってきた法曹関係者、大マスコミまで、「甘ったれるな」「気合だ」といわんばかりに、見通しなき未来への突撃を命じる精神論を叫んでいます。

     ようやくこの状況がまずいことに、日弁連執行部が気が付いたと分析する人もいるようですが、その辺の評価は分かれるところだと思います。

     もちろん、法科大学院・新司法試験の方も、「7,8割」が実現されない夢物語に終わるのならば、結局、狭き門でもチャレンジすればよろしい、という精神論がくっついた自己責任論で方が付くという見方もできなくありません。

     増員を抑制することは、志願者をもっと苦しめるという人もいます。しかし、根本的な問題はそのことより、「責任」の所在がはっきりしない、いや、だれも「責任」をとらないで済む「誤算」を伴った方策自体と、それに関する正確な情報の未提供の方です。少なくとも、正確な情報とは、判断材料とすることができる、「看板」の確かさについての、賛否を含むさまざまな意見であってもいいと思います。

     判断材料があっての自己責任。「改革」推進に都合のいい情報だけを流したうえでの、自己責任の追及は、とてもフェアとはいえません。

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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
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