弁護士会強制加入制度を支えてきた論法

      戦後、被占領下で行政官庁の抵抗のなか、弁護士会主導で進められた現在の弁護士法制定。その立法過程で、法案に盛り込まれた弁護士会の強制加入制度に、GHQが当初難色を示したという話が残っています。重要法案すべてについて、GHQの審査・承認を得なければならないという当時の状況下、弁護士会関係者がリーガルセクションのオプラーやブレイクモアらを懸命に説いて、その了解を取り付けた、と伝えられています(第一東京弁護士会「われらの弁護士会史」)。

     リーガルセクションは、当初、強制加入を「好ましくない」とし、さらに日弁連会員が、弁護士会と個人弁護士であるという二重構造の必要性も疑問視したとされています。これに対し、水野東太郎や柴田武は、次のような論法で説得したといいます。

     ① 強制加入を認めないと、少なくとも刑罰に至らない程度の非行の責任や弁護士一般の信用を害する行為の責任追及を断念するか、他の機関に委ねなければならない。このことは、せっかく確立した弁護士会の自由独立を捨てるか、弁護士一般の信用の危殆を傍観するしかないことになる。
     ② 弁護士会が官庁の指揮監督を離れ、独立自由を獲得するために強制加入があり、これによって団体自治が確立され、真の法的自治ができる。
     ③ 日弁連への二重加入は、弁護士に対する懲戒手続きを各地の弁護士会が追行しない場合、日弁連が直接懲戒する必要が生じるためである。(第二東京弁護士会「弁護士自治の研究」) 

     戦後、GHQは民主化政策の一環として、明治憲法下で認められていた多くの団体の強制加入制度を廃止しており、弁護士会について「好ましくない」とした意図も、そこにあったとみることができます。「個人の自由意思を尊重し、個人に入会の権利を与える」(1949年司法書士法改正に対するGHQ修正意見)という方向。さらに強制加入の方が、むしろ国家による監督や取り締まりがしやすいというのが旧憲法下の発想であったということもあり、いずれにしてもGHQは弁護士会をその例外として見ていなかった。あるいは、逆に強制加入にして完全自治にしなければ、国家の干渉を排することができない、という弁護士という仕事の特殊性を、GHQは弁護士会の説得を通して理解したのかもしれません。

     しかし、これは現在に至る弁護士会の強制加入制度を考えるうえで、ある意味、象徴的なエピソードのように思えます。この国において、極めて例外的な強制加入による完全自治を持つ弁護士会が、個人の自由意思と対立する可能性を乗り越えても(あるいは犠牲にしても)、ひとえに対国家の干渉を排さなければならないという事実の存在と、その公共的役割があるという職業的性格、さらには自主懲戒の責任を担いきるという姿勢に支えられてきた現実です。

     別の言い方をすれば、精神的自由とか、非営利性とか、あるいは対国家の干渉を排さなければならない公共性といった点での、弁護士という仕事の特殊性をいう主張の説得力に、今もこの強制加入による完全自治がのっかっているということです。任意加入の医師にも公共性はある、ということが必ずいわれますが、やはりそれも前記弁護士の特殊性への理解にかかっています。そして、まさに今、個々の弁護士会員の経済的自由、あるいは自由意思に対して、強制加入・自治を規制としてとらえる会内意識の広がりが、前記論理の土台を内部からぐらつかせはじめているようにみえるのです。

     ある法学者が、この不安定な構造について次のように指摘していました。

     「単なる経済的自由権であれば、国家として積極的に国民の福祉のために介入することが認められるか否かが問題になり、一般の人に対する影響が少ない職業ほど、国家の介入が少なく、影響が大きくなるにつれて、積極介入が肯定されるという構造をとるはずである。ところが、弁護士の場合には、弁護士活動が重要であるが故に、国家の介入を極力排除するという要求につながっていっているのである」
     「だから、普通の職業の自由に対する規制の理論を当てはめると、うっかりすると逆方向の結論に引っ張られかねないところがある。従来からの営業と結びついた職業の自由の理論をそのまま使いつつ、結論として、弁護士会の強制加入を肯定するという論理を導こうとすると、下手をすると、完全な論理破綻を起こしかねないことが、理解できると思う」(甲斐素直「弁護士会の強制加入制度と憲法22条」)

     そう考えれば、「改革」の増員政策によって、弁護士がより経済的な環境を意識せざるを得なったというだけでなく、そこから生まれている他のサービス業と同一視するような意識傾向も、そもそも強制加入と対立する方向をはらんでいるといえるのかもしれません。この制度の本質的な意義を認めたとしても、これまでと同じような理屈と論法で、「例外」を維持できるのか。弁護士会主導層に、その点での危機感や問題意識が果たしてあるのかどうか。そこが、まず、問われていいはずです。


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    No title

    日弁連以外に、弁護士の強制加入団体が既にできています。それは法テラスです。

    日弁連に登録しないと、弁護士としての活動はできませんが、日弁連に登録しているだけでは、国選弁護活動や法律援助事業の活動や法律扶助事件の取り扱いは、実際上できません。

    このような強制加入は日弁連が法テラスをボイコットしなければ、解消することが困難です。

    No title

    弁護士以外の士業が会に強制加入である理由が謎ですね。
    単に弁護士会のマネをしているだけなのでしょうか。

    No title

    …ま、実際に「日弁連を任意加入団体にする決議」なんちゅうのを臨時総会やってまでやる先生は誰もいないだろうし。
    匿名で言って楽になれるんならそれでいいさ。

    No title

    この記事の背後には、かつての国体擁護レベルで、強制加入団体性を擁護したい先生方のレクチャーがあったことが伺われます。事実と証拠に基づかない議論には、全く賛同できません。率直に申し上げて、逆効果です。

    今回の記事から、ベテランの先生方の汚い見え透いたやり方が透けて見えましたので、100%任意加入団体論者に立場を固めました。

    No title

    Legal Reform in Occupied Japan: A Participant Looks Back
    Alfred Christian Oppler
    107ページ以下に詳細あり。

    原典は日本では入手困難。

    オプラーの著書をもとに、最近、明治大学から発表された論文を紹介します(英文)。
    Japan’s 1949 Attorneys Law – Private Lawyers Gain Autonomy, Foreign Lawyers Find a New Path to the Bar
    Lawrence Repeta (Member of the Washington State Bar)
    3ページからの引用。
    "According to Oppler,
    It was clear to us from the beginning that the liberation from governmental control of the bar had to follow the creation of an independent judiciary."
    オプラーの上記著書の108ページからの引用です。
    全体的に、この論文は、非常によくまとまっています。
    証拠なしに歴史を書き換えることを恥じない不勉強な方々には、ご一読いただきたいものです。

    No title

    ここに名前を上げられた弁護士達が、英語でGHQと渡り合ったのですか?(笑)ならば、英語でなされたであろうそのやり取りを公開することですね。

    オプラーらは著書の中で全然違うことを言っています。
    東京三会による日本国内向けの珍妙なファンタジーは、戦後日本の研究をしているアメリカの大学関係者にばれれば、フルボッコでしょう。東京三会は、世界規模で恥をかかぬよう、覚悟をして、証拠を示さなければなりませんね。

    当時の研修の様子を撮影した写真などを見ても、GHQが弁護士会の民主化を主導したとしか考えられないのですがね。

    No title

    論理的な破綻を真正面から認めて、任意加入制度にしてよいのではないでしょうか。
    弁護士自治のためになどとは笑止千万です。
    プロフィール

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

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