弁護士への「武器」付与を阻む現実

     「もっと『武器』がほしい」という声が、ずっと弁護士のなかにはあります。法曹三者と並べられ、基本的人権の擁護と社会正義の実現という高度な使命を掲げている資格でありながら、実際の実務に携わってみれば、その役割に比して闘いきれないという、彼らの実感からくる言葉です。よく言われるのは、一つには懲罰的賠償といった訴訟をめぐる制度環境を変える話、そしてもう一つは、まさに個々の弁護士が直接「武器」として使える調査権限強化の話です。

     小林正啓弁護士は著書「こんな日弁連に誰がした?」のなかで、「『法の支配』実現にふさわしい武器を弁護士に持ちせる」ことが重要であるとして、前記懲罰的賠償制度導入などの検討を提案し、さらにそれによってふさわしい人材が弁護士を目指す動機付けにもなるとの見方を示しています。また、調査権限は弁護士のコストを削減し、懲罰的賠償制度も弁護士に依頼することで、依頼者のリターン増加によって、相対的に弁護士コストは下がるという見方もあります(「福岡の家電弁護士のブログ」)。

     こうした声を聞くたびに、奇妙な気持ちになるのは、この「改革」論議のなかで、こうした方向の話にいかになっていないか、という現実についてです。増員政策によって、弁護士の経済的環境が悪化し、個々の弁護士にとってコスト削減が死活問題となり、経済的な意味での職業的魅力が減退し、志望者が激減するという最悪のシナリオが進行するなかで、前記のような弁護士の欲求があまりに光が当たっていないように思えるからです。

     もちろん、懲罰的賠償については、弁護士の「武器」になるという観点からだけ議論することはふさわしくなく、もっと広い意味での社会的妥当性が問われるべきという見方はできます。しかし、調査権限も含めて、弁護士の司法制度のなかでの正当な役割、あるいは、それを支える必要性という発想ではなく、別の権力的都合ともいうべきものが、作用しているように感じてしまうのです。一方で、弁護士の魅力を発信せよ、向上させよという論調がありながら、「武器」を与えるという観点は切り離されているといっていいのが現実です(「弁護士の『魅力』をめぐる要求が示すもの」)。

     小林弁護士も前掲書のなかで、こう喝破しています。

     「筆者が指摘しているのは、『法の支配』といって弁護士を大幅に増やしながら、『法の支配』を実現するための武器を弁護士に与えないという、国家政策の一貫性のなさである。弁護士の数を増やしただけで、『法の支配』が実現するという考え方は、弁護士を増やせば必ず人権が守られるという考えと同様、とても浅はかだと思う」

     弁護士法23条の2の、いわゆる弁護士照会制度の報告を受けることについて、弁護士会は法律上保護される利益はない、とする10月18日の最高裁初判断について、弁護士の一部から落胆のため息が聞こえてきます。23条照会を受けた団体は「正当な事由がない限り、照会された事項について報告すべきもの」とする一方、弁護士会が権限を付与されているのは飽くまで制度の適正な運用を図るためにすぎない」としました。

     もともとこの照会制度については、費用や手間がかかることに加えて、罰則がないことから会内にも不十分とする見方はありました。それでも今でも弁護士の中には、「強力な武器」とする評価する向きはあるわけですが、そこにはむしろ数少ない「武器」という評価が加味されている感があります。会見を開いた原告・愛知県弁護士会の会員は、判決について「照会を受けた団体が回答する義務を負うことを最高裁が認めたもので、一定の意義がある」と前向きな評価もしていることが伝えられていますが(NHK NEWS WEB)、より、「武器」の威力をさらに弱める判断との懸念が会内に広がっています。そして、さらに彼らの本音を読み解けば、こうした問題に立法運動も含めて、今後日弁連・弁護士会に期待できないという現実への実感もあるようにみえます(「福岡の弁護士|菅藤浩三のブログ」)。

     弁護士に「武器」を与えるということには、そもそも社会からも慎重な目線が送られやすい面があります。強力で効果のある武器は、もちろん利用者にとって立場によってはありがたくない、いわば諸刃の剣となるという思考になるからです。さらにいってしまえば、今の弁護士の状況が、「武器」を与えることへの社会的了解度を高めつつあるのか、といえば、それもそうとはいいにくいものがあります。ただ、弁護士が業務としても、制度としても追い詰められる結果となっている「改革」が、どうしてこの「武器」に目を向けようとしなかったのか。あるいは、この「改革」と今起きていることの正体を知るうえでも、小林弁護士が指摘した「一貫性のなさ」と「浅はかさ」にはこだわるべきだと思います。


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    No title

    国の政策は「グローバル企業にとって都合の良い制度作り」で一貫しています。懲罰的損害賠償など、導入するはずもありません。

    アメリカでは、裁判官が判決文を書かず、単に主文に当たる部分を口述して、代理人・当事者が聞き取って主文の部分のみを筆記して、ここに裁判官がサインする、という事案がほとんどです。「判決の大多数には判決書きがない」は、日本の劣化し続ける裁判官にとってもウェルカムです。

    さかのぼれば、90年代の米国大使館の年次改革要望書をみれば、主に米国をベースとする多国籍企業の意図は明確でした。

    2000年決議前から、グローバル企業は国会議員らに対してロビー活動を行い、提灯持ちの主流派を馬鹿とはさみは使いようとばかりに使いこなしました。

    その後は、グローバル企業の提灯持ち弁護士に利益集中。それ以外は、公益活動という美名の下で強制される法テラスなどの赤字事業や、逆進性の高い弁護士会費により、収奪。

    全て一貫しています。

    日本においては、米国以上に多国籍企業に都合の良い社会を実現する。進出先を強奪先としか考えない多国籍企業の横暴と、それを許す日本国。この方向性において、矛盾など何一つありません。

    逆境の中で弁護士を生業としなければならない99%の負け組は、まずは負け組であることを直視した上で、次に弁護士会・国政・地方の選挙で「よりましな方」に投票すること。「棄権」だけは避けるべきです。一つ一つの選挙行動が、弁護士業界のみならず、社会全体の二極化を縮小することにも、つながります。

    No title

    司法制度改革審議会が提唱した「法の支配」はまやかしに過ぎません。

    それを口実にして、弁護士を激増させることが、「司法制度改革」を推進した人々の目的だったわけです。

    それによって、弁護士を弱体化し、その上、既に弱体化されていた下級裁判所の裁判官をますます弱体化したのですから、真実の法の支配からは遠ざかるばかりです。

    弁護士は往々にして弁護士のことしか考えませんが、法科大学院を法曹養成の中核として司法修習を無給の1年にしたことで、裁判官の能力がいかに低下したかを想像する必要があります。旧様式の判決と異なり、現在の様式の判決では、いい加減な判決理由でも判決が書けてしまいますし、上から迅速な裁判と言われれば、勤務評定に汲々として権力的な訴訟指揮をやる傾向が見られます。国民のために裁判をするのではなく、お上のため、保身のために裁判をするという傾向が強まっています。要するに、裁判官に対する信頼性は低下しつつあります。

    司法全体を弱体化することが法の支配になるわけがありません。日弁連の執行部は、宇都宮会長時代も含めて、司法審路線の正当性を強弁していますが、これでは日弁連が崩壊するだけでなく、日本の司法はお先真っ暗です。問題は弁護士の武器だけではありません。

    No title

    23条照会なんて先に照会先に回答もらえるかどうか聞かないと怖くて使えない。

    手数料だけとって回答されないと、会員があきらめるまで、先方には再度回答するよう通知しましたと同じ書面を繰り返して送るだけ
    ばからしくて手数料払う気にもならない。

    てか、23条照会が使えなくなったのだから、日弁連が強制加入団体である必要性が全てなくなったということだよね?
    プロフィール

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

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