発言する日弁連の不安要因

     日弁連・弁護士会の活動は、これまでもしばしば「政治的」という批判を浴びてきました。国家秘密法、慰安婦問題、憲法、死刑などというテーマへの関与が、強制加入団体という性格と絡めて、会の外からも内からも問題視されることもしばしばありました。しかし、これまで日弁連は、こうした問題を「人権問題」であるという一点で、会員を束ね、活動してきたといえます。少なくとも、会員の意思決定機関での多数が形成されてきたのは、まさにその一点でのコンセンサスといっていいと思います。

     日弁連が強制加入でありながら、弁護士の連合体として、個々の弁護士が担った人権擁護の使命を社会的に全うする人権団体であるのならば、それは時に「政治的」という批判を乗り越えなければ、成し遂げられない役割を宿命的に背負っているということを意味します。在野の法律専門家集団として、人権擁護団体として、「政治的」との批判を受けとめても超然として発言しなければならないという、自覚のもとに、言うべきことは言う立場になります(「弁護士会が『政治的』であるということ」)。

     前記会内コンセンサスについて、弁護士のなかにもさまざまな捉え方があります。あたかも積極的にこれを支持してきたわけではなく、強制加入であるがゆえに渋々付き合ってきたかのようにいう会員もいます。総会などでの意思決定にしても、賛成票の全体に占める割合から、サイレントマジョリティの意思を違うように解釈する見方も付きまとってきました。

     弁護士であるならばなおさらのこと、意思表明の機会が与えられている以上、そうした主張には限界があることも多くの人は理解しています。ただ、これが暗黙の了解であったかどうか以前に、少なくともそれに参加し、賛成に挙手した会員の意識としても、こうした案件が必ずしも「政治的でない」という理解ではなく、「政治的であったとしても、これはいうべき」という判断であると理解してきました。強制加入団体であるという会の実態があったとしても、この判断に基づく使命感が優先されるという、一応の会員コンセンサスがあって日弁連・弁護士会は進んでこられたように見えます。会員の思想信条と切り離し、個々会員に特定意見で拘束していないということを前提とした、国家秘密法反対運動をめぐる司法判断(「弁護士会意思表明がはらむ『危機』」)の立場のうえに、やってこられたといっていいと思います。

     マスコミも注目した日弁連として初の死刑廃止宣言は、人権擁護大会で出席会員のほぼ7割に当たる546人の賛成、96人の反対で可決、採択されました。この対立図式だけみれば、ここまで書いてきたこれまでの日弁連の「政治的」活動批判を乗り越えてきた歴史を、そのままあてはめられるのかもしれません。ただ、今回、気になるのは、むしろ144人という約2割に当たる棄権票です。この中身をどうみるかは、さまざまな意見があるかもしれませんが、少なくとも死刑廃止への賛成、反対以前に、ここで日弁連がこの件での意見表明をすることについて、躊躇した、抵抗を覚えた会員がこれだけいた。反対票と合わせれば、出席会員の三分の一のコンセンサスは得られていないという現実です。

     特に死刑廃止に向けた宣言は、民意や犯罪被害者遺族への配慮を考えた会員もいたかもしれません。ただ、その人については、たとえ多数派民意に反しても、日弁連が「言わなければならない」案件ではなかった、ということになります。

     結果からみれば、今回もこれまで通りに前に進めることができたようにはみえます。しかし、日弁連の内部体質は確実に変わっている。それは、日弁連が強制加入団体として直結しているはずの業者団体としての立場に対して、会員の要求が高まっているという現実があるからです。

     「日弁連は会員を守っているのか」。こういう声が最近、会内から異口同音に聞かれます。日弁連も支持、推進した「改革」の増員政策がもたらした弁護士の経済的異変。そのなかで法テラスをはじめ、弁護士が安く使われる枠組みばかりに日弁連が肩入れし、一貫して、会員の業務に「有利」になるような活動をしていない、という不満です。会員の犠牲を強いているという見方だけではなく、会活動や人権擁護の基盤となる個々の会員の生活の安定化を軽視しているととれる現実によって、弁護士会から会員の気持ちが離れてはじめているということなのです。

     10年間で10倍にも増えてきている組織内弁護士の傾向を日弁連は歓迎し、弁護士の活動の場として、今後も期待しています。ただ、そこで働く彼らのなかからは、従来型の日弁連の「言うべきことは言う」スタイルに対して危惧する見方が出始めています。いかに人権問題であったとしても、その弁護士が所属する企業や自治体が「政治的」と判断した場合、どうなるのか。弁護士会費を負担している弁護士雇用企業が、これを「政治的」活動への拠出と判断したならばどうするのか。案件によっては、その日弁連のアクションが、事案にかかわる所属企業体との関係で、利益相反になる場合もあるのではないか、その場合所属弁護士の立場はどうなるのか(「Schulze BLOG」)。

     これは、これまでのように、前記捉え方で、会は会、個々の弁護士は個々の弁護士で、活動の性格を切り離せない事情が存在しはじめていることを意味します。日弁連主導層は歓迎する組織内弁護士増加の先に、その点までの危機感を果たしてもっているのか、という話にもなるのです。

     日弁連・弁護士会主導層は、その使命に基づき、これからもこれまでのようにすべきであるし、それができると思っているかもしれません。しかし、それが、あるいはこの国の「人権」にとって重要な意味を持っていると自覚しているのであれば、なおさらのこと、それが続けられる環境を足元から崩し始めている「改革」の影響を、もっと深刻に受け止めなければならないはずです。


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    No title

    そもそも執行部に理念があるでしょうか。無いのです。

    数百人の1億円以上プレーヤーの既得権維持(そして彼らの子息でも合格できるシステムの維持)のために、都合のいいルールを作り維持する。それが彼らの頭の中にある全てです。

    (ちなみに、執行部による独りよがりな左翼的発言は、未だにある程度の組織力があるリベラル団体らに、
    「日弁連の強制加入団体性は必要だ」
    と思い込ませるのに有用です。実際のところ、
    「日弁連は人権団体だから、強制加入団体性を維持して政治的発言をすべきだ」
    と、彼らの頭の中では変換されています。
    会員数維持による組織力の誇示及び高額な会費吸い上げのため、執行部に利用されている、ということには、気づかない訳です。)

    インハウスが一斉に請求退会し、これに合わせて経団連が日弁連の政治的活動に対して不賛同を示す声明を発表すれば、執行部はどうするでしょう。日弁連執行部は、リベラル団体の組織力とインハウスの組織力を天秤にかけますが、執行部の所属事務所がいただいている顧問料もインハウスのお皿に乗ります。インハウスが勝つでしょう。

    No title

    ずいぶん前から、
    「執務を取る事務所も住所もアメリカにある。なんで無関係の単位会・ブロック会に加入せなならんの。仕方ないから名前だけ知人の事務所に置いている。ここに紙ベースの雑誌やら封筒やらが郵送されてきて、迷惑をかけている。」
    という苦情はある。

    NYでは州最高裁判所への2年間の登録料が375ドルだが、日本も最高裁に登録して2年間で4万円にする。執行部が導入したくてたまらない依頼人保護基金は、ここから6000円程度を取り分ける。弁護士会は解散または任意加入化。グローバル化に対応するなら、このように、日弁連が自らの身を挺さねば。

    No title

    いつの時代も為政者の考えることなど同じで日弁連の人権活動なんて江戸時代の参勤交代と同じ
    要は外様大名の力をそぎたいと
    したがって、そんなものは相手にしないのが歴史上も正解

    死刑廃止の前に日弁連強制加入廃止の決議したほうがいいんじゃないの?

    外から見ているだけのものですが、
    今回の開催が地方で行われ、出席できたもののみの投票を許した結果であることは重く受け止めるべきと思います。

    何万人といる弁護士のごく一部の結果を持って正当性主張するのは危ういかと。

    世間は見ていますよ。

    No title

    日弁連が任意加入になれば全て解決
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

    お買い求めは全国書店もしくは共栄書房へ。

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