「弁護士流」とされた官房長官会見

     「直ちに人体に影響を与える値ではありません」

     福島原発事故に関連して、枝野幸男官房長官が記者会見でのこの発言を聞いたとき、突っ込まれるのは時間の問題とは思っていました。「影響を与えない」という言葉に、ひとまず胸をなでおろした人も、連発されている印象の「直ちに」という前置きに、改めて不安の気持ちを募らせてきたようでもあります。

     いうまでもなく、「直ちに」はない、という以上、「直ちに」でなければある、という反対解釈が成り立つからです。

     ただ、おそらくここは突っ込まれどころと認識していただろう、当の枝野官房長官も、この一事をもって、まさか社会から「さすが弁護士」という評価のされ方をするとは、想定していなかったかもしれません。

     いま、ネットやテレビでは、この枝野官房長官の会見での言い方を、弁護士でもある彼の、「言質を取られないようにする弁護士流のやり方」「弁護士だからこうしたことに長けている」といった評され方がなされています。あらかじめ先々、悪い結果を招来した場合の責任問題を念頭に、それを回避する予防線を張っているということです。もちろん彼の、そうした能力を肯定的に評価したわけではない、批判とも皮肉ともいえるものです。

     もっとも、枝野官房長官は3月25日の記者会見で、「大丈夫」「安心」と言ってきたことを訂正すべきじゃないかなどと突っ込まれたのに対し、「その時点における状況を踏まえながら、それぞれの時点における政府の判断を申し上げてきている。今、ご指摘いただいたような内容の発言はしていないと私は思っている」「今後の見通しについて、私は断定的なことはこの間、申し上げてきていない」と言明しています。

     これを聞けば、「直ちに」の反対解釈をした人は、「やっぱりね」ということになるかもしれません。「責任」に配慮された、彼の会見の筋の通し方について、ある意味、確認がとれたということになります。

     これが枝野長官の、弁護士としての能力がなさしめたことがどうかは断定できませんが、あえて弁護士という仕事に引きつけてみれば、確かに多くの弁護士の発言は、相手の攻撃を想定しながら、依頼者に有利な主張を展開する配慮がなされています。そのために、きっちりした前提と正確な表現によって、相手から突かれたとき、反論できる、もしくは事前に相手の攻撃を封じるような表現方法が、実務のなかで、それなりに訓練されてきています。

     ただ、これはいうまでもなく、この方法が依頼者の権利の主張に役立つがうえの、弁護士の能力であり、特性です。ある意味、それに長けて頂けていないと、それはそれで依頼者・市民としては困ることでもあるのです。

     それが、こと弁護士が自分のために、この手法を使うとなると、時に「お得意の技を繰り出した自己保身」として、評価される場合があります。「責任がないのだから、主張しても責任逃れにはならない」と、もちろん弁護士は言うでしょうし、そこから先の評価はさまざまですが、逆にそこは、そうした能力に長けているとみられてしまう弁護士のことゆえ、それ以外のお仕事をしている人よりは、厳しい突っ込みが入ることも、ある意味、致し方ないのかもしれません。

     枝野官房長官会見を「弁護士流」とみる前記見方も、そうした弁護士への大衆目線とともに、一面、弁護士という仕事の宿命を思わせるものではあります。

     しかし、もちろん彼は与党政治家であり、官房長官として記者会見に臨んでいます。「直ちに」の反対解釈による、当然の国民の不安には配慮すべきだったという見方ができます。「直ちに」は影響がなくても、どこから先はどのような危険があるのか、それが言えないのならば、なぜ言えないのか、そこを政治家として、官房長官として発言しなかったことは当然問われてもいいと思います。

     あるいは、逆に彼の考えている政治家、官房長官の立場がさせた発言だったとすれば、それこそそこには国民に言えない理由か、われわれには言っても理解されない理由があってのことということになります。「責任」の二文字が、彼の能力を引き出した結果を、われわれがテレビ画面で見ているのだとすれば、もはや「弁護士お得意の自己保身」では済まない、この国の悲劇につながりかねません。

     「断定はしていない」などという言葉は、「直ちに」の反対解釈ができた時点で、およそ国民にとって最悪の回答、いまさら聞いても意味のないような発言です。「大丈夫」「安心」といった発言を修正しないための抗弁、それこそ、「責任」という問題にだけかかわるようなものにとれます。「そこで、だれの弁護人をやっているんだ」と、問いたくなっても当然です。

     もし、ここは彼の弁護士として培った能力を生かすことを期待する人たちが、彼にそれなりの場を与え、彼自身、どこかでその期待にこたえようとしているのであれば、彼が言質をとられない、巧みな弁論を繰り出すほどに、少なくとも彼以外の弁護士にとっては、とばっちりのように、有り難くない、大衆のイメージがより強固になることだけは確かです。

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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
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