弁護士「没落」記事の効果

     就職難や収入減といった弁護士の経済的な激変は、司法改革がもたらした「異変」として、一般社会に注目される材料になったといえます。2009年くらいから経済誌なども、この「異変」を取り上げはじめ、その後、大マスコミもさまざまな「改革」関連記事の扱いのなかで報道したこともあり、評価はともかくいまや事実として、社会に相当広く認識されているようにみえます。

     そこには、意外性、さらにいえばエリートの経済的「没落」に対する好奇の目が、報道する側の動機付けに、相当影響しているとみることができます。「改革」が何を目的として行われたのかを知らない、そもそも関心もない層が、この事実をもって、「何でそんなことになっているんだ」という目線を向けるだけのバリューは、少なくとも見出せるネタといえます。

     もし、それが、この「改革」で何か進行しているのかを伝えるきっかけとなったというのであれば、もちろん、それはそれで意味のあることといえますが、それが結果として「改革」の評価にどうつながったのかを考えると、なにやらぼやけたものを感じます。

     「崩壊」「激変」という刺激的なタイトルで伝えられた事実の先に、一体、何がもたらされようとしているのか。もっといってしまえば、ここまでの「異変」に見合う「改革」の「価値」とは何で、それはいつの日にか、私たちにもたらされるのか――。そこに受け手がたどりついていないのであれば、残念ながら、やはり結局、エリート「没落」への好奇の目、あるいは痛快感頼みの、そこまでのネタという評価になっても仕方がないようにも思います。

     「弁護士の給料半減! 年収200万~300万も当たり前の悲惨な現実」(PRESIDENT Online スペシャル)

     最近も、こんなタイトルの記事がネット上に流れました。所得の中央値を見ると、2006年の1200万円から、2014年には600万円と、キレイに半額。2008年当時は大企業の部長並みだった年収が、わずか6年ほどの間に、全社員の平均水準くらいにまで下がった。実際には数千万、億を稼ぐ人もいる業界だが、反対に、年収200万円、300万円といった低所得者も少なくない。日本最難関の資格を合格してきたエリートとしては、心もとない実態――。

     「異変」を伝える記事としては、ほとんど目新しさを感じない、という業界の受けとめ方もあるようですし、一般目線でも「意外性」の驚き効果は徐々になくなりつつあるかもしれません。記事は、このあと弁護士が「儲からない職業」になった原因として、弁護士の数の増え過ぎを挙げ、急増に見合うだけ裁判や法律案件が増えず、弁護士1人当たりの平均取扱事件数は減少して、収入減・所得減につながった、と伝えています。

     この間、この記事は司法試験合格者3000人程度を目指す「司法制度改革推進計画」の一文を引用しながら、「失敗」という言葉は一言も使っていません。そもそもここで取り上げられている原因は、あくまで「儲からない職業」になったことについてです。別に弁護士という資格が儲かろうが、儲かるまいが、「改革」の評価自体には関係ないといえば、それまで。それどころか、弁護士増員の競争による淘汰に価値を見出す考え方に立てば、「儲からない」弁護士が退散することだって織り込み済みです。一般的に弁護士が「儲かる職業」であり続ける必要はない、という前提に立つのならば、この記事もまた、「改革」の評価につながらない、好奇の目頼みのネタである印象も、ぐっと強くなります。

     ただ、一点、この記事には注目したいところがありました。

     「しかし、このことは、弁護士さんや弁護士を目指した人にとっては不運だったかもしれませんが、多くの日本人にとっては、むしろ『幸運な見込み違い』といえるのではないでしょうか。アメリカのように、すぐに訴訟を起こす社会、弁護士が自己PR合戦を繰り広げる社会が、決して日本人が望む幸福な世の中だとは思えません」

     この状況を、多くの日本人にとって、「幸運な見込み違い」というニュアンスで受けとめた記事にお目にかかった記憶がありません。弁護士過剰状態のなかで、弁護士の活用がどんどん促され、自己PR合戦も当然に繰り広げられる、「改革」が生み出している競争状態を国民は望んでいない、ということ。

     しかし、もし、記事がその前提に立つのであれば、本来、もっと「改革」の評価に結び付けなければならないはずです。なぜならば、今でも弁護士は増え続け、そのなかで記事のいう、その「国民の望んでいない」方向で、この状態をなんとかしよう、なんとかできるという方々が沢山いるからです。最後に「弁護士業界全体の信頼を失う」ことを懸念することで、この記事は終わっていますが、前記前提からすれば、ぼやけた結論といわざるを得ません。

     この記事を見るにつけ、やはり好奇の目に支えられたような、弁護士「没落」記事は、本当に私たちがたどりつくべき「改革」の評価の手前で、ぼやけてしまうことを感じます。そして、皮肉なことをいえば、最も期待できることは、結局、「この世界には行かない方がいい」という、志望者予備軍へのメッセージ「効果」であるように思えてくるのです。


    弁護士の競争による「淘汰」という考え方についてご意見をお寄せ下さい。司法ウオッチ「司法ご意見板」http://shihouwatch.com/archives/4800

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    テーマ : 弁護士の仕事
    ジャンル : 就職・お仕事





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    No title

    ある弁護士のツイートで「66期~68期の方の1年目の手取り月収(会費・保険・交通費などを除いた自由に使える金額)はいくらでしたか?」というアンケートがあって
    20万以下 24%
    20~30万 27%
    30~40万 24%
    40万以上 25%
    (196票)
    であった。

    No title

    >月手取り35万って、年収420万か。
    こんなので誰が借金背負ってローに通って司法試験合格かどうかというリスクを背負って、時間もかけて、修習なんか受けるってんだよ。
    しかも、この手取りって、保証されてるわけじゃない。

    さらに、退職金無し、国民年金、国民健康保険だろうし・・・。

    No title

    月手取り35万って、年収420万か。
    こんなので誰が借金背負ってローに通って司法試験合格かどうかというリスクを背負って、時間もかけて、修習なんか受けるってんだよ。
    しかも、この手取りって、保証されてるわけじゃない。
    弁護士会費は控除済みか?

    No title

    新人に「修行」を割り振れって意見自体は同意だが、しっかり監督してくれて金銭の保証もしてくれる上司がいること前提だよね。
    でも弁護士業界ってイソ弁がアホやってもボス弁が責任とってくれない世界だからね。新人やイソなんてマトモな奴なら受けてくれない依頼しか回ってこないよそりゃ。

    No title

    どこぞのツイッターで「月35万の手取り」言ってたぞ。

    No title

    4大やインハウスからはじかれたやつは、町弁になっても、まるきり使えない。結果、変なチェーン店システムを作ったり、業務上横領に走ったり、静かに請求退会する。彼らは、「修行」を全くしてないから。

    この手の弁護士は、裁判所提出書面に押すはんこの種類、はては契約書のまき方すら知らない。依頼人からは苦情をもらうばっかりでお金はもらえない。和解を組んでも依頼人のグリップがまるでできていないから、依頼人はしれっと不履行。相手方からも苦情になる。

    脱サラと同じで、失敗確率99.99%。

    No title

    ↓新人は、「修行」したほうがいいよ。
    司法試験みたいに、問題を疑う必要がない、という意識を、実務では取っ払う必要がある。依頼者も相手方も間違い・ウソを平気で持ち込むのが実務。それをなるべく見抜かなくてはならない。
    法テラス事件なんて、依頼者も事案もスジが最悪だから、勉強になるよ。
    ただ、手間を食うのに安いよね。
    イソ弁の間はいいんじゃない。
    ただ、そのイソ弁の給与水準が激減しているから問題なんだよね。
    事務所の多くも、個人で法テラスでもやって食ってくれって感じのところ多いでしょう。で、そう長期間雇用してもらえない。

    弁護士の仕事って本当に価値がなくなっちゃったよねー。
    個人相手の事件は、法テラスのおかげで、すっかり、割に合わないものにされちゃったね。

    それにしても、法科大学院=貸与制=法テラスって、うまくできてるよね。
    法科大学院で借金させて高い金をかけさせているくせに、法テラスで安いギャラで働かせる。でも借金があるから拒否れない。
    実は、これが、一連の法曹養成制度改革の狙いじゃないの?借金漬けにして安いギャラで働かせる、という。
    これってソープとかタコ部屋の世界じゃん。法曹の世界がこんな世界と同レベルになるなんてすごい時代になったもんだ。また、考え出して、しれっとこうやって金と労働力を搾取する構造を考えて実行させたやつはすげーや。

    No title

    昔から、新人には、「修行」という名のもとに、変な事件が割り振られてきた。
    今は、異常。
    新人の仕事は、法テラスや弁護士保険だけ。
    そんなん、いりませんて。

    一般民事事件への弁護士保険(報酬は法テラス基準)の導入で、個人相手の全ての弁護士業務では利益が出ないことが確定しました。
    これで、中堅・ベテランが次々に転職活動を決意し、順次廃業している。
    なぜまだ新人が入ってくるのか、疑問。事実の広報が足りないですね。

    No title

    新規参入者が減るってことは、既存の弁護士は助かるってことだから何の政策変更もせずに何とか減員の方向に行くのは目出度いこと。

    No title

    若い人に道を誤らせないことは大事なので、こういう没落記事も大事だと思う。

    No title

    >弁護士が酷使され心身を壊し定着せず転職して純減してる

    これは別に追跡調査しているわけじゃないから、転職したとしてもそこで「最強の弁護士スキル発動して(弁護士登録しなくても)最強の法務部員になった!」ということにしておけばいいし実際そうかもね(適当)。
    心身を壊す弁護士なんていなかったんや……。

    まぁ実際のところ転職するのは若手ばかりだから、転職してもそこそこ人生うまくいってると思うよ(適当)。

    No title

    法テラスとかLACとか交通事故(そして一般民事事件)の弁護士保険とか。

    法テラス・保険会社は、マスコミの広告主だから、こういうのが吸血鬼のように弁護士の生き血を吸っているっていう実態は、絶対に報道しないわけね。

    弁護士が酷使され心身を壊し定着せず転職して純減してる(まるで介護士か保育士)ってことも、報道しないわけね。

    No title

    >すぐに訴訟を起こす社会
    残念だが既に日本もこの流れはあるっちゃある。流石にアメリカほど極端じゃないが。
    そして、わざと裁判起こしたがる弁護士の経歴を調べると、増員政策の恩恵を受けているってオチが待っていたりする。

    No title

    >このあと弁護士が「儲からない職業」になった原因として、弁護士の数の増え過ぎを挙げ、急増に見合うだけ裁判や法律案件が増えず、弁護士1人当たりの平均取扱事件数は減少して、収入減・所得減につながった、と伝えています。

    誰か歯に衣着せずに「『弁護士の数が増えたのでどんな些細なことでも弁護士にどうぞ』という○○のおかげで、モンスタークライアント(いや権利コ○キと言ったほうがいいか)の『お前に出す金はないが仕事はしろ』という金にならない裁判や法律案件だけが増え、弁護士(以下同じ)~」と言ってやってくれ。
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

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