利用者の「疑念」と「妄想」

     弁護士や司法の利用者の話のなかには、しばしばそれらに対する強い不信感が登場します。そして、その多くは、全体的な社会的信用度にかかわるものというよりも、自らの不利な状況が、かかわった弁護士、裁判官らの癒着や不正に起因しているという疑念に基づくものととれます。まるで自分を陥れる大きな陰謀が、彼らのなかでめぐらされているといった調子のものもあります。

     民事裁判で自分側の弁護士が、相手側弁護士や当事者と通じて、自分を不利に陥れているといった利益相反的なものや、さらにそれに裁判所が一枚かんでいて、三者の癒着構造が、訴訟手続き上も判決においても、今の自分の悪い結果をもたらしている、という疑念はとても一般的です。さらに、判決そのものが偽装・捏造され、別に本物の判決が存在するということを固く信じて疑わない人もいます。

     弁護士に聞けば、本音として、そうした「妄想」に近いものを持ってしまう依頼者・市民とは付き合いたくない、極力かかわらないというものが返ってきます。そうした「妄想」の手強さを体験したことがある弁護士も少なくなく、誤解を解くことは不可能に近い、ととらえていたり、相手にする余裕はない、という受けとめ方もあります。

     もっとも、すべての陰謀は、「そんなことあり得ない」という、疑惑に対する、社会のいわゆる「陰謀論扱い」によって救われ、そこに逃げ込めることによって、まんまと成就するものとは思います。その考え方からすれば、彼らの疑惑を常に頭から否定するわけにはいきません。ただ、その一方で、「疑惑」を固く信じている人は、それ以外の可能性について、往々にして耳をかさなくなるという問題があります。それらの否定論を踏まえて、なお、疑うに足る理由をみつけようとする努力をしないのです。それでは、弁護士ならずとも、第三者に「妄想」扱いされても仕方がないかもしれません。

     癒着構造の根拠になるのは、いうまでもなく、人的なつながりで、同一の出身大学の先輩、後輩、同輩であるとか、所属弁護士会、会派、さらにそれ以外の各種所属団体や地域などの同一性。弁護士、裁判官も含めて、そこに圧力、口利きが働くような力学が存在するという見方です。大企業と個人間の紛争では、さらにそれを利用する大企業の「裏の手」が被せられます。

     確かに、そういうつながりが作用する場合が全くない、とはいえません。現に顔が見えるような小弁護士会の人的つながりや、そこの行政相手のケースで、その行政との地域的なつながりや現実的なかかわり濃淡によって、受任を回避するという傾向が存在したことを知っていますし、その場合、そういうかかわりを回避するために他県の弁護士を探すということが行われてきた実態もあるのは事実です。もちろん、すべての場合に反論は用意されるはずですが、少なくとも「癒着」ととられても仕方がない状況がないとはいえません。

     ただ、一方で疑念の当事者のなかには、なぜ、一民事事件でそこまで人的つながりを総動員した「陰謀」が、彼らにとってのどういうメリットのもとに繰り出されているのかについて、その不自然さ、極端さを全く考慮しないものが多いことも、また事実です。そこでは、やはり行き場のない、根本的な被害者意識の矛先が、まず、そこを既定事実として向けられてしまっている観があります。大企業が相手の場合、そこに有形無形のメリットを描き込むのは容易である面もありますが、その意味で、彼らこそ反証するような疑いの目をあっさりと放棄してしまうところが決定的に存在していることは否定できません。

     では、彼らの「疑念」のすべてが弁護士として見放すしかない「妄想」、この仕事に付きまとう宿命として受けとめ放置するしかない、という結論でよしといえるのでしょうか。この疑念には、例えば、口頭弁論の前の弁論準備手続きを、まるで専門家による談合のような場にとらえていたり、水面下で両当事者の弁護士が和解の落とし所を探る行為、さらにそれをもとに相手側にではなく、こちら側を説得するような姿勢を専門家の慣れ合いととらえる見方がくっついていたりします。さらには、懲戒請求に対して弁護士会の結論が甘く、身内のかばい合いという土壌があるといった「情報」も彼らの耳には入っています。これらが、すべて彼らの疑念を駆り立てる方向に作用していることに気付かされるのです。

     これらに、もし、決定的な利用者側の制度に対する認識不足があるのであれば、少なくともそこはなんとか出来ないでしょうか。事案そのものについても、それこそ受任や弁論準備の段階で、依頼者の願いや主張のなかで、何が法律問題で、何が司法的解決につながるのかについての、決定的な説明に欠けていると感じるものもあります。ただ、ここについてはどこまでが弁護士側の経験に基づく能力的な問題や、あるいは努力不足といえるのかは、極端な例以外、同業者でも簡単には判断できない部分といえます。それはそれとしても、制度や弁護士への根本的な理解が、実は司法関係者が考えている以上に足りない、という現実が横たわっているように思えるのです。

     それを考えると、弁護士の経済的な余裕を奪っている、この「改革」路線は、弁護士と利用者の相互不理解のような現実に効果的な解決の道を用意しているのか、そもそもそれをどこまで念頭に置いていたのか、という疑念も膨らんでしまうのです。


    成立した取り調べの録音・録画を一部義務付ける刑事司法改革関連法についてご意見をお寄せ下さい。司法ウオッチ「司法ご意見板」http://shihouwatch.com/archives/7138

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    テーマ : 弁護士の仕事
    ジャンル : 就職・お仕事





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    No title

    >いやいやいや、ここは「弁護士観察日記」で「事務員観察日記」じゃないから。
    だから、なんなのでしょうか?

    >それに事務員なんて……
    >他人の仕事のやり方が染みついた奴なんていらねえよ。
    中途採用者に対する適切な教育能力がないのですね。

    No title

    >日弁連に退会時の職務規定やノウハウ公開がないのは、比較法的にみてかなり珍しい。

    何でも都合が悪くなれば「日弁連」頼みなのはおかしい。
    自営業ならノウハウは自分で作って(noteで)お金を払ってもらうとか出版するとかすれば廃業もしないで済むかもしれない。
    クラウドファンディングを上手に使うべき。
    ついでにイギリスのEU脱退をどうビジネスチャンスに活かすかを考える弁護士が時代に取り残されない弁護士になれる。

    No title

    日本の弁護士会は会費が高い(年間50万~110万)ので、諸外国より退会者が増えやすい土壌がある。しかも、廃業時には追い込まれており視野狭窄になりがちなので、本人が気づかない問題(世間的には常識から外れた問題)を誘発しやすい。日弁連に退会時の職務規定やノウハウ公開がないのは、比較法的にみてかなり珍しい。

    No title

    アメリカの弁護士会では、スタッフへの説明・スタッフの就職活動への協力・クライアントへの説明・ファイル管理・依頼引き継ぎ・預り口座解約・リース契約解除など、廃業時の倫理規定を細かく規定したり、ノウハウを公表している。日弁連はいつでも後手後手だが、対策を急ぐべき。

    No title

    リストラをする(した)側は、その事実を未来永劫黙っている。さもなければ、世間から激しい非難にさらされる。再就職の世話をした場合だけ、辛くも免責される。これ、常識・・・。

    No title

    もと弁護士が転職先でリストラされても、ただのブーメランだよと。

    それだけのことに、感情的になってまくしたてる人もいるらしい・・・。

    まぁ、たしかに、事務所にフラグ立つわな・・・。

    No title

    まとめられましたので
    「法律問題死亡フラグ」
    http://togetter.com/li/991148
    こんな依頼者絶対相手にしたくない。

    No title

    >事務員になっただけでそれで一生食っていけると思うな!!、
    >という話になって、
    >勤務先の事務所が廃業しても、
    >転職市場で自由競争すればいいだけであって、
    >食っていけなくなったらそれは自己責任、
    >親切な誰かが再就職先を用意してくれると思うな!!

    いやいやいや、ここは「弁護士観察日記」で「事務員観察日記」じゃないから。
    それに事務員なんて……他人の仕事のやり方が染みついた奴なんていらねえよ。

    No title

    世間様は、弁護士に対しては、
    資格を取っただけでそれで一生食っていけると思うな!!、
    自由競争しろ!!、食っていけなくなっても自己責任だ!!、
    って言うんですよね。

    であれば、当然、
    事務員になっただけでそれで一生食っていけると思うな!!、
    という話になって、
    勤務先の事務所が廃業しても、
    転職市場で自由競争すればいいだけであって、
    食っていけなくなったらそれは自己責任、
    親切な誰かが再就職先を用意してくれると思うな!!、
    ということになりますよね。

    もちろん、事務員に限らず、
    他の業界でも、会社員でも、公務員でも同じことですよね。

    他人を攻撃するときは
    自由競争最高!!自己責任万歳!!で、
    自分が困ったときは保護してくれ!!
    というのでは筋が通りませんよね。

    私個人としては、
    行き過ぎた自由競争社会は
    好きではありませんが、
    そんなことを言っていても、
    世間様から甘ったれるな!!
    と言われるだけのようですし、
    国民は自由競争社会を選んでしまったようなので、
    社会に適応するように努力するしかありませんね。

    No title

    事務員は先にフラグ立ってる。一般事務で就職できない方は、10人中「8」人以上。9人以上も間近。

    事務員なしの弁護士がフェードアウトして退会するのと、事務員を雇っていながら就職活動を開始して自分は余裕を持って退会するというのでは、周囲の受ける印象が違います。

    くれさら事務所に多いようですが、ご利用ならぬ経営は計画的に。なにせ、残された弁護士が、身勝手すぎる的社会的印象悪化という「おつり」をもらっちゃいかねないのでね・・・。

    No title

    私自身も,「妄想」じみた依頼者に振り回された経験がありますが,裁判所や検察庁は,弁護士以上にそのような経験を持っています。隣の家から電波が降ってきた程度の理由で刑事告訴をしてくる人,訴訟で負けたのは関与した地裁・高裁・最高裁の裁判官が不正行為を働いたからだと主張して国家賠償請求を請求してくる人の事件を処理する例などは,そんなに珍しくないそうです。
    そうした「妄想」じみた人々に対し,まじめに相手にするのがいかに馬鹿げているかは,実際に相手にした経験のある人でなければ理解できないでしょう。
    また,このような問題は司法改革以前から存在していたものであり,司法改革もそうした人々への対応を念頭に置いたものではありません。
    また,司法改革で弁護士が著しく増えたとはいえ,そうした「妄想」じみた依頼者の相手を商売として成り立たせるのはほぼ不可能であり,司法改革によってこうした依頼者への対応が特に改善された,あるいは改悪されたという結論を出すのは難しいと思います。

    No title

    >弁護士と利用者の相互不理解

    これですね↓わかります
    ハッシュタグ#法律問題死亡フラグ

    No title

    >この先問題になるのは、事務員・パラリーガルの失職問題です。

    そもそも事務員やらパラリーガルやらは昔はいなかった。
    コピーや銀行手続きやら何かに手間がかかっていた昔ならばともかく、現在の業務はパソコンがあれば全てその前でできる。そうなれば事務員は不要になるのは今更だし既に事務員なしの事務所も多い。

    >今は一般事務の求人倍率が0.19倍程度なので、解雇されたら10人中9人以上は無職か別業種

    そうなりたくなければ法曹資格を取ればよかったこと。ただの事務職を選んだ結果(資格者は除く)は自己責任。

    ↓下の人はパラリーガルかな?

    No title

    B層に関しては、もういいでしょう。弁護士には我慢強い気質の人間が多いのですが、我慢の限度を超えています。

    この先問題になるのは、事務員・パラリーガルの失職問題です。

    先見の明のある経営弁護士であれば、リーマンショック前の右肩上がりの時代にじっくり業務内容の整理・変更をし、事務員の再就職の世話もしました。

    ところが、多くの事務所は、近年の業界全体の業績悪化に伴い、遅ればせながら事務員解雇にとりかかっています。今は一般事務の求人倍率が0.19倍程度なので、解雇されたら10人中9人以上は無職か別業種(介護などの体を酷使する低賃金労働)です。

    経営が傾いてしまった以上、リストラは必要ですが、経営判断ミスを棚に上げて正当化できることではありません。いくつかの元弁護士のブログなどをみると、どうもこの辺の感覚が狂っているのでは(良心が麻痺しているのでは)、と思うことがあります。山一が破綻したとき、最後の一人まで再就職の面倒をみてから、社長は再就職をしました。リーマン日本法人でさえ、代表者らは従業員の再就職に奔走しました。ああいう経営者の真心は、弁護士の廃業時にも、ほしいところです。

    「因果応報」という言葉がありますが、自分が人を物扱いすれば、自分もいずれもの扱いされるものです。

    弁護士の請求による退会が激増していますが、その陰にある重大な問題です。

    No title

    貸した金返せとか,家賃払わないなら出て行けとかいった
    典型的な事案はさておき,実は,弁護士次第で結論が変わったり,著しく不利益を被ったりすることが多々あることをB層の人たちは知らない。
    弁護士なんて代替可能で誰でも同じという思考は,B層の人のもの。
    そんなB層の人の法律相談など,誰も真面目に聞かない。
    適当に流すだけ。
    事件の筋がよくて金になりそうな話でもなければ
    「専門じゃないのでわからない」
    「経験がない」
    「これは難しい事案だから専門の先生に頼んだ方がいいよ。誰が専門かって?インターネットで検索すれば」と追い返すだけ。

    B層の人は,自分は客(と思われている)と考えているかも知れないが,こちらサイドから見て彼らは客ではない。
    ここに大きな誤解があるのだろうと思う。
    できればあまり関わりたくない存在。
    誰も面倒くさいことには巻き込まれたくない。

    このことは多分彼らにはわからないと思う。

    No title

    河野さん自身が、嘘つきのモンスタークライアント達に、とりつかれているのではないでしょうか。

    例えば、前の記事で、会社経営者が無料相談云々、とおっしゃっていましたが、まともな経営者は無料相談を繰り返すことはありません。経営者のくせに「金がない。無料でやってくれ。」などといえば、まともな取引先は遠ざかるもので、経営などやっていけるはずもなく、これは弁護士であっても同じです。したがって、自称経営者の生活保護受給者でしょう。

    人間関係の質の向上は、人生を豊かにするためには必須です。しかし、人脈が劣化している危険性があります。人間関係の見直しをご検討下さい。

    No title

    >決定的な利用者側の制度に対する認識不足があるのであれば、少なくともそこはなんとか出来ないでしょうか。

    利用者側の制度に対する認識不足、ではない。
    弁護士ドラマにしても、今の不倫タレント、都知事の問題にしても
    マスコミが垂れ流す紛争解決方法というのは
    とにかく相手をめったくそに叩き潰して再起不能にして社会に出てこられなくすること

    真っ当な弁護士が紛争解決のためにするのは「落としどころを探ること」

    このずれがある限りは、利用者と弁護士の溝など埋まらないし、そもそも利用者には「落としどころを探る」という概念がないのだから永久にずれ続けることになるし、あるいは利用者の希望を聞く弁護士が良い弁護士ということになる。

    No title

    >「妄想」、この仕事に付きまとう宿命として受けとめ放置するしかない、という結論

    で、よし。
    ○○に付ける薬はない。
    そんなに学歴・期・所属会派に疑念があるならぐぐって自分にとって一番利益になりそうな者を探すべし。
    人数が増えた分、自分(の妄想)に付き合ってくれる奇特な弁護士を雇える確率も高くなるのが司法改革。それを望んだのは国民。

    弁護士にも客を選ぶ権利はあるのだから、やばそうなのとは受任しない。お互い様。

    No title

    >根本的な理解が、実は司法関係者が考えている以上に足りない
    じゃあ少々極端になるが「弁護士なんて実は大したことない」って自ら宣伝すればいいんじゃないの?
    弁護士イメージを過剰に大きく見せることで客が集まってる面もあるんだから、誤解が生じてるって言うならイメージを縮小するのが一番だと思うけど。


    「依頼段階で司法的解決の決定的な説明に欠けている」ってのは当然で、むしろ最初から具体的に示しすぎる弁護士の方が危ない。
    昔そんな弁護士と抗争してたけど、最初と状況が変わったのでこちらの意見を少し変えたら「言ってることがコロコロ変わって信用出来ない」とホザかれたことがある。
    おそらくだけど、弁護士が最初に決めたプランから崩れると困ったからこんな発言したんだろうね。
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

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