日弁連「会内民主主義」の劣化という認識

     法曹人口と法曹養成に関する決議をめぐり、賛否の激しい応酬の末に、執行部案が可決された3月11日の日弁連臨時総会(「3・11臨時総会からみた『改革』と日弁連」)の質疑で、ある会員が執行部に以下のような趣旨の質問をしました。司法修習69期の弁護士登録時点での在留邦人を含めた日本の人口と弁護士数、そして1500人増員政策が続けられた場合、日本の弁護士はどこで均衡し、その時の弁護士一人当たりの人口は何人になるのか、その数値を示されたい――。

     執行部側の回答は、「数字はない」。要はそうしたデータは、今、示せないというものでした。報道席で聞いていた私は、一瞬、耳を疑いました。なぜならば、その回答になるだろう数値が、そのまま昨年12月に一般発売された日弁連発行の最新版「弁護士白書2015年版」に掲載されている、と思ったからです(「弁護士未来シミュレーションの本当の『前提』」)。

     それによると、69期が終了の予定の今年2016年の弁護士数は3万7345人(現実には3月1日現在3万7760人)で、日本の人口は1億2619万3000人。2017年から新規法曹1500人を維持したとすると、弁護士人口は2048年の6万3331人をピークに減少に転じ、2060年5万7070人で均衡、安定する。そして、その時の弁護士1人当たりの国民数は1541人になる。

     何か質問の趣旨を取り違えたか、あるいは今の私には理解できないものの、言い方は悪いですが、何か弁護士的な質問の厳密解釈で、ここでこのデータを示さなかった理由が用意されるのかもしれません。ただ、百歩譲っても、この質問者が聞きたかったことを良心的に理解すれば、少なくともこのデータは相当程度質問者の疑問に答えるものになったはずです。

     執行部の回答予定者は、法曹養成・法曹人口が議論される臨時総会に当たり、こうした質問を想定し、弁護士白書のデータを押さえておくことはしなかったのでしょうか。国会答弁のように、事務局が後ろから、このデータの存在について耳打ちする場面もありません。もっとも、会場から「データはあるぞ」という声も、私の耳には聞こえてこなかったのですが。

     1500人案でも続く弁護士の激増の程度をはっきりさせるという意味で、当日執行部案可決を目指す側にとって、このデータ開示は都合が悪かった、というのは、穿った見方だとしても、この議論に臨む執行部の姿勢には強い違和感を覚えました。いうまでもなく、日弁連の総会は、会員に直接賛否を問い、その議決によって日弁連の方針を決定する、最高意思決定機関といえるものです。それに対して、果たして執行部は、公平でかつ真摯な姿勢で議事の場を会員に提供しているのか、という疑問に当然つながっているように思えたのです。

     今回の臨時総会では、冒頭からそうした執行部の姿勢そのものが、会員から問われました。執行部が会員に送付した1月22日と同26日のFAXニュース(NICHIBENREN News No15、No16)で、執行部案支持が一方的に呼びかけられたという問題。26日付けには、村越進会長名ではっきりと会員の支持を求める一文が、大きく掲載されていました(弁護士法人岩田法律事務所のフログ福岡の家電弁護士のブログ)。当日の執行部の説明は、理事会の議を経ているとか、執行部の方針を会員に伝えるという趣旨を説明するのみで、議案の扱いの公平性に関する見解ははっきりと示されませんでした。

     臨時総会では取り上げられず、未確認情報ですが、総会招集請求者側に執行部から提案理由、質疑、討論の人数、時間の制限や副議長の就任などを条件化するような申し入れがなされたといった話も伝えられています(弁護士坂野真一の公式ブログ)。

     さらに、よりによって弁護士としてもさまざまな活動参加が想定された東日本大震災5年目の3月11日に臨総の日程が組まれた点(武本夕香子弁護士のブログ)。総会冒頭、村越会長から、この日と、今年度最終日の同月31日しか講堂が空いていなかった、という弁明がなされましたが、当日の黙とうの時間の地震発生時間からの前倒しを含めて、執行部の「感性」に対する疑問の声が聞かれました。執行部側の都合ばかりが、ここでも露骨に反映された結果ではないか、という見方にもつながったといえます。

     これは、実は会内で指摘されて久しい、日弁連・弁護士会という組織の「会内民主主義」の在り方という、根本的な問題を浮き彫りにしている、とみることができます。会員の直接参加による意思決定の場に、なぜ、執行部は提案案件を公平に諮り、その会員の意思を忠実に汲み上げることに徹しないのか。執行部提案にハナから誘導するのでなく、あくまで一案として会員に提示し、忠実に会員の意思決定に委ね、さらにいえば、できるだけ多くの会員の立場を包摂する決定を模索する。こうしたまさに強制加入団体の会内民主主義にふさわしい執行部の、真摯で謙虚な姿勢を、今、これら一連の対応の、どこに会員は読みとれるのか、という話です。

     こういえば、会員間に異論がある安保法制をはじめとする「政治的」と評されるテーマについて、日弁連執行部がその判断で対外的に執行する現実と結び付ける人もいるかもしれない。ただ、日弁連が弁護士法に由来する弁護士の使命に基づき、専門家集団として筋を通す活動を、今回のような執行部姿勢と重ね合わせるのは違うと思います。このことについても、もちろんいろいろな意見があるとは思いますが、問われている内容と目的の違いもさることながら(「弁護士会が『政治的』であるということ」)、これは意思決定プロセスの公正さという問題の比重が大きいからです。前記のような案件が仮に総会にかけられるとするならば、もちろんその時にも、公平で真摯な議事運営は、問われてしかるべきなのです。

     冒頭に書いた質疑のあと、質問に立った会員は、「もし、総会招集請求者側決議案が可決された場合、執行部は総会で決まったことを業務執行機関として誠実に執行していくのか」と執行部に質しました。執行部からは、「総会決議は尊重する」という、ある意味、当たり前の回答しかありませんでしたが、この会員の不安が、まさに今回の臨時総会招集をめぐる執行部姿勢に対して会内に焦げ付いた会員感情を象徴しているように思えます。

     今回の臨時総会の結果について書いた当ブログの前回エントリーに対して、「執行部案を可決する」ための舞台と化したことを問題視し、もし、本気でこの臨時総会が会員の声を拾うつもりだったならば、議論は180度変わっていた、として、依然総会という決定機関に期待するという意見が述べられていました。ただ、私が書いた悲観的な感想は、まさにその前提とできない仮定にかかわっています。逆にいえば、この前提が変わらなければ、これからも同様のプロセスで導かれたことが「決着」とされるのです。

     弁護士の質をめぐり、「劣化」という言葉がこの臨時総会でも取り沙汰されましたたが、会内民主主義をめぐる「劣化」という認識に、今こそ多くの弁護士会員が立ち、この現実を深刻に受けとめることができるのか。そのこともまた、日弁連と弁護士の未来に大きくかかわるものになるはずです。


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    今更?

    地方の単位会はともかく,日弁連の「会内民主主義」が滅び,総会が執行部の意向にお墨付きを与える場と化してしまったのは,既に司法改革以来の伝統です。日弁連執行部に,会員の意見を忠実に汲み上げるなんて殊勝な姿勢があれば,そもそも司法改革など実現できませんでした。
    昨日今日に始まったことではなく,10年以上も続いているものはもはや「新常態(ニューノーマル)」であり,今更これを深刻に受け止める会員は少数派ではないかと思います。

    No title

    >堂々とタイトルに日弁連執行部批判を含んだ本を、出してる方ですよ

    そりゃ本棚にあるもん。知ってるよ。
    ただ弁護士にインタビューしても、弁護士がそれなりに相手(主殿)を認めなきゃ深いこと言ってもらえないでしょ(表面だけならいくらでも言える)。ひどいのになると「いやあんたの取材には答えたくないわ」っていう人もいるし、大物になると逆に煙に巻くために取材に対応することもあるかもしれないけど。

    逆にムラ社会の弁護士が取材を認めてるっていうのはほんとすごいことだと思うよ。

    No title

    >弁護士(会)を批判するようなことを言えば重鎮の弁護士(会)側から口をきいてもらえなくなりそうだし

    河野さんは、
    「司法改革の失敗と弁護士」・「破綻する法科大学院と弁護士」 と、
    堂々とタイトルに日弁連執行部批判を含んだ本を、出してる方ですよ

    No title

    ブログ主殿にとっては、いろいろと大変な立場(弁護士(会)を批判するようなことを言えば重鎮の弁護士(会)側から口をきいてもらえなくなりそうだし、かといって執行部側に阿ったと思われるような表現を使えば若手弁護士の批判を浴びそうだし)と思われるが、今回の記事は正直、好感が持てた。

    No title

    >この質問者が聞きたかったことを良心的に理解すれば
    エリートコンプレックスの弁護士様はこれが出来ないんだよなあ・・・w
    「俺様が気持よく回答できる質問をしないのが悪い」ってガチで考えちゃってるよ

    クソ弁護士がクソである最大の理由の一つがこれ
    プロフィール

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

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