日弁連の「就職対策」の見え方

     弁護士の就職問題について、日弁連・弁護士会は2007年以降、組織として取り組んでいます。以前にも書きましたが、日弁連は弁護士や修習生を対象に法律事務所、企業・団体、官公庁、自治体からの求人情報をネットに掲載し、求人・求職両面からサポートするシステムを開設しています。

     せいぜい大新聞の報道する情報の一つとしてしか弁護士・会の実情を知らされていない多くの大衆が、このことだけからも、日弁連・弁護士会は弁護士の就職の世話もしている組織、食えていけるだけの面倒をみている組織ととっても不思議ではありません。

     さらに、うがった見方をすれば、もともと日弁連・弁護士会が弁護士の就職市場に介入する存在なんだとみられる恐れも、なくはありません。弁護士会が動けば、就職の道が開けるという判断に基づいているととられることからくるものでもあります。さらに、そのことは、あたかも保身から供給を制限してきたとされる弁護士会エゴ批判と結び付けられることもあり得ます。

     ただ、日弁連・弁護士会は、資格者としての生活保障のために動いているのではありません。日弁連が3月27日に発表した「法曹人口政策に関する緊急提言」にも、その意図は示されています。

     「2010年末の新63期の弁護士一斉登録時点で、前年の1.6倍の214人の修習終了者が未登録という事態が生じており、弁護士、弁護士会、関係者の努力もありその後改善が見られるものの相当多数の者が弁護士として法律事務所に就職できない状況は今後もさらに深刻化して続くことが懸念される。このような就職難が生じること自体、当初予測されていた弁護士への法的需要が社会に現れていない証であるという指摘もなされている。」

     「もとより、就職難は社会全体の傾向であり、弁護士だけが特別というわけではない。しかし、市民の権利の守り手である弁護士が実務家として一般社会や市民の要請に的確に応えていく能力を身に付けるためには、先輩法曹の指導のもとで実務経験を積み、能力を高めていく、いわゆるオン・ザ・ジョブ・トレーニング(OJT)がどうしても必要である。それが就職難のために得られないとすれば、実務家として必要な経験・能力を十分に修得できていない弁護士が社会に大量に生み出されていくことにもなりかねない」

     つまり、日弁連が就職問題の対策をとるのは、なにも弁護士を食わせるためでも、生活保障でもなく、経験不十分な弁護士を結果として世に出すことを問題視しているということ、さらにいえばそういう事態による弁護士全体の信用の失墜への懸念、弁護士自治からの責任という観点に立っているとみることもできると思います。

     ただ、そうだとすれば、ここで一つはっきりしてくることがあります。つまり、日弁連・弁護士会がこうした弁護士の増員政策で発生した不測の事態と、「実害」に対応した就職対策に乗り出し、その原因が「当初予測されていた弁護士への法的需要が社会に現れていない証」とまで、言及したのであれば、日弁連は弁護士の激増政策に反対しなければ、しかも弁護士会が「介入」しなくても適正に就職できたレベルまでの合格者引き下げを提言しなければ、その行動は矛盾することになるということです。

     2007年以前の実績からみても、そこで年合格者1000人以下というラインが提示されてもおかしくない現実はあると思います。

     しかし、違う見方もあります。日弁連は増員賛成派だったのではないか、というものです。今、激増政策の被害者のようなことを言っても、実は「ニーズはまだまだある」「大丈夫」といってきた日弁連はどこにいったんだ、という話です。あるいは、この就職対策も、日弁連が増員政策を支持した共同責任者として、「掘り起こし」に協力し、なんとか「想定内」の状況にするための、当然の努力とみられてもおかしくはありません。

     前記「緊急提言」も、過疎対策や裁判員制度対策では、今の増員ペースによらなくても対応可能とまでいいながら、肝心の「ニーズ」があるのかないのかについては、問題を棚上げにして、まだ回答を留保している感もあります。

     ましてペースダウンでの増員基調や将来50000人などという目標も、いったん白紙して、「当初予測されていた弁護士への法的需要が社会に現れていない」、いわば判断ミスの責任を率直に認めた方針転換でも宣言しなければ、この就職対策そのものが、誤解されて社会に伝わる可能性があります。

     弁護士になって食えないのは自己責任、食えなければ退場し適正人数が残るだけ――もし、こうした考えには立たない、立てないというのであれば、これから実害がどれほど生まれるか分からない「淘汰」の論理に支えられた弁護士大増員路線などには、とても加担できるとは思えません。

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    とても魅力的な記事でした。
    また遊びにきます。
    ありがとうございます。
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
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