弁護士不祥事をめぐる自浄能力と自覚

     弁護士が今よりも経済的に豊かだった時代、弁護士の不祥事について、同業者たちが異口同音に「慣れ」ということを戒めるのを耳にしました。仕事に慣れてくるころに、気の緩みや、ある種の通用するだろうという過信から、依頼者との関係で問題を引き起こしてしまう、と。

      「『自由と正義』に載るような弁護士になるな」(日弁連機関誌巻末の懲戒処分公告コーナーに掲載されるようになるな、の意)ということを、駆け出し時代に先輩から言われたといった話もよく聞きましたが、そのなかで教えられてきたことは、自覚のなかでなんとかなると教える側も教えられる側も考えることができた、精神論のようなものに思えます。

     この弁護士間の不祥事に対する目線が、そもそも甘いという批判は、一般のなかにあっても当然だと思います。こういう捉え方からは、弁護士の地位を利用した確信的な不正、あるいは悪意を前提としていないと感じられるからです。そして、このことは弁護士会がなんとかしなければならないとして掲げる不祥事対策にも、どこかつながっているようにみえます。既存の弁護士に対する、倫理的な研修は、あるいは、ある弁護士については、本来の職責や使命に対する自覚を促し、それこそ「慣れ」のなかで失われる何かを呼び覚まし、リカバリーするかもしれない。しかし、そこに立ち戻れない、もっと深い根本的な資質の問題は果たしてないのだろうか――。

     しかも、現在と未来の弁護士の不祥事については、確実にかつてとは違う要素が加わっていることを踏まえなければなりません、いうまでもなく、経済的困窮の問題です。稼ぐためではなく、事務所運営に窮したすえに、顧客のおカネに手を付ける式の不正。しかも、その原因もかつてのような、投資の失敗といった個人的事情によるものではなく、「改革」がもたらした異変による経済的圧迫が、確信的な不正へと背中を推してしまったととれるケースが存在するのです(「『預かり金流用』という弁護士の現実」)。これを「慣れ」ということに結び付ければ、一時的に流用して返金できたという悪しき「成功体験」への「慣れ」があったとみることもでき、現実にそうとらえている同業者たちもいるくらいです。

     最新版の日弁連発行の「弁護士白書2015年版」によると、1989年1月1日から2015年3月31日までに懲戒処分を受けた弁護士会員数(弁護士法人会員を含む)は997会員。そのうちの25.3%は2回以上懲戒を受けていることが明らかにされています。3回以上でみても10.5%、最高で8回も1会員います。ケースの中身は違うとしても、懲戒を受けた弁護士の、実に4人に1人が「再犯」、10人に1人は3度以上処分を受けているということになります。

     一方、懲戒件数そのものは1999年からの15年間でほぼ倍増、2014年には初めて年間の処分件数が100件の大台に乗りました。この間、増員政策によって、弁護士人口はほぼ2.1倍増えていますが、弁護士数に対する懲戒処分の割合は、この10年間0.20%から0.35%を推移し、大きな変動はありません。

     この結果に対する評価は、分かれるかもしれません。懲戒処分によって、75%の処分者の再犯を防ぎ、増員政策後も懲戒処分が一定の抑止力を持っているという言い方をする人はいそうです。ただ、裏返せば、以前も書いたように、増えれば増えただけ、懲戒対象者は存在してしまう、つまり一定の「含有率」を保ち(「懲戒請求件数・処分数の隔たりと『含有率』という問題」)、かつ再犯率は25.3%。これが、日弁連・弁護士会の懲戒処分「効果」、自浄能力の実績であり、現実ということになります。

     懲戒の問題は、あくまでベテランの問題とされてきました。「慣れ」にしても、確信的な不正にしても、現実問題、若手が手を染めるとはとらえにくいという受けとめ方もありました。前記白書によれば、現に懲戒処分者の処分時の弁護士経験年数では、2014年でみても約7割が経験20年以上、8割が10年以上で、この5年間でも20年以上の会員が6~7割を占めています。

     ただ、気になるのは、経験年数1~9年の処分者が2013年に倍増、2014年も同様の高い数値で、この2年間全体に占める割合も1割から2割に膨れ出していることです。この数値だけでは、もちろん断言はできませんが、あるいは増員政策の影響が若手に影響している結果が、じわじわと現れ出しているとみることもできるかもしれません。

     弁護士会の懲戒処分にすべて期待することは土台無理なんだ、という人がいます。弁護士自治を抱え、自浄作用が問われる以上、何かの対策を宿命的に繰り出さなければならない。かといって、書いてきたような実績を変えていく妙案があるわけでもない、と。ただ、不祥事の数が増えれば、たとえそれが無理な増員政策による母数の変化に伴うもので、懲戒が一定の効果を維持していても、自浄作用は疑われ、自治の「資格」までが問われることになる。

     では、どうするか。倫理研修のほかに、預かり金対策や苦情の分析などが弁護士会で取り組まれていますが、状況を大きく変えるには基本的にどうすればよいか、何ができるのかの答えを出すのは、もちろん簡単ではありません。ただ、少なくとも、できないことをできるといわないこと、「改革」の影響を直視すること、そして、かつての「精神論」だけでなんとかなる、のどかな時代は、とっくに終わっているのを自覚することは、必要であるように思います。


    ベテラン弁護士による不祥事に関するご意見をお寄せ下さい。司法ウオッチ「司法ご意見板」http://shihouwatch.com/archives/5849

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    テーマ : 弁護士の仕事
    ジャンル : 就職・お仕事





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    No title

    >実は、懲戒委員会が懲戒処分を判断する前には、とある方から「こうしたほうがいいよ」というアドバイスがなされることがあります。通称、「天の声」というようですが、弁護士会としては、身内の恥を公表することになる懲戒処分はなるべく下したがらない傾向にありますので、「天の声」によってすでに改悛したということになれば、「業務停止→戒告」や「戒告→懲戒しない」という軽減もあり得るわけです。

    「目立ちすぎた」××××、不当報酬受領で「重すぎる処分」の怪…弁護士会を逆なでか より引用
    http://dailynewsonline.jp/article/1174901/

    ここまで身内に甘い手段を使っておいても市民に信用されるということか。弁護士懲戒制度は甘すぎる。

    No title

    弁護士規制に突然噛み付いてきたと思ったら、誤解を与えてることに気づかないまま持論を展開し、勝手に満足したら黙るパターンをまーた繰り返すのか・・・
    自分から話題にしたことなんだし、普通は誤解の余地を与えたことについて弁明なり謝罪なりするもんだけどね。
    それとも、弁護士規制の意見に噛み付いた時点で満足して、後のことはどーでもいいとでも思ってるのかね。規制意見に噛みつかなきゃ困る立場の人なのかね。

    No title

    しかしここ数日、
    第二東京の弁護士、無理やり××で退会命令
    札幌の弁護士、買春容疑で逮捕

    ……こういう(主に不倫等関係の)不祥事(?)も増えてきたような感じがするが。これについてはいかに考えるのか?

    No title

    >「不祥事の『多発』、つまり従前と比して増えた原因はロー奉仕者限定大増員にある」
    >との主張を、
    >「不祥事全体のうち、原因の多数はロー奉仕者大増員だ」
    >みたく解釈してるのか 
    普通はそう解釈するよ。誤解だと言うだろうが、余地を与える言い方をしている。「原因」じゃなくて「一因」なら誤解の余地はなかっただろう。
    だから、この部分を修正して改めて意見を主張するなら、この部分の議論はおしまい。しないなら終わらない。

    No title

    人数が増えたら悪いやつも増えるに決まっているわけで、単純に不祥事数を比べても意味ないでしょ。
    弁護士人口と不祥事数の割合で見なきゃ意味ない。

    No title

    >どう解釈したら「特に影響はない」に

    では、「一定以上の影響はある」と認めてるのか。
    そうであれば、この人は一体、こちらとどこに相違点があると思ってるのか

    もしかしたらこの人、こちらの
    「不祥事の『多発』、つまり従前と比して増えた原因はロー奉仕者限定大増員にある」
    との主張を、
    「不祥事全体のうち、原因の多数はロー奉仕者大増員だ」
    みたく解釈してるのか

    No title

    「面もある」って書いてあるじゃん・・・そうやって都合の悪い部分を”綺麗に”無視して変な結論を出すから、「思い込みの激しい人」って言われてんだよ・・・
    無視していないのなら、どう解釈したら「特に影響はない」になるんだ?

    なぜか氏に根拠を求められているのは「多発」の部分なんだが、本人が根拠出す必要ないって思ってるなら聞くだけ無駄かもね。

    No title

    >根拠なしに「大増員=不祥事多発」

    「所得の大幅な落込みや経済的困窮は、 モラル低下・治安悪化につながる」
    これは語るまでもない話

    2016-02-18(19:34) の投稿者は、
    「ロー奉仕者限定大増員による弁護士の所得低下・経済的困窮・資格価値の下落は、モラル低下に特に影響はない」
    という意見なのだろうか。そうであればまず自らこそ論拠を示すべき。

    ちなみにこのブログ記事も
    >確実にかつてとは違う要素が加わっていることを踏まえなければなりません、いうまでもなく、経済的困窮の問題です。
    >「改革」がもたらした異変による経済的圧迫が、確信的な不正へと背中を推してしまったととれるケースが存在するのです

    とあるが、これを否定してるわけだな。

    No title

    「大増員」が「不祥事」につながってる「面もある」だろうが、なぜか氏は根拠なしに「大増員=不祥事多発」って図式で語ってるんだよね。
    この思考、一般人だったら「思い込みの激しい人」で済むけど、もし弁護士だったら・・・

    No title

    あのな、いちいち反論するのももうおしまいにするけど

    >>『経済的原因による横領』。
    >むっちゃ関係あるやん

    ぼかしたけど、この「経済的原因」って別に大増員になって云々じゃないのよ。
    けっこうね、ギャンブルに嵌ってた、浪費傾向を改めることができなかったっちゅうのが多いの。新聞読んでる?まぁ新聞社によってはざっくりとしか書かないけどさ。

    No title

    弁護士批判したいなら、大増員と若手の処分者増大も批判しないと駄目ってか?それはお前の「感想」だろwwwwっていうかそもそも話題にしてないから知らんわwwww
    直後のコメントで反論もされてるし、これらの関係をちゃんと証明してくれないと「感想」からランクアップしないよ。

    No title

    >下の意見の預り金に関する規制は、非現実的すぎますね

    プラス、それが正しいと思うのであれば自分で実行すりゃいいやん、って話だわね
    当該コメントの人が弁護士であれば、まず自分が堂々と決算書でもなんでも開示すりゃいい
    依頼者側であれば、「決算書開示するか、開示しなければ一切預り金を認めない」という条件で受任してくれる弁護士を、自分で探せばいいだけでは。
    それで受任してくれる弁護士が見つからなくとも、「そうでなきゃ信用できない」と思ってるんだから別にいいはずだし

    No title

    >不祥事多発が大増員とそこまで関係ないだろ
    >『経済的原因による横領』。

    むっちゃ関係あるやん


    >『ハッピーリタイアメントに大切なものは~』とか言ってるからだろ?

    それを言ったのは、ロー奉仕者限定大増員をマンセーしてる側だよ。
    ローのためだけのロー奉仕者限定大増員によって、困窮に追い込まれた側じゃないよ。

    No title

    弁護士業務の過程で、預り金が生じるのはほぼ必須です。下の意見の預り金に関する規制は、非現実的すぎますね。
    むしろ自浄作用がないってことなら、弁護士自治を廃止するのが効果的だと思います。

    No title

    >不祥事多発を生み出した原因

    いや別に、不祥事多発が大増員とそこまで関係ないだろってこと。
    そもそも事件放置程度の不祥事ならざらだった。
    他の記事のコメントにもあるように、某弁護士が懲戒を大々的に広告したおかげでだんだん懲戒請求が増えてきたってだけ(その中にはもちろん言い掛かりもあるだろうが)。
    それに、退会だの除名だのっていうのはほとんどが『会費滞納』『経済的原因による横領』。最近は当然『会費滞納』が多いだけ。これが不祥事なのか?単に「猶予制度の創設」「適切な事業承継のあり方」とか考えずに『ハッピーリタイアメントに大切なものは~』とか言ってるからだろ?
    それに弁護士会費を安くしておけばここまで大事になってたかねってこと。

    原因にはふれない

    すごいねえ。とにかく弁護士に制限かけろ・懲戒もっとやりやすくしろばかり。
    なぜか、不祥事多発を生み出した原因である、大増員(ただしロー奉仕者限定・非ロー奉仕者は大減員)政策については、
    全く、なんの批判もしない、と

    しかも、政府・マスコミ・学者らによれば、ロースクール様によって「人間性」も優秀な弁護士が毎年毎年排出されているはず
    そうであるにもかかわらず、経験年数10年未満の処分者も増大。
    この矛盾に対しても、なぜか全く、なんの批判もしない

    「原因がなにかとか全く知らんし知ろうとする気もないよ。単に弁護士を逆恨みしてるから叩きたいだけ」
    ってことかな

    No title

    チンピラみたいなことやってる弁護士ってかなり多い。録音してる時は平穏だが録音切った途端にチンピラになる弁護士とかね。
    そしてチンピラ行為って弁護士会にチクってもまず処分対象にならんのよね。

    「弁護士がバッジつけて動くときは録音義務化、提出要求があったら従わなければならない」なんてルール作ったら絶対に面白い事になると思うんだけど、採用してくんねーかな。

    No title

    懲戒とはいかないかも知れないけれども、某法律事務所に対する景品表示法違反の措置命令を消費者庁が出してしまったことで、ますます
    「弁護士って何やってるの?」
    「弁護士会って何やってるの?」
    「日弁連って何やってるの?」
    ってことになるだろう。
    http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160216-00000072-mai-soci

    No title

    下の人とほぼ同じ対策だけれども、③預かり金(あるいは高額金銭を預かる場合の成年後見)の対策として、弁護士法人事務所に必ず委任するという縛りだろうか(弁護士法人にすれば全部事項証明書で確認可能)。

    しかし大事なことは、横領や弁護士とトラブルがあった場合の事件の引継ぎ(弁護士の解任時含む)や補償の問題だと思うね。総本山が積立基金を作るという話もどこまで反対が多い中実現するか……。

    それより今回の記事は「(増えたのは)横領・金銭関係」ということで書いておられるがブログ主殿、それよりも(他の記事でも散々コメントされているが)「懲戒請求の(一般市民にとっての)使いにくさ(処分の内容も含む)」や「(全く減らない)事件放置」のほうが横領よりも問題の根は深いのだと思うけれどね。

    No title

    預かり金の横領の点については,
      ①預かり金を預かることを禁止する
      ②預かり金を預かる場合は,預金を預かる銀行のように決算の開示を義務づけて純資産の最低条件を設定したり(ex純資産の10分の1以上の預かり金を預かることを禁止),資金移動業者のように預かり金に相当する額を供託することを義務づける

    等の抜本的対策を講じなければ,0に近づけることは困難かと思います。泥棒に倫理研修を義務づけたら再犯をしないというのは,楽観的すぎるかと思います。

    ちなみにこういった対策を義務づけると,対応できない弁護士が困るという反論がありそうですが,そもそも,「困る」弁護士は「危ない」弁護士である推定が働きます。

    横領被害で弁護士全体の信用が落ちるよりも,信用を守るために高いハードルを設定した方が,ユーザーにとってもメリットがありますし,「危なくない」弁護士の信用もアップするのでいいかと思います。

    No title

    自浄作用に期待できないなら外部圧力をかけるのが当然の流れやな
    特に懲戒請求のシステムなんか、こんな面倒なのやるくらいならネット上で悪事暴露したほうが楽だし効果も期待できるわって思う

    まあこういうのも一般市民が「慣れ」ちゃってやり方がエスカレートするとアカンのやけど
    一般市民が「慣れ」ちゃう前に弁護士会に期待が持てるようになれや、ってプレッシャーになってくれるかな
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

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