ある「良心的親弁」スタイルの指南

     弁護士になると、先輩から「『自由と正義』に載るような弁護士になるなよ」と言われるという話が、昨年出された弁護士を特集した雑誌に出ていました(「エコノミスト」臨時増刊12月20日号「弁護士・会計士たちの憂鬱」)。

     「自由と正義」とは、毎月日弁連が発行している機関誌で、毎回、司法問題の特集を組み、弁護士、学者が論稿を寄せています。もちろん、先輩が、「こうした執筆者だけにはなるなよ」といっているわけではありません。おそらく、弁護士ならば、だれでも分かるはずですが、ここでいうのはこの機関誌の巻末の記事、日弁連が実名で公表している懲戒処分に関する公告を指しています。

     「あそこに載るような弁護士は、実績のある弁護士の下で働くことをよしとせず、一匹狼的な弁護士が多い」ということも、どうやらこの弁護士は先輩から教えられたようです。さらにこの先輩の伝える心得を紹介すると、①「前からの攻撃より、後ろから刺されないように気をつけろ、つまり、訴訟の相手方より、クライアントともめないようにしろ」②「仮に懲戒請求をかけられて仲間を作っておくと、日ごろの働きから擁護の声を上げてもらえる。だから日弁連の委員会活動はマメにしておけ」――だそうです。

     まあ、こういう指南も現実にはあるだろうな、という感想を持ちます。なぜなら、弁護士界の中で、聞かない話ではないからです。この指南された弁護士は30代の弁護士といいますが、むしろこうしたことを「おやじの小言」風に指南するのは、およそかつての「親弁」スタイルのような感じもしますので、あるいはこの先輩は、いまや、この世界では「良心的」という評され方をされるかもしれません。

     懲戒処分に陥らないよう先輩がアドバイスする、外部からの嫌疑に人的な関係で結ばれた他の弁護士が救済に動く。先輩の指南が示している形を、この雑誌は、「これが、古き良き、『弁護士自治』の実質的な姿」とくくっています。「弁護士自治」が、このエピソードでくくりきれるものとは思いませんが、このジャーナリストも、少なくともかつての「良心的親弁」スタイルという認識を持っていて書いていることをうかがわせます。

     ただ、やさしい先輩の指南のエピソードも、大衆目線で見れば、誤解を招くだろうなとも感じます。とりわけ、最後の弁護士会の人間関係が、懲戒請求での救済策になる、ととれる言い方は、この制度に対する「身内に甘い」「かばい合い体質」とする批判の補強材料になるかもしれません。

     一匹狼の弁護士が、懲戒にかけられた場合に、いわば人間関係の助け舟がないために、あらぬ嫌疑がかけられながら、懲戒されるということがあり得ていいわけもありません。そうなる可能性がある懲戒制度ととられることを、弁護士会がよしとするわけもありませんし、また、一匹狼の弁護士が常に懲戒に当たるようなことをやらかしかねない弁護士と睨まれることになるのも、問題なはずです。

     もちろん以前にもかきましたが、弁護士会の指導・監督だけでなく、会員同士の相互監視が、弁護士会の自治に求められていた一つの形ではあったと思います(「『顔が見える』弁護士会の功罪」)。「一匹狼」にならない方が賢明とする指南がいう弁護士のあり方も、いわんとするところは分かる話ではあります。

     さて、この指南は、来るべき弁護士大量増員時代には通用するでしょうか。大量増員は、もちろん相互監視をさらに困難にさせますが、同時に、「実績のある弁護士の下で」働きたくても働けない、なりたくてなるのではない「一匹狼」弁護士を量産する可能性があります。

     弁護士としての実務だけでなく、モラルにかかわる部分の教育・指南が、かれら「一匹狼」に、どのようになされていくのか、という問題があります。

     若手に限らない経済的な余裕のなさは非行に走る弁護士をつくるかもしれませんが、それ以前に、対応の不備をめぐるクライアントの不満は、ともすれば懲戒請求につながるものとなります。懲戒制度に対する国民の期待を通り越した要求・不満が高まる一方、余裕のなさから弁護士会離れを起こさざるを得ない若手弁護士には、あるいは前記指南がいうような、擁護の手はないことになり、仮にそうしたものが懲戒制度になんらかの役目を果たしていたとすれば、「誤判」の危険性も高まることになります。

     そして、前記登場したような「良心的親弁」スタイルも、そうした過程のどこかで、「絶滅危惧」指定がなされることと思います。改めてそれはそれで、確かに一つの役目を果たしていたと、今よりも痛感しなければいけないときもまた、来るような気がします。

     そう考えれば、やはり前記のような「古きよき」というくくりをしたくなる気持ちも分からなくはありません。

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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
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