「改革」の無理とコストをめぐるアンフェア

     「改革」の弁護士増員政策と法科大学院制度は、結果的に弁護士、司法修習生、そして志望者のそれぞれに、以前にはなかった「経済的問題」を突き付けることになりました。いまや明らかにうまくいっているとはいえない前記した二つの政策を、今、語るに当たっては、この「経済的問題」に関する誤算が、どこまでこの「改革」の成否を既に決定づけてしまったかという認識が、その評価を分ける格好になっているともとれます。

     こと弁護士についていえば、そもそも競争と淘汰に増員の意義を見出す立場からは、彼らに突き付けられた「経済的問題」を否定的にとらえる余地はほとんどないといえるかもしれません。いうまでなく、追いつめなければ、良い方向に変われないという、彼らの前提とする、既存の弁護士像がそこに描き込まれているからです。

     ただ、前記三者の「経済的問題」について、「改革」肯定の立場でとらえる共通の発想を、あえて言葉にするならば、結局、この条件下で「やれる奴がやればいい」ということになるのだと思います。もちろん前記競争・淘汰論からすれは、それはそのまま良質化や低額化となって、社会に跳ね返ってくるということになりますからいうまでもないことですが、修習生については、職業訓練を自弁原則とする誰でも与えられる試練として、そして、志望者については、経済的支援がいわれても、結局、(少なくともこれまでは)、試験合格後を含めて、こうした条件に納得する人材、可能な人材が来てくれるので構わない、という捉え方があったとしか、この路線維持を説明できない現実があるのです。

     法科大学院制度の強制という、新たな経済負担を課しても、「それでも人はくる」という制度的な自信の背景に、これまでの弁護士という職業に対する「人気商売信仰」があったとみるのは容易ですが(「志望者にとっての『価値』と『改革』の『価値』」 「弁護士『人気商売信仰』の破綻と『有志の犠牲』」)、それと同時に、単にハードルを乗り越えてきた人材でよしとする、いわば片付け方が、そこあったのではないかと思えてならないのです。

     実は、法曹界外の人間と接すると、この「やれる奴がやればいい」という捉え方が、前記三者の「経済的問題」に対する判断停止の大きな要因になっていることにしばしば気付かされます。経済的条件を満たす、ハードルを乗り越えられる人間たちが弁護士になるので構わないではないか、と。「給費制」問題で弁護士会サイドから出された「カネ持ちしかなれない」論が、ある一定以上の効果、説得力しかもたなかったのも、この発想以上に、実害を喚起させられなかった結果ともいえます。経済的に裕福な家の子弟が、より恵まれた条件のもとでチャレンジできる、という現実は、回りを見ればいくらもある、という声も聞きますし、それは旧司法試験制度時代でも同じではないか、と言う人もいます。

     しかし、本当に「やれる奴だけがやればいい」で私たちは安穏としていられるのでしょうか。志望者の激減(「現実を直視できない増員路線」)という現実からみえてくる、人材の他分野への流出、大増員時代の弁護士の経済事情からくるしわ寄せは一体、どこにくるのか。そのことに、「改革」は責任持って向き合っているといえるのか――そこに、私たちはもっとこだわるべきではないでしょうか。

     よりよくならないのであれば、「改革」とはいえません。どんなにりっぱな理想や理念が掲げられようとも、デメリットが上回るのならば、そもそもやらない方がいい。冒頭の二つの政策について、そんな当たり前の「価値」判断のスタートラインに私たちは果たして立っているのでいるのでしょうか。弁護士界のなかにも、時々、「この『改革』は国民が選択したものだ」ということをいう人がいます。しかし、今のように、より優秀で志が高い弁護士を目指すことも、生きることも、「経済的問題」の前に後退する結果を社会が望んでいたとは決していえません。メリットが強調され、デメリットやリスクが伝えられない、いわばフェアでない形で、「改革」がイメージづけられてきたことを見逃すことはできません。

     表向きの話として、弁護士の潜在的なニーズに対する誤算があったことは事実ですが、それだけでなく、社会の隅々でも弁護士はタダ働きをするわけではなく、むしろ採算性という問題抜きには成り立たないこと。逆に言えば、数さえ増やせば、市民がお金を投入する用意があるような前提に立っている「改革」の現実が十分伝えられてきたとは思えません。そもそも薄利多売化が困難な弁護士の仕事にあって、前記したメリットを本当に生み出しながら、この競争・淘汰が健全に行われるのかとか、かなり困難な弁護士選択の自己責任を被せる形が、この競争・淘汰の前提になっていることなど、「改革」に伴う当然のリスクやコストが「価値」判断の材料としてフェアに発信されたともいえません。

     今になって、この「改革」の結果から、弁護士という仕事の有償性や、市民が当然に負うコストやリスクについてもっと伝えるべきだったと口にする弁護士も少なくありません。それで、なぜ、「国民が選択した」などということがいえるのでしょうか。弁護士に無理をさせたり、経済的に不安定にさせたり、そうした業界に魅力を感じなくなるとともに、強制「プロセス」としての法科大学院制度のコストに「価値」を見いだせない志望者が去る事態が、来るというメリットの引き換えに訪れることなど知る由もない。しかも、そのメリットが回って来ること自体が、実はもともと怪しかった話まで――。

     いまやこの「無理」を押し進める法曹界を、「ブラック企業」に例える同業者までいることを多くの人はまだ知りません。採算性に立脚していないこの「無理」は、「改革」が弁護士について期待した建て前だった「公益性」から、逆に弁護士を撤退させる結果を生みつつあることも分かっていません(「弁護士増員と新法曹養成の『副作用』という視点」)。それを分かったうえで、それこそどこか「ブラック企業」経営者が口にしそうな、「やれる奴だけやればいい」という「改革」に国民は期待するのか、そこが問われていいはずです。


    弁護士、司法書士からみた、法テラスの現状の問題点について、ご意見をお寄せ下さい。司法ウオッチ「司法ご意見板」http://shihouwatch.com/archives/6046

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    No title

    「弁護士の中には,国選報酬の安さや業務の多忙さから,検察官と同等の準備はできないと開き直る意見もありますが,国選弁護は「公共事業」ですから,そういう弁護士には退場していただくほかないのではないでしょうか。」

    http://blog.taokalaw.jp/?month=201508

    香川県弁護士会では、入会時に必要な入会金が、日弁連分で3万、香川県弁護士会分で57万、合計60万。このほかのランニングコストとして、年会費84万400円。
    機械的に当てはめると、香川県弁護士会では、初年度に弁護士会に144万400円を納付することが必要です。
    法務省のデータによれば、そのような数字が出ています。
    日弁連も単位会もなぜか最新データを公開しないため、最新情報はわかりません。現在もこの数字が続いているとは思われませんが、もっとも信頼できる公開データは、これしかありません。
    http://www.moj.go.jp/content/000077010.pdf#search='%E9%A6%99%E5%B7%9D%E5%BC%81%E8%AD%B7%E5%A3%AB%E4%BC%9A+%E5%85%A5%E4%BC%9A%E9%87%91'

    ここから推察されるのは、次のような事情です。香川県弁護士会のように、入会金や月会費で実質的な参入規制すれば、資産家のみが入会し、あるいは病気など減収要因があれば退会し、資金力があり健康な弁護士のみで業界が構成されます。

    豊かな経済的ベースがあれば、(国選嫌なら弁護士辞めろ)という話になるのも、不思議ではありません。かつては、日本全国で、そういう雰囲気でしたから。

    さらに、自分自身が多忙になれば、新規相談は受け付けないが、紹介案件は別途対応するそうで、国選を含む法テラス事件が紹介事件なわけはないのですが、言行一致して、多忙であっても国選事件は紹介事件同様に受任していてほしい、と思います。なにせ、他人に対しては、弁護士辞めろ、とまで言っているわけですから。ただ、ブログ内容からは、実際にどうなさっていたのかはわかりません。

    我々は、香川県弁護士会の優れたマネジメントに、学ばねばなりません。

    弁護士数の人口比(都道府県別)
    http://www.caa.go.jp/seikatsu/shingikai2/kako/spc16/houkoku_c/spc16-houkoku_c-ref_29.html

    No title

    3つ下のコメントは、司法試験に落ちて文字通り腐っている、法科大学院の卒業生によるもの。

    2つ下のコメント、そういう「弁護士になりたくてもなれなかったニート」に対する、シュールなアイロニー。

    No title

    >終わっているのは、既得権益にしがみついているあなただと思います。
    >どこまで愚かで醜いのかと、ただただあきれ返るだけです。

    あなたがやれば?

    No title

    ○○○ヌ先生落選?マジで?
    推薦人多かったのに?
    マジならどんだけ弁護士会って腐ってんだよ……。

    No title

    >今までのところ、弁護士が何を言っても、反応は、
    >「本音は、既得権益保護のためだろ。」
    >で、終わっている。

    終わっているのは、既得権益にしがみついているあなただと思います。
    どこまで愚かで醜いのかと、ただただあきれ返るだけです。

    No title

    アメリカのロースクールのcommencement ceremonyの来賓あいさつで、
    「弁護士は何でもできる。大統領、バスケ選手、野球選手、俳優、歌手。。。」
    という話をした人がいた。

    (つまりは、アメリカでは、猫も杓子も弁護士になれる。)
    と、心の中で、突っ込んだ。

    大新聞社の新聞をわざわざお金を払って読み、テレビCMに流れる商品を買い、グローバル化を推し進めていく歯車の一つとなり、
    「弁護士が増えたら自分たちの生活がよくなる。」
    と何となく信じてしまっているうかつな国民も、悪い。無論、情報操作をする連中が一番悪い。

    今までのところ、弁護士が何を言っても、反応は、
    「本音は、既得権益保護のためだろ。」
    で、終わっている。

    情報操作の根元を絶たないといけないが、彼らのメガホンをさらに大きくしているのは、うかつな消費行動をとる国民に他ならない。それでどうして、国民に責任がないなどと言えるのでしょう。

    No title

    テレビでの解説なら無知をさらけ出してもなあなあで流せる、人前に出る仕事だからクズは自然と排除されていく。
    相談業務に活かせるだろうし、社会人経験してない奴らは使えないって言われるのも解決するだろう。

    でもテレビ展開するなら、アイドルに一分野の知識を身につけさせたほうが早いかw

    No title

    最近は資格を取る芸人やタレントも増えていますから,そのうちジャニーズあたりのタレントに司法試験合格者が現れて,テレビ関係の弁護士の仕事は,根こそぎそういうタレントに持っていかれるのではないでしょうか。
    そもそも,テレビで喋っているレベルの法律話であれば,法的には法曹有資格者である必要すらなく,視聴率を取るにも弁護士を何年もやっているおじさん,おばさんを出すより,司法試験合格者のイケメンタレントを出した方が明らかに有効です。

    No title

    芸人になるなら、法曹有資格者で十分(笑)

    No title

    弁護士はもっとニュースやバラエティ番組に出ればいいんじゃないかな?
    今は素人でもネットで基礎的な知識は集められるんだし、情報のアドバンテージはほとんどない。
    それよりはテレビやネットで積極的に発信して、そっちの収入をメインに活動するとか。
    人員は無駄に余ってるようだし、色々な番組に派遣するだけの余裕あるんじゃねーの?それにこの方法なら、人間性に問題がある奴だってボロを出さずに済む可能性がある。

    No title

    >それって、簡易な法的業務は弁護士がやる必要がなくなったから、
    >弁護士に依頼するような業務として残るのは法的に高度な業務のみ、ということですよね。

    そうではない。
    総本山が他士業との棲み分け(あるいは弁護士法に明らかに当てはまらない場合の)非弁の取り締まりをきちんと行い、場合によってはロビイ活動を行っていればある程度は防げたことではないのか。
    なぜ「残りかす」を我々が浚うようなことをしなければならないのか?

    No title

    >弁護士に依頼するような業務として残るのは法的に高度な業務のみ、
    >ということですよね。

    しかも、ロー制度によって志願者も劣化したし、試験自体が劣化しているので、法曹自体が劣化していますし。

    △「無能」 〇「下劣」

    >結局、現実が見えず誤った見通ししか立てられない
    >無能で偉い方々が業界を破壊したということでしょう。

    「無能」というより、「下劣」というべきでしょう。
    司法改悪推進者・翼賛者の中に、本気でこの政策が世の中の役に立つと思ってる人なんて、ほとんどいないでしょう。

    もし本気で、「需要があるから法曹を大増員しなければならない」と考えていたのであれば、
    ・ローに通えない人の合格枠を、1500人→50人に大減員させる
    こんな政策を実施したり、翼賛することなどできません。
    また、現時点でも不当に低くされている予備試験合格枠を、もっともっと不当に減少させろと主張しているのが、「大増員」論者なわけで。

    司法改悪にまったくなんの正当性もないことぐらい、よーくわかった上で、確信犯的に翼賛続けてる人らばかりですよ。

    責任転嫁か

    >弁護士界のなかにも、時々、「この『改革』は国民が選択したものだ」ということをいう人がいます

    その弁護士による責任転嫁か、そうでなければ、「こんな明らかに不当な政策に対して、なぜかほとんど批判の声も挙がってこない国民」への皮肉ではないでしょうか。

    官僚・学者・マスコミ・日弁連と一部弁護士を除いた、一般国民のどこにも、

    ・すべての経費+給与が血税で賄われている官僚達が、たっぷり手間暇をかけて、「ロースクール」という官製ハコモノを作り、維持し続けてほしい
    ・ロースクール維持のためだけに、ローに莫大な血税を贈与し続けてほしい
    ・ロースクール維持のためだけに、ローに通えない法曹志望者の合格枠を、徹底的に減らしまくってほしい

    こんな「改革」を望んでる人はいません。

    No title

    >仮に司法改革がなかったとしても、
    >1.ネットで書式が(裁判所からも)配布される、
    >法務局の登記サービスも昔に比べると格段に素人でもできるようになった、
    >ある程度の法律サービスなら自力で何とかなるような資格の乱立、
    >情報の氾濫
    >2.他士業の職域可能領域が広がっている
    >3.ADR等
    >この中で、弁護士がかつてのように訴訟活動と法律事務のみで
    >高級を得られたかといえば疑問である。
    >流石に一気に今のようにはならないだろうが、
    >それでもある時点では破たんがきたのではないか。
    それって、簡易な法的業務は弁護士がやる必要がなくなったから、
    弁護士に依頼するような業務として残るのは法的に高度な業務のみ、
    ということですよね。
    だったら、需要があると言って弁護士を大増員したのは
    全くの誤りということになります。

    結局、現実が見えず誤った見通ししか立てられない
    無能で偉い方々が業界を破壊したということでしょう。

    No title

    矛先をそらしたい?
    司法改革の失敗を真正面から直視できない人の台詞ですかね?

    司法改革派失敗です。
    もうどうしようもないですけどね。

    生き残る人だけ生き残ればよい
    そのとおりでしょう。
    その生き残りのために誰が犠牲になったとしても、正当化されます。

    No title

    仮に司法改革がなかったとしても、
    1.ネットで書式が(裁判所からも)配布される、法務局の登記サービスも昔に比べると格段に素人でもできるようになった、ある程度の法律サービスなら自力で何とかなるような資格の乱立、情報の氾濫
    2.他士業の職域可能領域が広がっている
    3.ADR等
    この中で、弁護士がかつてのように訴訟活動と法律事務のみで高級を得られたかといえば疑問である。流石に一気に今のようにはならないだろうが、それでもある時点では破たんがきたのではないか。
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

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