「合格できない」制度の欲求

     先般の明治大学法科大学院教授による司法試験問題漏洩事件(「司法試験問題漏洩事件が浮かび上がらせた現実」)に関して、9月23日付けの朝日新聞が社説で取り上げています。タイトルにあるように、朝日はこうしたケースの再発防止策として、考査委員の任期を制限する方向を提示しています。ただ、その文脈のなかで、新法曹養成制度について、改めて次のような認識を示しています。

      「そもそも、いまの司法試験制度は、法科大学院との連携を前提に始まった。暗記中心の試験をやめ、大学院での教育を踏まえ、まじめに取り組んだ学生なら合格できる。そうしたプロセス重視を改めるのが司法制度改革のねらいだった」
      「しかし、最近は、法科大学院を経ない予備試験からの合格者が増え、今年は1割を占めた。大学院教員のように教育過程をしらないひとがいなくなれば、理念はさらに形骸化する」

     法科大学院で「まじめに」取り組めば司法試験に合格できる――。朝日がここで言及したのは、合格できるというインセンティブのうえに成り立つはずだった、この制度の根本的な描き方といえます。しかし、この形はもはや崩れている。少なくとも社会的評価としては、それが実現できていない制度ということになります(「法科大学院本道主義の『根拠』」)。問題は、この制度で「合格できない」というのは一体、誰のせいなのかということです。

     端的に言って、この社説の表現では、「合格できない」という現実を、制度そのものの実力としてカウントするところがどこにもありません。そればかりか、直後に言及している予備試験合格組への懸念は、あたかも「まじめに」取り組んでいない合格者増が前記制度を揺るがしているかのようにとれるものです。

     前記考査委員の任期制限提案にいたる朝日の真意を考えても、ここは今回のような事態の再発防止策として、法科大学院制度そのものの危うさと、関係者の排除論に議論が流れることを極力止めようとする意図が読みとれます。ただ、それ以上に、「新しい学説に通じた研究者が補いあい、多様な視点から問題をつくる」意義は薄れていない、などとしているこの文脈では、前記「連携」で注目しなければならないのは、司法試験の方であるという印象を与えます。

     要は、3割も「合格できない」制度は、この制度自体の実力でも、そこで学生が「まじめに」取り組んでいない結果でもなく、「連携」にあるのだとすれば、司法試験がもっと多様性を確保して、効果測定にふさわしいものになればいい、という流れになる話なのです。その流れのなかでいえば、考査委員への関係者排除論が当然望ましくないことになります。

     最近、今回の漏洩事件に関連して、司法試験の方(合格者の少なさ)に問題があるととれる法科大学院関係者のメディアへのコメントが話題になり、弁護士ブログが批判的に取り上げました(「福岡の家電弁護士のブログ」 武本夕香子弁護士のブログ)。法科大学院関係者のなかにある根深い司法試験元凶論が、まるで筋違いに今回の漏洩事件でも顔を出したともいえそうですが、この朝日社説にも、制度を支える側のそうした欲求が反映しているようにとれます。

     法科大学院で「まじめに取り組んだ学生なら合格」という形をつくればいいということ以前に、果たしてそうした学生を法曹有資格者として輩出していいレベルまで持っていける制度になっているのか――。そこの制度期待値を度外視するのは、少なくともあるべき法曹養成制度の議論からは外れるような気がしてなりません。


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    No title

    >人格テストに受からないと接客できないルールとか出来ないものか

    この問題については日弁連/弁護士会が厳格に懲戒を行っていくべきだし制度も利用しやすくすべき。しかしながら
    「お客様扱いの弁護士懲戒手続」
    http://shihouwatch.com/archives/6335
    >弁護士会でも、何とか、より手続きを簡素化してはねのけることができないのか、しばしば意見は出る
    こんなことだから駄目だろう。

    No title

    真面目なだけの有能よりコネを作れる無能が生き残るのはどの世界も同じだが
    弁護士は無能だろうと不法行為にならない方法や脅しの方法だけは熟知してるから特にタチが悪い

    本当に酷い無能弁護士は振り込め詐欺とやってることが同じだし
    人格テストに受からないと接客できないルールとか出来ないものか

    No title

    だから、社畜レベルのつまらん弁護士ばかりになったのか。
    ちょっと前の合格者はクセはあったが仕事はキッチリしていた。
    今はサラリーマンの出来損ないみたいなのばっか。

    No title

    やれやれ。政府は、医者やら医学部問題ならさっさと人数云々だのに取り組んでくれるのに、こちらの問題ときたら。
    >少なくともあるべき法曹養成制度の議論からは外れるような
    お偉方の「あるべき法曹」とこっちの「あるべき法曹」論がずれてるってことだろ。
    >「まじめに取り組んだ学生なら合格」
    じゃなくて、「大人しく社畜になれる法曹になってくれるなら合格」なんだよなあ
    プロフィール

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

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