「企業ニーズ」に寄りかかる増員論

     右には、はげ頭に腕まくり、小脇に背広を抱え、こぶしを挙げて、額に汗をかきながら、何かを訴えるおじさんと、そのうしろには同じくこぶしを挙げている背広姿とワイシャツ姿の若者。左には、彼らを見下すように腕を組んで見ているスーツ姿の紳士ら2人。真ん中には、「VS」という文字と、めらめらと燃える炎――。

     これは、昨年ある雑誌に載った、弁護士会の現在の世論状況を描いたイラスト、いわば風刺画のようなものです。弁護士大増員の見直しを求める「街弁」や若手弁護士と、増員継続を主張するビジネスローヤーや新興法律事務所との対立を描いています。

     昨年、ビジネス系の雑誌が組んだ二つの特集が、弁護士界で話題となりました。一つは「週刊東洋経済」5月22日号の「弁護士超活用法」、もうひとつは「エコノミスト」の臨時増刊12月20日号「弁護士、会計士たちの憂鬱」です。両誌とも、今、弁護士界で起きている「異変」にスポットを当てていますが、特集は、これがビジネスマンたちの関心足り得るテーマになってきていることを示しているともいえます。

     前記イラストは、前者「東洋経済」に登場するもので、「五里霧中の司法制度改革」という章立ての中で、「深まる内部対立 大増員継続か、見直しか真っ二つに割れる日弁連」として、昨年の日弁連会長選挙と、増員路線をめぐる対立的意見などが紹介されています。

     こうした特集は、企業法務や新興事務所の立場とともに、宇都宮健児日弁連会長のインタビューや若手の経済事情、あるいは弁護士モラルの低下といった事象を取り上げる、それなりのバランスをとった誌面構成にはしています。

     ただ、これを読んで改めて思うことは、弁護士の増員、正確にいえば、増員してもなんとかなる、という見方が、いかに経済界側の要請もしくは目的といった視点に支えられているか、ということです。

     増員をめぐり登場する人々のコメントは、要所要所で、いかに企業活動をサポートするのに弁護士が必要であるのか、を強調しています。「中国も韓国もインドも多数の弁護士を輩出し、それを成長戦略の武器にしている。日本だけ少なくていいロジックはあえない」「グローバルな弁護士・会計士が足りない」などなど。 

     弁護士の仕事を人間の体に例えて、在野法曹、弱者救済を掲げて活躍する弁護士を、毒素を運び出す「静脈系」弁護士、企業をサポートするのは「動脈系」弁護士として、後者が決定的に不足している、オーバーフローは当たり前で、むしろ足らず、オーバーフロー弁護士は、「動脈系」で活躍されることになる、という企業系の弁護士の話が出てきます。

     また、今をビジネスチャンスと見る新興事務所の弁護士の意見と、企業内弁護士ウェルカムな感じ大企業の法務部門の人間の意見などが出てきます。

     あくまでビジネス系雑誌ですから、それ相応の読者を意識した視点があっても当然ですが、読後に残る印象は、弁護士大増員の大方針の受け皿は企業活動の中にあるということ、反対・慎重論を唱える弁護士もいるがやる奴はちゃん増員時代に向けてシフトしているということ、そして、増員をやめるという選択肢はないということ、が言いたいのか、という感じです。

     実は、この切り口は、なにもビジネス誌のコンセプトからくるというわけでは必ずしもありません。大増員既定方針の大新聞も表現こそ、いろいろですが、必ずといっていいほど、「大丈夫」論のなかで言っていることです。

     しかし、仮に企業系弁護士が必要で、彼らが将来「大丈夫」とするならば、若手と、これから弁護士を目指す人達には、とりもなおさず企業系を目指せ、というメッセージになります。大量増員後の弁護士の経済基盤はあたかも、企業系が支えると。それ以外のこの国の弁護士はどうなるとみればいのでしょうか。

     一方で市民社会の中に大量にあると強調される「ニーズ」は、有償・無償がごちゃませに議論されてきましたが、こちらが弁護士を経済的に支えるか支えないかは、もはや心配しなくてもいい、ということになるのでしょうか。「静脈系」は沢山いるそうですが、「動脈系」への鞍替えということになりましょうか。

     こうした雑誌の企画を、受け皿となる企業に対する啓蒙ととる人もいるかもしれません。それこそもっと弁護士を「活用」せよ、受け入れよ、というメッセージを企業側に送るものということです。あるいは、この点では「まだまだある」論でいきたい弁護士会関係者には、歓迎すべきスタンスととらえられているかもしれません。

     ただ、「官民ともによろしく」という掛け声だけなら、増員問題に関する大手新聞の社説でお見かけする常套句です。企業内弁護士採用の実績をみるまでもなく、その先の現実的な話となると、なんともあいまいな感じです。

     司法改革論議が始まって以来、弁護士会内の増員推進派が強調してきたのは、ある意味「二割司法」や偏在で泣寝入りしてしまうような、大衆の「静脈系」弁護士への大量ニーズだったように思います。「動脈系」を増やすために、この国の弁護士を大量増員する、大丈夫というのであれば、そういう方々は、少なくとも、この国の「静脈系」がどうなるのかについての責任も負うべきだと思います。

     そこは、弁護士が食えるか食えないかは、鞍替え如何を含め、弁護士の自己責任とおっしゃる方もいるかもしれませんが、この結果で影響を受ける大衆に、自己責任があるとは思えません。

    にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
    にほんブログ村

    にほんブログ村 その他生活ブログへ
    にほんブログ村



    人気ブログランキングへ

    スポンサーサイト

    テーマ : 弁護士の仕事
    ジャンル : 就職・お仕事





    コメントの投稿

    非公開コメント

    ありがとうございました

    西谷慎一郎さん、コメントありがとうございます。

    貴重なご指摘だと思います。そうした議論もあり得るとは思います。ただ、現実的なことをいえば、そうした資格そのものの分化にまで踏み込む議論が、まだ弁護士全体の認識として進む状況ではないと思います。現実に弁護士資格を合わせるという考え方に対して、一方では「あるべき論」や「資格弱体化」への懸念論も出ると思います。「万能論」にも強固なものがあります。ただ、それこそ話としてはいろいろあります。たとえば、刑事弁護士と民事弁護士の加入組織としての分化。日弁連を解体して、刑事弁護協会と民事弁護協会を作り、前者にはこれまでのように強制加入と強固な自治を付与するなどなど。あくまで話であり、具体的な原動力になる人がいないということでは、ご指摘のような議論とも同じかもしれません。

    今後ともよろしくお願いします。

    同一資格である必要があるのか?

    高度法律事務員のサラリーマンを目指す企業法務志望者と基本的に独立自営で
    ある訴訟代理・民事代理人の資格を分ける、あるいは資格試験を二階建てにして
    代理権付与はより限定的にする。現在の不毛な法曹人口論や法科大学院存置論を
    乗り越えるのにはいっそ既に分化している「弁護士」の現実を直視するしかないように
    思いますが、そういった方向性の議論は出てこないのでしょうか?
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

    お買い求めは全国書店もしくは共栄書房へ。

    最新記事
    最新コメント
    最新トラックバック
    月別アーカイブ
    カテゴリ
    検索フォーム
    RSSリンクの表示
    リンク
    ブロとも申請フォーム

    この人とブロともになる

    QRコード
    QR