司法試験問題漏洩事件が浮かび上がらせた現実

     新たなプロセスの強制としての法科大学院制度が、誰でもチャレンジできる制度であった司法試験の、いわば機会の公平性を犠牲にすることの上に登場したことははっきりしています。経済的な支援制度が掲げられても、修了を司法試験の受験要件とした強制化による、時間的経済的負担の壁は、旧体制とは比べるまでもありません(「法科大学院『志望』をめぐる認識のズレ」)。

     しかし、さらに、その制度のなかで、それに関与する人間が、司法試験の結果の公平性について、一体、どういう認識を持っているのか。今回の司法試験考査委員を務めていた明治大学法科大学院教授による試験問題漏洩事件には、まず、そのことを考えさせられます。報道によれば、提供を受けた女性の答案への疑惑が発覚につながったとされています。これは逆に、その「工夫」次第で発覚しなかった可能性を推認させるだけに、今回の事案が実は氷山の一角ではないか、という見方にもつながり、果たして司法試験は結果において、公平に機能しているのか、という大きな疑念につながってきています。

     機会においても、結果においても、司法試験の公平性は、この制度のなかで損なわれている。そういう印象を強く持ちます。

     今回の件で、今、弁護士界のなかから一番聞こえてくるのは、もはや司法試験の公平性を、それに携わる法律家のモラルで支えることはできないのではないか、という、ある意味、悲観的な見方です。2007年の慶応大学法科大学院教授による漏洩疑惑事件後、法務省は、考査委員が漏洩はもちろん、「試験の公正さに疑念を抱かせかねない行動をとること」を求めるとともに、任命された年度中と翌年度の司法試験終了までの学生・修了生の指導を禁じた「遵守事項」を定めています。しかし、これには罰則がなく、あくまで委員の意識が支えるものです。

     朝日新聞の取材に対して、法務省人事課は「当然守られていると思っていた」とコメントしていますが(同紙9月9日付け朝刊)、ある意味、そうとしか答えようがない話ではあります。

     法律家である彼らが「当然に」遵守するはずという前提が崩れている以上、制度的に起こらなくさせる枠組みが必要ではないか、というのが、前記見方につながっています。その最も効果的なものは、当然、排除。つまりは、司法試験問題に法科大学院関係者を関与させない、という方向です。

     そもそも法科大学院制度は、司法試験の合格率をその存立がかかわる評価対象にされながら、受験指導を禁じられているという矛盾を抱えています(「受験対策なき『プロセス』の建て前」)。今回の事案はともかく、こうした法科大学院側の事情を考えれば、その意味では、旧制度よりもはるかに漏洩を誘因する状況があるといえます。

     一方で、新法曹養成制度のなかで、司法試験は法科大学院教育の「効果測定」という位置付けになっています(「『効果測定』とされた司法試験」)。そもそも現行司法試験が、現実的な機能としてそうした役割を果たせる、果たせているのかには疑問ですが、このことは司法試験への法科大学院関係者関与の根拠になることです。「有機的連携」という言葉がしばしばあてはめられますが(法科大学院の教育と司法試験等との連携等に関する法律)、実務を把握せず、場合によっては司法試験にも合格していないものが関与することを疑問視する弁護士界内の見方に対しても、この建て前は「有効に」繰り出されることになります。

     しかし、それにしても、その前提となる、それを支え得る「モラル」が崩れている現実があるのならば、どうにもならないということになります。「有機的連携」以前に、公平にそれを支えるモラルが壊れているという現実。理念では支えられない現実が、既にあらわれているという言い方もできるかもしれません。

     今回の事案に関しては、既に大学院の司法試験合格実績向上云々ではなく、あくまで個人的な感情から便宜を図った、といった内容が、一部メディアで報じられており、仮に一定の再発防止策が繰り出されても、前記したような法科大学院制度の本質的な問題にまで発展するということには、懐疑的な見方が強いようです。少なくとも、制度維持派からは、できるだけそういう捉え方をしない方向の力が働いてもおかしくありません。

     ただ、改めて根本的なことをいえば、私たちは公平でなければならない法律を研究することを仕事にし、かつ公平な運用にあたる法曹を生む立場の法律家に、なぜ、今、公平を支えるモラルを期待できず、不信を前提とした対策まで考えなければならないでしょうか。この劣化はどうして起こり、何を意味しているのか。対症療法だけではなく、そのことにも目を向ける必要があるように思えてなりません。


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    No title

    不正を不正と認めずに馬鹿坊ちゃん・馬鹿嬢ちゃんを甘やかすことを、縁故主義、ネポチズムといいます。国家がネポチズムで動くとき、その国家は確実に腐敗し、衰退しています。三権の一翼である法曹がこの縁故主義に陥ってしまった以上、日本の衰退も決定づけられていると言えましょう。

    No title

    最初のコメントですが
    >前回の慶応法科大学院の情報漏れと比較しても、事件処理自体があからさまに不公平です
    事件の内容をご存知ないようですね。慶應のケースと明治のケースでは悪質性が全然違いますよ。慶應のケースは学内答練で類似の論点を含む問題を出題したというものであるのに対し、明治は問題そのものと模範解答を教えたというものです。もちろん、慶應のケースでの処分が甘いという批判は強く、それを受けて今回はかなり強気の処分をしたのでしょう(ブルー卿が煙たがられていた可能性もありますが)。
    今回の事件は、目をかけられた女学生さんが間抜けだったおかげで無事発覚しましたが、うまいこと加減して6~7割前後の点数になるように調整されていたら発覚しなかったでしょう。

    No title

    10割とか言わず、希望者は全員弁護士資格がもらえるようにしてください。

    あの団体からのご意見

    http://www.lawyer-mirai.com/contents/seimei_150908_2.html
    >当会が指摘してきたとおり、法科大学院制度を導入した趣旨に沿って、修了生の7割、8割が合格することになれば、このような愚かな行為はなくなるはずである。

    7割8割といわず、10割合格するように何とかしてくださいよォーッ!

    No title

    行政書士にはいくらでも威丈高に罵倒できても、法務省検察庁の公然たる事件説不要説否定論には一言も文句が言えないのはそういうわけだったのですか? 最高裁の確定判決だろうが、「これはおかしい」と公然と反対の論陣を張る大学教授なんか珍しくもないのに。

    No title

    >組織が不正を問題を表に出さないテクニックとして、「共犯化」があります。

    勇気ある投稿ですね。

    すぐ懲戒免職にするとは、大学側も恐らくもっとコワい事実を長年知っていた、またそれが明るみに出ると、担当官庁もタダでは済まないことになるだろうから、早々の幕引きを図ろうとしている、ということだろう。

    「非弁、卑便」と人を蔑むことに慣れた連中が、実はケダモノ以下の存在に尾っぽを振ってキャリアの階段を昇って来た、去勢済の飼いイヌだったということ。

    No title

    もうこれで、内部の奥の奥の事情を知る人間も、このままずっとダンマリを決め込むのは一生の損かも知れない、と思い始めていることでしょう。
    大雨の後の堤防が決壊するかの如く、濁流に飲まれるヒトも出て来るでしょう。
    ひょっとしたら、法テラスを訴えている関西の元非常勤は最終審で勝つかもしれない・・・かな?

    No title

    組織が不正を問題を表に出さないテクニックとして、「共犯化」があります。

    たとえば、東京の検察の実務修習で、数十年前~数年前まで(今は知りません)、カラ出張を繰り返して熱海に一泊旅行、というのがありました。検察官や検察事務官の喜ぶような品のない出し物を一部の修習生(主に任検志望者)が張り切って仕切る、というくだらないもので、ほぼすべての法曹が国費流用の共犯です。実務修習中の成績や出席日数に関わるので、強制参加です。

    弁護士が検察の旧調活費についてつっこもうとも、「いやいや、お前もやってるだろう。あのカラ出張、わすれた?」と言われれば、黙らざるを得ません(要するに、一生脅しのネタに使われる、ということです)。むろん、検察内部でも、旧名称調活費(現在は別の名称)でより強い罪の意識を共有し、隠ぺいするわけです。

    法科大学院で、同様の共犯化が、行われていないでしょうか。判明した2件のあまりにも巧みな密行性ゆえに、あるのではないか、と、推測せざるを得ません。

    No title

    今更ですけれど、法律を学んでいるから/それを仕事にしているから
    といって
    「人格も品行方正というわけではない」
    というわけです。
    入口でもこれです。出口や弁護士として実務を行っている人達は……
    と思われても仕方ない。

    総本山も何故沈黙を守っているのでしょう。
    某新聞社が沈黙している理由(?)も面白かったですが。
    http://blogos.com/article/133130/

    No title

    このままでは、
    「法科大学院出身の司法試験合格者は不正をしているかもしれない」
    という虞れから、ますます法科大学院出身者の就職が困難になるかもしれない。そもそも法科大学院に子供を進学させようなどという親は、どうかしているのだろう。

    No title

    以前から、法科大学院では、教授と特殊な関係にある学生が便宜を図ってもらっている、という話が、いくらでも伝わってきました。今回の事件は、法科大学院における便宜供与の一つにすぎません。関係者はなぜこれほどまで騒がれるのかが理解できないでしょうし、次は自分かと冷や汗をかいている連中もいるでしょう。

    前回の慶応法科大学院の情報漏れと比較しても、事件処理自体があからさまに不公平です。創世記の慶大はセーフ、水に落ちた犬のごとき明大は徹底的にたたく。憲法の定める法の下の平等なんてやはり日本にはないのだな、またしても特捜の大好きな強制捜査のマスコミリークか、と、失笑するほかありません。

    不正合格者を採用した弁護士事務所・裁判所・検察庁・企業などにも大出血を伴うとしても、法務省と文科省が監督官庁として責任をもって法科大学院の闇に切り込まなければなりません。

    かつて教員採用試験で不正があったときには、徹底的に調査がなされ、多くが解雇されました。司法試験は教員採用試験とは違うのでではできない、という理屈は、成り立ちません。
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

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