「後輩を育てる」責任の観点

     後輩を育てるのは、先輩の役目といわれます。仕事の世界でいえば、組織、あるいは業界レベルで、この言葉があてはめられます。およそ、プロというものの育成を考えるうえでも、その訓練の担い手となるのは、既に業界にいる人間たちであるという論理であり、言い方を変えれば、そこまでがプロの責任だということになります。

     この言い方が、実はいま問題となっている弁護士の大増員と、質の低下についての論議に、かぶせられて使われるのを聞くことがあります。どういうことかというと、要するに質の低下を懸念する増員慎重論を「けしからん」とするものです。

     どの世界もプロは、選抜と訓練によって後輩を育てているわけで、入口規制をしていては優秀な人材は増えない、質を維持できないとして規制するのは「甘えの論理」だと。経済界もしくはその意をくむ識者の方からくる弁護士会に対する、厳しい論調のひとつですが、つまりは増員で質をうんぬんするな、質の問題は現役法曹人の、いわば心がけの問題といっているように聞こえます。

     この言い方には、さすがに法曹界のなかには、反論したくなる方がいると思います。これまでの司法修習制度の中で、法曹三者が自らの後輩を育いるために多くの労力と情熱を傾けてきたことを知っています。三者に分かれてからの、教育も含めて、そこには関係者にはそれなりの自負もありました。

     彼らの口から、まさに自らの責任で自分たちの後輩を育てなければならないという使命感をいう言葉を聞きくことは、度々ありました。また、今、法科大学院教育に参加・協力している法曹関係者たちの中にも、そうした意識は強くあるとは思います。

     法曹関係者によく法科大学院を含む新法曹養成制度について、意見を聞いてきましたが、「点からプロセス」の今回の「改革」の狙いは肯定的にとらえている人でも、それまでの司法修習制度については基本的に評価する意見が圧倒的に多かったように思います。「現行司法修習制度に決定的な問題があったから、法科大学院制度が導入されたわけではない」と念を押すように語る関係者もいました。

     司法修習に高い評価を与えている、そうした関係者の意をくんで、「ではなぜ」という質問への、本当の気持ちをあえてここで代弁するとすれば、それは端的にいって「増員の方向が決まったから」という言葉になるのではないかと思います。大量の法曹を輩出するシステムをプロセスとして構築するというのであれば、もはや現行司法修習制度がどのように機能しているのか、という以前に、法科大学院教育への分担あるいは委譲する形しか、考えられなくなったということです。

     前記したような司法修習へのものと同じ後輩養成の熱意を、あるいは三者それぞれの組織ぐるみで、頭を切り替えて法科大学院制度に注いできた関係者がいる半面、いってみれば大事に丁寧に後輩たちを育ててきた司法研修所を中心とした教育が変わるのを危惧したり、惜しむ意見も関係者の中からは聞かれたことも事実です。

     おそらく、後者の人間が危惧し、それが現実化したもっとも「想定内」の現実は、法科大学院教育のバラつきということだったかもしません。各大学の法科大学院に対する姿勢と思惑の違いは、その立ち上げ時から分かっていたことですが、それは現実的な教育環境の違いにも現れたといえると思います。

     法科大学院の基準化が、大学運営という思惑を超えて、純粋に法曹養成という理念のもとに機能するかどうかは、まだこれからの改革の行方をみなければ判断できないと思います。ただ、バラつきのない、一定の質の確保ということに、新旧制度のどちらが適していたのか、リスクがすくなかったのかは、ある意味、もともと明らかなことだったというべきです。

     あえていえば、もし、初めから別の考え方をするのであれば、法曹界が一定の質の後輩を、純粋に法曹養成という立場に立って養成できる適正規模、という観点からの主張が、もっと国民にアピールされてもよかったという印象を持っています。もっとも、「ニーズ」という言葉の前に、それを押し通すだけの状況にはなかったといえば、それまでのことですが。

     一定の質の確保を保証できる人員規模を、業界が示すことが、弁護士界の場合、経済的な意味での保身ととられる状況は、既に作られています。競争による「淘汰」をいう増員推進論は、もはや取り方によっては、試験と養成制度による「質の確保」という考え方、あるいは懸念論そのものを乗り越える主張ともいえなくありません。

     増やすことを至上命令とし、法科大学院に依存した法曹養成が、何を犠牲にし、これからもしていくのか、そのツケがどのように国民にまわってくるのか、後輩を育てることに汗をかいてきた法曹界の実績を踏まえて、もう一度どこかで立ち止まって考え直してみるべきとも思えます。

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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
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