法科大学院本道主義の「根拠」

     冷静に考えれば、当たり前のことだと思いますが、旧制度を完全否定することを、新法曹養成制度の拠り所にするのには明らかな無理があります。いくら旧司法試験の競争激化によって、「予備校依存」が生まれていたとしても、その体制で生まれた法曹をおしなべて「欠陥品」とするような描き方はできないと思いますし、そもそもその新制度を議論、推進する法曹自身が、その問題制度で生まれた「欠陥品」であることを自認するのか、という話にもなります(もっとも、弁護士会のなかで「予備校依存」批判をして新制度推進に回った方々は、自らが依存せずに合格できたことと、法曹養成イニシアティブの千載一遇のチャンスということが念頭にあった、という見方もありますが)。

     いずれにしても、新制度への「改革」は、どんなに頑張っても、本来「よりよい制度」を目指す、というところまでといっていいと思います。旧制度で生まれた法曹の「質」に問題があったとしても、それをすべて制度のせいにする認識が社会にあったとも思えませし、前記した通り、おしなべて「欠陥品」といえる状況がない以上、制度元凶説の説得力(予備校出身で優秀な法曹はいないのか等)が疑われても仕方とないところです。そこで問題になるのは、そもそも新制度が「よりよい制度」として、どういう根拠を前提としたのかということです。

     「改革」の「バイブル」とされた司法制度改革審議会最終意見書には新法曹養成制度提案の部分(「III 司法制度を支える法曹の在り方 第2 法曹養成制度の改革」)で、前提的な旧制度への認識として示されているのは、大略以下のような内容です。

     ① 旧司法試験は開かれた制度としての長所を持つが、受験競争が厳しい状態で、受験者の受験技術優先傾向であり、大幅な合格者数増をその質を維持しつつ図ることには大きな困難が伴う。
     ② ①の問題点を、司法試験の内容や方法の改善のみで克服することには限界がある。
     ③ 大学の法学教育は、基礎的教養教育の面でも法学専門教育の面でも必ずしも十分ではなく、大学院も法律実務との乖離が指摘されるなど、プロフェッションとしての法曹を養成するという役割を適切に果たしてきていない。
     ④ 司法試験における競争の激化で、学生が受験予備校に大幅に依存する傾向が著しくなり、「ダブルスクール化」、「大学離れ」と言われる状況を招いており、法曹となるべき者の資質の確保に重大な影響を及ぼすに至っている。

     旧司法試験の受験技術優先傾向は、今後の合格者激増を前提にすると質の維持に問題を生むという認識を基礎に、司法試験や大学教育の改善による問題克服の可能性をあっさりと否定する一方、「予備校」の悪影響を大きく見積もっているのが分かります。これらが、その後の「司法試験という『点』のみによる選抜ではなく、法学教育、司法試験、司法修習を有機的に連携させた『プロセス』としての法曹養成制度を新たに整備することが不可欠」という結論につながっていきます。

     しかし、これらは「開かれた制度」を犠牲にしてまで実施する「プロセス」強制化への、筋の通った一本道とみることが、果たしてできるのでしょうか。「受験技術優先」ではなく、広く法律家に必要な能力の習得や「豊かな人間性の涵養、向上」が図られる(前出最終意見書)といわれれば、「よりよい制度」として結構ということにはなりそうです。しかし、旧制度が、おしなべて「欠陥品」を長く作り続けてきたとできないのならば、当然にやはり「不可欠」の根拠は問われ続けなければなりません。

     しかも、既に前提となった増員政策は、その当初目標数値を半減させています(「法科大学院制度導入必然性への疑問」)。「受験技術」偏重を批判し、法科大学院での「対策」を禁じても、司法試験合格率は伸びず、そのうえで合格率が法科大学院の「評価」になるという矛盾を既に多くの志望者は見切っています。「法科大学院は志望者にとって『予備校』だが、この『予備校』は行っても合格はしない」という皮肉まで聞かれます。

     司法試験や大学の改善では、どうにもならず、「開かれた制度」を犠牲にして、「プロセス」を強制化しなければどうにもならない、「重大な影響」が出でしまうと聞こえる前記「改革」当初の認識と根拠は、今、再検証される必要はないのでしょうか。

     法科大学院を経由せずに予備試験合格を経て司法試験に合格した者について、「法科大学院教育を経ていないことによる弊害が生じるおそれがある」などとした法曹養成制度改革推進会議決定(案)の記述(「『前提』を疑わない『前提』」)が、そのまま残った政府最終方針「法曹養成制度改革の更なる推進について」に関し、その根拠となる客観的データ、事実等が分かる文書の情報公開を内閣官房に請求した結果を、ブログ「一聴了解」が紹介しています。詳しくはお読み頂ければと思いますが、結論から言えば、公開されたのは、客観的根拠に当たるものは示されませんでした。ブログ氏はこう言います。

     「そもそも私は『根拠となる客観的データ、事実等』を求めたんです。なのに示されたのは、誰が何を根拠に言ったのかも分からない、主観的な意見ばかりで、政府方針という重要事項を決める根拠としては極めて薄弱です。結局、政府が客観的根拠なく予備試験組を不当にdisったってことのようです」
     
     この結論から見る限り、ブログ氏も指摘する通り、政府方針は「弊害」をいう合理的根拠はないまま、それを前提して法科大学院本道主義を最上段に振りかぶった可能性が濃厚ということになります。

     「いや、旧試法曹は、おしなべて欠陥品だ」ととれる発言は、今でも時々聞かれますし、それには最近のベテランの不祥事にもつなげられます。ただ、実際には「プロセス」は存在していた旧体制(「新『プロセス』が破壊しているプロセス」)を、「一発試験」での採用として、受験偏重とともに批判的にとらえ、旧制度での「重大な影響」を指摘して、他の改善手段も否定した新法曹養成・法科大学院本道主義の根拠の方は、今、もう一度問い直さなくても本当に大丈夫のか、という気にはなってきます。


    あなたは憲法学者らが「違憲」とした安保関連法案に対する政府の対応をどう考えますか。また、どのような扱いをすべきだと思いますか。ご意見をお聞かせ下さい。司法ウオッチ「ニュースご意見板」http://shihouwatch.com/archives/6707

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    No title

    アメリカ留学時、international trade lawを受講したが、法令調査であれ事例解決であれ交渉方法であれ、アメリカ弁護士教員すら日本人弁護士(国内業務経験のみ)の発表に感服しており、とりたてて国際問題に特化して役立つものではなかった(根本的には、やってみれば、存外に、先進国の関わる国際事件は国内事件と比較すると容易、という事情もある。ただし、向き不向きの問題もあるかもしれない。)。

    アメリカの法律事務所も、優秀な人材を教員として派遣することはない(新人は事務所で教育する)。5年前と比べ、jd,llm等で学生はほぼ半減したのは、リーマンショック後、高校生とその両親にも、投資効率の悪さが知れ渡ったことが理由。要するに、弁護士サイドも学生サイドも、ロースクールを見放した。

    日本でも、同じことが起きていないだろうか。起きていなければいいのだが。

    No title

    どこの事務所に所属するかわからない学生に対して守秘義務違反やノウハウ流出というリスクを冒してまで、国際事務所が優秀な弁護士を法科大学院に派遣して育成するなどということはあり得ない。企業の法務部も同様。結局、法科大学院の一部は国際化云々を言っているが、不可能。

    他学部であれば、大学サイドが産業側に対してどのような人材やカリキュラムが必要かを伺い、それを実現するという形で産学協同に努めるが、法科大学院はそもそも既存の産業がNGだという態度。危険と損失の上で法科大学院に協力しようなど、初期にこそそういう奇特な弁護士もいたが、法科大学院サイドの勘違いが甚だしいために、絶滅した。

    No title

    別に国がどう予備試験を評価しようと、実際に採用するのは別なのだから評価云々をここで議論するのはおかしい。
    予備試験重視で採用する事務所もあるだろう
    そんなことより司法試験の順位のほうを重視するのかもしれない
    (恐らく司法試験の順位を重視する事務所のほうが圧倒的だろう)
    若さと人物重視かもしれない

    …ただしそんなことを声高にして言うところなどないだろうから
    議論など無駄といえる。

    No title

    ・倫理研修の厳格化(レポート提出)

    →これはNG。研修には何度か出ましたが、研修担当の講師がダメダメでした。
    (直近でいえば、閥務と政治活動しかしておらず弁護士としての実働をしていないことがありありでプライドだけの60歳程度の男性弁護士と、全く実務に携わっておらず公益活動その他雑用専従員の外資系国際事務所のイメージ戦略用若い女性弁護士の二人組でした。また、出題問題もひどいものでした。司法研修所での倫理科目をさらに劣化させたような内容で、最近の懲戒事案などで頻出の事件放置や業務上横領などは全く出題されず、検察官様のご判断至極上等的な内容等の噴飯もので、出席していた弁護士達のうち1割くらいが、さすがに切れました。残りの出席者は、当たらず障らずでspaced outしていました。はっきり言って、人生最大の無駄な6時間(準備時間及び移動時間込)でした。受講後に受講者に対して満足度アンケートを取らないので、このようなひどい研修が延々とまかり通ります。こんな倫理研修は、直ちにやめるべきです。ただし、日弁連や二弁が、倫理研修に、「弁護士倫理向上に尽力しています」というアリバイ作りとしての役割のみを求めていると考えれば、内容はどうでもいいのでしょう。会費と時間の無駄に付き合わされる方としては、たまったものではありません。)

    ・特にホームグラウンド修習時の内容の充実

    →現状ではこれ以上の犠牲を払うのは不可能という事務所が多勢ですが、個々の弁護士の努力でできるとおっしゃるならば、ご提案者自身が実践なさればいいでしょう。

    ・法科大学院増員派の名前は分かっていることから増員派への優先的な修習生の受け入れ及び就職先の受け入れ

    →これは必須でしょう。優先的どころか、義務的に、あぶれる修習生を全員引き受けさせるです。

    No title

    弁護士資格を得た人に再度司法試験を受験させるような制度は,弁護士業務の性質上ほとんど無意味だと思いますが,弁護士資格を得てからの研鑽をシステム化することは,私も本来必要なことだと思います。
    ただ,そのために専門認定制度などを設ければ,もともと能力に自信のない地方の弁護士は大半が弾かれてしまいますから,地方の単位会を中心に「弁護士の通常行いうる業務は差別化反対」という声が強く,日弁連の理事会で「専門認定制度については検討の対象としない」という決定が出てしまったようです。
    また,近年は借金まみれの極貧生活を送り,研鑽を積む余裕などないという弁護士も多いです。弁護士資格の更新ないしそれに類する制度を作った場合,多くの弁護士が負担に耐えかねて廃業し,弁護士の数が激減することだけはまず間違いないですが,それによって質の良い弁護士だけが残る良い結果になるかと言われると,そうは言いきれないと思います。

    No title

    最近のこのブログ記事は、法科大学院についてつまり法曹としての「入口」についてばかりだが、それは問題の本質ではない。
    司法試験・二回試験の成績がその後の弁護士としての能力とは関係ないとは言わないが、入口での成績ではなくその後の研鑽がうまくいっていないから質の問題が生じるのだろう(しかし記憶が定かではないがこのブログの過去の記事で「期が若いからといって質が悪いわけではないという研究結果がある」とあったように思うが。また、他の弁護士のブログで平成26年度の懲戒事例をまとめ、やはり若い期に問題があるわけではないと出たように思うが)。

    >他の改善手段も否定した新法曹養成・法科大学院本道主義の根拠の方は、今、もう一度問い直さなくても本当に大丈夫のか

    修正する気もない政府の取り組みを問い直すよりも、日弁連・弁護士会が自分達がすべき取組を問い直す必要があると思うが。
    ・弁護士資格の更新とまでは言いたくないが数年に1度の司法試験受験の義務付け(基準点に達さない者は研修の受け直し)。
    ・倫理研修の厳格化(レポート提出)
    ・特にホームグラウンド修習時の内容の充実
    ・法科大学院増員派の名前は分かっていることから増員派への優先的な修習生の受け入れ及び就職先の受け入れ

    No title

    単に「ロー卒は,法科大学院で司法試験科目以外の勉強もしているから,この点で予備試験合格者と差が付いてしまうかも知れない」という程度のことを言っているだけなのに,いちいちそんな言い訳に「客観的根拠はあるか」と聞いて回る方が物好きだと思いますよ。
    また,ロー側の言い分が「司法試験に出題されない分野ではロー卒の方が優秀かも知れない」というものである以上,司法試験の出題範囲が中心となる司法修習の成績を持ち出しても,残念ながら有効な反論にはなり得ません。そして,これに対しどのような反論が有効であるかを少し考えれば,そもそも真面目に相手をすること自体馬鹿げていることに気付くはずです。
    今更法科大学院制度の間違いを認めれば,国のメンツは丸潰れになり政府関係者の責任追及が始まりますから,司法修習が実施できないといったレベルの大問題にならない限り,いくら批判しても国が間違いを認めることはないでしょう。日弁連が推進会議の決定を支持している事実も,政府の方針が正しいと強弁する言い訳に使えますからね。
    こんな腐った業界からは,もはや一刻も早く逃げ出すしかありません。

    No title

    予備試験合格者の方が、司法研修所の成績が良いそうです。修習期間を終了しても、この格差は埋まらないそうです。

    http://ameblo.jp/katsuyuki-kawai/entry-11776079783.html

    http://ittyouryoukai.cocolog-nifty.com/blog/2015/07/post-6c71.html

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    法科大学院はオワコン
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

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