弁護士会の「改革」姿勢と求心力低下の関係

     自治組織としての日弁連・弁護士会は、これまでに経験したことがない危機的な状況に陥りつつあるように見えます。強制加入制度を維持し、会員の拠出に拠って活動を支える、そのことに対する基本的な会員のコンセンサスがこれまでになく崩れてきているからです。有り体にいえば、弁護士会という組織に対する「価値」を所属構成員自らが、実感できない状況といっていいと思います。

     弁護士自治・強制加入の必要性について、現在の会員の意思を正確につかんだ統計上の調査結果は示すことができませんが、そもそも多数の回答が得られるかは別として、自治を維持したい側からすれば、調査自体もはや恐くてできない領域に入っているという話まであります。選択肢を示したアンケートを実施すれば、それこそ「全く必要ない」「どちらかといえば必要ない」を合せて、どういう結果になるのか。たとえ否定派が上回らなくても、果たして会員のコンセンサスを裏付けるものになるのか、という話です。

     先月末、日弁連が若手会員に対して、弁護士自治に関するヒアリングを実施するという情報が流れ、すぐさま取材を申し込みましたが、「委員会内部のもの」としてあっさり拒否されました。2月に行われた東京弁護士会の副会長選に、弁護士会の任意加入制導入を掲げた若手候補が出馬(落選)したことへの危機感が背景にある(「『任意加入制』提案、東弁副会長候補出馬という『始まり』」)との見方もあります。

     現在のところ、このヒアリングがどういう形で行われ、どういった回答があったのが詳細は分かりませんが、少なくとも事前に公開しない方針を固めている主催者の姿勢からは、むしろ明らかにされるかもしれない現実への「恐れ」があるようにもとれました。

     弁護士会という組織は、なぜ、こういう状況に至ったのか。いろいろな分析の仕方があるかもしれませんが、弁護士会活動に必ずしも積極的でない多くの会員を含めた「価値」ということにあえて引きつけて考えれば、キーワードになるのは、やはり「民主的」ということではないかと思います。つまり、日弁連・弁護士会主導層が、その表明している言葉通り、「民主的会務運営」ということにどこまでこだわり、どういう優先順位をつけてきたのか、という問題です。

     日弁連・弁護士会は、端的に言って、司法改革がスタートして以降、会員の利益あるいは生存というテーマについて、どこまで会員の意思を汲み上げる姿勢をとってきたのか。1990年の第1回司法改革宣言以来、対外的に「市民のための改革」を表明した日弁連は、その内部的意思統一を急ぐあまり、実は強制加入団体として、守るべき筋をどこかで踏み外したのではないのか。こうした指摘が、会内で聞かれます。

     会員の経済力の低下に対して、日弁連主導層がとったスタンスは、一口に言えば、あくまで「改革」路線を前提としたものでした。前記「改革」関連宣言で繰り返される「改革」の意義。それは具体的には例えば、弁護士・会のあり方を含め、司法全体を、「身近でわかりやすくかつ利用しやすいものとし、国民の参加を拡大する」とか、「あまねく全国において、法による紛争の解決に必要な情報やサービスの提供が受けられる社会を実現する」ための法テラスへ対応であったり。さらには裁判員制度、法曹人口増、新法曹養成制度などに、弁護士が「総力をあげて」「主体的・積極的に推進」することが強調されました。

     しかし、その一方で、増員政策によって会員の経済力の低下が確実なものとなっても、今、現在に至るまで、日弁連・弁護士会主導層の姿勢は、「改革」路線を維持する前提のもと、弁護士の潜在需要が存在し、個々の弁護士が工夫によって、生存と「公的」とされる会の負担を受けとめることができるはず、というものです。会員負担増への、この一辺倒といえる姿勢が、果たして「強制加入団体」として最低限の会員の期待にこたえていたのか、その姿勢こそが弁護士会への会員の求心力を徐々に奪っていったのではないか、という疑問が生まれてきます。

     この日弁連・弁護士会の姿勢が、会員の求心力の低下を生むことで、主導層が(少なくとも表向き)堅持しようとしている弁護士会活動や、国民の人権擁護のための自治を成り立たせない方向に、会員の意識傾向がブーメランのように跳ね返ってきているというのは、ある意味、皮肉な結果というべきかもしれません。

     日弁連の司法改革「路線」への傾倒が、多くの会員の抱える現実との間で、きしみ音を立て始めたころ、会内で「上からの」という言葉が聞かれました。「民主的会務運営」を自負していた日弁連という組織にあって、それまで会員がイメージしていた個々の会員意思の反映や単位会の意見が積み上げられる形とは、別の手法の傾向を感じとった発言でした。

     日弁連は「改革」路線を受け入れるしかなかった、だからこういう選択肢しかなかった、というとらえ方をする人もいます。前記「市民の改革」の意義の前に、弁護士会は個々の弁護士の犠牲的精神のもとに、この「路線」を推進する道を選んだ、と。だが、その結果として、自治組織としての弁護士会は崩壊の危機に向いつつある。制度としては「強固」と必ず評される弁護士自治は、弁護士会活動から距離を置くサイレント・マジョリティを抱える一方、その基盤は個々の弁護士の経済的活動で支えられてきた、という、脆弱ともいうべき本質をもっていました。「民主的運営」よりも「上から」の「改革」断行を優先させ、同時に弁護士の経済的基盤が「改革」によって崩れた途端、自治がきしみ出すというのは、ある意味、必然的な成り行きということもできるように思えます。

     もし、会内で根強く言われている「改革」の真の目的は、この弁護士・会変革にあったという見方が正しい、とすれば、この「改革」の起案者は、少なくともこの弁護士会の弱点ともいうべき、脆弱な体質をよく理解していたというきです(「『弁護士弱体化』という意図」)。

     自治組織としての弁護士会を維持するためには、当然、会員・弁護士会の意見を尊重する以外に、会員の求心力を回復する道はないという指摘があります(『司法改革の批判及び見直しの活動と課題』「世紀の司法大改悪」鈴木秀幸弁護士)。ただ、今、「改革」路線をそのままに、今、それを実行したとしても、その結果は冒頭の彼らが恐れる方向に進むだけかもしれない。ここまで離反した会員の意識に対して、自治組織として維持・継続していく方向に向かわせる「価値」をどのように示せるか、その見通しもない――。

     「もう後戻りはできない」「元にもどることもない」。そんな会内の声が日増しに高くなっているように見える弁護士会ですが、「強制加入」の自治組織としての未来図はもう見えてしまっているのでしょうか。それは、もはや心が離れてしまった弁護士にとってではなく、私たちにとっても選択肢のなかった、歓迎すべき未来図なのでしょうか。


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    アリバイ作りを超えた、ねつ造

    アイバイづくりどころか、ねつ造です。若手の意思だけではなく、地方会の意思もねつ造されます。

    都会の(特に東京と大阪の)弁護士達は、地元の発言を聞いたふりをして結局真逆のことを最後に言い放つ。それを(地元が言ってもいないことを)地元の意思として日弁連では取り扱う。

    これ、警察・検察の調書ねつ造と、何が違うんですかね。

    弁護士会内でそれが常態化していても、世間では通用しない。公設委員会が同じことを奄美市役所を相手にやらかして、後々大きなトラブルになったのが(ほぼ臭いものにはふたがされたが)奄美ひまわりの高橋元弁護士の件。

    単なるアリバイ作りです。

    日弁連が若手会員にヒアリングを実施するというのは,単に「日弁連は若手会員の声も聴いている」というアリバイを作るためにやっていることですから,若手のうち日弁連執行部に都合の悪いことは言わなそうな人を慎重に選んで,さらにヒアリングの結果も日弁連に都合の悪い部分はカットして,都合のよいところだけを必要なときに公表するだけのことです。この業界に10年もいれば,さすがにその程度のことは分かります。
    実際の日弁連・弁護士会は若手が何を言っても,最後には「もう常議員会で決まっていることだから」などと押し切られるだけで,あまり参加する意義を感じません。そもそも専門的な話になると,まず若手が話に付いていけるようになるまでに大変な労力を必要としますし,そこまで勉強するメリットがない話も多いですし。

    No title

    弁護士会の委員会に出てみれば、時間意識コスト意識のないおじいちゃん・おじさん・おばちゃんが、弁護士会の事務局がまとめた100Pくらいの議事資料を上から順に読んで行って、異議ありませんかといって誰もが何もいわず、ときたまおじさん・おばちゃんから"感想"が出てくるのみ。

    1番わかりやすいところで、なぜ委員会に若手が1回(4月)に出てきてもう二度と来ないかをよく考えてみればよい。

    No title

    日弁連理事:アンケートを実施します。法科大学院を司法改革の中心にすえた上で、司法改革の足を止めないことに賛成か反対か。

    会員:賛成13%、反対68%、態度不鮮明19%

    理事者:有効回答がアンケートの13%しかなかったのでアンケートは無効と判断します。キリッ!

    No title

    >日弁連が若手会員に対して、弁護士自治に関するヒアリングを実施する

    結論としては、「今の若手は弁護士自治のスバラシサをわかっていない!」→「よし、弁護士自治についての講義を若手には必修で受けさせよう!」ってことで終わりのような気がするが。
    そして登録○年目までは無料、×年目からは受講料■■円徴収っと。

    No title

    アンケートの結果が実施したジジイに都合の良い内容でなければどうせもみ消されるだけだし。

    No title

    ・回答率:原則として、回収者(回答者ではない)以外、不知。原則として、会員に対しても非公開。ましてや非会員に伺うのは、愚問。

    ・回答者の意図:派閥のお偉いさんに、回答しろ、って言われちゃったからなぁ・・・。おじいさんたちの気に入る内容にしておこうか・・・(そして、国税の統計とはかけ離れた、弁護士年収統計などが出来上がる)。

    No title

    >主催者の姿勢からは、むしろ明らかにされるかもしれない現実への「恐れ」があるようにもとれました。

    ブログ主様の考えすぎではありませんかね?
    だいたい、日弁連のアンケートの調査の回答率をご存じですか?
    あれ、まともに回答してる会員はいないでしょう(匿名で回答しても日弁連側で突き合わせると分かるようになってるのでめんどい)。FAXで来た瞬間にゴミ箱直行ですよ。大抵は。
    だいたい、アンケートに回答するってことは不満があるからであって、そんな偏った内容をよりによってジャーナリストのブログ主様に公表なんちゅうのは有りえないと思いますよ。
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
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    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

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