「前提」を疑わない「前提」

     「前提」を間違えれば、「結論」も違ってくることは誰でも分かります。だから、「結論」が当初の想定と違うものになったのならば、まず、「前提」を疑うことになる。逆にこの場合、「前提」を疑わないことには、またしても想定した「結論」にはたどりつけず、それは絵に描いた餅になります。

     ある意味、奇妙なことですが、今回の司法改革を見ていると、何度となく考えさせられるのはこのことです。弁護士の大幅な需要増や潜在需要が導き出した事後救済社会の到来や「二割司法」、弁護士の良質化や低額化を織り込んだような競争・淘汰論、その「量」の輩出とともに「質」を確保できると見込み、自由な受験機会はく奪や志望者の経済的負担と引き換えに取り入れられた法曹養成のプロセスの強制化、それに加えて経済的に「やれる」という前提のもとに影響を小さく見積もった給費制廃止――。

     既に司法改革はこれまでに20年越しの議論をして、実践に移されても10年以上が経過しています。その過程で、「前提」はどれだけ疑われたのでしょうか。「効果」として実証されたような「結果」が次々に現れても、そこからきちっとさかのぼって「前提」の正しさは検証されたようにはみえません。いくつもの会議が重ねられ、資料が提出されても、まるで「前提を疑わない前提」の上に、想定外の現実を飛び越えて、新たな「結論」が導き出されているような気がしてならないのです。

     先ごろ公表された「法曹養成制度改革推進会議決定(案)」のなかに、そのことを象徴するような一文が登場します。在学者受験が本来の趣旨に反するといった主張や「抜け道」批判にさらされ、法科大学院本道主義の足を引っ張るものとして、なんらかの制限的な措置が検討されるのではないかという見方がされてきた「予備試験」。この制限を懸念する弁護士らの間では、法曹養成制度改革推進室側から聞こえてきた消極的な見解もあって、最近は法務省消極論という見方も含めた受験資格制限提案見送りへの楽観論もありました。

     ところが「決定(案)」では「予備試験制度創設の趣旨と現在の利用状況がかい離している点に鑑み、本来の趣旨を踏まえて予備試験制度の在り方を早急に検討し、その結果に基づき所要の方策を講ずるべきとの指摘がされている」として、平成30年(2018年)度までに行われる法科大学院の集中的改革をにらんで予備試験についても、「法曹養成制度の理念を阻害することがないよう、必要な制度的措置を講ずることを検討する」とされました。これをみる限り、制限の方向は生きており、少なくとも楽観論には立てない状況ととれます。司法試験委員会に対して、予備試験の合格判定で、ここでも「法科大学院を中核とするプロセスとしての法曹養成制度の理念」を挙げて、「配慮」に期待しており、事実上合格者数抑制を促しているようにとれます。

     ただ、この結論に至る文脈で、特に目を引いたのは、次の下りです。

      「法科大学院を経由することなく予備試験合格の資格で司法試験に合格した者について、試験科目の枠にとらわれない多様な学修を実施する法科大学院教育を経ていないことによる弊害が生じるおそれがある」

     これはもちろん、この文面で度々、登場する「法科大学院を中核とするプロセス」「法曹養成制度の理念」の上に乗っかり、法科大学院本道主義を最上段に振りかぶった表現です。ただ、この「弊害」というのは、実証的に導き出された「結果」につながっているのでしょうか。予備試験合格者の「質」が、法科大学院修了者のそれに比べて、現実的に「弊害」を懸念する状態にあるという前提に立てるのでしょうか。むしろ、この間、逆の社会的評価すらないでしょうか。

     法科大学院が「試験科目の枠にとらわれない多様な学修を実施」し、それこそこれを経なければ、社会に弊害もたらすくらいの存在を目指すというのならば、それはそれで結構なことだと思います。また、そうした社会的な評価が現実的に生まれてくるのならば、それもそれでいい。ただ、それはあくまで「目標」であり彼らの「希望」する将来象です。実証性がまず伴わなければ、「価値」の評価はできないし、されない。ましてそれを失う「弊害」も想定できません。

     以前から書いていることですが、それを認識したうえで、「目標」を立て、「プロセス」や「理念」の正しさに胸を張るのであれば、受験要件化という強制化を外して、実証的に「価値」で選択される道を選んで然るべきだと思います。利用されないことを懸念したプロセス強制の自信のなさは、「価値」の提供を「前提」に「弊害」までいう姿勢と一致しません(「法科大学院本道主義強制に見合う『価値』」 「法科大学院『強制化』という選択」)。

     そもそもはっきりとした社会的な評価以前に繰り出された格好の、「予備試験」組の「法科大学院を経ていない弊害」という話は、それこそプロセスを経ていない旧試験組全体を見渡してどう説明するのか、という話になってしまいます。旧試欠陥論の説得力という問題をもともと抱えている制度ではありますが、こうした強調の仕方は、実証的な評価のあとに、その範囲で語られないことには、無理といわざるを得ません。さらに言ってしまえば、こうしたことへの無自覚は、たとえ予備試験を制限しても肝心の志望者が返って来ないことへの無自覚につながっているようにみえてします。

     そして、これもまた、想定外の「結果」は直視されないまま、「前提を疑わない前提」のもとで導き出された、成就されることない新たな「結果」を生み出していく、この止まらない「改革」の現実であるように思えるのです。


    あなたは憲法学者らが「違憲」とした安保関連法案に対する政府の対応をどう考えますか。また、どのような扱いをすべきだと思いますか。ご意見をお聞かせ下さい。司法ウオッチ「ニュースご意見板」http://shihouwatch.com/archives/6707

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    No title

    猪野先生が弁護士を代表されて、やっとマトモなことお書きになりましたね。
    (読みたい方は右下の同リンクからどうぞ。)
    >ストーカー、DV事件も同じこと。弁護士人口の問題ではありません。
    >警察、自治体、弁護士の協力関係のもと、迅速に安全に対応することが求められることであって、弁護士を増加させても何ら解決にはなりません。
    >法務省は、日本司法支援センター(法テラス)の費用をこの事件に限って資力要件を撤廃しましたが、これは一種の民間委託です。
    >本来、この種の事件は、生命身体への危険防止であって、民事事件というよりは警察権力が全力を挙げて対応しなければならないものです。

    司法制度改革の問題は、弁護士の食い扶持「だけ」の問題ではなく、もっと根深く広範囲なはず。
    なのに弁護士は自分の半径30センチのことしか議題にしない。猪野先生の上の指摘は、こうした現状にまで食い込むものでしょう。

    No title

    ロー卒の進路はお粗末です。
    お粗末でないかどうかの比較は、ローを経由しない同じ大学学部の学生の進路と比較することで検討されなければなりません。
    公務員とか民間企業に進むのにローを経由する理由はないですし、ローを経由したほうが明らかにこれらの就職先への就職が統計学上有意であるといえるだけの結果を示し、かつその有意性にローのコストに対する費用対効果があるという場合でなければ、その結論は「お粗末」と評価してよいものです。

    また、予備試験合格者の大半がロー生だという言及についても、予備試験の合格のためにローを経由する統計学上の優位性が認められなければ、予備試験合格者の大半はロー生であるという命題が真だということになりません。
    東京大学を受験する人間が滑り止めに早慶を受験したからといって、東京大学合格は早慶での就学の賜物、にならないのが当然であるのと同じ理由です。

    No title

    ロー卒者の進路はいうほどお粗末でもないですよ
    公務員とか民間企業に進んでいます

    予備試験合格者の大半はロー生ですよ
    社会人で合格する人はほとんどいません
    悪質な印象操作はやめましょう

    No title

    >そんな計算力ない人に会社の命運なんて預けられない

    その低劣なプロパガンダしまくってる親玉たちに、現に会社の命運を預けて法外な金を払い続けてる会社がいくらでもいることはどう考えたらいいのでしょう?

    No title

    いくらプロパガンダしても、ローに進学する人が減少しまくっている現実は変えられません。
    企業法務に携わる人が増えたというけれど、それは、必要とする給与水準が下がったからにすぎません。
    しかし、多くの給与水準では、ローや修習の債務を返済することを考えると、不合格のリスクもあるのに、それをカバーするほどではなく、新卒でそのまま入社したほうがオトクです。

    それでローに行こうなんて人、いるのかなあ。
    いるとしたらよほど計算力が低い人だと思いますが、そんな計算力ない人に会社の命運なんて預けられないですね。怖くて。

    No title

    法科大学院を中核とするプロセスとしての法曹養成制度の理念

    が、いったいどのような理念で、どのようなパフォーマンスが上がったのか、具体的には全く見えてこない。推進派のプレゼンが下手なのか、ただのお念仏なのか(仏教に失礼な表現で、まことに申し訳ない)。

    企業の人事採用者の目は節穴ではないはずで、経済界の望む人材が法科大学院から輩出されるならば、現在のような悲惨な卒業後の進路(末路)はありえない。

    法科大学院卒業生から、ラルフ・ネーダーや宇都宮健児のような市民運動のリーダーが生まれた、というような話も、寡聞にして知らない。

    推進派の事務所でも、法科大学院卒業生の就職難を知りながら、予備試験合格者を積極的に採用している。

    京大法科大学院に併設された法律事務所は閉鎖。

    多額の入会金や会費などを払いながら、仕事が得られないまま、3月末日付で退会する4万番台の若者たち。

    res ipsa loquitur
    これ以上の立証は、消極派には、いらない。

    No title

    「法学部、絶対ダメ」キャンペーンが必要です。

    No title

    >むしろ、この間、逆の社会的評価すらないでしょうか。


    ない。

    No title

    法科大学院推進派が華々しいプロパガンダをネットであれ紙ベースであれ東洋経済・日経・朝日などのマスコミを使って広めようとも、法科大学院卒業生の進路がお粗末すぎるために全く説得力を持たない。

    巨頭の記事を変えてみた

    >予備試験合格者の「質」が、法科大学院修了者のそれに比べて、現実的に「弊害」を懸念する状態にあるという前提に立てるのでしょうか。むしろ、この間、逆の社会的評価すらないでしょうか。

    反対派の人間は、常日頃から「弁護士の質が落ちた」だの言って法科大学院のイメージを下げている。ネットの伝達は早いためイメージが先行するのも当然である。

    改変参考:http://blog.livedoor.jp/schulze/archives/52121519.html#more
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

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