「儲け主義」という姿勢の伝わり方

     かつて「弁護士の市場」というくくりかたは、そう多く見かけることはありませんでした。その実態として、いろいろな評価の仕方はありましたが、やはり弁護士という仕事は、「市場」としてみることになじまないとするイメージの方が強かったように思います。

     もちろん、自らの仕事を「ビジネス」ということ自体を、はばかっていた弁護士自身も、依頼者への対応や裁判を「儲け主義」でやっているように誤解されたくない意識もあって、一部の人を除いては、「市場」というくくり方も嫌っていた風なところがありました。

     それが、いまや弁護士界内外ともに変わり、マスコミも当然のように、この言葉を弁護士にあてはめ、いまや多くの弁護士もこの言葉を使います。「弁護士だって商売じゃないか」という、いわば割り切ったような世間のとらえ方に、弁護士側もふっきれたように、応じている観もなきにしもあらずです。

     ただ、「市場」という以上、「儲け主義」はある意味、切り離せません。「儲け主義のどこが悪い」という意識でなければ、市場での競争にも勝てません。言い方ひとつですが、「カネに群がる」ことが、まさに「儲け主義」です。いくらそこで、「質」とか「正義」とかいっても、もはや精神そのものを見透かすように「儲け主義」と言われれば、否定はしにくい。ならば、ここは、「品位」のうえに立ちながらも、「弁護士だって」と自ら言ってしまう方がいい、という選択があるのかもしれません。

     もちろん「儲け主義」というのは、まさに他の価値を一切顧みない「至上主義」のような感じがありますが、自由競争を正義とする以上、そこの程度や基準はくくりかた次第の面があります。ある人から言わせれば、すべてが「儲け主義」として胸を張ることであれば、ある人にとっては、実質はともかく、その人なりの線引きをしているという話です。

     「カネに群がる」という弁護士の話を、同業者の弁護士自身の口から聞いたケースとして、まず思い出されるのは、1999年4月にできた整理回収機構(RCC)への弁護士動員のときです。不良債権の回収をめざすこの仕事に、多くの弁護士が勧誘され、かかわっていったのですが、時給2万円、年間弁護士費用37億円といわれた実態は、語られる社会的意義の裏に、弁護士の仕事創出の側面があったことも事実です。

     その初代社長が、司法改革を牽引し、弁護士界内では、その路線に名前を冠して語られる中坊公平・元日弁連会長であったわけですが、この仕事創出も、その路線のアナザストーリーととらえられた観があります。それは、ある人によっては恩恵として語られ、「中坊信奉者」を創出することにもつながった半面、ある人からは、中坊路線批判とともに、この「国策会社」への協力スタンスを問題視する見方が示されました。

     この過程で人権派といわれる弁護士群の分裂もあり、その後、しぼむことになる不良債権処理の一時的な需要に群がった弁護士の態様は、ある意味、弁護士の生々しさと亀裂をもたらした歴史として界内で語られている面はあります。

     そして、もうひとつ「カネに群がる」弁護士の話として、ここ数年語られてきたのは、いうまでもなく過払い問題です。いわゆるグレーゾーン金利を原則無効とした2006年の最高裁判決を契機に急増し、2009年には東京地裁の全民事訴訟の半数近くまでにいたった返還請求訴訟が、「弁護士市場」の需要をもたらしたというものです。

     「過払いバブル」といわれる、この現象は、派手なCМで集客を図り、大量処理をする法律事務所の登場とともに、債務整理処理のずさんさからのトラブルなど、弁護士会が頭を悩ますことになるテーマを提供することにもなりました。

     この姿は、弁護士界の外からみれば、まさしく「おカネに群がる弁護士」イメージの一般化に大きく貢献したといっていいと思います。「過払いバブル」崩壊が見えてきている今、弁護士の関心は、いつ完全にそれがなくなるのかに移ってきていますが、現実はRCCの時とは少しことなり、経済難が言われている中で、この終息が、それで持ちこたえている多くの弁護士の運命もまた、決めるからだそうです。

     さて、こうして書いてくると、弁護士イメージに「儲け主義」をかぶせ、「市場」とひとくくりで語られることを、容易にするエピソードは、ここ10年くらいの弁護士の歴史のなかで、いくらも見つけることはできます。

     ただ、マスコミ報道でも時々見かける、こうした歴史をみると、それでイメージが決定付けられていくことへの疑問もないわけではありません。そのひとつひとつは事実であっても、いわば西欧史偏重の世界史の教科書のように、実は同時並行で行われている歴史が、視点として欠落していくような感じに襲われるからです。

     弁護士にとって省みなければならないテーマがそこにあることも、また、たとえ一面であっても、それが全体のイメージを構成していくことについて、弁護士が自覚すべきことは、これまでも書いてきましたが、その自覚の仕方、中身も含めて、弁護士が言うべきことを言えないという状況もまた、大衆にフェアな判断材料を与えることを阻害します。

     弁護士の「儲け主義」という姿勢の伝わり方が、大増員の問題性や「給費制」の必要性、さらに今の弁護士の窮状を含めた現実が大衆に伝わるかどうかに、大きく影響していることは間違いありません。

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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
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