弁護士過疎と増員の本当の関係

     地域に弁護士がいないという、いわゆる弁護士過疎・偏在の問題解消に、弁護士・弁護士会は、ものすごいエネルギーを費やしてきました。

     法律相談センター・公設事務所の設置、定着化の支援、さらには「ひまわり基金」を設立し、2001年から会員に特別会費を拠出させて、それを支えてきました。積立期間は当初の予定から、度々延長、月額1000円に始まり、1500円、1400円と変わり、現在月額700円で、この政策が2013年3月まで続けられることになっています。

     1996年から始まったこうした活動で、全国の253の地裁・支部の管轄地域のうち、同年に弁護士ゼロが47、1人が31存在していた、いわゆる「ゼロワン地域」が急速に解消、2011年3月現在、ゼロ地域はなくなり、ワン地域が3になるまでになりました。

     さらに、日弁連は、弁護士が2人以上いても、人口や法律サービスの需要に対して、弁護士が不足している地域があるとして、弁護士1人当たりの人口が3万人を超えるような地域を「弁護士偏在解消対策地区」(2010年12月1日現在、93カ所)として定め、2013年をメドに解消を目指しています。

     さて、この弁護士過疎・偏在問題の解消の成果と今後の目標が、弁護士の大量増員の必要性と、結び付けられて語られることが、しばしばあります。「弁護士を大量に増やさなければ、過疎・偏在は解消しない」というものです。

     ただ、この意見には、素朴な疑問を持ちます。弁護士の大量増員を成り立たせるものとして、期待されているのは、弁護士の自由競争ということになっていますが、弁護士の過疎・偏在そのものが、自由競争の結果ではないか、と思えるからです。つまり、需要がないと判断したところに、弁護士がいないということではないか、ということです。

     だとすれば、弁護士を増やして、問題が解消するというシナリオはどう考えるべきなのでしょうか。弁護士が都会に集中している現象が、これによって地域に流出するということがあるのであれば、そこで食えない、あぶれた弁護士が、地域に流れるということを想定していることになります。

     しかし、この根拠や効果、つまりどのくらい増やすことで、どの程度の地方流出が起こるのか、全く未知数です。さらに、その地方のニーズといわれるものが、どれだけの大量の弁護士を実際に食べさせていけるものなのかについては、さまざまな見方が出されています。

     そもそも食えない弁護士の増産を前提に、地方流出を構想すること自体、「地方の人達を愚弄する発想を含む」として、その不適切さを指摘する声が弁護士会の中にもあります(武本夕香子「法曹人口問題は、ここ数年が正念場です――東弁意見書を読む」)。

     過疎・偏在は、日弁連のこれまでの成果を見ても、実は適正配置の問題とみることができます。増員による流出ではなく、特別な支援を伴う政策として考えるということ、逆にいえば、そうしたものがなければ、自由競争では成立しない地域状況を前提とすべき課題ではないのか、ということです。

     現在、対策を実際に支えているのは、いわば有志の精神だと思います。個々の弁護士の問題意識といってもいいかもしれません。実際に過疎地域に飛んで活動している弁護士たちはもちろんのこと、会員に拠出を求めている会費自体、ある意味、そうした犠牲的精神に期待して成り立っているものです。

     あえて、このことと大増員を結び付けるとすれば、自由競争の上にたって、「地方にニーズはまたまだある」ということよりは、「増えれば、それだけ有志も増えるはず」といった方が、まだ分かりやすいように思えます。もちろん、これにしても、効果の程度は未知数ですし、そもそも犠牲を前提とし続ける無理は、根本的な解決をも疑わせるものであることは変わりません。

     裁判所や法務局が地域から撤退しているなかで、弁護士だけが犠牲を払って、過疎と向き合っている観もあります。弁護士大量増員の必要との結び付け方によっては、地域の本当の事情を見誤らせることにならないのかという疑問を抱きます。

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    基本的には、というか表向きには最高裁ということになると思います。1984年の簡裁統廃合、1988年の地家裁支部統廃合も、あくまでこれは「適正配置」という位置づけで、具体的には事件数が著しく減少している庁の廃止・統合と同時に、大都市地域の裁判所の人的・物的な執務態勢の強化を目的にしたものだったと思います。

    裁判所の撤退

    コメントで聞いていい話なのかわかりませんが、裁判所の支部の撤退は最高裁の意向なのか、財務省の意向なのか、それとも、政権与党の意向なのか、誰の意思に基づくものなのでしょうか?
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
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