「任意加入制」提案、東弁副会長候補出馬という「始まり」

     将来、振り返ることになる選挙かもしれない――。2月6日に投票が行われた東京弁護士会副会長選挙に対して、今、弁護士会のなかにこんなムードがじんわりと広がっています。弁護士会の任意加入性導入、会費半減を公約に掲げた64期、36歳の若手、赤瀬康明弁護士の出馬。既に立候補が伝えられたときから、会内に大きな話題を提供することになっていましたが、多くの会員にとって、それは少なくとも意外性への驚きによるものではなく、遂に「来るべきときがきた」というとらえ方だったようにみえます。

     結論からいえば、彼は落選しました。6議席に対して7候補が争った選挙で、当選者の最低獲得票522に対して、彼の獲得票は305票。この選挙での約200票差に対しては、「勝ち負けではない」、要するに逆転可能性があった集票ではないと片付ける見方がある一方で、いわゆる派閥候補を相手にしての、ここまでの結果を善戦として注目している見方があります。

     実際に派閥候補側には、彼の出馬に相当な脅威があったことも伝えられています。それは、前記二つの公約に加え、会員利益にならない、あるいは強制加入にそぐわない政治的な弁護士会活動の廃止・縮小、既に東弁でも三分の一を占めるロースクール出身会員の代表として若手の意見を積極的に取り上げることを掲げる彼に対して、若手を中心に、どのくらいの票が集まるのかが、はっきりと読み切れなかったからです。それはとりも直さず、彼らの側も、今の弁護士会の状況下で、彼の公約が会員に対して、一定の説得力を持つ可能性をよく分かっていたということでもあります。

     弁護士会全体を見渡しても、大きく括ってしまえば、弁護士会の強制加入廃止、任意加入制導入そのものには、否定的な見方が多数ですが、会費の半減、もしくは減額方向や、会務のリストラとなると、かなり賛同する意見が多くなります。「改革」が追い込んでいる弁護士の状況からすれば、会費減は現実問題。しかし、任意加入にしては、弁護士自治の意義、あるいは国の監督下に入ることへの問題意識によって会員間に濃淡があるものの、楽観論や現実的廃止は不可能という見方を含め、大方否定的・消極的ということになります。

     ただ、全体的理解としては、多くの会員は、少なくとも赤瀬弁護士のこの二つの公約が生まれる必然性を感じているという印象です。彼も主張しているように、弁護士の増員によって所得の格差が生まれるなかで、弁護士自治や高額会費が、一方で「改革」が弁護士に突き付けている競争下で生き残るための「規制」としてとらえられることも、それが会内の激増している若手の声として上がって来ることも当然、予想される展開だからにほかなりません。こうした候補の登場もまた、遠からずやってくる、十分に予想される事態だったのです(「弁護士会費『減額』というテーマ」)。

     もっとも、今回の事態に対して、地方会会員の受けとめ方には、やや温度差はあります。会によっての役員事情にはバラツキがあり、既に60期代の副会長を含め、若手が会務に参加する形になっているところもあれば、そもそも副会長職の成り手不足(なってくれる会員がいない)に頭を悩ませているところがあり、こうした公約を掲げた候補の出馬が「わが会でも」という見方が広がっているわけでもありません。

     そもそも、今回の事態は東京、大阪といった、大都市会の事情を強く反映しているというとらえ方がなされています。より会員が経済的に厳しい状況に置かれ、生存をかけたより「規制」に対する否定的な見方が生まれる環境が、より大都市にあること。逆にいうと、まだ地方会の方が、会活動への人手不足という問題があっても、いまのところ、これまでの形をより維持できるという楽観論も聞かれるのです。

     もう一つ、今回の赤瀬弁護士の出馬に関して見落とせないのは、彼が「改革」競争時代の弁護士のあり方を正面から受けとめ、債務整理分野から「事業」としての視点を持って拡大、急成長を進めて話題を提供してきた大手新興事務所・弁護士法人アディーレ法律事務所に所属していることです(「法律事務所系『回転ずし』という現象」  「弁護士支援という「アディーレ」の挑戦」)。この事務所からは、2009年に所長の石丸幸人弁護士が、当時50期代、36歳、という史上最年少で会長選に出馬(落選)して話題になっています。

     赤瀬弁護士を修習時代から知っている、ある弁護士によれば、彼はもともと新自由主義的な考え方に理解を示し、また、会内にある、「アディーレ」を含めた大手債務整理事務所への批判的な見方を疑問視する立場だったそうです。しかし、それを私に語った弁護士は、今回の彼の出馬に対して、個人的な感想と前置きして、できれば彼が「アディーレ」所属ではない形で、出馬してほしかった、としていました。赤瀬弁護士は、個人の意思での出馬ではあったとしても、今回の立候補を、先の会長選と併せて、宣伝活動を含めた「アディーレの戦略」とみる見方が会内にあることを、その弁護士は知っているのです。赤瀬弁護士の選挙公報の冒頭には、その石丸弁護士の出馬の事実とスローガンも掲げられています。

     では、これからどうなるのか。赤瀬弁護士同様の主張を掲げた候補が再び登場するだろうことは、会内でほぼ確実視されています。前記「戦略」はともかく、「アディーレ」からもまた、候補者が出で来るだろう、そして、おそらく遠からず、副会長、やがては会長席にこうした公約を掲げた人物が座るのではないか、と。ここまでの話になると、地方会会員も楽観視していません。わが国最大弁護士会の一角から、強制加入廃止、弁護士自治見直しが現実的提案として挙げられてきたとき、おそらくその時点で、会内で今以上に膨大なウェイトを占める若手が、どういう議論に踏み出すのか。また、その時、果たして弁護士自治を守るという立場から、その流れを押しとどめられるのか。予想がつかない、というよりは、むしろその立場からは、悲観的な見方の方が強くなってしまうからです。

     「改革」を見直して、その影響を止めるのが早いのか。その止まらない影響の前に、弁護士会が変わってしまうのが早いのか――。もし、私たち社会にとって、弁護士の強制加入と自治が、これからも将来にわたり、重要な存在であるならば、そして、多くの弁護士のなかに、まだ、そういう考えがあるのであれば、「あの選挙が終わりの始まりだった」と振り返る未来を、今まず、想定する必要があるように思えます。


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    取り上げて頂き、ありがとうございます。

    No title

    安全圏だと思ってないよ。
    まあ他会ではあるけど。

    他会も他界だしね。

    嫌いなものは嫌いなんだよ。
    理屈抜きに嫌いなんだから。
    それに理由を求めることがナンセンスなんじゃないの?

    No title

    >アディーレでなければ当選してたと思いますよ。

    司法ウォッチの弁護士の連載でも「事務所の広報活動」は確かに言われてましたけれど…じゃぁ従来の弁護士の先生方って「きれいな目論見で立候補」していたんですか?
    どこそこ弁護士会の会長というのは少なからず事務所の宣伝になりますし、後の栄誉あるコースにも乗れる(言い換えればその後の日弁連執行部に連なる偉い役職も全て引き受ける前提で立候補するわけで)。
    最初は広報活動ってどうかと思いましたが、他の弁護士の先生方の「××事務所所属でなければ」という批判の仕方もおかしいのではないでしょうか。自分は安全圏にいるからといって言いたい放題言っているように見えます。
    それ、本当に安全圏ですか?

    No title

    アディーレでなければ当選してたと思いますよ。

    No title

    任意加入や弁護士自治見直しを憂慮するというのはすでに一定の価値観にしたがっているということが出来ます。
    強制加入に何か意味がありますか?
    弁護士自治ってなんですか?
    今でさえ懲戒制度はきわめて恣意的な運用がされていて、体制側に反対する立場の人間はどんな些細なことでも懲戒になる一方、体制側の人間についてはどんなに重罪でももみ消されるのではないのですか?
    まだ裁判所に判断をゆだねたほうが公平な判断が出来ると思います。

    No title

    ある弁護士のブログの「大阪弁護士会職員の平均年収について」という記事(2/9)によると、推測で「弁護士会職員の年収は、年680万6818円」だそうだ。推測なので(大事なことなので2度いいました)あしからず。
    そのブログ主も「(記事を)書いてて腹が立ってきた」とあるが、確かにこれが本当なら(選挙への参加自体)やってられないと思う。

    No title

    いや…
    >もっと真剣に争点に出来る候補者が出てくるのも時間の問題でしょう。
    弁護士会の選挙でもそれなりに費用と単位会によっては戸別訪問もしている。そして当選した場合の事務所経営…と考えると、選挙にそれなりの価値、そして弁護士会の運営にそれだけの価値(ほぼその間の事務所経営は無理)をこれからの若手が見いだせるかどうか。
    選挙に出るよりは、自分の事務所の経営をしていたほうが生き残る可能性が高い。
    あるいは選挙に出られるほどの弁護士は、金が有り余るほどある(ビジネス的に成功できた)弁護士しかいないとなると…。
    どっちにしても明るい未来なんて見えないけどな…。

    No title

    相変わらずの炎上商法でしょうけど、もっと真剣に争点に出来る候補者が出てくるのも時間の問題でしょう。
    会費は減額できます。
    委員会と政治活動をやめさせるだけで、今すぐにでも半額でしょう。
    目標は5分の1に

    No title

    私は今回の選挙は
    >宣伝活動を含めた「アディーレの戦略」とみる
    こっちだと思っていましたけれどね…
    本気で改革しようと思っているのであれば、(供託金のことなどあるかもしれませんが)会長選に出るべきであったと。
    ただ、「最初に公式に提言したのはアディーレ」というインパクトは(候補者個人の意見だったかもしれませんが所属している以上はそういう見方になります)非常に大きいものだったと思います。
    経営という面においては個人的に疑問はあるにしても、その手腕は認めざるを得ません。
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

    お買い求めは全国書店もしくは共栄書房へ。

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