自治体採用をめぐる弁護士登録の価値とネック

     「活動領域の拡大」というテーマが、「法曹有資格者」を対象として言われはじめてから、非常にあいまいに社会に伝えられていると感じる点があります。それは、結局、この「法曹有資格者」という存在が、どこまで社会が期待するものとして設定されているのか、ということです。つまり、「法曹有資格者」といえば、あえて「弁護士を含む」などと前置きがなされるように、文字通り、すべてが含まれるとすれば、司法試験に合格しただけの存在への期待度を含めた話となります。ただ、この意味を「弁護士」であることの意味だけ切り離すのであれば、弁護士登録に縛られずとも、その経験そのものは期待の対象となります。

     前者が、司法修習無用、弁護士登録無用を含み、あるいは経済界にも潜在需要があるとされる、それ以前の存在で社会が活用できる可能性に目を向けるものであるならば、後者はあくまで一定期間の弁護士経験の有用性には目を向けさせるものといえます。弁護士経験を経て、自治体などに採用されたのち、登録を外した「資格者」を含めた可能性。端的に言えば、前者が弁護士としての実務経験を含め丸ごと無用もあり得る活用可能性であるのに対して、後者は弁護士登録、もしくはそれによる弁護士会の監督というものが、維持されない形を含むものの、少なくとも弁護士経験の有用性までは放棄していないようにとることができるのです。

     「法曹有資格者」という括り方が、当初の「改革」路線の想定ではなく、あくまで「改革」の想定外の不調からたどりついたものだとみれば、当然、前者は弁護士の就職難と法曹志望者減という事情をにらみ、「別に弁護士じゃなくてもいいじゃないか」と言わんばかりの、問題の切り離しとそれによる路線維持の思惑が透けて見えてきます(「『法曹有資格者』への変化」)。一方、後者の立場を考えれば、弁護士会の姿勢として、経験の有用性アピールはいいとしても、登録という形で現に監督下に置かれることの意義、ひいては弁護士自治そのもの捉え方の問題にもなります(「『弁護士等』へ拡大される本当の意味」)。

     日弁連法務研究財団の「財団研究」として、昨年まとめられた研究報告書「地方行政における法曹有資格者の活用に関する研究――任期付弁護士を中心として」のなかに、この問題に触れる部分が登場します。この研究は、2011年にあくまで報告書タイトルにあるような活用を促進するための具体的な方策を検討するために立ち上げられた研究会のもと、アンケート調査やヒアリングなどを行ってきたものです。報告書はその成果として、さまざまな角度から任期付き職員として自治体に採用された「任期付弁護士」の現状と期待される役割などについてまとめています。「任期付弁護士」には、採用後登録を外した「資格者」を含むとしていますが、ここではあくまで「弁護士」であり、問題の捉え方は基本的に後者であるようにとれます。

     この報告書に、「弁護士登録維持と弁護士会務」という一章が設けられています。研究会のアンケート調査では、回答の「任期付弁護士」41名中、32人が登録を維持し、9人が抹消。維持している者は、職務専念義務の関係で事件受任はせず、全員が弁護士会費を自己負担。抹消会員には、採用自治体方針と自らの選択によるものがおり、自ら抹消したものの理由には、経済的負担の大きさや、登録維持の必要性を感じないことが挙げられてます。

     興味深いのは、これを踏まえて論述されている「弁護士登録維持の意義」です。報告書は「任期付弁護士」の日々の業務を行うに当たって、必要な情報は自治体保有資料や書籍、インターネットでの収集が可能であり、事件受任ができない以上、「短期的にみれば、弁護士会費を負担してまで弁護士登録を維持する意義はない」と、早々に結論を出してしまっています。

     その一方で、長期的には弁護士登録を維持する意義があるとして、その理由として大略以下の3点を挙げています。

     ① 弁護士会の研修、委員会活動によって知識・情報が得られること(組織の論理に埋没せずに、法律専門家の原点に立ち返るため等)
     ② 任期修了後、弁護士に復帰する場合に弁護士会の情報収集や人的つながりが有用。
     ③ 自治体による各種相談活動など、地元弁護士会との連携すべき活動に際し、自治体内に弁護士会とのチャンネルを有する職員がいれば、より円滑に進む。

     「弁護士白書」2014年版によれば、2014年6月現在、「任期付き公務員」で弁護士登録をしている人だけでも44人いますが、報告書が「任期付弁護士」に含めている、登録を外して採用されている「資格者」の実数が明らかにされていません。また、実際に自治体のなかには、この報告書から受ける印象よりも、もっと明確に弁護士登録不要、つまり、その意義を感じていないとしている自治体が存在しているのが現実です(「弁護士登録不要というニーズ」)。

     では、前記のように、長期的には意義があるとした弁護士登録維持のために、弁護士会は何をすべきだというのか。報告書の結論は、極めてシンプル。要は「会費」がネックだということです。「任期付弁護士」の登録抹消の理由は高額な弁護士会費の負担にあり、給与法定主義や条例主義の関係、住民の理解からは、自治体負担は困難。しかし、一部弁護士会を除き、日弁連・弁護士会は会費減免には消極的で、その理由は、就職難や収入低下が存在している弁護士の状況にあって、「任期付弁護士」に対して会費を減免することの不公平感にあるようにみえる、と。しかし、業務拡大をいうならば、ここをなんとかしろ、という話です。

     この報告書から、いくつかの前提になっているような現状認識が見えてきます。一つは、短期的に意義がなく、長期的には意義があるとされた「任期付」の弁護士登録維持は、その列挙されている理由がどの程度、採用自治体に説得力ある「価値」を見出せるものかはともかく、いずれしても高い弁護士会費には見合わない、ということ。また、採用自治体や本人へのメリット以外の、弁護士自治の意義につながるような、会監督下に服することや独立性の社会的意義は、「前提」とされないこと。そして、さらには、弁護士会として、登録維持にこだわるのであれば、会内不満覚悟での会費減免しか手がないということ――。

     この報告書があくまで弁護士経験を前提に、いわば一度は弁護士であったものを中心にとらえたところは、やはり日弁連肝入りの研究というとらえ方をする人もいるかもしれません。しかし、その結果をみれば、弁護士会にとって、難しい選択が横たわっていることを伝えているように見えます。もっとも、それがよく分かっているからこそ、今、弁護士会自身がどこまでも「弁護士」にこだわっているようにはとれない、「法曹有資格者」のあいまいさに逃げる結果になっているのかもしれない、という気持ちになってきます。


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    No title

    なんで給料定額で、しかもいつ首を切られるかわからない契約社員になるのに、しんどい勉強と高額の借金をしなきゃいけないんだ?
    日弁連はもっとしっかり条件について交渉しろよ。

    No title

    自治体に弁護士職員の採用を勧めているのが日弁連だから、会費は是非とも払ってもらいたいところだと思います。
    ただ、公費で負担できる理由はなさそう。
    なら採用してから1年後とかに、こっそり給料を会費相当分増やしてもらえばいいわけです。

    No title

    http://bengoshiyodoyabashiosaka.dreamlog.jp/archives/1019363515.html

    なぜ弁護士会費の減免が拡大されないのか。↑みたいなことに使うからじゃないのかと思ってしまう。
    もちろん会の仕事は大変なものだと理解はできるが、できるが、できるが…。
    プロフィール

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
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