「断片」で形づくられる「改革」イメージの危うさ

     あけましておめでとうございます。
     今年もよろしくお願い致します。

     私たちは、常日頃から報道やインターネットを通じて、「事実の断片」というべき情報に接してきています。それによって、時に私たちの想像はかきたてられ、そこから事実全体をつかみ取ろうとしたり、つかみ取ったような気持ちにもなったりします。ただ、気をつけなければいけないのは、それが果たして本当に「事実の断片」であるのかもさることながら、仮にそうだとしても、それはあくまで「断片」に過ぎない、ということです。

     もちろん、それがいくらパズルの一コマであっても、全体を知る重要な手掛かりになることはあります。だから、伝える側も、少しでも多くその「断片」を集める努力もします。ただ、「断片」である以上、それによって導かれるのは、あくまで仮説でしかありません。水の流れたあとから、その惑星に過去、水が存在し、あるいは生物がいた可能性を考えるようなものです。

     だから、導きだされるのが「仮説」である以上、そもそも伝える側も、受け取る側も、大事なことは信じるのではなく、まず疑うことです。とりわけ、残念なことに、伝える側が意図せずに、あるいは時に意図的に、ひとつの全体像を結ばせるために、好都合な「断片」が取捨され、伝えられることがあるからです。青い水面が描かれたパズルの一コマから、あるいは私たちはつい大海原の全体画像を連想してしまうかもしれませんが、それは絵の片隅に描かれた、小さな水たまりかもしれないのです。

     昨年暮れ、74人の新たな検事任官者と、うち女性が39%にあたる29人を占めたことなどを報じた12月23日付け毎日新聞の記事は、独自取材に基づく次のような一文を加えていました。

      「辞令交付式後に取材に応じた平山陽子さん(29)は、名古屋芸術大で声楽を学んだ異色のキャリアの持ち主。高校時代にミュージカルの俳優に憧れて入学したが、『大学の4年間で食べていくだけの実力がないことを強く感じた』と方向転換。元々法学部志望で10年に法科大学院に入学した。法科大学院制度には課題もあるが、平山さんは『大学で法律を学んでいない者にも法曹への道を開いてくれるありがたい制度』と評価し、『初心を忘れず、温かみのある検察官になりたい』と語った」

     記者による取材が行われ、それに対して、任官した平山さんは正直に本音を語ったのかもしれません。しかし、ここで報じられた「事実の断片」に、前記した意味で危ういものを感じた方も少なくないと思います。それは、言うまでもなく、この「断片」から像として結ばせてしまうかもしれない法科大学院制度をめぐる現実についてです。

     それは、端的に言って多様性確保と機会保障にかかわる誤解を生む可能性です。「大学で法律を学んでいない者にも法曹への道を開いてくれるありがたい制度」という彼女の言葉に、あるいは旧制度下では法学部出身以外の方に道が開かれていなかったとか、それを新制度が新たに開いた、といったことをイメージされる人もいるかもしれません。もちろん、現実はそんなことはなく、旧制度だってチャレンジできた。むしろ、新制度は法科大学院というプロセス強制化によって、その経済的時間的負担に耐え得る人しかチャレンジできない形に狭められたということもできます。

     多様性確保を言いながら、新制度はこの現実的な制約を越えて、「誰でも」チャレンジできる道を現実的に開いたわけではありません。「異色のキャリア」の持ち主である彼女の成功談は、多様性確保においての実績を少しでも提示したい側には、イメージとしてもとても歓迎すべき、好都合な「断片」にもなるはずです。

     好都合な「断片」の扱いが、どういう風になるのか。それは、これまでもこの「改革」をめぐる報道や論調でみられてきたように、「できるものがいる」ということをもって語られる「改革」の正当化といえるものです。「中にはできるものがいた」ということをもってして、あたかも条件を度外視し、万人に可能であるかのような全体像を描かせようとするものです(「『実現可能性』に後押しされた『改革』の現実」)。

     この取材を行った記者が、どこまで意図的にその全体像のために、このコメントを取捨・掲載したのかは分かりません。しかし、少なくとも伝える側も、受け取る側も、こうしたことに不用意であってはならないように思います。そうでなければ、「改革」は、こうした「断片」から形づくられる現実とは異なるイメージのもとで、これまで同様、延々と続けられることになるからです。


    司法改革に疑問を持っている人々ための無料メールマガジン「どうなの司法改革通信」配信中!無料読者登録よろしくお願いします。http://www.mag2.com/m/0001296634.html

    にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
    にほんブログ村

    にほんブログ村 その他生活ブログへ
    にほんブログ村



    人気ブログランキングへ


    真実を知る事が第一歩。原一探偵


    スポンサーサイト

    テーマ : 資格試験
    ジャンル : 就職・お仕事





    コメントの投稿

    非公開コメント

    No title

    >司法制度と弁護士を
    >混同して特権の話をするのは無意味。
    それを混同している無意味な話はここには無かったと思います。

    >弁護士特権は、
    >大した実務能力が無く、
    >依頼者に無駄な負担を課しており
    >不合理だから、廃止した方がいい。
    「特権」は権利であって、
    人じゃありませんから、
    実務能力は無いでしょうね。

    弁護士が一般市民より法的スキルを持っていることは明らか。
    一般市民が弁護士レベルの法的スキルを持っているのであれば、
    そもそも弁護士に依頼せず自分でやればいいだけ。

    No title

    司法制度と弁護士を
    混同して特権の話をするのは無意味。

    弁護士特権は、
    大した実務能力が無く、
    依頼者に無駄な負担を課しており
    不合理だから、廃止した方がいい。

    No title

    ロースクールとロースクールの教員を
    混同して特権の話をするのは無意味。

    ロースクールは、特権うんぬんではなく、
    大した教育能力が無く、
    受験生に無駄な負担を課しており
    不合理だから廃止した方がいい。

    No title

    ロースクールに大した特権なんてありません。
    ロースクルー教員を目指す人間はどんどん減少していますし、
    世の中のほとんどの人は
    本気でロースクール教員になりたいなんて思うこともありません。
    特権があるなら、もっとみんなローの教員になりたいと本気で思うはず。
    ロースクールに大きな特権があると本気でお考えの方は、
    ローの教員を目指されたらいかがでしょうか?

    司法が適切に機能することは、
    社会の重要なインフラということだったはず。
    であれば、適切な能力の無い人間がローの教員にならないように
    参入規制があるのは当然のことです。
    また、社会の重要なインフラなのですから、
    高度な教育による人材育成のために
    税金が投入されるのも合理的なことです。

    No title

    弁護士に大した特権なんてありません。
    弁護士を目指す人間はどんどん減少していますし、
    世の中のほとんどの人は
    本気で弁護士になりたいなんて思うこともありません。
    特権があるなら、もっとみんな弁護士になりたいと本気で思うはず。
    弁護士に大きな特権があると本気でお考えの方は、
    弁護士を目指されたらいかがでしょうか?

    司法が適切に機能することは、
    社会の重要なインフラということだったはず。
    であれば、適切な能力の無い人間が弁護士にならないように
    参入規制があるのは当然のことです。
    また、社会の重要なインフラなのですから、
    高度な教育による人材育成のために
    税金が投入されるのも合理的なことです。

    No title

    >したがって、修習をなくすのと共に、法科大学院に対する補助金をなくせばそれで、イーブンという理解でイイですね?

    つまるところこれは、ロースクールと弁護士間の、「コップの中の戦争」だということですね。

    一般市民としては、是非とも両方なくして欲しいです!

    No title

    弁護士じゃない人に何を言ってもムダかもしれませんが、国が税金だろつと会社が自分の計算だろうと、他人に労働を指示した以上、その時間を自らの意に沿わせるために対価を要求されるのです。
    したがって、修習をなくすのと共に、法科大学院に対する補助金をなくせばそれで、イーブンという理解でイイですね?

    一つ前のロー教員さん。

    No title

    >その間の生活費まで無利子で貸し付けてくれます。→一般企業は生活費を給料として払ってくれます。

    私企業がやる事と、国が税金でやることは同視できないでしょう。大手法律事務所も、研修中の給料を支払ってくれてますよ。

    それから、ロースクールがおかしいのはその通りですが、それがなぜ弁護士特権を擁護する理由になるのか理解に苦しみます。叱られた子供が「何々ちゃんの方がもっと悪いんだー」と言い返しているみたいです。

    結局、「私企業」ではなく「国家権力」が、弁護士とロースクールの双方に特権を与えているということには、御同意いただけているようですね。

    No title

    参入規制は、非常に大きい特権です。自由競争の大きな例外ですよ。
    司法修習の授業料は無料です。その間の生活費まで、無利子で5年後からの長期分割で返済すれば足ります。

    やっぱりバカ?

    司法修習の授業料は無料です→会社の研修は給料付きです。

    その間の生活費まで無利子で貸し付けてくれます。→一般企業は生活費を給料として払ってくれます。


    ぜひ、一般人の大きな驚きを伝えて弁護士になってみませんかと言ってみてください。
    ところで法科大学院で何の役にも立たない自説振り回している大学教授とか研究者教員とかは、赤字垂れ流しているのに、国から補助金もらって何の競争もなく生活していることこそ、「国家権力による特別扱い」で非常に大きな特権だと思いませんか?

    赤字を続けているのに雇用整理も給与の減額もないのは一般人には大きな驚きです。

    No title

    >ところで国家権力による特別扱いって何?具体的に何を指しているの?

    参入規制は、非常に大きい特権です。自由競争の大きな例外ですよ。
    司法修習の授業料は無料です。その間の生活費まで、無利子で5年後からの長期分割で返済すれば足ります。

    これが大きな特別扱いだと思えない弁護士が多数いること自体、一般人には大きな驚きです。

    No title

     平山さんのようなケースを持ち上げる人も新人の初任給が300万
    だとか言う人も、結局同類じゃないかしら。

    管理人のみ閲覧できます

    このコメントは管理人のみ閲覧できます

    No title

    >国家権力による特別扱いが少なくなると「冷遇」ですか? 
    どの点で弁護士が特別扱いを受けて優遇されているのか教えて下さい。
    何となくのイメージや思い込みで無責任な発言をしないでほしいですね。

    >本気でそう思うなら、「優遇」されている職業に転職してください。
    >弁護士でもやっていけないクズは、
    >他の職業ならなおさらやっていけませんよ。
    クズでも弁護士になれて
    弁護士になったら優遇されると本気でお考えであれば、
    みんなもっと弁護士を目指せばいいんじゃないでしょうか?

    志望者がどんどん減少していることからしても、
    弁護士が魅力の無い職業になっていっていることは
    明らかだと思いますよ。

    ねたみや嫉妬に基づく誤った判断で
    弁護士業界を破壊し尽くして、
    社会が混乱してとことん絶望に至るまで、
    社会は正しい判断をできないのでしょうかね。

    No title

    あけましておめでとうございます。今年も宜しくお願い致します。

    毎日新聞の記事ですが、東京芸大ですら約半数が卒業時に進路未定です。誰も知らない音大では就職先がないのは当然です。そのような方が、たまたま新制度のおかげで司法試験に合格し(この方に関してはそういうことを自分でおっしゃっているのですから)、さらには安定した公務員になれて(ただしさすがに落ちぶれたとはいえ裁判官の職ではない)良かったね、という話を、新制度はすばらしい、と一般化してすり替えるのは、相当無理筋ですね。

    No title

    >この先弁護士業界の門戸をたたこうとするものは冷遇されるだろう。


    馬鹿ですか? 恥知らずですか? いいえ、両方でしょう!

    国家権力による特別扱いが少なくなると「冷遇」ですか? 


    現実に弁護士の初年度の所得って激減してるよ。
    私初年度600万円だったけど、今多分300万円台前半だよね。
    会費は自己負担で、当会は年間60万円だから、実質手取りは200万円台後半
    これでもまだ給与もらえる人で、いわゆるソクドクさんは自宅兼事務所で、打ち合わせは裁判所かマクドナルドらしいよ。100円コーヒー飲みながら。
    所得が100万円台で、会費を差し引くと小遣いくらいにしかならないけど、実家の親の扶養をうけながらいつか大きな事件で稼ぐことを夢見て弁護士登録を続けるんだって。

    ところで国家権力による特別扱いって何?具体的に何を指しているの?
    そんなものあるの?
    あ、弁護士じゃない人がコメントしているんだね。
    おそらくロー教員だろうけど、せめてこの業界のことを調べてから偉そうなこと言ってくれないかな?

    No title

    68期って30%の弁護士志望が弁護士登録できないんだそうです。
    弁護士登録というのは、給与を受けて勤務する弁護士と同じ意味ではないので、弁護士志望の30%の人間が、弁護士登録により負担しなければならない強制加入団体の会費が払えないと判断したということで、仮に会費を払って弁護士登録する道を選んだとしても、登録3年以内に請求退会する人の数は確実に増えています。

    そんな業界に希望をもって参入するなら、それはあなたの自由です。
    でも周りの人に救いの手を差し伸べてもらうのを期待するのだけはやめましょう。
    自分の力でなんとかする。それが最低限のルールです。
    その現実を伝えない法科大学院は卑怯者です。

    No title

    >顔を真っ赤にしてどうしたの?

    これが精いっぱいの反論ですか? ただただ憐れです。

    No title

    顔を真っ赤にしてどうしたの?

    No title

    >この先弁護士業界の門戸をたたこうとするものは冷遇されるだろう。


    馬鹿ですか? 恥知らずですか? いいえ、両方でしょう!

    国家権力による特別扱いが少なくなると「冷遇」ですか? 

    本気でそう思うなら、「優遇」されている職業に転職してください。弁護士でもやっていけないクズは、他の職業ならなおさらやっていけませんよ。

    その程度の常識を身に付けるとk路から始めて下さい。

    No title

    もうあきらめた。
    ちょうちん記事のマスコミの考え方を変えさせようというのは間違っている。
    マスコミが何を言おうと、この先弁護士業界の門戸をたたこうとするものは冷遇されるだろう。

    別に冷遇したくて冷遇しているのではない。ほかの選択肢がないだけだ。

    法学部は、自らの看板に傷をつけた。
    弁護士になりたくて法学部を志す、そんな人間は減り続けるだろう。
    結果、学部定員割れなど当たり前、法科大学院なんてそれこそ存在理由がなくなる。

    共倒れでなければいやだというのであれば、それも一興
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

    お買い求めは全国書店もしくは共栄書房へ。

    最新記事
    最新コメント
    最新トラックバック
    月別アーカイブ
    カテゴリ
    検索フォーム
    RSSリンクの表示
    リンク
    ブロとも申請フォーム

    この人とブロともになる

    QRコード
    QR