懲戒請求件数・処分数の隔たりと「含有率」という問題

      「弁護士白書」(2014年版)によると、1997年に38件だった弁護士の懲戒処分件数は、2013年には過去最高の98件に増えています。この17年間、年によって10件前後の増減がありながらも、徐々に数を増やし、約2.6倍になったことになります。しかし、全国弁護士会に出された懲戒請求件数は、その比ではありません。新受件数で1997年488件だったのが、2013年には約6.9倍の3347件に上っています。

     推移をみると、2000年に1000件を突破。その後、2年間800件台に落ちたものの、2003年再び1000件台に転じ、以降それを下回ることはなく、ほぼ一貫して増加。2007年の橋下徹弁護士の、いわゆる「懲戒呼びかけ」に起因したとみられている8095件の「光市事件弁護団関連」を含む9585件を突出した例外とし(「『光市事件弁護団』懲戒請求問題が残したもの」)、1000件台だったものが、2012年に一気に3000件の大台に乗り、現在に至っています。

     もうひとつ、この弁護士の懲戒にかかわる興味深いデータがあります。それは弁護士数に対する懲戒処分数の割合です。弁護士人口は1997年の15866人から2013年の33624人にほぼ倍増していますが、懲戒処分数の占める割合は、0.23%、0.28%と大きく変わらず、この間の推移を見ても、0.2%台前半~0.3%台前半で、大きな変動は見られません。

     これらのデータから、二つのことに注目できます。ひとつはもし、この間弁護士会が現実的に一定基準での処分を維持してきたと仮定すれば、圧倒的に懲戒に当たらないレベルの請求が増えていることです。現に弁護士会の懲戒委員会で「懲戒しない」という結論に至った件数は、1997年には381件だったのが、前記2007年の事案にかかわる2008年の8928件を除いて、2012年に2000件を突破、2013年には4432件と一気に4000件台となっています。

     懲戒事案の問題内容での内訳が「弁護士白書」には公開されていませんが、2013年に弁護士会の市民相談窓口に寄せられた、弁護士に関する苦情のトップは、「対応・態度等」(32.9%)で、以下「処理の仕方」(25.7%)、「処理の遅滞」(12.3%)、報酬(9.2%)、「終結結果への不満」(5.5%)、「預かり金処理」(2.5%)となっています。こうした弁護士に対する「不満」や、問題事例と感じたものについて、市民はかつてより積極的に懲戒請求をする傾向にある半面、多くのものについては弁護士会の懲戒基準から隔たりがあることがうかがえます。

     この現実の見方として、弁護士会の一部からは聞こえくるように、市民の懲戒請求に踏み切るハードルが下がり、「言いがかり」を含めた乱訴的な傾向を読みとるものがある半面、逆に弁護士会基準そのものが現実に合致しておらず、噴出する問題事例に対する「甘い」対応がなされているという批判、むしろ懲戒請求に比した懲戒件数の少なさを問題視するものがあります。

     弁護士会がもし、前者の立場であるならば、前記2007年の問題が提起したように、懲戒基準を含めた制度の周知をより徹底化させる必要がある、ということになるでしょう。ただ、このデータを見る限り、弁護士に対する「不満」のはっきりとした行き場としての懲戒請求の増加の前に、それが現実的に効果があるのかどうか。つまりは、弁護士会にとっての乱訴的傾向が、前記効果によって一定のところで収まるのか、それとも請求と決定との隔たりがさらに広がり、それが後者の批判となって弁護士会か追い詰められていく結果になるのか、ということです。

     そして、もうひとつ、注目すべきなのは、前記弁護士数との関係です。懲戒処分数の割合が一定であるということは、有り体にいえば、問題弁護士数の「含有率」が一定であるということをうかがわせます。懲戒件数=不祥事件数=悪質弁護士の数として、これを「弁護士の質」の反映ととる見方が一般的にありますが、いうまでもなく、あくまで懲戒請求に踏み切ったものは問題事例の一部でしかありませんから、これだけで質の高低の程度を測ることはできません。

     ただ、懲戒事案だけで見る限り、増員によって懲戒事案に陥る弁護士の比率が増えた、その意味で質が悪化したということにはならず、有り体にいえば、一定の「含有率」で増えた分だけ増えただけ、というようにとれます。前記「弁護士白書」が、このデータについて一項を設け、二か所で解説文として弁護士数との割合で大きな変化がないことを強調している意図を深読みすれば、懲戒基準の一定性とともに、このことを言いたいのではないかととれなくもありません。

     しかし、これを裏返して見れば、「増えただけ増える」を弁護士会は認めざるを得ないということにもなります。「増えただけ増える」という事態が、弁護士自治の根幹にかかわって来る、いわゆる自浄作用にかかわる、弁護士会にとってあってはならない事態だとすれば、「含有率」を変えられないという現実をどう社会に納得してもらうのかという問題もあるように思えるのです。


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    捨猫先生ありがとう

    アメリカが悪の帝国であることを、証明してくれて感謝します。
    アメリカの人権保障が厚いと主張される方もいらっしゃるようですが、
    それが全くの虚偽であることがよく分かりました。

    アルカイダ
    北朝鮮将軍様

    No title

    すて猫先生ありがとうございました。

    アメリカの人権保障が厚いと主張される方もいらっしゃるようですが、
    それが全くの虚偽であることがよく分かりました。

    大半のトラブルは、正当に報酬を請求してるのに、後から高いだのと騒いだり、弁護士にどうでもいい要求をしてそれを否定されて怒ったりという、ほとんど言いがかりに近いものだと思います

    No title

    間違った知識が司法制度改革をけん引したということもあるので、今回に限り、必要と思われる部分だけ、ボランティアで対応します。経済的に可能な方は、日本の司法制度改革のお手本であるアメリカに留学するなどして、身銭を切って勉強してください。

    あたりまえのことですが、現実を冷静に見る目と豊富な知識・的確な分析能力が、弁護士には求められています。現在のユーザーサイドの評判を無視し、未来に背を向け、刑事弁護もろくにしないのに自己弁護に陥るのではいけません。

    よろしくご高察ください。

    tidbit1
    アメリカでは裁判所がに対する懲戒権を持っていることは、barbriのmpreの最初の方にさえ出てくる基本中の基本。

    tidbit2 公設弁護人のオフィスは裁判所内にある。自分で別のオフィスを借りることも可能だが経済的に無理。
    傍聴した事件のすべてで、陪審員は、半分以上、舟をこいでいる。証拠もほぼ吟味せず(そもそも、陪審員が実際に確認する証拠は少ない)。ある事件では、結局、かなり遠くからの
    「あの男(黒人)が犯人だ」
    という目撃証言が決め手となり(目撃者の視力は不明)、事件数十分後に現場近くを歩行していた男性が、第一級殺人で有罪。硝煙反応や指紋など、日本だったらあるべき客観的証拠はゼロ。
    傍聴のあとの授業で公設弁護人をしている教授に、日本では客観的証拠が重要になるのだがここではちがうのか、と確認したら、
    「ここの州ではそういうこと(客観的証拠の裏付け)はない」
    とあっさり言われる。
    また、コロンビア人弁護士が、アメリカの寝る陪審員についてショックを受けた旨教授に告げると、
    「陪審員が寝る気持ちもわかる」
    と、陪審員の昼寝をフォロー。まじか。
    ちなみに、この州では酌量減刑制度は無。法定刑も枠がかなり狭い。そのため情状弁護が実際には行われない。かなりの数の傍聴したが、全部否認事件(無罪弁護のみ)。実質的な弁護活動は無。
    州により制度は違い、また州裁判所と連邦裁判所も違うが、公設弁護人の評判はおおむね芳しくないようだ。アメリカの刑事裁判の実態は、英語の不自由な日本の弁護士や教授が裁判傍聴しても、わからないらしい。

    マイケル・ムーア監督の映画によれば、まじめな刑事弁護人を務めていたマイケル・ムーアの妹は、裁判所からくびにされた。同種の話は、検索すれば出てくる。

    このような制度をお手本とした現在の日本の法テラスのユーザーからの評価も、要検索。

    そして、周りの弁護士がどうであれ、私は倦まずたゆまず努力してまいります。

    笑止

    >どういった点でアメリカの人権保障が厚いのか、
    >是非教えていただければと思います。

    「何でも日本が一番」論者の方でしょうか? 滑稽です。

    最低限の常識は、人に聞かないで自分で身に付けて下さい。

    No title

    >国際常識とかけ離れたご意見に、ただただ呆れかえるばかりです。
    >アメリカの方が日本より、人権保障に厚いのは、世界の常識ですよ。
    知りませんでした。
    どういった点でアメリカの人権保障が厚いのか、
    是非教えていただければと思います。
    よろしくお願いします。

    正気を疑います

    >人数を増やせば、弁護士による人権保障機能は、著しく低下します。

    国際常識とかけ離れたご意見に、ただただ呆れかえるばかりです。アメリカの方が日本より、人権保障に厚いのは、世界の常識ですよ。

    世界の常識とかけ離れた、「大本営発表」の様な意見をまき散らすダメな弁護士達。

    正気を疑います。

    こういうダメな弁護士をなくすには、もっともっと弁護士を増やすしか無いんでしょうね。

    No title

    懲戒委員会に所属していた弁護士から、伺ったことです。

    ご指摘の通り、懲戒請求の件数は増加しています。そのため、委員は完全にオーバーワークとなり(委員会のみならず、事務所事件もあれば、家事育児介護など家族の一メンバーとしての役割もある)、弁護士の一生涯を決する懲戒処分が相当安直に決せられているそうです。

    消費者の安全性を担保するはずの制度が、もう弁護士の手におえない状態。これでは、いずれ、アメリカのように、弁護士会のみならず裁判所も懲戒処分の権限を持つ制度に向かうかもしれません。もちろん、こうなれば、アメリカの司法制度のように、公設弁護人(日本の国選弁護人、特に法テラスの弁護士がこれに酷似する)が、裁判所の言うなりとなる。万が一骨のある弁護士がいれば、解職(その事件について解任する、というのではなく、公設弁護人としての資格のはく奪)でしょう。人数を増やせば、弁護士による人権保障機能は、著しく低下します。知ったかぶりをしてちゃかす連中はいますし、無関心な国民が大多数ですが、いずれ不利益を受けるのはこんな人たちです。

    若々しさと健康とお金がなければ即死、それも自己責任。自己責任に慣れず、なんとなくアメリカ風になればいい社会なんじゃ、などと他人まかせの日本人にとって、とても痛い将来がまち受けています。

    No title

     公認会計士でさえ大まかな処分基準が作成・公表されているのに,弁護士は行政法を勉強していない人が大半を占めているせいか,懲戒処分の明確な基準はそもそも作成されていません。先例による「大体の相場」があるだけです。
     一方,弁護士に対する懲戒請求は,単なる感情的な理由でなされることが多く,特に最近は弁護士の社会的地位が低下し弁護士を軽く見ている人が多くなりましたから,懲戒請求の件数が増えたことの一事をもって,弁護士の質や倫理水準の低下を論じることはできないと思います(ただし,言い掛かりのような懲戒請求の代理人を弁護士がやるようになったのは憂慮すべき事態ですが)。
     懲戒請求は誰でも出来ると言っても,事実上または法律上の根拠を欠く懲戒請求であって,請求者も普通の注意を払えばそのことを知り得たようなときは,弁護士に対する不法行為として損害賠償請求の対象となります。懲戒請求制度は昭和時代からあるにもかかわらず,この問題に関する最高裁判決が,平成19年4月24日と比較的最近に出されている点にも注意しなければなりません。

    No title

    いまどき紹介者必須でやっていける弁護士がどれだけいるのやら

    懲戒される弁護士の約半数が20000番以下のベテランであることからしても司法制度改革による若手弁護士の質の低下と弁護士懲戒の増加をどこまで結びつけられるのか根本的に疑問

    No title

    防衛策として、法テラス利用とか飛び込み(HP経由)とか、紹介者のいない依頼者は一切お断りの流れになるだけなのでは?
    訳のわからないことで因縁付けられて絡まれるのは、皆めんどくさいでしょう。
    昔、長老が、然るべき紹介者のいない依頼は避けろと言っていたことを思い出したよ。

    客のいない即独の若手が無理して集客して地雷を踏んじまったみたいな傾向になるんだろうね。

    No title

    依頼者に損害を与え、あるいはその金を横領しても、戒告、せいぜい業務停止どまりなのに、会費を滞納すると退会命令か除名

    つまり弁護士会は、客の金を盗んででも、俺様に払えと言っているのではないのか?

    No title

    懲戒行為をする輩が増えないように努力すりゃいいだろう。
    受付で受付ない…はないだろうから、そこから先の審議に公平さを入れて(懲戒委員がほぼ弁護士とか公平といえるのか)、普通の訴訟と同じように互いの書面を期日通りに出させればいい。あるいはもう少し一般人が怯えない手続を定めればいい。
    戒告と業務停止の間に何かもう2つくらい罰則を設ければいい。

    できる努力すらせずに、「人数が増えたら増える!」って当たり前のこと言われたってしかたないだろ

    No title

    裁判所の司法統計によれば、訴訟事件数が激減しています。

    弁護士の仕事の総数が減る中で、懲戒件数は人数増加に合わせて増加している。不気味な兆候です。

    No title

    懲戒が一定数でとどまっているのは、どうせこんなのに効果はないのがわかってるからだろ。
    しょせん戒告・業務停止・退会命令・除名を言い渡すだけであって
    依頼者に金銭的に賠償があるかどうかっつう問題とは別。
    まして本格的にやばくなけりゃあせいぜい戒告だろ。
    懲戒するだけ時間の無駄だぜ。






    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

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