法科大学院の「くびき」

     奈良弁護士会が12月2日の総会で、法曹養成に関する注目すべき決議を採択しました。①司法試験に関する法科大学院修了の受験資格要件削除②同要件を存続させる場合の、予備試験受験資格・予備試験合格者の司法試験合格制限禁止③司法修習生への給費制復活④法曹に対する有償需要増大が確認できるまでの司法試験合格者数1000人以下への削減――の4点を求めるものです(「法曹養成制度の改善を求める総会決議」) 。

     この決議を見て、まず率直に感じたことは、なぜ、日弁連、あるいは各地の弁護士会が、この決議が求める方向で一致できないのか、ということです。法曹志願者の減少、つまりは法曹への道そのものが拒絶されているという、法曹界の人的基盤が危ぶまれている状況にあって、この決議の方向は至極妥当であり、その意味では現実的です。

     決議は、はっきりと拒絶要因の除去を求めています。受験要件化、給費制廃止、そして弁護士の就職難。ここでも繰り返し書いてきましたが、有償・無償をごちゃまぜにしたニーズ論を土台にしてきたように見える、弁護士会内を含む増員論に対しても、実証的な経過措置を求めている、と読めます。

     それが、なぜ、弁護士会内でも「画期的」と評されるようなものとなってしまうのか。その答えも、実ははっきりしていますし、口にしないまでも多くのこの世界の人間が認識しています。つまりは、制度としての法科大学院の存在です。端的にいえば、これをなんとしてでも擁護するという発想から逆算すると、どうしてもこういう立場には立てない、むしろ立つわけにはいかない、ということになるからです。
     
     「法科大学院の修了を司法試験の要件とすることが、年齢的にも、経済的にも、法曹志望者のリスクを高めてしまい、有為な人材を他の方面へ放逐する結果となっているおそれがある」
     「したがって、法科大学院については、少なくとも大幅な統合・整理を促進し、法曹志望者にとって強い需要があり、また成果を挙げているもののみを存続させるべきである。その上で、多種多様な法曹志望者を幅広く受け入れ、法曹界に人材を確保するという観点からは、法科大学院修了要件をすべての受験生に課すべきではないから、受験資格要件を削除すべきである」

     奈良弁護士会は決議理由のなかで、こう述べています。志望者たちの動向を、非常に現実的な「価値」に対する判断とみれば、理念や理想ではなく、その「価値」をはっきりと示せた法科大学院が残るべきであり、少なくともその発想からは人材確保の観点を無視してまで採用する要件による強制化は意味がない、というのは当然のことです。強制ではなく、「価値」の実証が、まずなければならないのですから(「『価値』の実証性から見る法曹志望者の『選択』」)。

      しかし、法科大学院制度死守という立場からは、この受験要件は事実上、生命線ととらえられています。強制化なくしては選択されない、それは逆に言えば、「価値」の実証性での勝負の放棄、あるいは自信のなさの表れ以外の何ものでもありません。

     この受験要件化を一時的に停止して、その間に大学側が新たな体制整備を議論・検討すべき、ことを提唱している大学関係者と話をしたことがあります。現実的には彼の立場は、大学関係者のなかで圧倒的に少数派で、彼の言を借りれば、大学内でほとんど議論すらできる状況ではない、ということでした。強制化の論理で志望者をつなぎとめることの限界、あるいは影響の大きさへの認識は大学関係者のなかにあっても、「受験要件化を手放したらば終わり」という発想がいかに強いのかを知りました。

     もっともその彼にあえて聞きました。「停止したあと、現実的に受験要件化が再開されることはあると思いますか」。彼は、苦笑しながら言いました。「それは、まずないね」。なんとかして大学関係者に現実を分からせ、大学がこれ以上この問題をおかしな方向に引きずるべきではない、というのが、彼の本当の思いであることを知りました。

     奈良弁護士会の決議は、現在の弁護士会内のこの問題に関する分裂的世論状況を生んでいる法科大学院の「くびき」といえるものから、解き放たれている印象があります。そこには、同弁護士会所在の奈良県が、全国に23ある法科大学院不在県の一つであることの関係を指摘する声もあります。奈良弁護士会と時を同じくして、複数所在県にある兵庫県弁護士会の常議員会で、反「改革」派会長のもとでも、同様の受験要件削除を求める決議が、僅差で否決されています(武本夕香子弁護士のブログ)。

     奈良弁護士会決議の方向を向けない弁護士・会は、一体、何を優先させ、何に付き合っているのか。この決議を、まず、そのことを考える機会にしてもいいように思えてきます。


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    使えないバカを排出したローには、そのことで事務所が負った損害を賠償請求できる制度を作ったほうが良いな

    ローバンザイ、旧試験はクソと叫ぶ弁護士の事務所に、ロー卒どれだけ入ってるの?定着できてるの?
    多くは戦力にならず早めに肩たたきらしいけど。
    後の期になればなるほど、ハズレが増えるとか。ということは、ロー制度が続くほど使えない奴が増えるってことでしょ。
    弁護士という資格名の信用なくそうとしてんのか?ローバンザイな奴らは。

    No title

    弁護士にばかり自由競争を要求しないで
    法科大学院ももっと自由競争したらどうですかね。

    税金を法科大学院に投入しない。
    司法試験の受験において
    法科大学院を卒業したかどうかも
    全く問わない。
    それで法科大学院は
    予備校と自由競争すればいい。
    それで淘汰される法科大学院は、
    無くなればいい。

    No title

    一つ前の方はまぜっかえしのロー関係者でしょうが、自分の依頼者の利害を反映させるために、少数でありながら、声だけでかくすることで周りを黙らそうとする兵庫のアホに比べて、ずっとまともでしょう。
    「好き勝手」言っているのは、ローの利害のためなら、理屈で間違っても聞こえないフリをする輩共です。

    No title

    奈良には、ローを抱えた大学法人はなかったと思いますが。
    つまり、自分の顧問先等クライエントがいない場所では、好き勝手なことが言えるだけ、のような気がしますけど。

    No title

    奈良弁護士会は、会員相互の顔が見え、腹を割って本音を話し合える家族的な雰囲気を持った団体です。この古き良き弁護士会の性格が、英断の背景にありそうです。

    また、他会と比べて入会の際のイニシャルコストが高いために新規入会会員数が伸びず、さらに4月の消費税増税後の地方経済沈滞により経営難の弁護士が増加して請求による退会者が増加する危険性も否定できず、このままでは会の存続にかかわる、という危機感もあると思います。

    No title

    >方向を向けない弁護士・会は、一体、何を優先させ、何に付き合っているのか

    法科大学院不在県はわかりませんけど、法科大学院在県ですと、弁護士会の委員会のうち、法科大学院関係の委員会の多いこと多いこと。
    これをいきなり法科大学院を切り捨てましょう…なんてことになったら、今までの苦労や友好の努力はどーなるんですかーって感じでしょう。
    自治体の任期付職員の応募も盛んになってきた現在、そろそろ「採算があわない」と言われてきた法科大学院関係の職にも応募者が増えてくるのではないかと思います。そうなると余計、生き残らせざるを得ない。
    唇歯輔車ってやつです。弁護士会から止めることはできないんですよ。
    プロフィール

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

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