金沢弁護士会、特定秘密法反対活動「自粛」という前例

     金沢弁護士会が計画していた特定秘密保護法反対の街頭活動を、石川県選挙管理委員会からの「総選挙中の活動は公選法に抵触する可能性が高い」との指摘で自粛するという事態に、二つの意味で「遂にここまできたか」という気持ちにさせられました。

     一つは、いうまでもなく、弁護士会の対外的な姿勢です。日弁連・弁護士会は特定秘密保護法への反対姿勢を明確にし、全国での街頭活動を積極的推進する立場です。金沢弁の自粛は、県選管のいう、公選法201条の5が衆院選挙期間中に禁止している政党や政治団体の活動に当たる可能性を認めた、もしくはそれに配慮したものにとれますし、少なくとも社会からはそう見られます。それでいいのか、という問題です。

     日弁連・弁護士会の特定秘密保護法反対運動が、政治団体によるものでも、政治活動でも、まして特定の政党・候補者を支援するものでもないということは、彼らにとって絶対に譲ってはならない、また社会に譲ったととられてもいけない、生命線のようなものだと、私は認識してきました。これは、もちろん同法反対運動に限りません。あくまで人権擁護を掲げる専門的職能集団として、「人権擁護」の視点から、言うべきことは言う、というのであるならば、仮に政治的という批判を受けようとも、立場として同様の政党・候補者が存在しようとも、それこそ筋違いとして、その批判は絶対に跳ね返さなければならないはずです。

     いまさらいうまでもないことですが、国家秘密法をはじめ数々の法律制定に当たり、政権政党と対峙せざるを得ない局面で、弁護士会はその活動を貫いてきた実績があります。それを政治的とか、「左」だとか、批判する声があったとしても、それを跳ね返してきたのは、前記絶対に譲らない「人権」を掲げる専門家集団の一線があったから、のはずです。

     そうでないと、どういうことになるのか。つまり、仮に日弁連・弁護士会が、本来、専門家の立場から筋を通し、発言しなければならない事柄に対して、それが政治性を帯びるとされた場合、その都度、この専門家集団は沈黙する、ということになります。そのことへの、あるいはそう社会に認識されることへの自覚は、あるのか、ということを問いたくなるのです。

      メディアに対して、金沢弁護士会の飯森和彦会長は、本件について、公選法違反を認めていません(12月9日付け東京新聞夕刊)。しかし、県選管の見解は、弁護士会側からの問い合わせで引き出されたものであったり、日弁連も政治活動と誤解がないように「留意」するよう全国弁護士会に連絡していた、ということも伝えられています。公選法違反に当たらないという解釈までしながら、ほかならない弁護士までがその主張を貫いて、使命に掲げる筋を通せない、という風にとれないでしょうか。「配慮」の妥当性の方が、このことよりも社会に受け入れられるという判断をしているとすれば、そのことにも首を傾げたくなります。

     そして、実はこうした弁護士会の姿自体が、もはや「特定秘密保護法」体制そのものではないのか、と思えてならないのです。

     もう一つ、今回の事態で見落とせないのは、弁護士会執行部の対内的姿勢です。前記東京新聞へのコメントで飯森会長は、今回の決断について、「活動に慎重な意見もあって見解が分かれたが、会内の団結を保つために判断した」と語っています。同会理事者のなかにも、相当に意見の対立があったことも伝えられています。つまり、「配慮」は直接的には会内世論に対してなされた、という風にもとれます。

     近年特に会内に広がりつつある、弁護士会の活動への不満、とりわけ会内合意形成のあり方や個々の会員の意思・信条とのかい離という問題意識からすれば、この「配慮」への評価そのものは、選挙期間中という条件付きもあって、肯定的にとられる余地もあるかもしれません。現に、ネット上での発言は、一部に強い批判、落胆の声はあるものの、予想以上に弁護士の反応には静かなものを感じます。

     もちろん、案件にもよるわけで、前記問題意識を共有しながら、特定秘密保護法に関しては、別という見方もあるようです。ただ、これまで「人権擁護」という使命で束ねてこられた弁護士会という存在が、前記会内世論の状況から、もはやこういう局面で現実的に前に踏み出せなくなっている、ということを示しているともとれるのです。(「弁護士会意思表明がはらむ『危機』」)

     この二つの意味で、金沢弁護士会は一つの「前例」を作ったといえます。それが弁護士・会という存在にとって、そして私たち市民にとって、何を意味するのか。今日、施行される特定秘密保護法によって形づくられようとしている「体制」とともに、私たちは、今、考えなければなりません。


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    公選法規定について

    皆様、コメントありがとうございます。

    また、公選法の規定に関するご指摘ありがとうございました。ご指摘の通り、問題となっているのは201条の5です。訂正させて頂きます。

    No title

    日弁連が、総会の多数決を取らずに、勝手に日弁連の
    意見として表明するのは、それに反対している会員の
    人権を侵害していると思います。
    人権擁護を訴えるのであれば、まず会員の人権を守って
    欲しいと思います。

    No title

    少数の意見で多数の意見を無視して日弁連の意見として
    表明するのは、もうやめてほしいです。

    No title

    良い気味なのではないでしょうか。
    会費を垂れ流し政治活動を続けるバカどもに良い薬になったでしょう。

    No title

    公職選挙法
    http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S25/S25HO100.html
    第二百一条  削除

    となっております。

    そのため、金沢弁護士会が具体的に何をなさろうとしていたのかによりますが、今回のケースで公選法に抵触する可能性があったとすれば、201条の5でしょうか。
    (総選挙における政治活動の規制)
    第二百一条の五  政党その他の政治活動を行う団体は、別段の定めがある場合を除き、その政治活動のうち、政談演説会及び街頭政談演説の開催、ポスターの掲示、立札及び看板の類(政党その他の政治団体の本部又は支部の事務所において掲示するものを除く。以下同じ。)の掲示並びにビラ(これに類する文書図画を含む。以下同じ。)の頒布(これらの掲示又は頒布には、それぞれ、ポスター、立札若しくは看板の類又はビラで、政党その他の政治活動を行う団体のシンボル・マークを表示するものの掲示又は頒布を含む。以下同じ。)並びに宣伝告知(政党その他の政治活動を行う団体の発行する新聞紙、雑誌、書籍及びパンフレットの普及宣伝を含む。以下同じ。)のための自動車、船舶及び拡声機の使用については、衆議院議員の総選挙の期日の公示の日から選挙の当日までの間に限り、これをすることができない。

    「政治活動を行う団体」、「政談演説会」、「街頭政談演説」などの定義が不明確であるため、表現の自由を規制する法律が不明確な場合、萎縮効果を生むので危険、を地でいく規定です。

    結局、金沢弁護士会には憲法訴訟をするという覚悟はなかったのか、現在の中国・韓国による日本侵略の数々を見れば本音のところでは特定秘密保護法は必要だと考える所属弁護士が多かったのか。地理的には後者の可能性も高いと思われ、またそれは現実を見据えた立場でもあると思います。

    No title

    金沢弁護士会が特定秘密保護法反対の街頭活動を自粛したことも、選挙期間中のイベント内容が政治団体の活動と誤解されないよう留意するよう日弁連が事務連絡をしたということも、私にとっては衝撃的です。

    日弁連が政治家や日本弁護士政治連盟といういかがわしい団体と近付き過ぎた結果、こんなことになったのでしょう。
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

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