「おカネ持ちしか」論と「多様な人材確保」

     「おカネ持ちしか法曹になれなくなる」。昨年、いわゆる司法修習生「給費制」問題をめぐって、弁護士会側から出された、この切り口は、:結果として制度の1年延長につながる、それなりの説得力を持ったのだと思います。

     国民の税金という観点から、弁護士会の存続要求に冷ややかな一部マスコミの筆が、一瞬、この論調によって止まった観もないわけでもありませんでした。しかし、さすがそこは、「朝日新聞」というべきでしょうか。以前にも紹介しましたが、「社説」(2010年11月24日)で、前記切り口と、「借金があると利益第一に走り人権活動ができなくなる」という主張を取り上げ、「脅しともいえる言葉」などと、「嫌みともいえる言葉」を書いています。

     その前ふりには、これまでの「朝日」論調にふさわしく、弁護士の増員を抑制する動きを「権益を守ろうとする動き」として、「給費制」問題がなにやらその流れで、またぞろ弁護士会が国民の税金の使い道で、エゴイスティックなことを言っているような、印象を与えることも忘れていません。

     しかし、「朝日」も含めて、多くのメディアは、「おカネ持ちしか」論を、ある意味、一面的にしかみていません。つまり、「おカネ持ちしか」ということは、もちろん志望者の公平な機会保障の問題であり、また、前記「脅し」とされた、いわば経済的な無理をすることの弊害の問題でもありますが、もうひとつ、根本的なこととして、無理せずともやれる「裕福な人」で法曹が占められていくことの問題はないのか、ということです。

     実は、「朝日」も含め、この点の話に触れるものが、目につきません。「朝日」あたりは、もちろん、これまた「脅し」と片付けるかもしれませんが、どうも大マスコミは、そうした「裕福」でない層出身者が、法曹にいるかいないかは、さほど大きな問題ではないととらえているように思えます。

     特に、素朴な疑問を持つのは、裁判官についてです。どうも「給費制」問題は廃止を反対している弁護士についてばかり語られていますが、仮に富裕層だけが、この国の裁判官になっていくとしたならば、どんなに法律に精通していても、大衆や世情に対する根本的な見方、あるいは価値観に対する判断の偏りが生まれてこないのか、そこは誰か心配してもいいんじゃないか、という気がするのです。

     まだ弁護士はなってから、社会・世情を知り、経済的なものを含めた大衆の感覚に直接して、鍛えられることもあるかもしれませんが、裁判官はそれに比べれば、機会もありません。「階層」の偏りが、持つ意味は大きいはずです。

     事情的に踏まえなければいけないのは、「給費制」の存続には、最高裁が否定的だということです。裁判官の問題が注目されないのは、弁護士会のように、税金がかかる、つまらない主張を掲げていないから、ということでしょうか(「司法修習生『給費制』廃止への思惑」)。

     ただ、増員問題にしても、弁護士を増やせ、増やす手をとめるな、と連呼するマスコミが、身近で使いやすい司法の要ともなるべき裁判官の増員について、声高にいわない現実があります。これも、弁護士とは違い、税金がかかる話だからということでしょうか。

     最高裁判所が「給費制」存続に否定的なことの最大の理由も、そのしわ寄せで司法予算が削られることへの懸念にある、と言われています。これは、とりもなおさず、現政権で「給費制」存続によって、大幅な司法予算の拡大は見込めないと判断したともとれます。「税金の使い道」という切り口一辺倒のマスコミ的には、裁判所は弁護士会よりも賢明ととらえているのかもしれません。

     ただ、「おカネ持ちしか」論をいう弁護士会側の最大の弱点は、肝心の法科大学院について、この論調に立てないということです。「給費制」について、これをいうならば、根本的な問題としておカネがかかる法科大学院制度についても、なんとかしなければならないはず、と思われて当然だからです。

     あくまで法科大学院を本道とする形が、目標としていた「多様な人材確保」につながっていないことは明白になってきていますが、「給費制」にしても法科大学院にしても、どうも「おカネ持ちしか」は「多様な人材」の問題とは、切り離されているような印象を持ちます。

     「給費制」については、弁護士の中にも、本当に必要な層にだけでも当てられる形を目指すべきという意見があります。全員に与えられるのは、「弁護士は恵まれている」「なってから稼げる」として、特別待遇を許すなとするマスコミ・世論に抗することはできず、困難とする見方をする人も出始めています。

     ただ、やはり大マスコミと、それによって作られている世論の、この問題のとらえ方には、偏りがあると感じてしまいます。

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    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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