「法曹の質」研究結果が教えるもの

     「法曹の質の実証的研究」という興味深いテーマでの、ひとつの研究成果が、「東京大学法科大学院ローレビュ」(第9巻、2014年10月) への太田勝造・東大教授の寄稿で紹介されています。

     その解説によれば、この研究は、日弁連法務研究財団の「財団研究」として開始され、太田教授が代表を務める「『法曹の質』研究会」は、「法曹の『質』を弁護士の法実践に根差した形で概念規定し、それを客観的に測る理論的方法を開発し、法科大学院以前の法律家と法科大学院経験の法律家との対比、法曹人口の増加前に法曹となった者と後に法曹になった者の対比などを行うことを究極の目標」としているそうです。

     「改革」をめぐり、さまざまな評価がされる「質」の問題に対して、なんとか理論的実証的な評価を導き出そうという試みととれます。今回、紹介されているのは、あくまで103件の民事訴訟で現実的にとられた弁護士のパフォーマンスを、熟達した弁護士が評価し、それをもとに相関係数などを用いて分析しています。

     詳しくは、是非、ご覧頂ければと思いますが、恥ずかしながら、この試みの方法が、法曹の「質」の実態をどのくらい現実的にあぶり出すものなのか、その妥当性に関しては、正直、私の能力ではとても評価・論評できないことを、まずもってお断りしなければなりません。

     従って、そのプロセスの部分はすべて飛ばして、あくまでこの方法によって出た結果に限った話となりますが、その中で特に取り上げたいのは、おそらく弁護士利用者にとって、最も関心が高く、かつ業界関係者にも刺激的な結果となった弁護士の実務経験と民事弁護の質にかかわる結果です。実務経験が長いほど民事弁護の質は向上する、ということを、この分析でもひとつの「仮説」としていますが、およそ一般の感覚もそういうものです。これを測るうえで調査は、司法修習期をもとにしています。

     結論から言うと、調査から得られた結果は仮説とは正反対。「弁護士としての実務経験が短いほど、ないし、若い弁護士ほど、民事弁護の質が高い」というものでした。実務経験の重要度が、この結果から減殺されてとらえられるとすれば、それこそ実務感覚からは、異を唱えたくなる方もいるとは思います。

     ただ、興味深いのは、この現象が起きた理由として、この研究会が立てている新たな三つの「仮説」です。

     ① 経験が短いほど手持ち事件も少なく、1件1件により多くの時間と労力と情熱を注ぐことができるため(経験が長くなると手持ち事件も増加して、1件あたりに割ける時間と労力が限られるようになったり、弁護士としての事件にかける情熱が冷めたりする)
     ② 司法試験の勉強の成果がより新鮮に残っているためであるとか(実務を続けていくうちに法的知識が古くなり、新しい判例や法令を十分にフォローできなくなっている)
     ③ 実務経験が長くなるにつれて、いわゆる「手抜き」の仕方をマスターするようになり、評価者弁護士にそれを見抜かれた。

     手持ち事件数増加による物理的な差異から生じる問題、新人の知識の新鮮度とベテランの勉強不足の問題、そして、経験が生み出す「心得違い」、いわばスレていく問題。この点は、おそらく実務経験の重要度を強調したい弁護士のなかにも、これまた実務経験から実感されるものがあるように思います。

     この論稿では、この点を今後の研究課題としていますが、結論として、利用者目線を意識した、こんなまとめ方をしています。

     「以上からいえることは、弁護士の民事弁護の質は、司法修習を終えて実務に入って後、ほぼ単調に劣化しているということである。逆にいえば、市民の立場からは、いわゆる著名な『大先生』とされる老齢の弁護士に委任するよりも、より若い情熱的な弁護士を雇った方が良いということになろう。ないしは、大先生の事務所にいる優秀な若手に実質的な主任を担当してもらうべきということになろう」

     原因に関する研究課題を残しつつ、この点に関しては、やや早々に結論に至ってしまった感もありますが、これまで市民にアドバイスを求められても、大方同様の方向のことを付言してきたという事実とは、私なりに合致します。それは、逆に市民の声として、ベテランの評判に期待し「大先生」の門をたたいたものの、そのフットワークの悪さに落胆したとか、逆に若くて大丈夫かと思っていた先生の熱心さに救われたという話を、散々耳にしてきたからでもありました。

     お断りしたように、この調査そのものが、どこまで現実を浮き彫りにした実証性をともなっているのかの評価はできません。ただ、この経験がもたらす「劣化」という問題は、弁護士が避けて通ってはいけないテーマであることを、改めてこの結果は教えているように思えます。

     そして、さらにもう一つ、この研究が、あるいは当事者の意図とは関係なく、私たちに教えていることがあります。それは、改めてこの論稿をご覧になっていただければと思いますが、「法曹の質」というものの実態には、そう簡単に迫ることができない、まして素人が複数の弁護士に当たって意見を求めたくらいでは、本当の評価、あるべきだった弁護が何だったのかにたどり着くことが非常に困難である、という現実です。

     そのこともまた、この「改革」のあり方を考えるうえで、重要な視点であることを、この研究は教えてくれているように思えます。


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    年を取ることで生産性が落ち、頭が固くなり、ピック病も疑われるレベルで老害甚だしく、さらに不景気ゆえに、貧すれば鈍するを地でいくような劣化した高齢弁護士がかなり目立つ、というのは、事実です。事件化や事件放置等、仮病で書類提出期限を伸ばす等、枚挙にいとまはありません。同時に、レベルの低い仕事をして、周囲から軽蔑されているのに、全く気づかない尊大な法科大学院教授も目立つ。この論文は、目くそはなくそを、よく体現しています。

    No title

    若手が優秀だったら困る?
    なんで?
    優秀じゃないから困っているんだけど?

    No title

     若手が優秀ってことになったら皆さん困りますものね。

    No title

    どこぞの学者の研究発表について
    ことさらに裁判所の意向を受けたといった陰謀論を好むようでは
    その弁護士のお先も知れたというものでしょう。
    まあ、本調査の手法や結果が単純に「質」を示しているかには疑問なしとはしませんけど。

    >書面作成・証人尋問等の訴訟関係の弁護士としての能力のピークは、40歳代にあるような気がする。
    という指摘は
    例えば将棋の上位棋士たちの勝率が
    40歳代後半から大きく下がることなどに照らしても
    ありえることかと思います。

    No title

    若手対策のために日弁連はかなりのリソースを使ってるけれど、そんなに若手が優秀なら、若手対策の必要などないよね。
    むしろ、老弁対策をしましょう。若手は優秀なんだから自分でやれるでしょう。がんばってね。

    No title

    言霊という言葉もありますので。

    「司法改革推進派に不幸が訪れますように。」

    No title

    弁護士歴5年以上が対象ならば、新人ではなく、中堅です。しかも母集団が小さすぎる、裁判所の意向反映の調査項目立て、密室での弁護士選定。誰がこんな統計を信じるのか。法科大学院の教授は、ひょっとして馬鹿なのか。それとも推進派に乗っ取られているのか。

    No title

    評価される対象となった弁護士の世代が60期までで,法科大学院世代がほとんど含まれていない調査の手法には恣意的なものを感じます。

    No title

    「笑止千万のプロパガンダを、相も変わらず法科大学院は流し続けている。」
    ということを報じて頂き、警鐘を鳴らして頂いたことに、素直に敬意を表します。

    No title

    弁護士歴30年の田舎弁護士ですが、相手方になった弁護士を見たり、共同受任をした弁護士を見たり、また自分自身を振り返ってみて、書面作成・証人尋問等の訴訟関係の弁護士としての能力のピークは、40歳代にあるような気がする。弁護士歴でいくと、10〜20年くらいの間にピークがあるように思う。
    50歳になって急に能力が落ちるわけではないが、先輩弁護士も私も50台後半になると鈍くなっている印象がある。それが60歳を超えると次第に顕著になっていく。70歳以上でレベルの高い処理をしている弁護士を見たことがない。
    研究結果の区分で1期〜36期というのは、だいたい60歳以上、37期〜50期というのは、だいたい50歳代、51期〜60期というのは、だいたい40歳代にあたると思われる。
    そうすると、研究結果は、私の感覚と合致しているように思われる。


    No title

    この論文に騙されないよう、よく論文全体を見ることが必要です。これも、結局、も密室で作り上げられたレトリックに過ぎません。

    まず持って言いたいのは、この「弁護士評価者」は誰なのか、ということです。私は登録10数年の弁護士ですが、この弁護評価者選抜に関する通知は全く来ていません。誰がどのように選抜したのか、さっぱり知りません。密室です。こんな論文が作られるために作業が行われていたことなど、ごく一部の人たちだけであって、密室で言いように作られたデータとこれにもとづく論文には、信用性はありません。

    アルファベットを並べ、なにやら権威がありそうな名称を並べ立て、読者は何が何だか分からないまま煙を巻かれる。

    これは、司法制度改革の中でもよくあったことです。弁護士でなくとも十分気づけることですので、よろしくお願いします。

    はっきり言えば、裁判所にとって与しやすい弁護士が、高評価を得られる調査です。

    ①めんどくさい弁護士を低評価、くみしやすい弁護士を高評価、という裁判所の意向と、
    ②新人弁護士激増を肯定したい、という司法制度改革推進派の意図が、
    見事に合致した、政策的意図が見え見えの論文です。

    ①についてもう少し説明すると、裁判官の人事査定に、既済件数があります。また日々の業務で裁判官が楽になるように「協力的」な弁護士が高評価をうける仕組みになっているのです。

    これは、135ページから136ページの部分を読めば分かります(『』は筆者。)。

    「本研究では、『最高裁判所の協力』を受けて、横浜地方裁判所での予備調査と東京地方裁判所での本調査の二段階で実施した。」

    「まず横浜地方裁判所で実施した予備調査では、『一件あたりにかかる時間(注:はたして、河野さんが念頭に置いている新人で熱心な弁護士が、時間短縮に協力的でしょうか。無駄な引き延ばしはしないにせよ、丁寧に事案に取り組み、裁判所の不当な和解勧告にもめげずに主張立証に努める結果、裁判所にはとてもいやがられるのではありませんか。次の「評価項目」からはあえて分離独立して、まずは時間短縮を挙げているところからも、裁判所の意図が明白です。)』、評価項目の適否、評価方法の適否などを確認することを目的として、103件での民事訴訟でのパフォーマンスを、弁護士評価者に評価してもらった。」

    「弁護士評価者としては、弁護士実務を5年以上経験した物であることを最低条件とし、その中で、原則として弁護士登録10年以上の者を選び、さらに『その中でも特に弁護士会の中で評価の高い熟練の弁護士を選抜した。』」

    ・・・誰ですか、この「さらにその中でも特に弁護士会で評価の高い熟練の弁護士を選抜した」のと、「選抜」された弁護士は?

    私は知りません。全く公募などはされなかったからです。

    関わった弁護士の人数は、数人とか十数人とか、密行性を維持できるレベルでしょうね。

    選抜したのは裁判所。
    選抜されたのは司法制度改革推進派の、もはや実務に携わっていない、弁護士会上層部を占める弁護士。


    河野さんご指摘の、新人や中堅ががんばってくれて救われた、という事案はあるでしょう。私も、そのように依頼人から言われたことがあるので、分かります。

    ただし、忘れてはならないポイントがあります。これは、経済的には給与が保障され(つまり、所属弁護士事務所の先輩達の経済的支援の下で)、先輩弁護士からの十分な指導などの、総合的なバックアップのあるから、できた、ということです。

    先輩弁護士としては、
    「自分がやろうにも他に仕事がある、しかも経営も考えなければならない。しかし見捨てることはできない事案だ。そこで、事件を新人に振り分ける。おまえの給料は払うから、思い切りやってくれ。ただやりすぎて人様に迷惑をかけたり懲戒処分を受けたりしないよう、報連相はきちんとしてくれ。」
    というわけです。

    このようなバックヤードを見ずに、
    「新人のおかげで」
    というのは、依頼人サイドの大変な勘違いです。

    エキセントリックな依頼人を持ち、当事者化が極端になり、司法試験レベルどころか学部レベルの知識まで吹っ飛び、公文書毀棄などの犯罪行為を犯す寸前までいった、とんでもない新人のき弁に、最近出会いました。本人に警告してこの件は事件化せずにすみましたが、普通は相手方弁護士ではなく、同じ事務所の先輩弁護士がやることなのではないでしょうか。

    OJTの必要性は、今も昔も変わりません。しかし、OJTが不足しているため、危険な新人弁護士が増えている現状は、業界人であれば共通認識です。

    このような論文が一人歩きして、
    「新人『のみ』で大丈夫」
    というプロパガンダを広めれば、弁護士会も裁判所も楽ができるのでありがたい。しかし、消費者サイドから見れば、危険な新人弁護士を拡散するようなことにつながりますので、大変に危険です。


    No title

    新人弁護士が優秀であるかという問題と
    ベテラン弁護士が自分とこで採用できる(経営状態)かどうか
    というのは別問題。

    いっそのこと、新人弁護士は自分とこの事務所に採用(常駐するとはいってない)
    事件が入るまで自宅待機
    っていう形態がでてきてもおかしくないな。
    ノキ弁は場所を食うけど
    自宅待機させて事件があった時だけ呼び出すのなら場所も食わないわけで

    No title

    いいんじゃない?若手がそんなに優秀だってんなら、引く手あまたで、毎年、採用の予定がありますか、なんてFAX送られる理由もないよね。

    No title

    問題の捉え方がそもそも間違っている。

    …ってやつですかね。

    No title

    裁判所との協議会などで,最近登録の若手弁護士にどう研修しているのか,どうするつもりかって議題が当たり前のように出るんだけれど,その議題は前提を誤っているってこと?
    若手弁護士のOJTをどうするかって理事者が頭を悩ませているようだけれど,その必要はないってこと?

    それならそういってよ。 余計なことしなくて済むんだから。

    No title

    >今回、紹介されているのは、あくまで103件の民事訴訟で現実的にとられた弁護士のパフォーマンスを、熟達した弁護士が評価し

    …身内で評価してもねぇ…。
    確実な評価ができるとすれば、「裁判官」に評価させたほうがよかったと思うのだが…。
    しかし何がやりたいんだろう。
    そうでなくとも弁護士内での世代対立はかなり激しくなっているのに(というか、老弁が若手から尊敬されない、逆に愛想をつかされているというか)これ以上煽っても仕方ないというか、ますます弁護士内部から崩壊していくと思うのだが…。
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

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