弁護士OJT欠落問題の影響と責任

     一時代前まで全く目にすることがなかった「弁護士の就職難」という言葉を、いまや私たちは当たり前に目にします。マスコミ報道のなかで、弁護士増員の影響というテーマでは、必ず取り上げられることもあり、その現実は相当程度社会に周知されてきたようにも思います。

     ただ、この表現だけでは残念ながら、私たち弁護士利用者にとっての、もっとも深刻な影響が伝えられないといわなければなりません。それは以前も書きましたように、1つには国費の無駄ということを連想させないこともありますが(「弁護士の『就職難』という表現」)、もう一つはやはりOJTの欠落という問題です。かつてのような形で既存の法律事務所での十分なOJTを経ていない弁護士に、私たちが遭遇することを余儀なくされる現実です。

      「就職難」という言葉にとどまれば、必ず「それがどうした」という話が出ます。「就職できないというのならば弁護士にならなければいい」「就職が大変なのは何も弁護士だけではないじゃないか」「だから『増やすな』の論理はおかしい」「これも淘汰の一環」などといった、意見も出されます。しかし、問題はその先にあるといわなければなりません。

     ただ、この影響ということでいえば、なかなか実態はつかみにくく、それだけに弁護士会のなかにも楽観論ととれる意見があるのも事実です。個々の弁護士に聞けば、明らかに従来型の修養期間を経ていないことによると推察できる、おかしな弁護士に遭遇したという同業者の話はいろいろと聞こえてきますが、その深刻度のとらえ方にも濃淡がありますし、弁護士会の支援も含めて、事務所勤務という従来型でなくともなんとかなる、という見方もあります。就職難そのものについても、いわゆる即独だけを問題視する意見もありますが、取りあえず就職ができたものの、事務所内独立採算のいわゆる「ノキ弁」が、現在、果たしてかつてのようなOJTを十分に確保できているのか、ということについては、同業者のなかにも疑問視する見方があります。

     一応、参考になる統計的な資料としては、昨年日弁連が、現新61期から同64期までの新規登録弁護士へのアンケート調査をもとに、法曹養成制度検討会議に提出した「 新人弁護士の就業状況とOJT機会について」があります。入所した既存事務所から「金銭支給の予定なし」のものや、前記独立採算型も、あくまで十分なOJT機会が得にくいと推測し、さらに「新人のみ」のいくつかの事務所形態をOJT機会が少ないと推測される事務所として抽出して調査しています。

     その結果からみる限り、前記OJTに懸念のある事務所形態はいずれも急激に伸びており、「新人のみ」の形態に至っては、回答者の数で2007年からの5年間で5倍以上に膨れ上がっていることが分かります。

     問題は、この事態をどうするのかについて、一体、誰にどのような展望が開けているのか、ということです。日弁連はこの調査結果とともに提出した資料のなかで、「就職難」が、OJTの機会が少ないと推測される新人弁護士たちを多数生み出し、利用する市民にとっても「由々しき事態でもあり,早急なる改善が必要」と括る一方、新人弁護士への研修やチューター制度など、日弁連・各弁護士会が、工夫を凝らすOJT補完策は、「座学やアドバイス的なものにとどまらざるを得ず、不十分」という認識をはっきりと示しています(「法曹人口問題に関する資料説明と日弁連の考え方」)。

     そして、さらに見過ごせない法科大学院の存在です。このOJTを現実的に破壊した増員政策を支えるものとして登場した法科大学院制度が、「理論と実務の架橋」を掲げながら、この部分についてどこまで背負う気があるのか、という問題です。もっとも、大方の実務法律家は、「実務の架橋」といっても、それが従来型のOJTの代替となる機能まで果たせるなどとは考えていないと思いますし、それこそ法科大学院自体が、どこまでその責任を負い、それを現実のものにする気があるのか、ということは不透明といわざるを得ません。

     少なくとも、合格者を増やし、取りあえず弁護士を社会に放出させよ、という法科大学院サイドから聞こえてくる声をもとにするならば、どう考えるべきでしょうか。日弁連のいうような利用者にとっての「由々しき」事態という認識がないのか、認識はあっても、自分たちの問題ではないとして、そこから先の責任は弁護士・会に丸投げするつもりか、そうでなければ、そうした弊害を是正できるまで、法科大学院がOJT補完につながる教育を実践してみせる、というのか、そのどれかでなければおかしい気がします。

     実態がつかみにくい、と書きましたが、結局、弁護士の「質」にかかわる問題は、実害が先行することになるおそれがあります。懸念がありながらも、そのまま突っ走り、結局、利用者が犠牲になって、それが数として顕在化して、初めて「やっぱり『由々しき事態』だった」となる――。「弁護士の就職難」と「改革」の向こうに待ち受けるものが、こういう結末ではないのかを、われわれは考えなくてはなりません。


      「司法ウオッチ」では、現在、以下のようなテーマで、ご意見を募集しています。よろしくお願い致します。
     【法曹養成】司法試験年3000人合格目標の復活を求める動きについて、ご意見をお寄せ下さい。
     【法テラス】弁護士、司法書士からみた、法テラスの現状の問題点について、ご意見をお寄せ下さい。
     【弁護士業】いわゆる「ブラック事務所(法律事務所)」の実態ついて情報を求めます。
     【刑事司法】全弁協の保釈保証書発行事業について利用した感想、ご意見をお寄せ下さい。
     【民事司法改革】民事司法改革のあり方について、意見を求めます。
     【法曹養成】「予備試験」のあり方をめぐる議論について意見を求めます。
     【弁護士の質】ベテラン弁護士による不祥事をどうご覧になりますか。
     【裁判員制度】裁判員制度は本当に必要だと思いますか

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    No title

    >有効回答数と回答率は?

    くやしくは黒猫さんのブログに書いてある
    http://kuronekonotsubuyaki.blog.fc2.com/blog-entry-1080.html

    おいらは黒猫さんとは反対(コメント欄の意見に賛成)でそもそもデータ自体に信憑性はないとは思ってるがね。不真面目な会員はともかく真面目に回答した会員が、「問題ない」ってんだから、問題ないんだろ。

    No title

    日弁連の資料なんぞ、信憑性ゼロです。

    No title

    >法曹養成制度改革顧問会議の第14回会議で配布された日弁連の資料を見ると

    有効回答数と回答率は?

    弁護士の平均年収の与太話なんかも、非常に低い回答数のアンケートを基にしていましたが、あれは国税の統計であっさり覆されました。

    いまどき、日弁連の資料なんか、官僚からはもちろん、弁護士からもすっかり馬鹿にされ相手にされていない始末です。

    そうですかね?

    法曹養成制度改革顧問会議の第14回会議で配布された日弁連提出の資料を見ると
    問17 今までにOJTや事件処理の相談ができなかったことによって困ったことがありますか→特にないが半数超
    問33 今後数年以内に,就業先及び就業形態を変更したいと考えていますか→現状のままでいいが半数超

    能力や環境については現状維持でいいと考えている若い人たちが大半のようですよ
    奨学金はともかく、他の部分では満足しているのでは?
    下手に問題があると勘ぐるのもどうかと思いますけど

    No title

    4年近く前に、弁護士の品質問題は、すでに河野さんが鋭く指摘されていたことです。

    http://kounomaki.blog84.fc2.com/blog-date-201101-3.html

    国と弁護士会は、もっと河野さんの意見に真摯に耳を傾けるべきです。多くの情報を的確に分析なさっているからです。国は直ちにくだらない有識者会議をやめて、河野さんの書籍を買い上げるべきでしょう。

    No title

    う~ん、一応…ですけど、日弁連や弁護士会でも「弁護士向け研修」「サテライト何とか」とかやっていますから・・・。建前上、OJTはやっているといえなくもないわけです(歯切れが悪くてすみません)。

    ベテランであれ新人であれ、弁護士になったら後は『自己責任で研鑽』ですよ。昔よりは書籍だってあるし研修だって充実している。それでもOJT足りないっていうのも贅沢だと思いますがね…。
    司法修習がまだ2年あった時ですが、新人弁護士なんてまともな訴訟活動できませんでしたよ?過去を美化しすぎなんじゃないでしょうかね。
    まぁ…仕方ないじゃないですか。人数が多いんだから。
    受け入れ側の苦労だって大変なんですから、あんまりOJTOJTいわんといて…。

    No title

    法科大学院を心から軽蔑します。

    No title

    どう見ても,「認識はあっても,自分たちの問題ではないとして,そこから先の責任は弁護士・会に丸投げするつもり」というのが法科大学院サイドの考え方でしょう。
    なにしろ,法科大学院は制度設計時の公約だった「前期修習の代替」すら実現することができず,今では「法科大学院で前期修習の機能を代替できるというのは誤解だ」と主張しているのですから。
    あと,「由々しき事態」というのは,弁護士や弁護士業界にとって由々しき事態というだけで,一般市民にとっては弁護士が信用できない場合,そもそも弁護士なんか利用しなければいいわけですから,必ずしも「由々しき事態」とは認識されないかも知れません。
    インドみたいに,法曹職の不人気と国民の法曹関係者に対する不信感が根強く,裁判手続きの遅延も深刻化していながら,それでも経済的には発展しているような国もありますし。ちなみに,インドはロースクール導入国です。
    プロフィール

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

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