「条件」という前提の欠落感

     その社会的な役割の重要度が下がっているとか、その意味での「やりがい」のなさから魅力がなくなったといった事情ではなく、なるためと、なったあとの「条件」の問題で志望者が離れていく――。弁護士という仕事が、こうなる可能性を、この「改革」を唱導した人たちは、どこまで想定していたのでしょうか。

     いうまでもなく、この「改革」の描き方は、この仕事の役割はどんどん増す、社会は必要とするという前提でした。そこには、採算性と数の規模の問題で、明らかな誤算がありました。ただ、どういう算定を過去にしたにせよ、弁護士に多様で優秀な人材を確保するというのならば、将来に向けて、とにかくこの「条件」をなんとかしなければ、もはや入口でこの目標が達成されないのは、誰の目にも明らかなはずです。

     この「改革」構想を描き、唱導した人々の多くが、この「条件」の問題をなぜか軽く考えた、というか、それでも支障なくいけるという前提に立ったように見えます。もちろん、合格年「3000人」でも「大丈夫」と太鼓判を押した某日弁連会長がいたとしても(「日弁連が『3000人』を受け入れた場面」)、この「改革」を支持した人すべてが本心から、「支障なくいける」自信かあったのかは分かりません。ただ、結果として、「改革」は「条件」が足を引っ張る事態を、ここまで想定しなかった。

      この「条件」という問題を飛び越えてしまった、当時の発想を今、みるならば、そこにはいくつかの、希望的ともいっていい「思い込み」があったということで説明ができるかもしれません。「条件」のハードルが多少上がっても、弁護士はこれからも人気商売であり続けるという思い込み。「改革」が描いたように、社会の潜在ニーズが大量の弁護士を支えるはずという思い込み。法科大学院を出れば、7、8割が司法試験に合格できる、これまでよりもはるかに弁護士になりやすい制度に、それなりの「条件」が加わっても、人が来ないわけがないという思い込み。

     ただ、さらに問題にしなければならないのは、この「条件」に対して、「改革」路線を維持しようとしている方々が、今、どういう姿勢をとっているのかです。いまだに有償・無償の区別をあいまいに、ニーズはある、生み出せるという考え方。それゆえに、今の合格数を維持(あるいは再び増加)しても、将来的には、この志望者を遠ざけている弁護士の経済環境が改善に向かうという前提に立つ考え方。法科大学院の数が絞られることで、形式的な7、8割合格の実現や、法科大学院の教育改革での、いずれ「価値」の再評価が生まれることで、なるための「条件」部分(受験要件化と、それによる経済的時間的負担)は基本的に維持しても「なんとかなる」という見方――。

     つまり、問題は、そうした見方のなかで、現実的な「条件」は今、どういう扱いをされているのか、ということです。ことによると、この期に及んで、「改革」は入口問題である「条件」を直視しないでも、「なんとかなる」、要は志望者が再び弁護士を目指すという前提に立っているのではないか、と疑いたくなるのです。

     もっとも、一つ嫌な推測を加えれば、前記彼らの見方に、別の決定的なものを加える人もいるかもしれません。それは、多様性や質を口にしながらも、そもそも「条件」を満たす、経済的に余裕のある人材が、この世界にくればいい、という見方。もし、そうだとすれば、その見方の優先順位のトップは、あるべき法曹養成ではないことだけは確かである、といわなければなりません。

     こと弁護士について、「条件」という問題は、「改革」論議の中で、しばしば弁護士側の「都合」に置き換えられてきました。ただ、それは不思議なことに、弁護士会の外からの厳しい声として突き付けられたものだけではなく、「改革」推進に当たって、弁護士自身が「自戒」を込めて、それを強く唱えた現実がありました。

      「司法改革の熱気の中で、弁護士の中から、『弁護士もサラリーマンと一緒の収入で何が悪い』とい立派な発言が声高になされた。しかし、弁護士には退職金も企業年金もなく、病気になった時に収入が途絶えて経費分が全額赤字となり、昇給があるわけでもない。生涯所得は大企業及び官庁のサラリーマン以下で、優れた人材が弁護士を希望しなくなる」
      「『弁護士は、もっと市民のために働くべきである』『弁護士が食えないから弁護士を増やすなという話は国民に説得力がない』『弁護士の収入は国民にとって関係ないことだ』と言って弁護士大増員を唱えた人々がもたらした現実は、どのようなものか」
      「弁護士に有為な人材が集まらなくなり、教養と見識を深める余裕もなく質を低下させ、『弁護士は社会生活上の医師』『法の支配担い手』という立派な議論も恥ずかしくて登場させられなくなる。問題は、弁護士が一生懸命に働いても裁判所が認めないこと、食えないのに食おうとすること及び社会正義の実現と人権擁護の責任を行う余裕を失うことの弊害である。いずれも、国民に深く関係する」(鈴木秀幸弁護士『司法のあり方と適正な弁護士人口』、「司法改革の失敗」)

     あるいはこれを、「善意」とくくる弁護士もいると思います(「『弁護士弱体化』という意図」)。しかし、今では多くの弁護士が「成仏理論」として嘲笑するような無理を、弁護士自らが「できる」として、現実的な成立「条件」の話を飛び越え、唱えたことになります。

     今にしてみれば、弁護士自らが首を絞めるような「条件」度外視の主張をし、それが結果として国民、市民のため、どころか、そのしわ寄せが国民、市民に回ってきかねないことになっている現実。私たちは、まず、この現実を踏まえたうえで、いまだにこの世界の一部から聞こえてくる、「思い込み」に基づいているようにとれる、「立派な発言」「立派な議論」を評価しなければなりません。


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    テーマ : 弁護士の仕事
    ジャンル : 就職・お仕事





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    「条件」を改善するには、一人一人の弁護士が、誰がなんと言おうとも、採算性度外視の活動をしないこと、これにつきます。

    個々の弁護士が社会的弱者になってしまった以上、心苦しいのですが、縁もゆかりもない弱者の方々の救済までは・・・。

    ついでに、疾病を理由にした会費免除制度は、廃止の必要があります。せめて、報告書添付のうえで4ヶ月未満、といったところではないでしょうか。穀潰しを排除すれば、会費も多少は安くなります。黙々と会費を払う貧困会員の犠牲の上に、大口たたいている会員がいるということに、腹が立ちます。

    言葉の使い方

    「条件」という言葉の使い方がおかしいのではないでしょうか。
    文脈全体から察するに,「条件」として想定されているのは弁護士の就職状況や収入状況といった問題のようですが,そうしたものを「条件」と表現するのは一般的ではないと思います。
    そのおかげで,記事全体も何を言っているのかわからない似非哲学論のようになってしまっています。
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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