「建て前」としての不祥事対策の伝わり方

      弁護士・会にとっての、弁護士増員と不祥事の関係は、本音と建て前ということを抜きに語れない問題のように思えます。以前も書きましたように、この増員政策にかなり無理があるととらえていた、多くの弁護士は、この負の影響として、質の確保という意味でも、倫理的な確保という意味でも、当初から不祥事が多発するのではないか、という懸念を本音として持っていました。ただ、その一方で、その点をあっさり公言するわけにはいかない。自浄作用がないことは、当然、弁護士自治の存否にかかわるからです。かつて「増えたら悪くなるとは口が裂けても言えない」と語った執行部関係者がいましたが、ここで弁護士会が有効な対策をとるということは、彼らからすれば、どうしても立たざるを得ない立場ということになるわけです(「弁護士の品質保証」)。

     ただ、建て前と本音は違います。つまり、有効な不祥事対策をとらなければいけないということが、弁護士自治堅持からは至上命題であったとしても、それが可能なのかについては、会員の意見が分かれるところです。対策することは意味があるし、どうしてもやらなければならない、ということは共通認識だとしても、果たしてそれが弁護士増加の現実的な弊害を上回る形で有効に作用し、自浄作用批判を回避できることにつなげられるのか。その努力は別にして、自信ということになると、返ってくる答えはやはり弱くならざるを得ないのです。

     弁護士不祥事の増加に、各地の弁護士会がその防止に躍起になっていることを伝えた、10月11日付け朝日新聞夕刊(同日朝日デジタル)の記事が、ネット上で話題となりました。東京、広島両弁護士会が、苦情が複数寄せられた段階で調査を開始する態勢をスタートしていることや、未然防止策として、大阪弁護士会が全会員に弁護士会初の「不祥事防止の手引き」を配布したことが紹介されています。ただ、もっぱら話題は、「朝日」がその要因が増員政策であるという見方を伝えたことです。「『なり手の増加』も一因」という小見出しのもと、その影響による仕事不足が不祥事を招いているというニュアンスになっています。

     増員政策を支持し、あくまで弁護士の創意・工夫で「なんとかなる」としてきた朝日の立場からすれば、これはどう解釈すればいいのでしょうか。この立場を貫くのであれば、「なり手の増加」こそ、本来、歓迎されるべきで、問題はすべて、「あるはずのニーズ」を開拓しない弁護士の努力不足が招いている、ということになってもよさそうです。少なくとも「なり手」の増加で仕事不足は、あり得ない前提のはずです。

     記事全体のトーンは、弁護士会のいわば不祥事に対する努力を伝えるもので、前記建て前に立つ弁護士会としては、あるいは歓迎できるものかもしれません。しかし、その主要因に対して、朝日はどういう立場に立ったのか、これまでのスタンスからすれば、やや不透明なものを感じます。なにやら「も一因」などとしてぼやかしていますが、ことによると朝日も、本音では、無理な弁護士増員政策のどうにもならない負の影響と失敗を、弁護士会による不祥事対策の努力や有効性とは別次元で分かっている、ととることができます。増員政策が破綻すると、しらっと「3000人」にこだわってきたわけではない、などとする「朝日」(2013年3月31日付け社説)ですから、ここもいつか「どうにもならない」影響を分かっていたこととして打ち出すのかもしれません。

     ところで、この記事について、ネット上では現在、ほぼ同内容のものを2本みることができます。朝日デジタルは、前記11日夕刊の同文のもとを同日アップしていますが、13日になり、見出しを変えて、もう一度掲載しています(13日朝日デジタル)。

      本文中の唯一の違いは、本紙ではカットされた、前記大阪弁護士会の「手引き」発行に携わった鳥山半六弁護士の次のコメントを掲載している点です。

     「依頼者とトラブルを抱えることがいかに大変かを知らない会員が多く、実態を知ってもらい、非行を踏みとどまらせたかった」

      「朝日」に限らず、本紙とデジタル版との関係は、掲載の有無も見出しも、必ずしも一致しません。それは承知の上で、今回の対応について、「朝日」に問い合わせたところ、11日の本紙があくまで字数の都合で、カットした部分をデジタル編集部の判断で盛り込み、あえて13日に再掲載した、ということが分かりました。 スペースの自由度の問題で、特段本紙を読んだコメンテーターからの要請等があってのことではない、といった説明でしたが、このコメントのためだけに、中1日おいて、「朝日」が わざわざほとんど同文の記事を再掲したということには変わりません。

     それを踏まえ、もう一度、このコメントが何を言っているかを見ると、伝わってくるのは、むしろ前記建て前を維持することの厳しさのようにとれます。 善悪の認識よりも、あとの面倒への認識を、不祥事に手を染めてしまう弁護士のブレーキとして期待しているような。その厳しさを「朝日」が分かっていてのことなのか、それともまたぞろ、弁護士の心得で「なんとかなる」ことを伝えようとするためなのか、そこは想像するしかありません。ただ、結局、弁護士会の建て前と、分かっているような分かっていないような大新聞の伝え方によって、「改革」の無理のうえで、利用者にとって危険な状態は続くことになりかねない状況です。


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    No title

    >ま、弁護士会は弁護士を監督するところではないのでしゃーないですよね。

    ま、まじで。ではどこが監督を?アメリカみたいに裁判所が懲戒権などの監督権限を持っているんですか?(皮肉です)

    うわさではなく、事実、弁護士会職員の平均年収の方が、弁護士より高い。数千万円プレーヤーが平均を押し上げることもない分、中間層は弁護士会職員の方が厚い。

    貧すれば鈍するで、経済苦が大きな要因なのは間違いない。「だけ」なんてことはあり得ないし誰もいっていないが、一般論としても、貧困が犯罪率を上げることは間違いない。

    ま、下の方もよくご存じで、ユーモアのセンスをもって書かれていると思うんですがね。

    本日「やよいの青色申告」を久しぶりに開いた。わずか10分で2週間分の記帳が終わってしまい、愕然とした。10年前は、一ヶ月分の記帳をやっつける為に、誰にも邪魔されない為にホテルに週末一泊して缶詰になって記帳、疲れた頭を温泉で休めてまた記帳、帰りの特急電車でようやく熟睡、なんて状態だった。シンプルライフ万歳(やけくそ)。

    No title

    経済苦だけが原因とはいえないと思います。
    いろいろな原因(そもそもの人間の性格・仕事の適性・弁護士の仕事の特性)が複合しているでしょう。

    しかーし、会費の高さ・コストカット(弁護士やそこで働く法律事務職員よりも、弁護士会の職員のほうが待遇も給与も良いという噂もある)のツケ・懲戒及び綱紀委員会のあり方etc
    弁護士会がすべきことはたくさんあったのではないかと思います。
    ま、弁護士会は弁護士を監督するところではないのでしゃーないですよね。

    No title

    不祥事の原因は、弁護士の経済苦です。

    不祥事防止の為には、単位会の会費減額(アメリカ並みに年間4万円程度)、日弁連や弁連をABAのごとく任意加入団体として会費の負担をなくすなどにより、弁護士の経営環境を改善する必要があります。

    日弁連が弁護士の不祥事撲滅を本気で考えるならば、日弁連が撲滅されるのが一番、ということです。

    No title

    無駄無益なプロボノ活動はせずに、コストカットを実現したいと思います。
    依頼者に迷惑を掛けないように。
    迷惑な依頼しかしてこない方の依頼も受けないように。
    弁護士は正義の味方なんだから無償でやれ?

    ・・・断る。

    No title

    90年代ころまでは、
    「株式取引にはまって大損した弁護士が、不祥事を働く」
    というのが定番でした。

    しかし、時代は変わりました。
    「弁護士事務所経営に有り金をつっこんで、さらに借金を抱え、赤字をふくらまし、不祥事を働く弁護士」
    が増えました。
    そして、逆に、
    「株式取引で生活費の多くを稼ぐ弁護士」
    も珍しくなくなりました。

    「株式取引のほうが弁護士事務所経営よりも安心」
    とは、いったいどういう時代になってしまったのか・・・。

    いずれにせよ、依頼人が引かない程度にコストカットをはかり、不祥事とは無縁の堅実な経営をしていきたいと思います。
    プロフィール

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

    お買い求めは全国書店もしくは共栄書房へ。

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