「弁護士弱体化」という意図

     今回の司法「改革」の結果を、ある種の「善意」で説明、あるいは擁護する方々は沢山います。弁護士を激増させる政策は、本当に弁護士が不足している、不足するだろうという予想のもと、社会、市民のためになると考え、その人材の質・量を確保するためには、これまでの形ではない「プロセス」による法曹教育がふさわしいと考えて、法科大学院を中核とする新制度導入を目指したのだ、と。

     つまりは、すべて「良かれと思ってやったこと」であり、「改革」が既に失敗と結論づけられるかどうかの認識は別にしても、少なくとも、利権構造構築や、隠された政治的意図が目的化していたわけではない、という説明になります。

     かつて小林正啓弁護士は、自身のブログで、この「善意」について取り上げ、多くの過ちは「善意」に発していて、「善意」だからこそ間違いを認めないし、認めるまで長い年月がかかる、そして「善意」こそ、多くの犠牲者を生む、と喝破しています。それは、一つの見方として正しいと思います。小林弁護士は、「改革」の結果を擁護しているのではなく、説明しているということになるでしょうし、これは今、弁護士たちがしばしば口にしている「何でこんなことになってしまったのか」という疑問に対する、一つの答えにはなるとも思います。責任ということでいえば、それはその「善意」そのものにもあるということになるのかもしれません。

     ただ、それはそれとしても、もうひとつ考えておかなければならないことがあるように思います。それは、その「善意」は利用されなかったのか、ということです。つまり、表向きに掲げられた社会、市民のための理念と目的、それを支持する多くの「善意」にのっかって、別の目的を貫徹しようとする意図が、果たしてなかったのか、どうかということです。およそ現代日本で、社会、市民のためをうたわない政策がスタートできるわけもないわけですから、そこは本来、社会、市民の側が、その真贋に対して相当ににらみを利かさなくてはならないはずです。そうでないと、「善意」の支持は、私たちが求めたわけでもない、別の意図を貫徹しようとする人々に、格好の環境を提供することにもなってしまうからです。

     「弁護士の弱体化」。この「改革」をめぐり、実は初期の段階から現在に至るまで、このことが「改革」の隠された意図、真の目的ではなかったのか、ということが弁護士界のなかで、言われ続けています。増員政策を含めた弁護士の変革を「登山口」などとして、「隗より始めよ」とばかり始めた「改革」でしたが、激増政策は弁護士の経済的な存立環境を直撃し、人権や社会正義のための活動と責任を担う余裕を奪い、さらには有為な人材もまた集まらなくなっている。弁護士会の社会的な存在感は減退し、厳しい経済環境に置かれた会員は、どんどんその活動から距離をおき出し、インハウス志向、ビジネスローヤー志向だけが生き残る道となる。そして、その最終章として、弁護士自治の内部崩壊。およそ、弁護士会が悲願とした「法曹一元」どころではない、弁護士・会の未来が、既に眼前に広がり始めています。

     なぜ、それを今、この「改革」について、「善意」の利用、「改革」の隠された意図として、こだわらざるを得ないかといえば、それは結局、社会・市民のための、目的や理念の部分の成果で失敗していても、「改革」は確実にこの部分の結果を生んでいる、あるいはその隠された意図は、貫徹されているようにみえるからにほかなりません。別の隠された意図という意味では、裁判員制度もまた同様の見方ができます (「『改革』の反省と『市民目線』という描き方」)。

     10月8日、「朝日新聞」朝刊のオピニオン欄に、政治学者の豊永郁子・早稲田大学国際学術院教授が、安倍政権の「法」と「人権」をないがしろにしている反民主主義的性格を鋭く指摘し、それを抑制するのは、司法と議会だとしています。理不尽な法令や行政府の行為ついて、どんどん裁判が起き、政党だけでなく個々の議員への働きかけもどんどん起こる。「自由民主主義の国であれば、こうした方法で政権を抑制できるはず」。

     まさに、豊永教授が指摘する抑制で、大衆の声を司法に持ち込む重要な役割を担っている、あるいは担ってきたのは弁護士という存在ではないか、と思えます。果たして、これからの弁護士が、この役割を担い続けられるのかということを考えると、改めて「改革」と隠された意図を結び付けたくなるのです。

     弁護士が弱体化すると、どういうことになるのか、以前「福岡の家電弁護士のブログ」がそのことを的確に書いていました。今、弁護士・会がもっとアピールしなければいけないのは、「改革」の「善意」でも、それが今でも生きているかのようにしがみつく路線擁護でもなく、「善意」の間違いを認め、今生まれている弁護士の弱体化が社会にとって何を意味するのかという現実的な問題である気がしてなりません。


      「司法ウオッチ」では、現在、以下のようなテーマで、ご意見を募集しています。よろしくお願い致します。
     【法テラス】弁護士、司法書士からみた、法テラスの現状の問題点について、ご意見をお寄せ下さい。
     【弁護士業】いわゆる「ブラック事務所(法律事務所)」の実態ついて情報を求めます。
     【刑事司法】全弁協の保釈保証書発行事業について利用した感想、ご意見をお寄せ下さい。
     【民事司法改革】民事司法改革のあり方について、意見を求めます。
     【法曹養成】「予備試験」のあり方をめぐる議論について意見を求めます。
     【弁護士の質】ベテラン弁護士による不祥事をどうご覧になりますか。
     【裁判員制度】裁判員制度は本当に必要だと思いますか

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     「弁護士を激増させる政策は、本当に弁護士が不足している、不足するだろうという予想のもと、社会、市民のためになると考え、その人材の質・量を確保するためには、これまでの形ではない「プロセス」による法曹教育がふさわしいと考えて、法科大学院を中核とする新制度導入を目指したのだ、」

     これは善意なのでしょうか。

     弁護士激増問題は、司法制度改革審議会設置の前から激しく論争されてきました。

     1999年7月、松井康浩弁護士の「戦前の翼賛弁護士の轍を踏んではならない」という講演を中心とする講演会が行われました。松井弁護士は、1928年(昭和3年)に治安維持法が改悪されたとき、弁護士会は沈黙していたこと、1938年(昭和13年)に国家総動員法ができたとき、日本弁護士協会は反対決議をしたが、帝国弁護士会は沈黙していたこと、1941年(昭和16年)に言論出版集会結社等臨時取締法が制定されたときも弁護士会は沈黙していたこと、その頃には、「弁護士よ正業に就け。」などと言われる状況になっていたことを指摘しました。
     その背景には、大正から昭和にかけての弁護士激増政策がありました。弁護士は、1922年(大正11年)の3914人から1929年(昭和4年)には6409人に増えました。7年間で64パーセント増です。それでも弁護士の激増による窮乏化が、その活動に大きな影響を与えたのです。

     司法審発足の翌年である2000年5月、自由法曹団の団通信984号に、団員外の投稿として高山俊吉弁護士が書いた「今こそ司法審路線との対決を!」と題する一文が載せられています。その結論部分は次のとおりです。

    「恐るべき事態がわれわれの眼前に立ち表れている。司法審路線は憲法と人権の擁護を使命と考える法律家の存在を根底から否定する歴史的な謀略である。この動向に抗して立ち上がらなければ、取り返しのつかない危険な結果がもたらされ、禍根を大きく将来に残す。自由法曹団の存在意義が今問われている。」


     これに対し、翌月の団通信987号に、松井繁明弁護士は、「「陰謀史観」にみえる高山さんの意見」と題し、次のよう反論しました。

    「まず、高山さんは弁護士の増員そのものを「悪」として、立論をしているように見える。だが、人口比でフランスの四分の一という日本の弁護士人口は明らかに少なすぎるし、それが国民を法的サービスから遠ざける一つの要因となっていることも否定できないのではあるまいか。どのようなスパンをとるかはともかく、せめて「フランス並み」の法曹人口を求めるのは、国民の通常の要求であろう。
     もちろん改革である以上、その過程で少なからぬ混乱も生じるだろう。既存の弁護士の利害に反し、法曹の「能力低下」もうまれるかもしれない。だが、混乱をおそれて改革をやめることは許されない。戦後の農地改革は、没落地主の悲劇をも生みだしたが、全体としてはわが国のシンポに役立った。」


     弁護士の人権擁護活動を弱体化させるために弁護士を激増させようとする人々が存在する。弁護士の激増によって弁護士の人権擁護活動は弱体化する。司法審路線を推進する日弁連執行部、それを支える自由法曹団の重鎮は、そのような意見を「陰謀論」として故意に無視しました。

     しかも、弁護士激増によって何が起こっているかが明らかになっても、今に至るまで、日弁連主流派も、自由法曹団も方針の転換を打ち出していません。撤退を転進と言い換えて戦争を続けた第二次世界大戦末期の日本政府のように見えます。

    No title

    黒猫さん
    社会保険の分類の理解については、注意を要します。

    国民健康保険の中に、各市区町村が運営する公営の国民健康保険及び同種同業で組織され運営する国民健康保険組合があります。そのため、基本的には両制度は同じカテゴリーです。利用者にとっては、保険料以外の違いについては論じる意義がありません。また弁護士健保というのは東京近辺の業界で使われる通称ですよね。

    数千万円でが損益分岐点と考えるのは明らかに誤りです。それであれば、半数弱どころか、ほとんどの弁護士にメリットがありません。保険料で比較するならば(扶養家族の数などの諸条件にもよりますが)おおむね年収500~600万円程度、さらに(これも諸条件によりますが)自分や家族の検診料まで考えれば700万円前後が損益分岐点となりそうです。

    正確な情報分析の重要性を感じます。間違った情報は受け手に危害を加える危険性があるのみならず、最終的には発信者の信用問題となりますので。

    No title

    弁護士国保なら,私はとっくの昔に脱退しました。弁護士国保は所得に関係なく保険料が頭割りなので,年間何千万も稼いでいる少数の弁護士にとっては,今でも加入するメリットはあるのだろうと思います。
    所得の低い高齢弁護士は,弁護士国保でむしろ損をしているのに,そうと気づかずに加入し続けているかも知れませんが。
    なお,「国民健康保険」と「健康保険」は法律上全く別の制度であり,東京に「弁護士国民健康保険組合」はあっても「弁護士健康保険組合」はありませんので,注意してください。

    政治との関係では,新司法試験で行政法が必修化されたことに伴い,弁護士の行政監視機能は一見強化されたかのように見えますが,実際には「行政訴訟なんかやっても無駄だ」ということを学んでおり,しかもほとんどボランティアの行政訴訟に深く関わる経済的余裕もなくなっているので,弁護士による行政監視機能の弱体化という隠れた「目的」は,確実に実現しつつありますね。

    No title

    組織からメリットを受けている者は、改革を望みません。

    今、日弁連からメリットを受けている執行部やこれに連なる派閥は、会員から搾り取り無料奉仕(赤字)の強制労働に会員をかり出し、数ばかりは大きな組織に君臨している。彼らには、日弁連を改革する気は毛頭無い。本来は大手術が必要なのに、患者が聞く耳を持たず放置しているので、末梢から腐り始めている。

    思わぬところで、お偉い弁護士先生方の現実逃避ぶりは現れます。
    例えば、東京には弁護士健康保険組合があります。が、過半数の弁護士にとっては、保険料が高い。つまり、国民健康保険のほうが安い。さらに健康診断の費用は、国民健康保険のほうが二桁違いで安いか、検査の種類によっては無料。ちなみに、うちの区であれば、検診料はトータルで一人あたり2万円以上安い。家族も入れればその倍以上になる。
    今時こんな不経済な組合に何の疑問もなく加入しているのは、いちいち細かい計算をしたくない高齢者。高齢者は医療費がかさむので、ますます健康組合の保険料は上がっていく。そうすると、健康な世代はますます加入しない。そのため、病人ばかりの健保組合の財政が悪化する。そのため保険料を上げる。ますます健康な人は敬遠する。組合員は病気がちな老人ばかりになる。財務内容が悪化する。・・・このループによって、いずれ組合の存続は不可能となります。
    これも、病理に犯されている弁護士会の末梢神経の一つの例です。国民健保があるから、無くなっても問題ありませんけどね。

    No title

    確信犯の旧主流派はともかく、サヨクまで一緒になった司法改革
    自分たちの運動に人が集まらなくなったことを自業自得と理解しているのだろうか?
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

    お買い求めは全国書店もしくは共栄書房へ。

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