「望まれる」法曹養成制度改善提言の重み

     9月30日開催の法曹養成制度改革顧問会議第12回会議に配布された文部科学省の資料「法科大学院教育の抜本的かつ総合的な改善・充実方策について(提言案)」(9月19日、中教審法科大学院特別委員会提出資料) を見ると、その文面上、一点非常に気になるところがあります。それは「望まれる」という言葉の多用です。

      「高い教育力を持つ法科大学院が全国的に配置され、多彩な教育を展開することで、学生が司法試験合格のみならず、将来の実務を視野に入れた教育を享受できる環境の整備を通じて、法廷活動はもとより民間企業や公務部門等のニーズにも応え、グローバルに活躍できる法曹や、地域の司法サービスやADRを担う法曹など、法律実務に関わる高度専門職業人が多数輩出されることが望まれる」
     「また、法学未修者が法律を着実に学ぶことのできる取組の充実や、学部教育の充実と併せて優秀な学生がより短期間で法曹になることのできる途の確保、経済的事情等を有する学生に対する経済的支援の充実が図られることが望まれる」
     「法科大学院の教育内容と司法試験や司法修習との有機的な連携が更に図られていくことも望まれる」

     これは、どう考えればいいのでしょうか。率直にいえば、法科大学院制度創設10年にして「望まれる」ことではなく、当初から「望まれる」こととしてきたのではないですか、と問いたくなるのです。

     この「提言案」の文脈は、この10年に既に新制度で1万人超の法曹が輩出され、「活躍している」という成果を掲げる一方、弁護士の就職難や司法試験合格者数が当初の目標数に達していないことなどと相まった法科大学院離れ、法曹離れなどを挙げ、法科大学院制度を中核としたプロセスの法曹養成の危機的状況という現状認識を示しています。

     10年やった「成果」を掲げないことには、「改善・充実」も何も、「改革」の本質が問われてしまうと考えれば、ここはまずそれを前提として、制度を維持したい側が強調するのは、ある意味、当然かもしれません。ただ、前記「望まれる」としてきた制度が、この10年実現できなかった結果が、前記現状認識が示している「危機的状況」を生んでいるのではないか、とどうしても思えてしまうのです。

     そう考えて、改めて「提言案」を見れば、そこにちりばめられている「べきである」「必要である」「考えられる」という言葉にしても、それが提言という文章の性格上、当たり前の括り方であるとしても、その希望的な「改革」の発想に対して、本来は10年「できなかったこと」を前提とした、相当具体的な、現実可能性が推測できる材料が用意されなければならないように思えてきます。少なくとも、そうでなければ、推進者が「一定の成果」をもって回避したい、「改革」の本質にメスを入れる検討がなされるべき、ということになるはずです。

     これもまた、「改革」推進派、有り体にいえば、どうしても「改革」をやめたくない、やめられない方々から聞こえてくる「念仏」の類と片付けてしまえば、それで話は終わります(「法科大学院『意義』発信の効果と現実」)。ただ、今後の「改革」修正論議でも、おそらく登場し続けるだろう、こうした過去の「実績」が欠落した希望的ともいえる括り方に、私たちは敏感であるべきと思うのです。そうでなければ、「念仏」は「念仏」として、えんえんと唱えられることになりかねないからです。

     ところで、この「提言案」の文脈で、起草者は語意の使い方として、「望まれる」という言葉と、「必要である」「べきである」という言葉を、その意味上の明確な区別をもって、いわば意味の違いを自覚的に使用しているのでしょうか。もし、そうだとすれば、「望まれる」という部分についていえば、より希望的語感、要するに絶対に実現させるというよりも、それこそ「できればベター」「できればいいんだけど」くらいのニュアンスにとることもできなくないのですが、それでよしということになるのでしょうか。


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    「望まれる」という言葉が使われているのは,文科省→各法科大学院,文科省→法務省,文科省→最高裁などというように,文科省に法律上指揮命令権がない相手方に対して何かやってほしいという場合であり,起草者が意味の違いを自覚して用語を使い分けていることは明らかです。
    つまり,「望まれる」という用語が多いということは,文科省は法科大学院がうまくいかない原因を,財務省が法科大学院生に対する経済的支援を充実させないこと,法務省や最高裁が法科大学院教育を司法試験や司法修習と有機的に連携させないこと,法科大学院の修了者がグローバルに活躍していないことなどに求めているということであり,要するに全部他人のせいにしているのです。
    プロフィール

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
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