弁護士活用促進「効果」の見積もり方

     司法がもっと利用され、弁護士が活用される社会を目指すという前提に立てば、「改革」をめぐる論議が、その現実的な阻害要因の除去というアプローチをしてきたこと自体は、当然といえば当然です。ただ、どうもずっと気になるのは、そのアプローチの効果への期待度の問題です。つまり、そこにどのくらいの効果を見積もって、この議論をしているのかということを考えてしまうということです。

     もちろん多少なりとも効果があるならば、それにも意味があります。司法、弁護士の活用がテーマである以上、それで救われる人たちがいる。ただ、だとしても、その効果をどのくらいの規模としてとらえる必要があるのか、そのことにどうもスポットが当たらない。なぜ、こんなことをいうかといえば、結局、激増政策という形で、冒頭の社会を目指した「改革」の現状が、そのこととつながっているようにみえるからであり、またそう認識しておかないと同じことが延々と繰り返されるような気がするからです。

     例えば、増員政策を肯定的にとらえる人は、いわゆる司法過疎解消を含めて、弁護士のアクセスの改善での成果をいいます。それで弁護士はより活用されるようになったといえば、仮に増員だけでそれがもたらされたわけではないにせよ、それを効果としてカウントできる。しかし、それが果たして10年で1万5000人も増やすことの意味とどうつながるのか――。

     これは増員という手段に限りません。先日、開催された第26回司法シンポジウムの基調報告書の中に、少々奇妙な気持ちにさせられるところがありました。

     利用者調査のなかで、はっきりと「高い」という評価が示された弁護士費用。基調報告書は事前の費用予測の問題を取り上げ、利用者の不安解消と納得が得られるような「弁護士委任のメリットをわかりやすく伝える広報」を緊急課題にしています。また、法律扶助では救済されない中間層の救済には弁護士費用保険の周知・拡大を「必須」と位置付け、自動車保険の弁護士特約活用の弁護士側の知識不足や、単独型の弁護士費用保険の「価値」広報も緊急課題としています。

     また、弁護士アクセスでは、過払金返還請求訴訟を除いた民事第一審訴訟で、双方に訴訟代理人が選任されている事件が増加、双方選任されていない事件は減少しつつも、弁護士人口増加に比して緩やかなこと。「本人訴訟に関する実証的研究」の裁判官アンケートで、「仮に本人が弁護士を選任したとすれば、訴訟の結論に影響があったと思うか」という質問に対し、本人訴訟全体のうち17.9%、原告本人型で13.3%、被告本人型で20.1%、双方本人型で18.2%について、「そう思う」と回答していること。利用者調査でも弁護士を依頼しなかった理由としては、「自分だけでもできると思った」57.4%、「弁護士に頼むだけのお金がなかった」41.7%、「弁護士に頼むと費用倒れ」37.2%が多く、「弁護士の知り合いがいない」も18.1%、「弁護士が近くにいない」も11.8%という声があることなどを紹介。結論は単に弁護士増加ではなく、「弁護士へのアクセスを具体的・実質的に改善する方策」が必要としています。

     さらに、減少する法律相談件数に関連しては、紛争行動調査で弁護士以外に相談した人が41%と弁護士の11%を大きく上回っている結果や、直面している問題を弁護士に相談すべき法律問題かどうかの判断が、ネット利用の可否で決まることなどを指摘。結論は法律相談等の「頭打ち感」はニーズそのもののが頭打ちなのではなく、情報強者のニーズの「頭打ち感」に過ぎず、アウトリーチなどで、どのようにして情報弱者のアクセスを向上していくか、を検討課題として挙げています。

     弁護士の活用をめぐる金銭的不安の解消や、弁護士活用のメリットの周知。その効果はもちろんあるとしても、問題は本質的に弁護士の費用の低額化を求めるニーズや、そもそも弁護士が現実的に「なくてもやれる」結果に比して、どのくらいのものを活用に引きつけられるとみているのか、ということです。有り体にいえば、弁護士費用が高いと感じている人のうち、「メリット」がネックの人、弁護士費用保険の「価値」を知れば活用する人はどのくらいいるのか。本人訴訟の17.9%以外の人はあるいは訴訟の結論に影響しないととらえているなか、半数以上の「自分でできると思った」人、費用面では弁護士は手が出ないと考えている4割の人には、どのくらいの効果を見込むか。ニーズの頭打ちではないと結論付けた法律相談は、情報の問題でどのくらい戻って来るのか――。

     「手が出ない」という費用の具体的な低額化、無償化の問題や、あるいは金銭的なニーズ総量の問題を脇において、どのくらいの効果の見積もりが立つ話なのか、そこに不透明な感じをもってしまいます。とにかく、ニーズはある、費用やメリットの誤解が解ければ、弁護士は活用されるという発想あるいは見込みが、結局、本来、有償でなければ成り立たない弁護士業に対する無償性の誤解を生み、「やれる」という前提をつくってしまうようにみえるのです。

     もちろん、活用の阻害要因は複合的であり、かつ対象が抱える事情もさまざまです。やれることは何でもやる、それで少しでも効果があればそれでいいはず、ということにはなるかもしれません。繰り返しになりますが、それで現実的な救済につながる活用が生み出されるのであれば、そのこと自体は意味のあることです。ただ、低額化、無償化の要求を含めた経済的な問題が決定的な弁護士回避要因になっている「ニーズ」を、弁護士「活用」の方向で取り込めるという前提に立つことそのものに、今、弁護士会は、もう少し慎重になった方がいいように思えます。


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    テーマ : 弁護士の仕事
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    No title

    今回もまたすばらしい記事をありがとうございます。

    昭和30年代から40年代、消費者団体といわれる主婦を中心とする人たち(ものづくりの苦労を知らない人たち)が、物価が高いから、とにもかくにも値段をやすくしろ、と、生産者に圧力をかけました。

    これにより、簡単で安価で低品質な大量生産品が蔓延しました。また、伝統的な職人芸も壊滅的な状況ともなりました。

    そして、現在までに、洗剤公害、危険な食品によるアレルギー反応や様々な後遺症、病的肥満、糖尿病、ガンなどの病気の形で、国民にはね返っています。

    このような惨状なので、今や、金のある教養人たちは、普通のスーパーでは買い物をせず、成城石井やプレッセやナショナル(田園調布や広尾)などの高級スーパー、大地を守る会やらでぃっしゅぼーやなどの自然食品等の宅配サービスを利用し、(大量生産時代に入る前と比較するとはるかに)高価な代金を納得の上で払い、良質なサービスを得て、健康で長寿で豊かで平和な生活を送っています。

    現在、弁護士の周辺で起きていることも、同じでようす。

    人数としては減少傾向にある富裕層が専有する富の割合は増えています。他方で、弁護士費用などはとても払えない、という貧困層が人数としては激増している。

    そうすると、弁護士としては、少ない富裕層から以前より高額な弁護士報酬を得て仕事をすることのみが、良心に恥じないレベルの仕事をする唯一の方策です。また、富裕層は「それは正当なお金ですから」と、きちんと支払ってくれます。つまるところ、弁護士自身のスキルを上げ丁寧に仕事をし、少ない依頼人との長期的信頼関係を大切にする、と言う経営方針であり、すでに先見の明のある弁護士は、何年も前にこの方向にシフトしています。ただし、何らかの特殊技能か人脈のある弁護士にのみ限られる経営方針です。

    これに対して、以前の顧客の中心であった中流層は、続々と貧困層に落ち、減少しています。さらに、仮にかろうじて中流にとどまったとしても、以前のような報酬額の支払いでは、よい弁護士に巡り会うことを期待するのはとても困難という問題に直面します。

    貧困層については、当然、よい弁護士が見つかりません。見つかったとしても、大量生産の食品などと同じような低品質、欠陥、拡大損害の危険性などの問題をはらみます。

    弁護士会から配布される法律相談事業のFAXに記載された企画内容や日当を見るに、弁護士会の執行部の本音は、業務拡大でも貧困層救済でもなく、弁護士達は貧困層といっしょに落ちよ、と言うことなのでしょう。もし執行部が、「言いがかりだ。」というならば、執行部自身が無償または低報酬ののプロボノのだけをやればいい。それで事務所を維持できるならばやってみろ、どれだけ持ち出しになるか分からんがそれでも弁護士を続けられますか、実際には富裕層を抱え込んでイソ弁を働かせて自分では左うちわの生活をしているくせに何を言うか、というのが、会員の本音でしょう。

    No title

    くだらない言い逃れ
    潜在需要の増加のほうが弁護士人口増加より多い?
    ただ、費用が高くて使えないのが障害?

    法科大学院が罰金300万懲役2年であることがすべての問題であることに市場は気付いており、法曹を目指す人間などこれからもずっと減少し続けるし、質はどんどん落ちていく
    なぜ、法科大学院マンセーが気付かないか?
    今の質が落ちた法曹よりもさらに質の低い能力しかない人間が競争のゆるい時代に偉そうに弁護士様様と仰がれて勘違いしたことにある。
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

    お買い求めは全国書店もしくは共栄書房へ。

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