「検証」に蓋をした情勢論

     今、弁護士会で大問題となっている弁護士の増員ですが、会内には、はじめから今日の状況を懸念する声がなかったわけではありませんでした。

     以前にも書きましたが、それまで年500人くらいだった司法試験の合格者について、増員に舵を切った日弁連は平成2年1990年以降、その方針を年700人、800人、1000人と目まぐるしく変化させていったのですが、そのころの増員慎重派の口から、よく聞かれた言葉がありました。それは、「検証」という言葉です。

     「まず、検証してから増員すべきではないか」。当たり前といえば、当たり前のことですが、増員が果たしてどのような影響をもたらすのかを調べてから、決定すべきだということです。どんどん増員に傾斜する日弁連に対して、この「検証」という言葉は、まさにブレーキをかけようとしたものであり、また、弁護士のなかの将来に対する危機感から発せられたものだったと思います。

     驚かれる市民の方も、実はいるのではないかと思います。今、弁護士を増やして、それで仕事がなく、経済的に困窮しているというのであれば、それは増員した弁護士の数に、市場規模が追いついていないのは明白です。それを調べなかったのかと。もちろん、今、弁護士の中には、「ニーズ」とひとくくりにされた中身、あるいは、現実に企業や社会のなかで、他士業の存在も勘案したうえで、どれだけ弁護士が経済的に成り立つ形で必要たったのか、もっと事前に調べておくべきだった、という人がいます。

     そうした検証は、なぜなされなかったのでしょうか。初期の議論を思い出すと、そこにある種の情勢論が働いたのではないか、と思えるのです。端的にいえば、規制緩和というテーマがクローズアップされ始めるなか、実は自分たちが規制している側として、社会あるいは市民の側に立っていない、立っていないとされるとみる強烈な危機感が弁護士に働いたのではないか、ということです。

     つまり、そのことが増員に舵を切ること、しかも積極的に切るという姿勢をとることを、一義的に決定づける要因になっていたのではないか、と思えるのです。「検証」が難しい、という人もいましたが、少なくとも経済的なニーズを測る詳細なリサーチができなかったのか、という意見があって当然です。しかし、当時、もはや「検証」云々ではなく、情勢論に立つ、姿勢としての拡大路線が選択されたように思えるのです。

     「国民に理解されない」という言葉も飛び交った印象があります。ただ、「国民の理解」という情勢を作っているのは、今も昔も大マスコミです。今でも、大新聞は、「競争によって質が向上する」「数を増やせば市民に身近になる」といった論調を連呼していますが、もちろん、これだけ見れば、市民を味方につけ、その上の主張は、「弁護士のエゴ」として片付けられてもおかしくありません。当時、既に弁護士会の姿勢として、そうとられることにつながる選択肢はなかったといってもいいと思います。

     だが、現実は現状がすべてを語っています。「ほらみたことか」という慎重論者は弁護士会内に沢山います。

     もっとも、当時、詳細な「検証」がなされ、仮に、その結果、少なくとも大増員の必要性が疑われ、あるいは、今日の事態が想定されたとしても、果たして情勢論への傾斜にブレーキがかかったかは疑問です。なぜなら、既に現在のような形の結果が出ていても、マスコミは「まだいける」とする前記主張を繰り返し、まだ多くの弁護士も依然として、同様の「まだいける」論か、「通用しない」という情勢論に立っているからです。

     大増員を支えるような「需要」はない、とみる慎重派、大増員された弁護士が支える社会が理想であり、支えきれる潜在ニーズは存在するとする推進派が弁護士会世論を二分しています。もはや結果が出ている以上、両者ともに情勢論をはらんでいるとはいえますが、後者には、「支えきれるまでのニーズを掘り起こすべきなのだ」という情勢論が後押しする姿勢論が今もくっついています。

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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
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