法科大学院制度導入必然性への疑問

     司法試験合格者数を年間3000人にするという、法曹人口激増政策がもし、推し進められなければ、法曹界は法科大学院制度を受け入れたのだろうか。あるいは違う展開があったのではないか――。いまさらといってしまえば、おしまいですが、1990年代当時のことを振り返ると、こうした「仮定」に立ってみたくなります。これまでも書いてきたように、司法研修所を中心とした法曹養成の在り方を検討してきた法曹界、とりわけ最高裁が法科大学院制度を受け入れざるを得ないと判断した、決定的な根拠は、この「数」の方針決定にあったからです。

     これは、当時の取材のなかでも、度々直接裁判所関係者が口にしていたことでもありました。いわば、キャパシティの問題としても、教育面での受け入れ体制としても、激増方針下では司法研修所は対応しきれない、という現実に、最高裁はこれを受け入れ、法曹三者はいわば法曹養成改革議論の仕切り直しを迫られた、ということです(「法科大学院制度選択の事情と思惑」)。

     もちろん、法科大学院導入への要請には、「数」の問題以外にも、「ダブルスクール化」なとどいわれた予備校依存、試験対策偏重といった旧司法試験の状況への批判を伴っての、これに代わる「質」の高い法曹教育の実現といった改革必要論や、最高裁管理下の司法修習脱却といったものを背景にした「欲求」も存在しました。しかし、こと最高裁に関していえば、当時、現行司法修習制度に対する根本的な問題意識はほとんどないといってよく、まして修習無用論につながる論調に与することは、絶対にあり得ませんでした。

     予備校依存を払拭した、それに代わる教育という面を出されれば、正面から否定できないものの、当時の法曹は全員自らが「一発試験」組であり、「点」にかわる「プロセス」といわれても、司法試験後に司法修習に加えて、三者とも実務のなかで、いわば「一人前」になれた「プロセス」の実績があります。「最高裁管理下の司法修習脱却」の発想には、法曹養成の主導権を握る千載一遇のチャンスとみて、研修所廃止まで視野に入れ、さらに「法曹一元」という弁護士会悲願を利用して「改革」路線への弁護士動員を図った一部弁護士たちがいたものの、多くの一般の弁護士には、統一修習という形を含め現行司法修習制度には総体的に高い評価もありました。

     法曹人口激増論がいかに法曹界への法科大学院導入「圧力」となっていったのか、その経緯については、森山文昭弁護士が共著書「司法崩壊の危機」に寄せた論稿「法科大学院の抱える問題点と改革の方向」で紹介しています。

     ロースクールに関する議論が初めて公の機関に登場したのは、法曹三者合意で1991年設置の法曹養成制度等改革協議会。ここで経済界代表の法曹人口激増論に対して、最高裁は前記したような司法研修所受け入れ困難を表明。それに対して、研修所廃止とともにロースクール導入が、いわば代替論として出され、議論になります。しかし、同協議会では、統一司法修習堅持が多数を占め、合格3000人論を排して、中間目標1500人、現行司法修習維持したまま、修習短縮で増員実現を図る道が選択され、1995年に意見書を発表。法曹三者はこれに基づき、1997年当面合格1000人への段階的増加と、1500人に関しては弁護士需要の社会的動向を調査することなどで合意するに至ります(司法試験制度と法曹養成制度に関する合意)。

     しかし、その後、自由競争原理に基づく法曹人口増員論はさらに勢いを増し、同年自民党司法制度特別調査会がロースクール導入を、「法曹人口の大幅増加に対応する法曹教育」して、検討対象として打ち上げ(「司法制度改革の基本的な指針」)、1998年には経団連もロースクール開設と、その修了による試験一部免除の検討を提言します(「司法制度改革についての意見」)。ただ、この時点でもまだ、ロースクールは現実的なものとして、法曹界は受けとめておらず、日弁連もアメリカ流のロースクール方式は困難という立場を崩していなかった、とされています(「司法制度調査会の検討事項について」)。

     決定打になったのは、やはり1999年に設置された司法制度改革審議会での議論でした。以前も書きましたように、経済界出身委員などから懸念論が出るなかで、中坊公平委員(当時弁護士)の強硬論が通り、2001年の最終意見書は、まさに法科大学院を含む新法曹養成制度と3000人目標をセットにした結論を発表します(「『合格3000人』に突き進ませたもの」  「日弁連が『3000人』を受け入れた場面」)。ことここに及んで、法曹界は法科大学院(ロースクール)を中核とする法曹養成制度を、完全に受け入れざるを得ないという認識が支配的になるのです。

     この経緯で改めて注目できるのは、法曹界は合格1500人というラインまでは、現行司法修習制度と、その改善で「やれる」という腹を固めていた、という事実です。現実的な可能性を、そこに見据えていた。その合格者数の倍に当たる3000人の目標が突き付けられた時、もはやどうにもならないという判断が、法科大学院制度を受け入れることにつながる大きな要素になった可能性があるととれるのです。

     このことを私たちは、今、どのようにとらえるべきでしょうか。3000人目標の旗が落とされ、政党、日弁連は1500人を求め、合格者はいまや2000人を切り、1500人に近づき出している。そのなかで、作ってしまったものを壊したくない法科大学院関係者と、依然として弁護士主導の「夢」を捨てきれない方々が3000人目標復活を目指している(「フェアな『国民目線』への懸念」)――。

     しかし、合格3000人目標が放棄されるのであれば、法科大学院制度はどうしても必要だったのでしょうか。本当に導入は必然といえるのでしょうか。森山弁護士の結論も、その根本的な疑問にたどりつくものですが、この疑問の先には、当然、もし、旧制度の改革であれば、むしろ今、法曹界はじめ社会が失わなくて済むものがあったのではないか、という疑問も生まれます。そして、もう一度「仕切り直す」ことができるかどうかで、これ以上、失うか否かも決まると考えることも、また、できてしまうのです。


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    中坊公平に対しては憎悪の念しかありません。

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    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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