フェアな「国民目線」への懸念

     今年の司法試験合格者が2000人を割ったことが、話題になっています。既に多くの弁護士ブログが取り上げて、その原因を含めて、さまざまな分析をしています(花水木法律事務所のブログ 「白浜の思いつき」 「黒猫のつぶやき」 「弁護士 猪野亨のブログ」 武本夕香子弁護士のブロク 「Schulze BLOG」 「Love world neighborsのブログ」 「弁護士鶴間洋平の『新時代のプロフェッションを目指して』」)。

     年間3000人合格の目標を掲げた「改革」は、既にその旗を降ろし、2000人のラインも維持できなくなった。その時期は、大方の予想に反し、やや早く訪れた。その理由として、自民・公明の「1500人」提言が効いているという見方、受験者のレベルが低下してきているとの見方が出されています。その一方で、増員政策がもたらしている弁護士をめぐる劣悪な状況については、この現象によっても大きな変化がもたらされることはない、という見方では、ほぼ一致しているように見えます。

     ただ、あえて今回のことを、「国民の目線」ということにつなげでとらえれば、そのポイントは極めてシンプルな括り方ができてしまいます。つまりは、これは良いのか、悪いのか。国民として歓迎すべきか、否か。合格者が減少したという事実は、一体、国民からすれば、何に対する警鐘なり、気にかけるべき事象なのか――。いうまでもなく、増員路線を是とすれば、これはストレートにそれが達成しようとしたことがさらにできなくなる、憂うべき事態ということになり、逆にそういう前提に立たなければ、この路線に基づいた制度・政策がこうした現実をもたらしている、同路線の無理、負の影響を浮き立たせることになります。

      ここに、対「国民の目線」でこの事象がどのように扱われ、伝えられようとしているのか、そして、伝わってしまうのかという、やはり基本的な問題があるように思うのです。

      「法科大学院 質を高め理念の実現を」。朝日新聞は9月12日付けの社説で、初めて今回の件に関する論評を掲載しました。しかし、その内容は、おそらく「改革」の負の影響を懸念している側からすれば、ほとんど何もいっていないのと同じ、といいたくなるものです。なぜならば、端的にいってそれは、現実をすべてなぞって紹介しながら、こうした事態を生んだことの意味について一切触れないまま、「当初の理念」を実現せよ、といっているだけだからです。

     法曹養成制度は「裁判員制度と並ぶ司法制度改革の柱」として登場し、10年で司法試験合格者を3000人にするという目標を掲げ、その増員政策で「弁護士過疎」が解消されだけど、弁護士の就職難、事務所での修養困難の事態が生まれ、3000人目標は撤回。知識偏重の旧司法試験の反省で生まれた法科大学院だったのに、10年間「逆風続き」で、統合や質の向上に迫られている。特例の「予備試験」に学生が流れているから、法科大学院の充実が図られるのであれば、あり方検討も。制度変化で志望者は振り回されてきた。「公平で先の見通しがきく制度」確立を――。

     いちいち突っ込むのも嫌になりますが、「改革」そのものの反省をせず、実施して「壁」にぶつかっていることを度外視して、「やめるな」「こうなったらいい」という文章です。そもそも、ここまでして増員政策を急ぐ必要があったのか、「知識偏重」と括られる旧試体制の「反省」とその結果、新制度が生まれたということも、問い直すべき必要性はないのか、「過疎」解消が単純に増員によってもたらされたといえるのか、志望者が「振り回されてきた」という理解を示しながら、「予備試験」規制を示唆している点、しかも「公平」をいいながら、何が最もその「公平」さを犠牲にし続けているのか。

     なにやら検討するまでもなく正しい「理念」が存在し、それを前提にしている、とでもいわなければ、とても現実から逆算して検討すべきことを論じたとはいえない内容にみえます。ただ、果たして多くの読者にそう伝わるのかといえば、それもまた疑問です。これまでもそうかもしれませんが、大きくそこには、「改革」の一定の効果、その効果がある「改革」をやめる「変節」、そしてあたかも国民と関係ない弁護士の事情という、要素が掲げられ、「改革」そのものの必要性という根本を問う「目線」を封じているからです。

     では、弁護士はどうか。村越進・日弁連会長は、9月9日の発表の即日、談話を発表しています。ただ、その内容もまた、現状をなぞりながら、何もいっていないといいたくなる内容です。日弁連は、「市民にとって身近で使いやすい司法を実現」へ「弁護士が社会のあらゆる場面で必要な法的サービスを提供」するために、司法過疎対策や活動領域、法曹養成制度改革に取り組んでいる。現実の法的需要や新人弁護士に対するOJTの必要性から、まずは合格1500人を求めている今回の減少では「増員ペースの緩和は未だ限定的」「適正な数まで減少させることについて、広く社会の理解を求めたい」。「社会の期待に応える法曹を養成するため」必要な制度改革に取り組むーー。

     増員基調の「改革」の妥当性に触れなければ、やはり基本は「朝日」と同じ。伝わるのは、もっと減員してもらいたかったということと、日弁連は「取り組んでいる」ということ。彼らもまた、根本を問うスタンスではないと、国民の目には映るでしょう。これでは少なくとも「朝日」が常に匂わす前記「国民と関係ない弁護士の事情」という「目線」を跳ね返すことはできないように思います(「福岡の家電弁護士のブログ」)。

     一方、弁護士や法科大学院関係者が呼びかけ人となって作る「ロースクールと法曹の未来を創る会」が10月27日に、ある集会を予定していることを、同会ホームページで明らかにしています。タイトルは「司法試験3000人合格を実現する国民大集会」。その名の通り、「多様な経歴、能力をもつ多数の法曹をつくり出すには、かつて閣議決定されたように、司法試験の合格者を3000人程度とすることが必要として、もう一度旗を掲げさせたい方による集会です。

     集会のサブタイトルには「見えやすく、分かりやすく、頼りがいのある司法」の実現に向けて」という言葉が添えられています。当日、参加スピーカーからどのような発言がなされるのかは、もちろん分かりません。しかし、彼らもまた、「当初の理念」の正しさに「国民」目線につなげようとする。「改革」のもたらしてくれるだろうメリットを強調しながら、これまでに「生み出された現実から逆算して本質を問うことを避けるスタンスに立つ危険性がある動きとみることができます。「国民大集会」をうたうこのやり方は、それこそ10数年前の「改革」の季節から時間が止まっているかのような印象を受ける、動員手法にも思えます。

      「朝日」の論調や、これらの動きを目にした国民の多くは、果たしてフェアな「目線」で今回の事象を見るところにたどりつけるのでしょうか。彼らが今、本当に守りたいものが何であるのか、そこに国民の「目線」は注がれるでしょうか。もちろん、前記紹介したブロクを含めて、個々の弁護士もまた、国民の判断材料になることを発信しています。しかし、「改革」がどんどん当初の構想を実現できていないことが明らかになる中、あるいは多くの国民が気づかないまま、依然として、そのフェアな判断が阻害されかねない状況は続いているのです。


     「司法ウオッチ」では、現在、以下のようなテーマで、ご意見を募集しています。よろしくお願い致します。
     【法テラス】弁護士、司法書士からみた、法テラスの現状の問題点について、ご意見をお寄せ下さい。
     【弁護士業】いわゆる「ブラック事務所(法律事務所)」の実態ついて情報を求めます。
     【刑事司法】全弁協の保釈保証書発行事業について利用した感想、ご意見をお寄せ下さい。
     【民事司法改革】民事司法改革のあり方について、意見を求めます。
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    弁護士として実働している者としては、今のご時世、司法試験合格者数は年間300人がいいところではないかと思います。3000人ではありません。300人です。ゆとり教育の影響か、少子化で甘やかされたせいか、ちょっと信じられないような新人が多すぎるのです。法律の知識がないとか、実務の知識がないとか、常識がないとか、役にも立たないプライドと借金と感情的なまくし立てだけはあるとか、自分に甘すぎるとか、いろいろ言われているのですが、実際、想像を絶します。300人というのは、予備試験出身合格者にプラスアルファした数字となりますが、現場の実感として使える法曹はこの程度です。

    法科大学院の教授達は、その生計維持の為、合格者3000人と予備試験廃止を訴えます。しかし、これでは弁護士を目指すこと自体が正気の沙汰ではないと国民に受け取られます(実際、ここ数年、4割程度の弁護士が赤字か年収70万円以下です。これでは、新人弁護士が食べていけると思う方がどうかしている)。ゆえに、法学部はさらに聚落して公務員試験予備校同然の状態となり、法科大学院は自滅します。これはもう、各所で幾度と無く言われていることですが、法科大学院側はこの子供でも分かる理屈が全く理解できないようです。

    日弁連執行部も、会費収入増大及び人数増員それ自体、そしてこれらに伴う社会的地位・権力拡大(という妄想)の為、法科大学院側と事を荒立てる気は毛頭ありません。日弁連の某氏が社説の下案を作って、これをコピペをしている社説も見受けられます(これは私の作り話ではありません。例えば、社説用の文章を集団訴訟の弁護団が作り、これを新聞社に配り、新聞社がコピペする、ということは、普通に見受けられます)。

    限られた人間のための権益拡大というエゴと、権威に乗っておけば安心という手抜きが、日本をつぶしています。司法制度改革も、その一環です。
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

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