旧司法試験「体験者」の責任

     旧制度を体験していない、そもそも選択のしようがなく入学し、それでも取りあえず修了後、司法試験に合格し、弁護士になれた法科大学院「体験者」が、新制度を肯定的に評価することは、容易に考えられることです。もちろん、個人の問題意識は、画一的にくくることはできませんし、現にこうした体験者のなかにも、現行法科大学院制度を批判的にとらえている人もいます。ただ、制度によって、とりあえず目的を達成したという体験と、他に選択しようもない新制度を前提とすれば、少なくとも彼らから「旧司法試験制度の方がよかったように思う」という声は出にくいはずです。

     これはむしろ彼らにマイクを向けている側が、本来、差し引いてとらえるべきことです。体験していなくても、旧制度を情報として知ることも、比較することも、もちろんできます。語弊はありますが、「成功」体験のバイアスがかかるのであれば、ここは入学以前を含めて、全過程での「失敗」体験を持つものの声を聞かなくては、制度に対する体験者評価としては、やはりフェアではないように思えます。なぜならば、彼らこそ、情報として旧制度を自らの「失敗」体験に重ね合わせ、新制度と比較して「もし、旧制度だったならば」という仮定に立った評価ができるからです。

     新制度の「成功」者の声だけを取り上げて、こういっているじゃないか、こうなることだってできるじゃないか、といったところで、「成功例」の紹介であっても、制度評価としては全面的には参考にできないゆえんです(法曹養成制度改革顧問会議第11回会議)。

     ブログ「タダスケの日記」が、以前のエントリーで、この法科大学院に賛成する新司法試験合格弁護士について、面白い空想をしていました。彼らを今、タイムスリップさせて、旧司法試験の世界(誰でも司法試験を受験できる制度)に放り込んだら――。腰を抜かすほど驚くのではないか、と。

      「・試験と関係ない授業やレポートに時間を取られない。・勉強が,論文を書く訓練に特化できる。または択一の勉強に特化できる。・書籍代と、もし利用するなら予備校代がかかるくらいで、出費が驚くほど少ない。・(予備校の授業を受けると)試験に役立つことばかりを濃い濃度で教えてくれる。・通学の負担がないので、地方の人でも、書籍で独学するなり、予備校の通信講座を受講するなり、自分の判断で実力を高められる。・こうした純粋に試験のために勉強した人たちとの間で、高いレベルの公平な競争がされている」
      「もし、受験回数制限がないことも加味すると、・実力が今一歩で『記念受験的』になろうとも、個人の判断で自由に受験できて、受け控えなどで頭を悩ませなくてもよい。・三振制のプレッシャーがない。個人の判断次第で、何回でも受験できる。司法浪人中に合格できなくても、働きながら少しずつ勉強を続けて合格を目指すこともできる」

     法科大学院制度の負担の強制が、司法試験に臨む自由な個人の判断や、可能性・機会を奪っている現実です。彼はこのあと、以前は存在した旧試からローに流れた転換組を体験者として両制度を比較できた立場の人々として挙げています。ただ、現実問題として見落とせないと思えるのは、むしろ旧制度体験者の方です。新制度を体験していないといっても、この彼我の違いは、彼らにははっきりと分かる。というか、初めから分かっていた。あえていえば、前記新制度の「成功」者たちが、その制度の「恩恵」によって今の地位にあることをもってして、制度への否定的評価ができないとするならば、旧制度の彼らは本来、その前記した「恩恵」によって今の地位にあることを、旧制度への肯定的評価として口にできる立場だった、ということです。

     現に、それを分かっていた弁護士からは、そういう声を沢山聞きました。新制度ではとても自分は弁護士にはなれていない、と。いわゆる苦学組には、新制度が決定的に公平な受験機会を奪うものになることへの強い懸念もありましたが、ただ、「改革」を推進した大多数の弁護士は、前記した両制度の決定的な、その「腰を抜かすほど」の違いについて目をつぶり、大きな声を挙げないまま、押し進めたのです。むしろ、そのことは、どうだったんだろう、という気が今、するのです。

     最近、ある弁護士ブログが、新司法試験の制度設計に当たったというベテラン弁護士が、かつて法科大学院の学生相手の講演で、驚くべき認識の発言をしていたことを紹介し、ネットで話題となりました(「大阪の法律事務所 にしてんま法律事務所のブログ」)。

     いまさら、当時の認識、あるいは責任を問うても仕方がないという人もいるかもしれません。ただ、彼らがもし、彼我の違いによって、多くの志望者が遠ざかっている今でも、当初の「理念」と、やれた「成功者」の声を頼りに旗を振り続けるのであれば、少なくとも、彼ら自身が本当に「体験者」としての責任を果たしていることになるのだろうか、という疑問を持ってしまうのです。すべての違いを、初めから分かっていた人間たちとして。


      「司法ウオッチ」では、現在、以下のようなテーマで、ご意見を募集しています。よろしくお願い致します。
     【法テラス】弁護士、司法書士からみた、法テラスの現状の問題点について、ご意見をお寄せ下さい。
     【弁護士業】いわゆる「ブラック事務所(法律事務所)」の実態ついて情報を求めます。
     【刑事司法】全弁協の保釈保証書発行事業について利用した感想、ご意見をお寄せ下さい。
     【民事司法改革】民事司法改革のあり方について、意見を求めます。
     【法曹養成】「予備試験」のあり方をめぐる議論について意見を求めます。
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     【裁判員制度】裁判員制度は本当に必要だと思いますか

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    No title

    法テラスについての私の考え方は、司法ウオッチの方に書きました。

    国選弁護料の水増し請求の問題に関しては、以前、法曹人口問題・司法改革問題掲示板に書いています。http://6532.teacup.com/umezou/bbs/24

    No title

    河野さんには是非、つまらない雑音を振り切り、法曹制度問題にするどく切り込み続けて下さい。

    下の方の投稿ですが、平成18年以来、マチ弁が顔を合わせれば法テラスのあるあるネタで不満をぶつけ合うという時代です。それにもかかわらず、法テラスで「おやっと思う」のが「年1,2件」というのは、実働の弁護士であるならば考えがたいことです。したがって、ありうる可能性は、まれにしか法テラスを利用したことのない弁護士か、または意図的に事実をねじ曲げるという目的を持った人が、訳知り顔で投稿したというものです。

    また、法科大学院の乱立により合格者が急増し、確定申告をしている弁護士の約4割が赤字又は年収70万円以下という惨状を呈し、また少なくない弁護士が受任件数減少や一件あたりの報酬低下に伴う生活苦や経営難の為に不祥事を多発させているにもかかわらず、法曹養成制度改革問題を小さな問題と表現していることにも違和感を覚えます。

    はっきり言えば、この投稿は、法テラス及び法曹養成制度の双方の問題を矮小化しています。

    本日の朝日新聞の朝刊にも眉をひそめざるを得ませんでした。法科大学院関係者のコピペでしょうが、それをあたかも世論の趨勢のような顔をして全国紙に載せ、世論を誘導しようという魂胆が丸見えです。

    多くの弁護士が推進派を信用しないのは、その本音を隠しながら事実に基づかない卑怯なプロパガンダを延々と垂れ流すからです。その方法は巧みなようで、使い古された孫子の兵法を劣化コピーさせているだけです。見抜くのは簡単です。

    No title

    2014-09-16(11:00)さんへ

    弁護士が弁護士の立場から、「手続きが煩雑」、「国選の報酬が安すぎる」云々の苦情や不服申し立てを重ねているのは勿論存じ上げてますよ。
    でも、接見回数を容易に誤魔化せる原因、また生活保護受給者には償還免除で、もっと困窮している国民にはあの手この手で償還を請求する矛盾・・・
    2年程前、芸能人を巻き込んだ騒動の時に、この点は法律の専門家の間でも全く話題にもならなかった。
    弁護費用や報酬の取りっぱぐれがなければ、それに越したことはない、ということなんでしょうか。
    また、役員がほとんど法曹資格者なのに、元非常勤職員が訴えた裁判で、最高裁が判断を下すまで必要書類の提出を拒否し続ける等、一年以上にわたって公判を引き伸ばして法的弱者を痛めつける。
    はじめから書類の提出は求められる判断が出ることなど、彼らには分からなかったのでしょうか?
    そして最近では、事務所の所長の指示で税金からの国選費用の交通費の額を6年以上も水増し給付していたのに、誰も責任を取ろうとしない。
    そこまでして守らなければならないものは何なのか。
    些末な報酬金額や事務手続については騒ぎ立てて、もっと制度的な面、根本的な問題での疑義を誰も提示しないのが不思議なのです。
    最近出版された「〇●の○○所」という本でも、設立の経緯の裏側まで詳細に知ることが出来る立場だった人物でも、この組織設立だけは手放しに評価されている。ならば、貴方を含め有志の弁護士の見解とは矛盾していませんか?
    当初思われていたよりも、自分達弁護士には旨味の無い制度だと判明したから自分は三行半を突き付ける、どうだ参ったか?!では済まない問題だと思いますよ。

    No title

    2014-09-16(00:45) さんへ

    法テラスの問題についても、各ブログでの問題点の指摘や、河野様の「司法ウォッチ」での厳しい内容の投稿などがあります。

    また、各弁護士が、直接法テラスに対して、苦情のFAXを入れたり、あるいは不服申立をしたりしています。しかし、法テラスからは完全に無視されている状態であり、心ある弁護士は法テラスに協力するのを止めています。

    もちろん、利用者数も激減していますので、国民からも見放されているのでしょう。

    心ある弁護士達が多忙の中時間を割いて幾度と無く声を上げ、最終的には法テラスに三行半を突きつける、というのはあまりにも有名な事象ですが、2014-09-16(00:45)さんはひょっとしてご存じないのでしょうか。

    冷やかしでなく本気で法テラス問題をお考えであるならば、ご多忙中恐縮ですが、ブログ類や司法ウォッチなどをよろしくご確認下さい。また、2014-09-16(00:45)さんご自身も、法テラスに対してきちんと問題の指摘をなさるなど、声を上げて下さい。もちろん、私は実行しています。

    No title

    司法制度改革には3本の柱があって、1つは裁判員制度、2つ目は法科大学院等の司法試験・法曹者養成制度、そして最後は総合法律支援法。
    ここでは最初の2つについては喧々諤々のコメントを書く人が多いですが、3つ目の日本司法支援センター、法テラスについては、ほとんど全く触れる人がいないですね。そこも結構、「何だこれはっ?」と思うような事件がここ最近、年に一度は起きているように思うんですが。
    触れられる頻度があまりにも違い過ぎるし、たまに触れられても異常なまでに一面的で凄くアンバランスな気がします。これは、色んな理由でタブーなので皆さん怖いんでしょうか?
    政治的にも色んな団体・組織が複雑にテコ入れしていて、下手に触ると厄介なんですか?
    一部マスコミも、どーでもいい様な法科の改廃の話をすることで、国民に問題の本質から目を背けようとさせているような気がするのは、単なる邪推ですか?

    No title

    予備校を目の敵にしたのは、京都大学などの教授達です。

    一部のベテラン弁護士は、教授達に適当に調子をあわせたり、改革推進のへりくつの一つとして利用していたかもしれませんが、主犯格は教授です。

    大きな絵図としては、次のような動きがあります。つまり、国家が弱体化し、グローバル企業が力を蓄える中で、グローバル企業にとってローカル独自の制度は邪魔になります。そこで、グローバル企業の多くが実質的な拠点としているアメリカ風に均一化しよう、という動きがあるように思われます。アメリカが個性重視というのは建前論であり、実際の国際企業のロビー活動は眞逆です。

    No title

    私は27期の老人弁護士ですが、3000人と法科大学院容認に反対するために、2000年11月1日の日弁連臨時総会に出席した者の一人として、「予備校で勉強した世代に対し「頭でっかち」などという強い偏見を持っていたと」いうことには異議を述べたいと思います。

    それより前に、司法試験合格者の増加と、司法修習期間の短縮には反対でした。

    1996年(平成8年に始まった法曹三者協議会で、最高裁は合格者の増員に対応するため修習期間を1年に短縮する案を出し、法務省は、2年を堅持する日弁連との間を取り持つように、1年6月を提案しました。

    1997年10月15日の臨時総会に日弁連執行部は、合格者1500人と修習期間1年6月を受け入れる方針を提案しました。私は日弁連執行部が三者協議を維持したいあまり原理原則を放棄した妥協には、反対する委任状を出していましたが、この案が議決されてしまいました。

    小林正啓弁護士は、この決議を賛嘆しているが、とんでもないことです。

    法科大学院は弁護士激増のための道具に過ぎません。日弁連は、その後、原理原則なき妥協を重ねていくことになります。

    弁護士を増やしたい人は、一方は新自由主義的な考えを持った人、もう一方は、国家の法曹養成を嫌悪する人でした。同床異夢ですが、主導権は新自由主義の側にあったことは言うまでもありません。

    No title

    法科大学院制度を推進したのは,旧制度でも30期代かそれ以前の老人弁護士です。中坊弁護士がその代表格ですが,彼らは同じ旧制度でも予備校がなかった時代の旧司法試験合格者であり,予備校を利用した「効率の良い勉強」は体験していません。
    そうした老人弁護士たちは,予備校で勉強した世代に対し「頭でっかち」などという強い偏見を持っており,予備校で勉強した若手世代の意見には一切耳を傾けることなく,法科大学院制度の実施を強行したのです。
    つまり,「体験者」ではないから,そういう無責任なことがやれたわけですね。
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

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