「身近」アピールの本音と効果

     この「改革」でも、度々目にすることになった「身近」という言葉には、それを宣伝文句として使う側の、極めて一面的なとらえ方があるように思えます。その強調は、多くの場合、距離感の誤解を解く、というものにとれるからです。つまり、本当は社会、大衆が知らないだけで、「身近な」存在なのだ、縁遠いと考えるのは誤解なのだから、「身近」に「感じて」さえもらえさえすれば、利用は拡大する、という発想です。

     ただ、この発想は、どうも二つのことを無視しているように思えてなりません。一つは「身近」になりたくない、という意思の問題。本当は「距離感」でも、アクセスの問題でもなく、そもそもの存在意義や趣旨として、利用したくない理由は存在しないのか、という問題です。その理由を脇において、いくら距離感としての「身近」をアピールしても、それはかみ合わないはずです。

     もう一つは、前者とも関連しますが、「身近」とは一体、何なのかという問題。それが親しみやすさであったり、簡便であったり、という説明が、どうも発信者側の見方、嫌な言い方をすればご都合的なとらえ方で、繰り出されていないか、という問題です。確かに、その「誤解」が解けるところで、大衆が制度を利用するようになる場合もあります。ただ、それは百も承知かもしれない。イメージとしての「親しみやすさ」も、「簡便さ」も、発信者側がいう点は、うなづかせるものがあったとしても、利用者にとって「親しみやすく」なってほしい点、彼らが一番「簡便」になってほしい点は触れられているのか、という話です。

     要は、いずれも、本当の制度利用のネックになっているところを、直視した「身近」の強調なのかどうかという問題です。その例は、この「改革」に伴う、「弁護士」「裁判員制度」などのテーマに典型的に現れている、といえます。

      「弁護士」について、「身近」は大雑把にくくれば、ずっと数と距離感の問題とされてきました。沢山の数の弁護士がいて、それが市民のアクセス可能なすぐ近くにいる。激増政策や「ゼロワン」対策につながっていった、根本的な発想です。しかも、距離感の問題を、必ずしも適正配置の問題ととらえられていたのかは疑問です。「改革」推進派の発想のなかに、増員が適正配置を「自然と」形成するという思い込みがあったからです。現実的に弁護士・会の「ゼロワン」解消への努力をみれば、そんな単純にはいかなかった。経済的な問題を含め、本当に適正配置をいうならば、確実な後ろ支えが必要であることが、むしろはっきりした、というべきです。「ゼロワン」こそが、市場原理の結果であるのですから、当然といえば当然です(「『改革』と市場原理の矛盾」)。

     さらにいえば、「無償性」ということについてどこまで直視していたのか、という点も関連してきます。つまり、有り体に言えば「タダならば、弁護士を利用してもいいニーズ」は、どこまで念頭において、「身近」だ「利用」だという発想に、「改革」、しかもそれを推進した弁護士自身が立っていなかったのか、ということです。むしろ、増員政策の失敗がはっきりしたうえに、さらに法律相談などの「無料化」という方向が出て、むしろその誤りをいまさらのように、痛感している方は、いまや少なくないようです。その意味では、弁護士過疎問題は、象徴的に「ゼロワン」と位置づけられましたが、もし弁護士の「利用」問題ととらえるならば、弁護士が大量に存在する大都市部にも「過疎」は存在していることになります(「『身近』に対する理解のズレ」 「日弁連『フレンドリー』広告の見え方」)。

     逆に言えば、それは自営業者としての弁護士への「無理」というとらえ方にもなります。「無償性」の高いニーズは、それこそ弁護士「自由競争」下では、丸ごと切り捨てられてもいいのか、それとも社会的に基盤を作ってでも、なんとかしなければいけないものが、そこにはあるのか。少なくとも、そこをカバーする建て前を通しつつ、弁護士の「自由競争」に丸投げする「改革」が、現実的なのか。それらに弁護士会も社会も、そろそろ正面から向き合わなければならないはずです。

     一方、「裁判員制度」でも、依然として「身近」がいわれています。裁判を「身近」に感じてもらう、という制度の「効用」自体、「参加」を強制するためにひねり出した理屈の一つとしかとらえられません。変えられない「官僚司法」を市民参加の力で変えるといった発想、期待感は、今でも推進派弁護士の方のなかにはありますが、これがどうして市民の直接参加強制でなければならないのか、どのくらいの市民が理解、賛同しているのかは疑問といわなければなりません。そして、それ以上に、そうした制度の必要性そのものを社会が果たして感じているのか、つまりは「身近」すなわち「直接参加」強制の必要性として、スト―レートに理解されているのか、という、根本問題があるように思えてならないのです。

     最高裁が、裁判員経験者の所属する企業や団体などに現役裁判官が出向き、未経験者の疑問などに答える「出前講義」を積極的に行うよう、各地裁に通知した、という報道がなされています。裁判員の選任手続きへの出席率の低下(2009年83・9%、2010年80.6%、2014年6月末時点72・1%、裁判員裁判の実施状況について〈制度施行~平成26年6月末・速報〉に焦る当局が、制度理解への取り組みとして開始するものですが、これを伝えた産経新聞の報道(msn産経8月30日)にも、こんな紹介の仕方がなされています。

      「出前講義で制度を身近に感じ、参加のきっかけにしてもらうとともに、聞き取った国民の生の声を制度運用に生かすのが狙いだ」
     
      「身近」がどれだけ出頭率向上につながると解釈してのことかは定かではありませんが、制度に対する国民感情や、そうした感情の根にある制度の本質的問題、あるいは「無理」を、どこまで当局が直視する気があるのか、を疑いたくなります。

      「身近」というテーマに限らず、あくまで「改革」路線で生まれた制度を維持したい側が、その都合から、問題の本質とはずれたポイントをアピールし、「理解」を求めるということは、ほかでも見受けられます(「法科大学院『意義』発信の効果と現実」)。しかし、もうそういうのは、ここらでいいのではないでしょうか。本質的な問題解決にならない、ということを、まず「理解」する必要があるのは、その発信者の方ですから。


      「司法ウオッチ」では、現在、以下のようなテーマで、ご意見を募集しています。よろしくお願い致します。
     【法テラス】弁護士、司法書士からみた、法テラスの現状の問題点について、ご意見をお寄せ下さい。
     【弁護士業】いわゆる「ブラック事務所(法律事務所)」の実態ついて情報を求めます。
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    No title

    とりあえず手近なところから反対運動をしていくしかないですね。
    会費払わないって出来ればいいんだけど。
    まず、義務のない会務は一切しない。
    アンケート答えない。
    署名集めない
    パレードでない
    集会参加しない

    No title

    するどいご指摘、と思います。

    付け加えるならば、関係団体の根拠なき「拡大」への欲も、関係各所のとんちんかんな行動の基盤になっています。

    日弁連で言えば、会長や副会長になるような弁護士は、普段、弁護士としての職務は遂行していません。派閥活動にまい進しています。
    彼らにとっての業務拡大というのは、多くの弁護士とは異なり、弁護士としての業務に誠心誠意尽くすことではありません。日弁連の活動の拡大です。会費収入増加につながる会員増加や、身近アピールも含めた無駄な事業を増やし続けることは、彼らにとっては「成果」です。
    それが多くの会員を疲弊させ、弁護士の社会的信頼を貶めるなどの現状があっても、正視しない。赤字や年収70万円以下という弁護士が約4割という国税の統計がある中、年間40万から100万以上の会費を取り立てるのが異常であることは、小学生でもわかる理屈ですが、これをアメリカ並みに任意加入団体にし、単位会の会費を年間4万円程度にする気は毛頭ない。

    ところで、正直、日弁連を任意加入団体にするという議題ないし議案を提案したい、という弁護士は多いのです。が、個々の弁護士の議題提案権を定める規定がない。

    また、任意加入団体化する運動でもしようものなら、強制加入団体という大前提に違反しているとして、懲戒処分の可能性もある。

    会費を不払いにすれば強制退会。

    結局のところ、
    「日弁連のやり方に文句があるなら、弁護士やめろ」
    という状況に、今の弁護士は置かれています。
    もちろん、
    「日弁連には、会長などの選挙がある。」
    と、彼らは言うでしょう。北朝鮮の憲法にも、17歳以上の成人による普通選挙が保障されています。この北朝鮮のやり方に文句があるならば、命がけで脱北するしかありません。

    ところで、ここ数年、12月末日の請求による退会が増え続けていますが、今年の数字にも注目したいと思います。硬直化したやり方が、どのような結果をもたらすのか・・・事象が起きてからでは遅いのですが・・・。執行部が現実を見つめる勇気を持つことを、心から祈ります。
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

    お買い求めは全国書店もしくは共栄書房へ。

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