弁護士「保身」と括れない現実

     いまだに法曹界、とりわけ弁護士に向けた「参入規制」批判を耳にします。司法試験合格者数を絞り、競争原理を排除してきた「数」の環境維持は、弁護士の保身、いわば「楽して儲ける」ためのものだ、という切り口です。当然、その裏返しとして、利用者・市民は、より低額に、より良質の法的サービスを受けられないできた、という不当性の強調がなされています。

     それは、弁護士を激増させても、それに見合う需要がなく、一方でそうしたなかで起こるはずの競争・淘汰で利用者・市民が得られるはずの良質化・低額化のメリットが、少なくとも社会全体で実感できないことがはっきりした今でも、繰り出されています。この現状を踏まえた、極めて現実的なデメリットを社会に伝え、それがゆえに法曹人口激増政策に異を唱える声(「弁護士『激増』社会を憂う有志弁護士会の挑戦」)も、依然として、前記切り口でかき消そうとする方々が社会には存在するのです。

     なぜ、こうなるのか、ということもさることながら、この切り口が果たして基本的に正しいのか、また、逆に本来的に市民に支持される見方と言えるのか――。その答えを非常に分かりやすく伝えているものが、最近の弁護士ブログのエントリーでありました。ブログ「もの言う若手」の「社会が求める日本の弁護士の役割」。法曹養成制度改革顧問会議席上、参加顧問から飛び出し例の「知ったことか」発言(「弁護士『保身』批判が覆い隠す現実」)を取り上げ、前記切り口の問題と向き合っています。

     詳しくは是非お読み頂ければと思いますが、ここでは前記切り口が日本の弁護士の現実を度外視するがゆえに、メリットどころか結果的に利用者・市民が失おうとしているものが簡明に浮き彫りにされています。

     自由競争社会アメリカの弁護士をイメージ化させる切り口が無視した日本との国情の違い。片や国民皆保険に根強い反対論があり、医療も弁護士の救済も受けられずとも「自己責任」という社会と、国民皆保険制度を構築し先端医療をどんどん健康保険の適用範囲にし、弁護士・弁護士会に対しても、無償ないしそれに近い公益活動を求める世論がある社会。

     いわば、見捨てられても「自己責任」の社会と、見捨てることを基本的に受け入れない社会。つまりは、弁護士の保身以前に、社会が弁護士に求めている前提が大きく異なるということです。

     ブログ氏は結局、これまでの日本社会の弁護士は、こうした違いを背景に、「割の合わない公益活動を可能にするのは、割りの合う事件を他で獲得するしかないのであり、参入規制、言い替えると、司法試験合格者数の調整はやむを得ない」という立場できたことを指摘しています。前記したように、現状を「知ったことか」と突き放された弁護士たちは、実はこうした日本社会の求めに「知ったことか」という姿勢で臨んでこなかったのだ、と。

     こうした指摘に対して、前記切り口で主張する側からは、そんな弁護士だけではない、要は「割の合わない」事件に「知ったことか」を決め込んだ弁護士はいなかったのか、という反論が展開される、と思います。確かに、そうした弁護士もいたかもしれません。しかし、それがこの国の弁護士全体を語るにふさわしいのかもさることながら、最も大事なことは、ブログ氏がいうような立場の弁護士を根絶やしにしてまで、この「改革」のメリットと、アメリカ流の「自己責任」社会を、本当に利用者・市民が選択するのか、その問いかけは、まず、フェアに利用者・市民になされたのか、という問題です。

     これまでも弁護士会のなかには、前記「保身」批判を正面から反省している人、本音では従えなくても、逆らえないとみて、建て前として受け入れている人も沢山います。しかし、あたかも前記切り口からすれば、謙虚ととられるかもしれないそうした弁護士たちは、本当に利用者・市民には有り難い存在になるのでしょうか。もはやどちらにしても自分の生活に影響がないとして黙るのも、諦めて黙るのも、要は現実的に利用者・市民が失うものに対して、「知ったことか」という姿勢を取っていることになるといえないでしょうか。

     そうだとすれば、少なくともその弁護士たちには、前記法曹養成制度改革顧問会議の無責任な顧問の姿勢に、眉をしかめる資格はない、という気もしてくるのです。


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    No title

    >これまでも弁護士会のなかには、前記「保身」批判を正面から反省している人、本音では従えなくても、逆らえないとみて、建て前として受け入れている人も沢山います。しかし、あたかも前記切り口からすれば、謙虚ととられるかもしれないそうした弁護士たちは、本当に利用者・市民には有り難い存在になるのでしょうか。もはやどちらにしても自分の生活に影響がないとして黙るのも、諦めて黙るのも、要は現実的に利用者・市民が失うものに対して、「知ったことか」という姿勢を取っていることになるといえないでしょうか。

    市民・利用者は現実的に失うものについて、司法改革に真正面から反対してきたのでしょうか?
    市民こそ、自分たちが法的サービスを受けられなくなっても「知ったことか」という態度をとったのではないのでしょうか。

    No title

    弁護士が「割に合わない公益活動も進んでやっている」というイメージ自体,私が弁護士になった時点で既に過去のものになっていた感がありますし,もはや今更何をやっても,そのようなイメージ像に合う弁護士は絶滅する以外にないと思います。
    それは,利用者である一般市民がアメリカ流の「自己責任」社会を選択したからではなく,経済感覚のない先代弁護士の多くが「自滅」の道を選択したからです。合格者数3000人というとんでもない数字を言い出したのも,他ならぬ中坊公平弁護士でした。
    日本が「見捨てることを受け容れない社会」だというのも,単なる建前論にすぎません。十分な弁護を受けられず冤罪で処罰される人,役所の水際作戦で生活保護を受けられずのたれ死んでいく人が日本にいないとでも思うのですか。
    アメリカで国民皆保険に反対論が強いのは,国の財政問題に関する健全な市民感覚が働いているからであり,日本で先端医療が健康保険の対象となっているのは,医師業界が国の財政事情を無視して既得権益を拡大させているだけです。日本の財政は近い将来破綻し,国民皆保険など絵にかいた餅になるでしょう。
    その原因は,単に日本人が愚かなだけです。

    No title

    そもそも保身という言葉がどのように妥当するのか、そこから説得してもらえないだろうか?
    かなりバイアスの掛かった記事のように見受けられるけど、黙って現状に屈しているかのように見えるのか?
    現場の弁護士の抵抗は必ず市民に司法改革に反対しなかったことを後悔させる結論を導くことになる。
    そのときになって、心構えとか抜かしたところで、そのダメージを自ら甘受しなければならなくなる。

    その覚悟があって司法改革とか言っているんだろうか?

    No title

    ちょっと笑えるのは、一般の方はまだ弁護士が儲かる仕事と思いこんでいるらしく、
    「うちの親戚で就職にあぶれた子がいるんだけど、お茶くみの仕事でもないかな?」
    などと言う人が、まだ結構いる、ということです。
    しかし、今時、おちゃくみにお金を払うような寝ぼけた事務所は、ありません。

    結局、
    「おいしい仕事は、弁護士事務所からもらいたい」
    「いざというときには弁護士には迅速かつ最高のレベルで最大限の犠牲を自分に払ってほしい」
    しかし
    「弁護士にはお金を払いたくない」
    という、実に愚かであり得ない妄想を、国民が抱いているのです。

    はっきり言いますが、いざというときに頼りになるレベルの高い弁護士(肩書きやマスコミへの露出度は無関係)は、死に絶えつつあります。存在するとしても、依頼のチャンスをつかむには、人脈もお金も、以前にもまして必要になってしまった。それが自由競争の当然の帰結です。自由競争のメリットを受けられる国民は、それこそ1%も存在しないのです。金持ち勝つ、が、より極端になったのが、司法制度改革の結果です。

    「しったことか」
    発言の方は、勝ち組の方なのでしょう。自分だけは大丈夫と根拠無く信じているタイプです。弁護士が弱体化して、弱者を保護したり筋を通す邪魔者がいなくなることで、メリットを受けるのですから、「しったことか」どころか、「してやったり」なのでしょう。

    No title

    公益なんて強調される理由はないですよ。
    それを知ったことかと開き直ったとか言われる筋合いもないですが。
    顧問会議を批判できない?
    批判して何になるのでしょう?
    自分の生活を守ることができないうちは、自分の生活を守ることしか考えられないのは当たり前のことではないでしょうか。
    公益かどうかは知りませんが、非採算性の仕事はしません。出来ません。
    公益活動をしない、のではなく採算の合わない仕事はしないのです。
    公益性のある事件でも採算が合う場合にはもちろんひとつの事件として受任するでしょう。
    ただそれだけのことです。
    正当な対価を支払いたくないから、お金を払わずに仕事をさせることを公益といっているのではないのでしょうか?
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

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