「多様性」のプライオリティ

     法科大学院を中核とする新法曹養成制度をめぐる論議で、度々強調されてきた「多様な人材」の確保。しかし、現実的な目線で見たとき、果たしてこの制度は、このテーマをどのくらいのプライオリティでとらえていたのか、ということを問いたくなります。

     司法制度改革審議会最終意見書では、この「多様性」という点を、「公平性」「開放性」とならべて制度が確保すべきものと位置付け、全国的適正配置、夜間大学院・通信制大学院、 奨学金、教育ローン、授業料免除制度等の各種の支援制度の整備・活用をうたっています。また、「社会人等としての経験を積んだ者を含め、多様なバックグラウンドを有する人材を多数法曹に受け入れる」としており、それ以降、この「多様なバックグラウンド」という表現は、2012年の中央教育審議会特別委員会の提言を含め、制度推進側から今日まで繰り返し言われてきています。

     この特徴は、要するに新法曹養成が確保を目指す多様性とは、その入り口の部分で決するものと見ているということです。制度が多様な人材を生み出す教育を施すというよりも、むしろ多様な志望者の「受け皿」になるという発想にとれます。そして、列挙された確保のための施策例は、法科大学院という新たな「プロセス」の強制化に対して、むしろ逆行するものへの対策といえます。いうまでもなく、旧司法試験よりも、このままでは後退することが確実な「多様性」「公平性」「開放性」をこれらの施策によって、是正するというものと考えられるのです。

     結果からみれば、それらは「多様性」という意味では、予想以上にうまくいかなかった、ということができます。ただ、新制度が本当にあくまで「受け皿」としての多様性確保、つまり多様な志望者の現実的な機会確保という面でとらえていたのだとすれば、果たしてどこまでこの点を重視し、その実現に自信をもった制度構築だったのか、そのこと自体を疑いたくなるのです。

     「プロセス」強制化によって、旧司法試験より損なわれかねない、社会人などそれこそ様々な層の受験機会を、完全に補てんし、あるいは旧制度よりもまして、様々なバックグラウンドをもった人間を、この世界に送り込めるほどに、各大学がこれらの施策を必ずや十分に完備させる――。そうしたヨミが、制度設計者側に果たしてどこまでできていたのか、ということです。

     もちろん、制度創設を急いだ「改革」が、たとえば参入規制といった、いわば面倒くさいテーマを回避してしまった、という同様の事情を、ここにもあてはめることはできるかもしれません。ただ、そもそも「多様性」とか「公平性」は、絶対的に重視されるテーマだったのでしょうか。もし、そうであれば、それこそ本道を守るために、これも「多様性」という意味で制度がむしろ作らざるを得なかった「予備試験」(「補完制度としての『予備試験』」)を制限してしまえ、という議論が、さすがに登場するわけもない気がするからです。

     つまり、「多様性」とはもちろん「重要」としながらも、そこに制度の真剣味とプライオリティをどこまで読みとるべきなのか、分からなくなるテーマのように思えてくるのです。

     それは、この「改革」、とりわけこの「プロセス」を守ろうとする側が、「給費制」に対してとった姿勢にも表れている、といえます。最近、「なら法律事務所」のブログが、この点での「給費制」の意味について、一般向けに分かりやすく解説しています。

     ここで書かれているは、「多様性」というテーマは、トラブルに巻き込まれた市民が、必然的に弁護士に求めることになるものであるということ、そして、その弁護士に限らず法曹三者の多様性を確保するために「給費制」が重要な役割を果たしてきた、ということです。

     「国の機関である司法が、多様な人材によって運営されることが、国民の権利や利益の実現とって必要である、堅苦しくなっちゃうけど、こういうことです。そして、法律家の多様性を確保するために税金を使うことは、国民のためになるのではないかな、というところに、つながっていて」
     「多様性のない司法がみなさまにとってプラスになるとは、とても思えませんよね。そして・・・ 法律家の多様性を確保するためには、誰でも『法律家』を目指すことができるということが、いちばんなんじゃないかな~ と思うのです」

     職業訓練は「自弁」で当然、弁護士を特別扱いした税金の投入は、国民の理解が得られない、ということが、声高に言われて、廃止に向けられた「給費制」ですが、「多様性」という問題にリアルに、そして重きを置いて向き合う、ここでいわれてることは、本当に国民に理解されないのか、といいたくなります。

     結局、「給費制」でも、廃止されても大丈夫というような補てん策の効果が強調され、それで「やれっていかれる」という意味では、「多様性」の欠落という問題としてとらえなかったのは、前記法科大学院制度と同じということもできます。

     そして、やはり一番ひっかかるのは、「多様性」というテーマは、やはりどこまで重視されているのかということと、「国民の理解」を振りかざす側ほど、こうしたテーマをフェアに国民に投げかけないで振りかざしているように見えることなのです。



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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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