「倫理」が登場する弁護士会の現実

     資格がないNPO法人元代表から債務整理の紹介を受けたとして、弁護士3人が東京地検に起訴された事件をネット上で報じたmsn産経ニュース(本紙掲載なし)の記事で、うち弁護士である被告人の一人が語ったとされている言葉が、話題になりました。

     「生活に困窮し、クモの糸をつかむ思いだった」

     記事によれば、3弁護士とも懲戒処分や高齢が原因で仕事に困っていた弁護士ということですが、理由はともかく、「クモの糸」というのは、天から伸びてきたか細い可能性にすがったというよりも、「藁をもつかむ」気持ちで、分かったうえで不正に手を染めた弁護士たちの姿の方をイメージさせます。

     ただ、この記事で注目されたのは、この事態に対して述べられたとされる、日弁連の非弁提携問題の担当者の次のコメントでした。

     「競争激化で、仕事がない弁護士が提携に走る傾向がある。業界全体の問題として、倫理研修を徹底したい」

     この事態を日弁連は、研修で対応すべき「倫理」の問題として受けとめている――。このコメントには、そう取られかねないものがあり、果たして、そうなのかということが、同業者から聞かれました。ただ、これは同業者のなかでも、評価が分かれるところだと思います。そもそも弁護士会が持ち出す「倫理」という視点に対して、こと不祥事対策という意味で、その効果を積極的に支持する見方が、弁護士のなかにどれほどあるのかは、甚だ疑問だからです。

     以前も書きましたが、それこそ弁護士会は「自治」がある以上、不祥事発生に対して、何もしないわけにはいかない。いわば、その責任上、「倫理」の問題として受けとめて対策を講じる立場は崩せない。その建て前を支持するという意味で、こうした弁護士会の従前から対応や発言を了解してきた弁護士は少なからず存在しています。

     もちろん、公言するかはともかく、前記担当者を含め、「倫理」で対応しようとする関係者も、このことを十分理解しているかもしれません。ただ、「効果」がなかった場合でも、こういう対応を口にしてしまえば、いずれにしても責任だけは弁護士会に回って来るということなります。それでも「弁護士会がやれることには限界があります」という断りもできない。このテーマの現実はそういうものと理解することもできなくないのです。

     この「倫理」というテーマに関連して、弁護士ブログ「黒猫のつぶやき」が興味深い分析をしています。

     「黒猫のような若手が、弁護士会の政治的意見表明に批判的なことを言い出すのは、要するに若手弁護士が法曹倫理、つまり基本的人権を擁護し社会的正義を実現するという法曹の使命を理解していないからだ、ならば法科大学院の法曹倫理教育で法曹の使命などを徹底的に教え込み、かつ司法試験の法曹倫理科目で,弁護士会執行部の考えるような法曹倫理(弁護士は人権活動家である、といった考え方)を受け容れた人しか司法試験に合格しないようにすれば,社会正義を実現するための弁護士会の活動に若手が疑義をはさむことはなくなり、若手も会務活動へ積極的に参加するようになる、そのような皮算用を目論んでいるのではないでしょうか」
     「仮にそうであれば、法曹の卵に対し『法曹倫理教育』という名の徹底した思想教育を行うには、たしかに予備試験より法科大学院の方が適しているといえますから、法曹にとってはなお法科大学院は必要だ、という結論も併せて導かれるのでしょう」

     ブログ氏が何を言わんとしているかというと、彼の見方からすれば、現在、弁護士を「法務サービス業」と考える若手弁護士と、「人権活動家」として、通常業務をその経済的活動の基盤と考えるような旧来からの発想の弁護士の分化が存在し、後者が前者を、その旧来型の弁護士像に当てはめさせるために、「法曹倫理教育」を持ち出している、ということです。さらには、それが日弁連主導層の法科大学院へ執着ともいいたくなる期待感につながっている、という見方です。

     ブログ氏のいう通り、この分化を「倫理教育」でなんとかするという発想ならば、それは現実離れした、ほとんどあり得ない夢といわれても仕方がありません。彼が言う通り、結局、分化した双方は、これによって一方の発想に収れんされるようなことはなく、世代的な分裂化か、「弁護士=人権活動家」論が支持を失い、弁護士会の人権活動は廃止・縮小、という道を進むというのも、一つの見方であるように思います。

     ただ、一つ気になるのは、そもそも今の日弁連主導層やそうした発言をする弁護士の多くが、本当にかつてのような(あるいはかつてほどの)「人権活動家」論に立ち、その「分化」解消と言う目的のうえに、そのための「効果」を期待して、「倫理教育」を掲げたり、さらには法科大学院を支持しているのか、という疑問は残ります。本当に、その「効果」を信じているのか、と、本当にそういう目的意識を持ってのことなのか、という意味において。

     「危機感を持たない」ように見えるのは、彼らの目的が、もはやそういうところにないからなのではないか、「弁護士自治」崩壊の未来も、彼らの頭のなかに、ずっと前からあったうえでのことではないか、という気がしてしまうのです(「弁護士会意思表明がはらむ『危機』」)。なによりも、冒頭の非弁提携担当者のコメントにしてもそうですが、本当の危機感を持つのであれば、この「改革」に対して、もっと違う姿勢がとられてしかるべき、と思えるからなのです。

     「倫理」は、ここでもやはり建て前として登場し、そして流れを変える「効果」は生み出さないように見えます。そして、問題は、その先に社会に登場する弁護士は、私たちにとって有り難い存在なのかどうか。まず、私たちが、そのことへの「危機感」を持たなければなりません。


     「司法ウオッチ」では、現在、以下のようなテーマで、ご意見を募集しています。よろしくお願い致します。
     【法テラス】弁護士、司法書士からみた、法テラスの現状の問題点について、ご意見をお寄せ下さい。
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    No title

    倫理は大切です。
    倫理さえあれば、何もいりません。法律の知識も要りません。
    弁護士というのは倫理が服を着て歩いているのです。
    衣食足りなくても礼節を知らねばならないのです。
    キリッ)

    byなかぼーこーへー

    No title

    何でも倫理研修をさらに徹底しますといっておけば、マスコミ対策はOK
    これはもう歴代理事者の申し送り事項だから。
    プロフィール

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
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