弁護士会意思表明がはらむ「危機」

     日弁連によると、憲法解釈変更による集団的自衛権の行使容認について、これまでに全国の52の弁護士会すべてが、会長声明や意見書によって、反対の意思表明をしています。一部報道もされているようですが、この事実を知った、弁護士や弁護士会にご縁のない市民のなかには、全国の弁護士がこの件に「反対」していると理解する人も少なくないかもしれません。さらに、弁護士会の「強制加入」、つまりは弁護士である以上、全員が会に属していることを知っている人ならば、なおさらのこと、その決定に服従するかのごとく、拘束されているだろうと想像する人がいてもおかしくないはずです。

     しかし、目を国会に転じれば、この行使容認を進めた議員にも、弁護士がいる。ならば、弁護士会としては、彼らを懲戒処分にしてこそ、筋が通るはずだという意見(もっとも、これは半ば嫌味としていわれていることですが)まで登場しています。

     ただ、これについては、あくまで裁判上は一つの結果が出ている、とされています。日弁連の国家秘密法反対運動は、会員の思想・良心の自由を侵害しているとして、弁護士111人が原告となって、日弁連を相手取り、同法反対決議の無効を求めた訴訟に対する判決です。

     1992年1月30日、東京地裁は原告の請求を一部却下・一部棄却した判決のなかで、会員から一般会費を強制徴収し、特定の運動に支出しても、特定意見を会員に強制していることにはならない、と判示。同年12月21日の控訴棄却の東京高裁判決では、さらに弁護士に課せられた弁護士法1条の使命(基本的擁護と社会正義の実現、社会秩序の維持・法律制度の改善への努力)が、弁護士個人の活動では自ずと限界があり、特に法律制度の改善は個々の弁護士の力に期待することは困難であること、法律制度の改善について会の意見を表明することは、会の目的と密接な関係性を持つ、としました。

     要は弁護士法1条に引きつけて、この目的の実現という範囲においては、こうした会の意思表明・活動には正当性があり、およそその範囲内では、特定意見を会員に強制しているという事実もない。つまりは、会員の思想・良心の自由の問題を完全に切り離して、会の行為の正当性が認められるという判断でした。

     とりわけ、この高裁判決は、当時の会活動にかかわってきた多くの日弁連関係者には、非常に歓迎されるものになりました。「日弁連50年史」では、こう絶賛しています。

     「(前記高裁の判断部分は)弁護士法1条に規定されている弁護士の社会的職責を弁護士会の職責に直結させた最初の裁判例である。それは、国民の権利と自由を護り、社会正義の実現のために、弁護士自治に基づく弁護士会活動が幅広く展開されることを求めたという点で、画期的な歴史的判決であった」

     しかし、会が意見表明しても、個々の会員の意思は別なのだから問題ないという理解の仕方を、果たして多くの日弁連会員がしてきたか、というと、それはそうとも言い切れないものがあります。他の案件でも自分の顧問先から、「新聞で見ましたが先生も『反対』なんですか」などと、突っ込まれたという話は、これまでもよく耳にしてきたところです。現に、日弁連・弁護士会の意思は全弁護士の意思のように、社会がとらえる現実がある以上、ここの会員のなかには焦げ付いたものが残ります。要は、前記判決がいうような「人権」というものを使命として、超越した概念のようにとらえ、その中で納得できるかどうかの話ではなかったか、と思います。有り体にいえば、自分の政治信条とは違うけど、「人権」問題といわれれば、そこは正面から異も唱えられず、強制加入制度という現実から、「黙認」するという立場をとった方々もいたということです。前記依頼者からの問いかけという話では、言われた弁護士は必ず苦笑しながら、弁明したというエピソードがくっついているのもお決まりでした。

     ただ、とはいえ、それでも、なんとかやってこられたのが、日弁連・弁護士会だった、ということができると思います。ただ、それがここに来て、どんどん先が見えなくなってきている現実があります。「人権」をなんとか会員意思の「最大公約数」、あるいは弁護士法上、個々の弁護士も認めざるを得ない共通原理のようにして、会活動が実践され、それを会員が支持あるいは黙認してきた形。今それを破壊しつつあるのは、経済的に圧迫されている弁護士の会費負担感、そして、会員の現状を知りながら、そうした会内世論に危機感を持っていないように感じる会執行部・主導層の意思形成のあり方にあるといっていいと思います。

     最近も、このテーマにつながる疑問の声が聞こえてくる日弁連の「リニア中央新幹線計画につき慎重な再検討を求める意見書」も絡めて、小林正啓弁護士が自身のブログで、次のような的確な分析をしています。

     「おそらく特に問題なのは、組織の自治である以上不可欠な『会内合意』の正統性あるいは政治学的権威が、ひどく低下している点だと思う」
     「リニア新幹線見直し意見書や、集団的自衛権行使容認反対決議に反発する弁護士は、若手に多いように思われる。思想的な問題というより、『高い会費を無駄に使いやがって』という経済問題だ。これに対してベテランが、『あらゆる人権侵害行為に反対するのは弁護士の使命』と説教して、若手を鼻白ませている」
     「こうして、これからの日弁連は、かつてのように左右にではなく、上下に分裂していくのだ」

     もし、これを、弁護士の厳しい経済事情が、個々の会員をして、弁護士会活動の「人権」に対して、ハードルを上げることになったとか、厳しい目を向けるようになったと表現すれば、いかにもこれまでの日弁連・弁護士会の活動が、前記支持ではなく、黙認の方で成り立ってきた、ということを強調し過ぎるものになる、といわれてしまうかもしれません。

     しかし、もし、この表現が妥当な現実があり、その現実を把握しながら、なお日弁連・弁護士会主導層が、前記判決称賛の弁護士会活動観だけで、危機感を持たないまま、このままの状態を放置し続けるのであるならば、その先には、結局、任意加入化あるいは自治弁護士会の分立という方向しかないのではないか、と思えるのです。もっとも、それがこの社会にとって、本当にいいのかどうか、さらには今の弁護士・会にその結論を委ねられるのかどうかは、また別問題といわなければなりません。


     「司法ウオッチ」では、現在、以下のようなテーマで、ご意見を募集しています。よろしくお願い致します。
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    No title

    ステマコメントに関するご投稿者様

    ご指摘ありがとうございました。
    今後ともよろしくお願いいたします。

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    会費の無駄な垂れ流しなのに、止める人がいないんだね。
    誰も日弁連会長声明なんて聞いてないし、聞く理由もないし、聞く価値も無い。

    No title

    誰も相手にしてません。無視するのが賢いです。
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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