旧試法曹「欠陥」論からのハードル

     既にネット上では話題となっていますが、6月9日付けで出された東大、京大など6法科大学院による予備試験の受験資格制限などを盛り込んだ提言に対し、13日に行われた自民党司法制度調査会法曹養成小委員会で、参加したほとんどの議員から厳しい評価が下されたことを、河井克行衆院議員が、自身のブログlで報告しています。その内容や評価については、いくつかの弁護士ブログ(「黒猫のつぶやき」「向原・川上総合法律事務所ブログ」)で取り上げられています。「価値」の正当な評価ではなく、あくまで「強制」主義で本道を守ろうとする法科大学院擁護派の姿は、もはや本当にあるべき法曹養成を第一に考えているのかを疑わざるを得ないものです(「『予備試験』制限という法科大学院『強制』の末路」 )。

     ところで、この河井議員がブログで、前記自民小委員会の席上、鳩山邦夫元法務大臣が、6法科大学院提言を批判して、次のように一喝したといいます。

     「法科大学院を修了した者の方が旧試験組よりも優秀だと本気で考えているのか。もしそうならば、私にはとても信じられないことだ」

     もちろん、この現状認識そのものは、あくまで鳩山氏個人の見解といわなければなりません。こうは言い切れない、法科大学院組にも優秀な人はいるという話にもなるかもしれません。ただ、ここで指摘しなければいけないと思うのは、鳩山氏が今、疑っているような結果をそれこそ「本気」で実現しなければならない、としたのが、新法曹養成だったという事実です。

     「点からプロセス」が強調された「改革」で、予備校の介在とともに、批判の対象となった旧司法試験体制。ただ、非常に微妙なのは、そこから生まれた現役法曹の質と、これまでの司法研修所を中心とした法曹養成の各評価については、「改革」推進派のなかにも、大きな認識の違いがあったということです。端的に言えば、大学サイドが旧体制の弊害と現役法曹の質の評価を結び付け、いわば「欠陥」法曹を生み出す体制であるかのような認識であるのに対し、法曹界サイドがそこまでの認識には立っていない。もちろん、推進派の側についている、旧体制で輩出された現役法曹が、自己矛盾のようなスタンスに立ちにくいのは当然でしたし、さらにいえば、おしなべて研修所教育への評価は高かったという現実もあります。

     結論から言えば、法曹界側の多くの認識は、自らを含めた現役を生み出した体制の決定的「欠陥」、それが今後の法曹輩出にとって、どうしても大学に法曹養成の中核的な地位を譲らなければならない理由として存在している、というものではなかった。有り体に言えば、その多くは「改革」が既定した法曹量産には、大学に実務家養成の一翼を担ってもらわなければ無理、という納得の仕方だったといえます。最高裁関係者に至っては、「研修所教育が悪かったわけではない」というのが、ほぼ常套句のようにクギをさす言葉でした。

     ここにははっきりとした認識の違いがあったというべきです。しかし、そこをあいまいにしたまま、現行制度を換える以上当然といえば当然ですが、これまでもより優れている、もしくは「欠陥」がない法曹が輩出できる体制を目指す立場に立ったのが新法曹養成ということになります。

     この新法曹養成制度をめぐって、現役の「欠陥」ということが取り上げられた、印象的な発言があります。2001年4月24日、司法制度改革審議会第57回会議での委員、中坊公平・元日弁連会長の発言です。

     「私自身も法曹の一人ですし、今、数多くの弁護士、裁判官、検察官を見ていまして、みんなが共通に大きな欠陥を有している。その欠陥は何かと言いますと、結局、視野が狭いんです。この欠陥は何によって生じてきたかというと、まさに一発試験によって、修習という過程の中で、実務訓練だけ施してきて、本当の意味における実務教育がない」
     「本当においしいタケノコを食べようと思ったら、地面の中で肥えた太いタケノコをつくらなきゃいけない。その地面の中に匹敵するような、非常に大きなタケノコが出てくるような地面の中の教育をしてこなかった。これが『社会生活上の医師』とか何とかおっしゃるけれども、本当にいい医者になれない最大の大きな原因だと思うんです」
     「そういう意味における法科大学院というのは、まさに実務と理論とを架橋するためにつくられてきたわけです。だから、基本的に試験に馴染まないものなんです。法曹となっていただくのに必要な資質の一つではあるけれども、試験に馴染まないもの、これを今養わなければ大変な過ちを犯す。正直言って何人もの弁護士も見ていますが、私もそれなりに、例えば住管機構の社長になったりして、世の中を多少見てきました。共通に感じることは、その視野の狭さと硬直性、これが今法曹の持っている根本的な欠点なんです」

     当時、前記したような自己矛盾を抱えかねない現役「欠陥」論を、どういう論法で、「プロセス」必要論、法科大学院待望論につないだのか、それを知るための一つのヒントになるようなことがここに現れているように思います。

     ある種の、潔さとして受けとめられるかもしれない、自らもそこから生まれてきたことを脇に置いた同業者の質批判。一発試験、修習、さらにはその先の法律事務所での修養では得られない「実務教育」を、法科大学院で実現できるというような期待感への誘導。現実に司法試験が残ることを知っていながら言われる脱試験の効用。そして、法曹の「閉鎖性」の強調とその解消への期待――。

     実は、この中坊氏の発言は、この会議で展開された「予備試験」の積極的活用を含めた賛成論(「補完制度としての『予備試験』」)に対する反対論という文脈のなかで登場したものでした。少なくとも彼は、法科大学院制度について法曹界推進派のなかに現実的にあった「数」の決定による「妥協的」導入賛成論以上に、もっと大学側に近い積極的な意義を見出そうとし、それを弁護士界側にも訴えかけたといえます。

     自己矛盾を恐れず、「欠陥」論を掲げ、法科大学院の役割・使命のハードルを上げた。「本気」で実現できるものとして。どうして彼が「本気」になったのかは、もはや推察するしかありませんが、やはり彼の頭の中には、法曹養成おける弁護士・会の主導体制にとって、どちらの側に立つのがより有利なのか、という判断があったように思います。旧体制を壊し、法科大学院を中核とする体制移行のなかに、弁護士・会がこれにより深く関与できる形を見出していたのではないか、ということです。そして、弁護士界には、今でも、この「夢」は潰えていないと信じているように見える方々もいます。

     前記6法科大学院提言のなかにも、旧体制について、依然として、「欠陥」論が登場します。

     「その過熱した受験競争の中で、多くの受験者が論点・解答例暗記型の学習方法に陥り、その結果、各受験者の理解力、論理的思考力、あるいは文章作成能力等を実質的に評価することが困難になるほどであったといわれる」

     「いわれる」という表現に、あいまいなものを感じます。彼らは一方で、「制度発足以来、高い志と問題発見・解決型の思考力等を身に付けた多くの優れた修了者を法曹として社会の様々な分野に送り出してきた」という認識を示し、ここが冒頭の鳩山氏の怒りをかうことになりました。「欠陥」論は正しく、われわれもそれに対して、一定の成果を示した、ということにとれます。

     ただ、「欠陥」論の自己矛盾は消えたのでしょうか。自ら上げたハードルを越える見通しは本当に立っているのでしょうか。そして、何よりも社会も、それを認識できるところまで来たのでしょうか。なるほど旧体制は「欠陥」品を生んでいたが、新体制はそうではない、と。なるほど「強制」し、負担を課すだけのことはある、と。導入のための、導入したい側の論理が、えんえんと続いているのではないか、という気がしてしまいます。


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    No title

    今どきの司法試験受験者は,人数自体も旧司法試験時代から激減している上に,「論点暗記型・解答例暗記型の学習方法」に陥っているくらいならまだ良い方で,むしろ暗記型学習法の弊害を説くロー教授の主張を誤解ないし曲解して,最低限の必要な知識すら暗記しようとしないロー生が増えているといいます。
    「各受験者の理解力、論理的思考力、あるいは文章作成能力等を実質的に評価することが困難」というのは,むしろ現在の司法試験に当てはまる言葉でしょう。

    No title

    旧試法曹「欠陥」論などという空理空論よりも,現実的な問題として,
    今後は,ロー弁より,ロー判・ロー検の方が厄介なものになってくると思います。
    前者は弁護士会のHPなどで調べれば依頼者は比較的簡単に避けることができますが,後者はどうにもなりません。

    というか,既に,P庁の現場はロー検ばかりだし,J庁も,左は間違えなくロー判だし,特例判事補のロー判も多々出現しているでしょう。

    最近,これは???と思う,ロー検・ロー判に出くわして難儀しました。
    この体験は,我が国の司法制度の崩壊の始まりを告げるものかと思っていますが,今更,制度をいじったところで,10年は挽回不能ですね。

    No title

    「法テラス副所長が水増し 国選弁護費用、刑事告発も」
    ttp://sankei.jp.msn.com/affairs/news/140618/crm14061820040011-n1.htm
    もしよかったら、何方か教えてください。
    組織の本部から通達が出ていた経費の算定の基準を、地方事務所の副所長(弁護士)が指示を出して、規定よりも多い金額を何年にも渡り支給していた、ということですか。
    ということは、独法に則って出されている通達等を地方の民間人管理職が一存で捻じ曲げて公金を民間人に増額して支給し、経理担当の職員も何年にも渡って、「規則違反と知りながら、」水増し支給していた、ということですか。
    確か以前にも似たような水増し請求がありましたよね。それも100名以上の弁護士が関与していたはずです。
    これは個人の問題ではなく、やはり組織として重大な欠陥があるのではないんでしょうか。民間の業者が組織の幹部となって、自分たちの都合のいいように命令を下して、水増し支給をし、他の正規職員もそうと知りながら従っていたわけでしょう?
    もう既に全額返還したからそれで済んだことには、ならないんじゃないのですか?

    No title

    中坊公平は傲慢な思い上がりですね。
    そのてめえも一発試験で弁護士になったのではないのか。

    まあてめえが一番視野が狭かったというオチなんだろうけど
    プロフィール

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

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