「経験」から生まれる「手抜き」の実害

     どんな仕事でもそうですが、「経験」とは非常に大きな結果をもたらします。とりわけ、弁護士という仕事にとってのそれが強調されることは、その性格上、当然といえます。数多くの案件を取り扱い、解決に導く具体的な方法を、失敗を含めて学習し、次のケースに臨む。裁判でのテクニカルなことはもちろん、説得を含めた当事者とのやりとりに至るまで、「経験」が弁護士を熟練させていくことに、ほとんど異を唱える人はいないと思います。

     それを考えれば、これから弁護士を探し、選ぼうとしている市民が、この「経験」にこだわることだって、基本的には正しいといわざるを得ません。ただ、残念なことに、この一般的な理解だけで、弁護士を選ぶことが常に正しいということにならない現実も存在しています。

     その「経験」の具体的な中身までが伝えられていない、あるいは伝えるのが現実的に困難という事情もありますが、「経験」ということに着眼する市民は、ともすれば、それを年齢とか弁護士登録後の年数に置き換えてしまいます。「紹介された先生はお若いので不安」「うちの先生は相手方より若いけど大丈夫だろうか」「やはり若い先生はだめですよね」など、これまでもそうした置き換えを前提とした市民の声を数多く聞いてきました。

     結論からいえば、こうした置き換えによる弁護士選びには、一応、注意を呼びかけます。もちろん、それは若い人でも優秀な弁護士はいるということでもありますが、それにとどまりません。いうなれば、「経験」がある弁護士だから、かえって期待にこたえてくれないという現実が存在してしまっているということです。それは、一口にいえば、手を抜くということ。「経験」がそれを巧みに行わせる現実です。

     大きく分ければ、事実確認を含めて対事案に対して、手を抜くもの。「経験」による思い込みも含めて、大雑把な対応が目立つという話です。これは、同時に対依頼者に対して、手を抜くことにつながり、細かな連絡や説明を省略し、依頼者を不安にさせますが、これもおそらくは、この程度でその弁護士がなんとかしてきた「経験」がものをいっていると推測できます。そして、もう一つは、弁護士という専門家の立場自体に手を抜くこと。要は新しい法律的な知識を吸収せず、勉強を怠っている。「経験」への過信ともいえますし、結局、これもまた事案と依頼者への手抜きにつながるものといえます。

     年齢によって、いわばフットワークが悪くなるというのは、別に弁護士に限ったことではないかもしれませんが、そこは弁護士という極めて社会的な影響力を持つ資格に求められる自覚が強調されなければなりません。さらに、現実は体力的精神的衰え以上に、完全に「経験」にあぐらをかいているといわなければならないものが存在します。

     このことを実は多くの同業者は知っています。弁護士ブログ「弁護士夫婦の日常(イクベン日記)」lが、このテーマを取り上げていました。同ブログも、こうした弁護士の多くに共通しているものが、事実関係の把握と法的知識の不十分さであるとの認識を示したうえで、次のような具体的なケースを挙げています。

      「例えば、最も身近なところで言えば、離婚事件一つをとっても、以下のような弁護士と当たったことがある。専門的な用語を出して恐縮だが、いわゆる清算的財産分与の対象財産は、別居が先行している場合には、原則として別居時に存在した財産となるのであるが(ただし、評価基準は別途検討が必要である。)、当事者間に別居の事実に争いがないにもかかわらず、別居後に財産が増えたと言って離婚時の財産(=今ある財産)を分与せよ、と主張してきた弁護士がいた。また、『扶養的財産分与とは何だ?』と言ってきた弁護士もいれば、あろうことか、有責配偶者の離婚請求に関する最高裁判決を把握していない弁護士もいた(これには本当に驚いた)。いずれも、弁護士歴30年戦士である」
      「なお、こうしたベテラン弁護士ほど、離婚事件をなめてかかっている場合が多いので、注意が必要である。私個人は、企業に関わる仕事が多いものの、家事事件を取り扱っていて思うことは、離婚事件を含む家事事件を本当に専門でやるためには、他の専門分野と同様、知力・体力・精神力とも必須だと思っている」

      「弁護士の質の低下」ということをめぐり、今、弁護士会のなかには、二つの見方(あるいはその応酬)があります。それは、端的にいえば、本当に質が低下しているのは、若手なのかベテランなのかというやりとりです。司法改革の影響ということでいえば、その数の量産や修養機会の破壊で、若手の質が低下しているという話、いや質の低下が問題になっているのは、実はベテランではないのか、という話。前出ブログ氏も言及していますが、前記したようなベテランの実態が、そもそも存在していたのだとすれば、「改革」によって生まれたというよりは「露呈」してきたというのが正しく、もし「改革」の影響で生まれたとすれば、もともとボーダーにいた方々が「手抜き」へと低下したという表現が正しいことにもなります。

     この「若手」か「ベテラン」か的な話に、多くの弁護士は結論を出せないか、その両方だと本音では感じていると思います(「黒猫のつぶやき」)。あえていえば、「改革」の悪い意味での影響を極力少なく見積もりたい方々は、若手への影響を限定的にとらえ、むしろ「ベテラン」の問題という方を強調されるような印象があります。後者の「露呈」は、むしろ淘汰の過程という見方も含め、「改革」の効果に置き換えやすい、ということもいえなくありません。

     前記したような「手抜き」弁護士の姿に、そもそも「経験」とか、ましてや「ベテラン」などという言葉を冠すること自体に違和感を持つ同業者も沢山いると思います。ただ、利用者・市民が一番、こだわるべきは、「改革」は果たして、利用者にとって、プラスに作用しているのか、という点です。「若手」の修養環境が破壊されているのは事実ですし、例えベテランの「手抜き」がかつてから存在して、仮にそれを「露呈」させる効果が生まれていたとしても、その実害を依頼者は回避できないことに変わりないからです。いうまでもなく、弁護士の仕事の善し悪しを事前に利用者が把握すること、いうなれば、例え「経験」があることは分かっても、それを巧みに「悪用」するところまでを利用者が事前につかむことは困難だからです。

      「改革」が「質の向上」をもたらすという話は本当なのか、それが実は依頼者を犠牲にしたり、酷な自己責任を要求する話なのではないか、に、私たちはこだわる必要があります。


      「司法ウオッチ」では、現在、以下のようなテーマで、ご意見を募集しています。よろしくお願い致します。
     【法テラス】弁護士、司法書士からみた、法テラスの現状の問題点について、ご意見をお寄せ下さい。
     【弁護士業】いわゆる「ブラック事務所(法律事務所)」の実態ついて情報を求めます。
     【刑事司法】全弁協の保釈保証書発行事業について利用した感想、ご意見をお寄せ下さい。
     【民事司法改革】民事司法改革のあり方について、意見を求めます。
     【法曹養成】「予備試験」のあり方をめぐる議論について意見を求めます。
     【弁護士の質】ベテラン弁護士による不祥事をどうご覧になりますか。
     【裁判員制度】裁判員制度は本当に必要だと思いますか

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    テーマ : 弁護士の仕事
    ジャンル : 就職・お仕事





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    No title

    弁護士様

    ご連絡ならびにコメント、ありがとうございます。
    リンクにつきましては、現在のところ、当記事より「弁護士夫婦の日常」の当該記事に正常に飛ぶことができます。ひとまずご安心頂ければと思います。
    「改革」がもたらした異変の先で、弁護士という仕事自体と、弁護士と依頼者の関係が、最終的にどういう方向に向かってしまうのか。改めて「改革」の責任も問われるところだと思います。
    大変、参考にさせて頂き、勉強させて頂きました。今後とも、よろしくお願い致します。

    No title

    すてきな記事をありがとうございます。

    さて、「弁護士夫婦の日常」ですが、リンク切れになっているようです。このブログはアメブロ上に現存しております。リンクについて、ダブルチェックを、お手数ですがお願いできればと思います。

    それにしても、若手は酷い・・・。

    清算的財産分与なんて知っているのは、1%にも満たないでしょう。多くの場合、それ以前のところで問題があります。
    例えば、依頼人作成の対象財産の目録を、何のチェックもせずに提出する。内容は当然でたらめ。評価基準なんて、全く無視しようとする。問題点を指摘されると、依頼人と一緒になって感情的に逆上する。

    特に、法テラス案件しか仕事のないのき弁などを抱えている事務所は、
    「新人が懲戒処分されれば、事務所の名前も出る、という、経営リスクを抱える。」
    ということをお考えいただき、無責任な採用は再考して頂きたいものです。

    なお、「まだらぼけ」の、ふんぞり返ったじいさん弁護士が多いのも、事実です。

    弁護士に依頼する際には、弁護士・依頼人双方のサイドから、信頼できる人脈からの紹介の必要性が高い、と思います。
    プロフィール

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

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