弁護士の「魅力」発信を求める真意

     弁護士という仕事の「魅力」が低下した、ということがいわれます。ただ、この仕事が持つ本来の「社会的な役割」自体の魅力が、現代日本社会で低下している、いわば役割がなくなりつつある、という意味で言う人はほとんどいません。端的にいって、一つには経済的な魅力。高収入や安定というイメージでの「魅力」がなくなったということ。そして、もう一つ付け加えれば、そのことによって、これまでのような弁護士の仕事ができないということ。つまり、生きていくため、借金を返済するためが中心となれば、これまでのような、この仕事の「社会的な役割」の「魅力」に向かってまい進することは、これまで以上に困難になっているという現実です。

     経済的な「魅力」に引かれて、この世界を目指す人はもちろん、本来、そうではなく、「社会的な役割」に「魅力」を感じた人にとっても、その実現が困難になっている現実は、当然、冒頭のような括り方になるわけです。

     では、なぜ、今、この「魅力」低下の現象が起こっているのか、といえば、その直接的な原因が、今回の司法改革にあるということは、もはや誰の目に明らかです。繰り返すまでもありませんが、無理な増員政策による弁護士の供給過多が経済的な異変をもたらし、またその政策のもと量産体制を目指した新法曹養成は志望者に、それが提供する「価値」に見合わない経済的時間的負担を背負わせる。つまり、有り体にいえば、仮に仕事自体の「魅力」があっても、「そこまでしてなるだけの魅力」を感じられなくなりつつあるのが、弁護士という仕事ではないか、と思います。

     しかし、この「改革」をどうしても間違ったとしたくない方々、あるいはそうするわけにはいかない方々は、どうしてもここを切り離して考えたい、ある意味、この現実を直視しない立場をとっているようにみえます。なぜならば、そういう方々ほど、こうした「改革」の現実を度外視して、弁護士という「仕事」の魅力を発信せよ、という現実があるからです。

     そもそも「発信」しなければ、「魅力」が伝わらない、伝わっていないという前提にも疑問があります。ただ、百歩譲って、弁護士という仕事には、志望者(業界を自らの進路として注目する人でさえ)知らない、隠れた「魅力」、可能性があったとしても、それが前記したような事態のなかで、強調されることで全体としてなんとかなっていく話なのかどうか。それが、とても理解に苦しむのです。

     これからこの世界を選択肢に入れるかどうか迷っている人が聞きたいのは、そういうことなのでしょうか。「社会的な役割」の「魅力」は分かっているけれど、聞きたいのはその実現可能性を阻んでいる「改革」がもたらした現状をどうするのか、ではないのでしょうか。それとも、これを口にする人は、例えその志望者の不安が当面除去されなくても、それを上回る「魅力」が志望者の決断や努力を促すとみているということでしょうか。

     東京弁護士会機関誌「LIBLA」6月号が同会市民会議の委員から出た意見を紹介しています。そのなかで法曹志望者減少について出された意見として、次の二つが紹介されています。

      「法科大学院志望者の減少の本当の原因は、新しい法曹像をなかなか結べないという点にあるのではないか。法曹像に魅力があれば、受験者は集まると思う。もう1つは、財政的基盤の問題が大きい。ひまわり事務所や公設事務所に行くと、仕事はたくさんあるけれども、経済的にはペイしないという話を聞く。そのような取組みに対する社会の理解をひろげる必要がある。弁護士の魅力を社会に伝える方法として、司法修習の出口でインターン制度を作って、各企業や地方の公設事務所に行ってインターンをやったらどうか」(津山昭英・朝日新聞社ジャーナリスト学校校長)
      「法曹からは、法曹はこんなに有意義で魅力のある仕事だということをもっと広報して欲しい。そうでなければ、社会をよくすることを重視して積極的に
    かかわる意思を持った質のいい法曹志望者は出てこないと思う」(紙谷雅子・学習院大学法学部教授)

     ちなみに、このお二人は他に「多様性のある人がいるのが、法科大学院のよさ」「予備試験制度は、その流れに逆行しているのではないかという印象」(津山氏)、「法科大学院の教育が旧試験や予備試験よりいいのは、法曹倫理の授業をしているところ」「予備試験制度では、それが欠けてしまうのが危ない」(紙谷氏)といった見解を示されています。

     ここでもはっきりしているのは、「改革」が作った法科大学院制度を基本的に肯定しながら、「魅力」発信への期待感を強調する立場であるということです。しかも、津山氏は「財政的基盤」という問題に言及しながら、増員政策そのものの問題性、無理について言及せず、やはり「取り組みに対する理解」とか、「魅力を社会に伝える方法」という話に切り替えています。さらにいえば、紙谷氏は、別の箇所で「改革」について、当初の「改革」論議で、「海外と日本の法曹の人口比の話ばかりになり、他国の法曹が何をしているのかという議論をせずに、法曹人口を増やさなければというイメージが強くなった点は,反省しなければならない」と言い、例の司法制度改革審議会が、この国の関連士業を含めた総体で、需要を考慮しなかった「ミス」は認める発言をしています。要はお二人とも、すべて分かって発言されている、ということです。

     東弁機関誌がどういう編集方針のもと、あるいは発言を取捨して掲載しているかは分かりません。だだ、少なくとも、「会の運営に市民の意見を反映させる」ために設けられた市民会議での意見を紹介する以上、会員に伝えるべき「価値」を見出していると推測できますし、仮にこれが委員の多くの発言のなかから取捨されたとすれば、なおさら東弁執行部が期待する会内議論の方向性もここから推察できてしまう話になります。

     しかし、東弁執行部や機関誌編集者も、まるで何が原因を作ったのかを度外視して、「魅力」の発信をいうこうした「改革」維持派の論調で、本気でこの事態がなんとかなる、と思っているのでしょうか。それも「すべて分かっている」とすれば、その先はどう理解すべきなのでしょうか。

     弁護士という仕事は、いつのまにかことさらに「魅力」や「有意義」を発信しなければ、社会に伝わらないものになった――。この現状認識と前提が正しいのかどうかとともに、誰が何の目的でその前提に立っているのかに、こだわらなければなりません。


     「司法ウオッチ」では、現在、以下のようなテーマで、ご意見を募集しています。よろしくお願い致します。
     【法テラス】弁護士、司法書士からみた、法テラスの現状の問題点について、ご意見をお寄せ下さい。
     【弁護士業】いわゆる「ブラック事務所(法律事務所)」の実態ついて情報を求めます。
     【刑事司法】全弁協の保釈保証書発行事業について利用した感想、ご意見をお寄せ下さい。
     【民事司法改革】民事司法改革のあり方について、意見を求めます。
     【法曹養成】「予備試験」のあり方をめぐる議論について意見を求めます。
     【弁護士の質】ベテラン弁護士による不祥事をどうご覧になりますか。
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    テーマ : 弁護士の仕事
    ジャンル : 就職・お仕事





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    ようし、弁護士の魅力を発信しちゃうぞ。
    まず、業界は右肩下がりでしょ。
    交通事故事件はLACの導入により、弁護士の費用は下がる一方でしょ。
    借金はし放題だし、団体保険はないし。
    強制加入団体だというのに、日弁連は政治活動と会員の生活を苦しくさせることに一生懸命だし。
    横領は増えるし、社会的信用は低下するし
    みんなもがんばって、弁護士になって、こうした現状を打破しましょうね。
    どうやったらできるのかまったくわかりませんけど。
    プロフィール

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
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