弁護士「激増」社会を憂う有志弁護士会の挑戦

      5月21日、東京・永田町の衆院第二議員会館で開かれた院内集会「弁護士激増の問題を考える」に参加してきました。新人弁護士の就職難、既存の法律事務所でのOJT機会欠如など、弁護士激増の弊害によって、このままでは司法の利用者・国民の基本的人権の尊重や社会正義の実現に影響を及ぼす、という危機感から、埼玉、札幌、千葉県、長野県、青森県、兵庫県、山梨県、愛知県、新潟県、大分県、宮崎県、山形県、栃木県、仙台、山口県、佐賀県、富山県、福島県の18弁護士会が主催して、初めて行われたものです。

     当日は与野党6政党17人の国会議員が、集会に駆けつけ、それぞれの立場から、こうした弁護士会の問題意識に賛同や共闘の意思を示しました。各人の発言を聞けば、その視点には、ややバラツキもありました。この「改革」当初から増員政策に対して懸念を持っていたという意見。国民の尊敬の対象になっていない米国の弁護士のようには絶対になってはいけないという意見。「改革」の過去を率直に改めて、現実を直視すべきだという意見。

     ただ、その一方で、中には「身近で頼りがいのある司法」とか、弁護士の活動領域拡大の重要性を強調される向きもあり、「改革」推進派の論調との距離感、あるいはその認識においては、若干不安を感じるものもありました。また、具体的な数として、多くの議員の口から出たのは、司法試験合格年「1500人」というラインで、より現実を把握されている方だけが、これで問題は解決しないというニュアンスを付け加えていた印象でした。

     とはいえ、これだけの国会議員が弁護士増員反対の方向で参集し、賛同・共闘の意志を示したことは、注目でき、全体的な印象からしても、多くの参加弁護士は、それなりに期待感を持ったと思います。

       「いい感じでしょ」。集会修了後、あるベテラン弁護士が、こう話しかけてきました。彼も、もちろん、この集会で示された国会議員の反応に期待できるという気持ちを述べたかったわけですが、ただ彼が言いたかったことはもう一つありました。それは、今の日弁連内の「改革」論議とのムードの違いでした。日弁連主導層、あるいは会内の法科大学院擁護派との間の議論のムードは、こんなに感じじゃない、と。そもそも今回の有志弁護士会の集会は、そうした「改革」路線派の抵抗に阻まれて、「改革」の影響に対する現実的な議論が進まない会内の状況から、彼ら状況を憂う有志弁護士会が、日弁連の頭越しに直接国会議員に働きかけた一つの挑戦とみることができます。前記ベテラン弁護士は、こう付け加えました。「やはり、いまや一番足を引っ張っているのは、そうした日弁連内勢力だよ」。

     この集会で、もう一つ、非常に注目できる発言がありました。労働相談をはじめ働く若者の問題に取り組んでいるNPO法人「posse」の川村遼平事務局長が語った「激増が市民にもたらしている弊害」に関する報告です。それは、端的にいえば、ブラック企業の用心棒として姿を現す弁護士の存在。残業代請求などをすれば、企業側の弁護士が登場し、「会社に損害を与えた」として、逆に損害賠償で「脅し」をかけてくる。法律的には何の根拠がなくても、「泣き寝入り」を狙う会社としては、「脅し」の効果さえあれば、それでいい。それに弁護士がしっかりと加担している――。

       「現実は、会社と労働者どちらが正しいかではなく、会社が労働者を諦めさせるか、労働者が権利を貫けるか。法的議論をする前に、諦めさせないようにしなければならない」

     川村氏はこう語ります。しかも、これにはおまけがある。こうしたブラック企業の戦術は、結局はその企業の利益にはならない。団交拒否なども行政の処分の対象にもなり、応じていた方がよかったということにはなる。しかし、それでも加担弁護士は、着手金とタイムチャージで、ちゃっかり利だけを手にするかもしれない(現実的には懲戒にでもならない限り)。ブラック士業としての弁護士は、「法的正義にも依頼者にも寄与していない」(川村氏)ということになります。

     さらに、その一方で、労働相談にも、自分の実入りのあるものだけに、おカネ儲けの論理で近づく弁護士の「貧困ビジネス」が存在し、労働分野では、そうした「ハイエナ」弁護士に市民を近づけてはならない、ということが、もはやいわれているのが現実、というのです。

     こうした議論になると、増員推進論の側からは、「こうした問題弁護士はかつてから存在していた」とか、「増員によって彼らが増えているといった確かなデータがない」とか、さらには「彼らこそ増員で淘汰に向かう」といった、こうした現実を増員政策と切り離し、その弊害と極力とらえないかのような見方も出されます。

     ただ、逆に言えば、この実害というテーマが、実は今回の取り組み全体を左右する要になる部分ともいえます。なぜならば、ともすれば生き残りのための「保身」という言葉で片付けられかねない弁護士増員抑制論(「弁護士『保身』批判が覆い隠す現実」)に対し、こここそ有志弁護士会が本当に憂う未来につながる現実を、説得力を持って、社会に提示し、訴えるものになるからです。どんな理念よりも、後回しには出来ないはずの「改革」の実害。「改革」推進派が描き続ける増員のメリットに対して、利用者・市民にとっての、動かし難いデメリットの提示こそ、「保身」批判をはねのけて、こうした有志弁護士会と有志国会議員の取り組みを前進させるものになると思います。


      「司法ウオッチ」では、現在、以下のようなテーマで、ご意見を募集しています。よろしくお願い致します。
     【法テラス】弁護士、司法書士からみた、法テラスの現状の問題点について、ご意見をお寄せ下さい。
     【弁護士業】いわゆる「ブラック事務所(法律事務所)」の実態ついて情報を求めます。
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    No title

    何?釣り?

    No title

    「依頼者にも寄与していない」というのは誤りだと思います。
    恫喝訴訟を提起することによって、
    依頼者(企業)は自己の権力を誇示できますし、
    現存社員に対して、お前ら余計なことをしたらどうなるか見てろよと
    脅しをかけることが可能になります。
    たとえ勝訴しなくても費用は経費で落とせばいいだけだし
    依頼者には十分メリットがあります。

    No title

    ハイエナ弁護士の存在が広く社会に周知徹底されることを望みます。

    No title

    ブラック弁護士名指しの110番を実施されればよいと思います。

    No title

    暴力団の依頼を受ける弁護士なら、いくらでもいたでしょう。少なくとも刑事は。民事だって、例えば暴対法の違憲訴訟を提起したことがあったはずだ。

    しかし、そんな弁護士たちが、それゆえに悪徳と指弾されたことはなく、逆に「ヤクザだろうが、侵されちゃならない一線があるんだ!」という本物の任侠精神に溢れた一流の人たちだったと聞いています。当然、他の仕事ぶりも一流で、法律も判例も一切調べずハッタリだけを振り回すような真似など考えられなかったと。

    暴力団の皆さんなら、本人訴訟でブラック弁護士を粉砕できるでしょう。どんどんやって欲しいな。インハウス弁護士どころか、三振法務博士で充分だ。余計な拘束に縛られないぶん、そのほうが有利でしょう。

    暴力団の顧問と言わずインハウスになる弁護士が増えればコンプライアンス向上で司法改革の成果になるのでは

    私もこのままだと、暴力団またはその企業舎弟と知っててその顧問となる弁護士が出てくるのではないかと危惧してきます。
    まさに、自由競争の名の下に、その顧問弁護士になることに開き直る者がでてくるかと思うとぞっとします。

    No title

    そうですね。もう日弁連なんて無視しないといけません。
    東京と大阪は勝手に日弁連を名乗っていればよいのです。
    名前の挙がっていない弁護士会でも日弁連を無視する運動を起こさないといけませんね。
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

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