経済同友会、法曹養成「改革」提言の描き方

     13年前に出された司法制度改革審議会の最終意見書を、今、改めて目を通した場合、それが少なくとも法曹養成の現実を直視している人ならば、まず、同じことを感じると思います。そこで描かれていることが、いかに現出していないか――つまりは、当たっていることよりも、外れている方。「改革」の「バイブル」のような扱いを受けてきた同意見書の、いわば「誤算」の方であるはずです。

      「我が国社会の法的需要に現に十分対応できていない状況」「今後の法的需要の増大」も考え、「急務」とされた法曹人口の大幅な増加。ところが、意見書がいう「事後救済社会」への転換や「経済・社会の進展」で、法曹、とりわけ弁護士の需要が劇的に増加することはなく、弁護士の就職難が問題化し、前記「急務」から導かれたはずの司法試験合格3000人の目標は、今や「現実性を欠く」(法曹養成制度検討会議取りまとめ)として降ろされる結果に。そして、その「質と量」を生み出すために導入された法科大学院制度は、意見書が掲げた修了者の「7、8割」どころか、2割台の司法試験合格者しか輩出できず、前記弁護士の状況と併せて、その経済的・時間的負担が志望者減少の要因とされている――。

     本来ならば、この国の法曹養成を混乱に陥れたといっていい、この「バイブル」の「誤算」と、その原因がまず、直視され、また正しい共通認識に立つ試みがなされなければなりません。そうでなければ、誰の目にもこの状態が延々と続くことは明らかだからです。

     話題となっている経済同友会司法制度改革検討PTの法曹養成制度に関する提言「社会のニーズに質・量の両面から応える法曹の育成を」は、そのタイトルでも推察できるように、一読して、まさに「バイブル」をそのまま継承しているといっていい内容です。既に弁護士ブログ(「弁護士 猪野 亨のブログ」 「福岡の家電弁護士のブログ」)でも取り上げられていますが、ここであえて触れておきたいのは、前記「誤算」のことです。

     結論として、彼らが導き出している具体策は、6項目。①司法試験の合格率を引き上げと少数精鋭の法科大学院教育の充実②予備試験廃止③法科大学院での教育期間短縮と教育多様化④司法研修所の、裁判官・検察官養成への特化⑤法学部の在り方を見直し、法曹の能力的な多様化と深化⑥事前規制の緩和と事後チェック・監視機能の強化、競争原理導入での法曹の質と量を両立。問題は、これを導き出した彼らが、「誤算」をどう認識し、その原因をどうとらえているのかです。それを示す箇所をこの提言からピックアップすると以下のようになります。

      「現在進んでいる議論は、従来型の法廷実務に従事する法曹の育成に焦点を当てる向きがある。法曹の中心である法廷実務家を養成することが重要であることに疑いはないが、法廷外のニーズにも応えるための議論を深めることも必要」
      「法曹の質・量を確保するために、司法試験合格者数を増大する代わりに法科大学院におけるプロセスと社会や市場における競争規律で質を担保する『新しい方向性』を志向したにも関わらず、極めて難しい司法試験と司法修習制度を軸とする入口規制で法曹の質を担保する『旧来の方向性』が残ってしまっている」
      「法科大学院を中心とする新しい法曹養成制度が始まってから約10年が経過した現状においても、日本社会のニーズに応じた法曹が十分に輩出されているとは必ずしも言えない」
      「旧来型の仕組みも極力残しながら、パッチワーク的に法科大学院を導入した結果、法曹志望者にとって極めてハイリスク・ハイコストの制度になってしまった」
      「現在の司法試験の合格率の低迷は、法科大学院での教育を試験対策化させ、有能な法曹の養成にとって最も重要なプロセス教育を崩壊させる大きな原因」

     ここでいわれていることは、「バイブル」は基本的に正しかったが、「改革」の現実が法廷偏重の旧来の実務家養成の発想に傾き、本当の社会のニーズに応える法曹を輩出できていない、その旧来の発想を引きずった司法修習制度や司法試験が残った結果、法科大学院制度の足が引っ張られているということ。要は、長年この国で形づくられてきた法曹養成や弁護士のあり方を悪の根源と位置づけるようなとらえ方にみえます。

     法曹が輩出されてもニーズに適合していないという、いわゆる「ミスマッチ論」で、ニーズの存在も含めた「バイブル」の「誤算」をすべて説明しているようにもとれます。①法廷実務中心の法曹=最狭義の法曹②経済のグローバル化とともに、日本企業の競争力を支える企業法務を専門とする法曹=狭義の法曹、③法律のスペシャリストではなく、企業、行政、政治、福祉や教育を舞台によりジェネラリスト的に活躍する法曹=広義の法曹――という、独自の分類が登場し、要は①だけではなく、②③の法曹が必要になっているということを強調しています。と同時に、この提言を経済界の意見と括りきれるかどうかは別にして、彼らの立場でしっかり確保したい人材が②③ということも当然推察できます。

     提言の描き方が、その「受け皿」の具体的な規模において、またぞろ大幅増員ありき方針との間で、「誤算」を生まないか、という問題はあります。それと同時に見逃せないのは、この間、志望者は一体何を求めたのか、という根本的な視点の欠落です。法廷活動を行い、人権擁護にも取り組み、独立自営の弁護士の姿を志望者が求めたとすれば、これは提言をした彼らからすれば、志望者の発想の「ミスマッチ」ということにもなります。養成できていない、輩出できていないという描き方に触れる度に、そのことは果たしてどのくらい汲まれている話なのかということを感じます。

     提言は前記彼らの発想のもとに、企業経営者にこうした人材の採用への理解とそれを支える法科大学院を中心とした法曹養成への支援を求めていますが、これは同時に今後、この世界を志望する人間へのメッセージにもなります。もちろん、②③の生き方にやりがいや「妙味」を感じて、この世界を志す人はいるかもしれません。ただ、いくら「最狭義」だ「旧来」だといっても、そこに魅力を感じている志望者は沢山いる。そして、肝心なことは、そうした人材が、この国で「市民のために」カバーしてきた分野がある、ということです。

     彼らの法曹養成の発想は、もはや「資格」としての「弁護士」という存在からどんどん離れてきており、一面これ自体が「改革」の「誤算」ということもできます。その結果として「法曹有資格者」という枠組みや、提言がいうような弁護士についての修習無用論(統一修習無用論)まで登場するのならば、いっそのこと弁護士を含めた法曹養成も合格者数も「旧来」に戻し、法科大学院制度は経済界支援のもと、必要な人材を育てる機関にして、そのうちどうしても「資格」が必要な人間だけが、「旧来」制度のなかでそれを取得する形にした方がいいようにすら思えてきます。

     その方が、企業だけでなく志望者の「ミスマッチ」も、司法修習の破壊もなくて済むだけでなく、利用者・市民にとって最低限のニーズであるはずの、弁護士という「資格」の保証が、これ以上破壊されないように思えるからです。


      「司法ウオッチ」では、現在、以下のようなテーマで、ご意見を募集しています。よろしくお願い致します。
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    経済同友会の会員企業には、無能な三振博士しか顧問にしてはならない、とでもしたらどうですかね。
    で、有資格法曹はそれと対峙すれば、楽チンウマー(^^)ですな。あほくさいけど、彼らはこんなことをいいつつ、有資格法曹しか顧問弁護士にしないんでしょう?行ってることとやってることが矛盾してますよね。

    No title

    要するに,期待されて作業は,それこそ三振法務博士でできるんでしょ。
    別に法廷に立つわけじゃないんだから。

    ただ,三振法務博士は,格段に合格しやすくなった現行の
    司法試験にさえ合格できなかった人間(いわばダメ人間)
    とのレッテル貼りをされてしまっているので,
    会社としては「使えない」(その人の能力的にではなく,ただ気分的に)というだけの話でしょう。

    要するに,
    合格者を増やす=「本来なら三振法務博士だった人間も合格させよ,ただ気分的に」
    ということがいいたいだけでしょ。

    アホくさ。

    No title

    気分が悪くなりますね。
    それこそ三振法務博士で十分な話でしょう。
    経済同友会が求める法曹なんて。
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
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